-フェイス跡地
「そ……そんな!」
ドランバルドによって窮地を救われたウェンディとシャルルとナッツ……今生きている事を喜び、魔力を消し去るフェイスを破壊できた事を喜んだ。
ドランバルドに礼を言うがそれに返ってきたのはまだ何も終わってないという言葉……
そしてシャルルに抱えられて空から周囲を見渡したウェンディが見たものは先程破壊したフェイスがいくつも地面から生えて来ている光景だった。その数は100や200ではない……
「今確認されているフェイスは2000くらいだ……しかもまだ増えているらしい」
空から降りてきたウェンディ達にに対してドランバルドが告げた言葉がウェンディとシャルルに突き刺さる……ウェンディが偶発的にドラゴンフォースを使い、間違いなく過去最高の魔力を放出してようやく一つ破壊する事ができたフェイスが後2000以上……
「もうダメ「諦めない!」……えっ?」
絶望するシャルルに被せるようにウェンディが力強い言葉を放つ。その瞳には絶望の色はない。エゼルに切られたツインテールの残った方を風で切り揃えるとシャルルに向きなおる。
「大陸中の魔道士達が力を合わせればきっとフェイスを止められる!諦めたらそこで終わりだよ!私達は絶対に未来を掴むんだから!!」
「でも……」
「考えがあるの!ドランバルドさん!私達を瞬間移動でみんなの元へ連れていって下さい!そしてウォーレンさんの念話で大陸中の魔道士にこの事を伝えるの!!」
自分に頼むウェンディをドランバルドは眩しいものを見つめるように見た。そしてこの諦めない心こそがフェアリーテイルの強さだと実感する。
「1回では無理だな……5分くらいはかかっちまうが……」
「お願いします!!」
「そうだな……やるだけやってみるか」
ウェンディに……いや、フェアリーテイルに全てを懸けたドランバルドはマントから元に戻ってるナッツを抱えたウェンディとシャルルを連れてこの場から姿を消した……
虹の炎を得る為の第一歩を踏み出し、ジャッカルを撃破したツナだったがルーシィもラクサスも魔力をほとんど使い果たしている為、仲間達との合流を目指す事になった。
しかし、ツナもそうだが二人も疲れ果てている。その場でしばしの休息を取らねばならなかった……
「みんなは大丈夫かな……」
「大丈夫だよ。ラクサスの魔法で全員元に戻ってるみたいだし」
「この島はどうやら地面に落ちたようだな。あの狼野郎が無事だったなら他の九鬼門も俺の
やはり九鬼門は一筋縄ではいかない相手だと再認識する3人は大きく溜め息をつく……
「でもツナ凄かったよ!他の死ぬ気の炎を使えるようになったんだから!」
「確かにな。分解に硬化に沈静だったか?」
「そうだよ。以前滅竜の魔力を吸収した時に何か体の中に暖かいものを感じたんだけどそれがこういった形で使えるとは思ってもみなかったよ」
「滅竜魔法だけなの?」
「そうみたい。大魔闘演武の時にシェリアの魔力も吸収したんだけど無理みたいだし……」
どうやら滅竜魔法に限って体内に留めておく事が出来るようだ。だが僅かとはいえ大空の炎を使用しなくては使えないので早目に回復したいところだ。
「とりあえずガジルと合流したいな。ガジルの滅竜魔法を吸収させてもらえばかなり炎を回復出来るし……さらに新しい属性を得られるだろうしね」
「ガジルの魔力は何の属性になるのかな?あとスティングとローグが居ればいいのにね」
談笑する3人だったがふとツナが立ち上がる。その行動にラクサスとルーシィも立ち上がり警戒を強めた。
「信じられん……ジャッカルもテンペスターもやられるとはな」
「ならば我らが冥府へと誘おう」
「おいおい……少なくとも先頭の奴はかなり強えぞ」
現れたのは九鬼門、晦冥のトラフザー、漆黒僧正キース、絶対零度のシルバー……だがツナはシルバーの顔を見て何かを感じ取っていた。普通の人間に見えるがそれだけではなく誰かに似てるような……
「どうした?色男?そんなに誰かに似てるかい?」
「いや……」
「そうかい。なら凍りつきな」
腕を伸ばしたシルバーの掌から冷気が空気をも凍りつかせながらツナ達へと迫る。
「無駄だ」
ツナ達の周囲から赤い炎が巻き起こりツナ達の姿を隠す……その炎の壁に遮られてシルバーの氷は届かなかった。これにはシルバーだけでなく他の二人も狼狽する。
「マジか……!?」
「バカな!?あの一瞬でシルバーの氷を溶かしているのか!?あり得ん!!」
「……違う。溶かしてはいない。だが氷が一瞬で消えている」
ツナは嵐属性の分解の炎で氷を水素と酸素へと分解している。
「ちっ!ならば……」
埒があかないと感じたトラフザーは標的を後ろにいる二人へと変更すると腕を刃へと変えてルーシィへと斬りかかるが……
「おっとぉ!!」
飛び込んで来た黒い影がその一撃を弾き返した。
「ガジル!!」
「元に戻りやがったか……」
ガジルの来訪に沸き立つルーシィとフェアリーロウがきちんと効果を現していた事にホッとするラクサス。だがそこに魔障粒子となったキースが鋭い剣のような形へと変化してガジルを狙う。
「
「
「ジュビア!?グレイ!?」
そこへさらにグレイとジュビアが現れて
その二人を……いや、グレイをシルバーはじっと見つめていた。その視線に気づいたグレイも驚きと困惑の表情をしていた。その時、休んでいたラクサスが雷を纏ってトラフザーへと突っ込んだ。
「あっ!テメッ!そいつは俺の獲物だぞ!」
「少し相手をしてやるだけだ!それよりツナに!」
自分が対峙していた敵を奪われる形になったガジルは怒るがラクサスは取り合わずトラフザーと格闘戦をしながらガジルに告げる。ラクサスの意を察したツナが炎を大空へと切り替えて零地点突破・改の構えを取りながらガジルへ向き直る。
「ガジル!俺に向かって咆哮だ!!」
「あん?マジか……?」
「ラクサスも魔力はほんの僅かしか回復していない。急げ!!」
「よく分からねぇがご希望通り全力で撃ってやるよ!鉄竜の……咆哮!!」
「全力でとは言ってなくない!?」
ルーシィのツッコミを無視したガジルの全力の咆哮がツナの掌へ吸い込まれていく。ガジルが魔力で作り出した鉄も再び魔力へと戻ってツナに吸収されていった。
そして小さかったツナの額の炎が色鮮やかに燃え盛った。
「……よし!かなり回復出来た。すまないガジル」
「ちっ!オラァ!さっさと俺に代われ!!」
「言われなくても分かってるつの……そらよ!」
「ぐっ!!」
全力の咆哮を簡単に吸収されたガジルは舌打ちしつつもラクサスに吠える。力を振り絞ってラクサスはガジルに向かってトラフザーを蹴り飛ばした。ガジルは右腕を剣に変化させて待ち構える……
「鉄竜剣!!」
「フンッ!!」
魚人のようなトラフザーは腕にあるヒレでその斬撃を受け止め鍔迫り合いに持ち込まれる……ラクサスはツナ達の場所まで戻ると膝をついて呼吸を整えている。
「グレイ様!!」
ジュビアの叫びに視線をそちらに向けるとシルバーがグレイに組み付いていた。
「コイツは俺が貰うぜ!」
「なっ!?」
シルバーの言葉と共にグレイはどこかへ転移していった。呆然とするジュビアの前にキースが立ち塞がる。
「グレイ様をどこへ連れて行ったの!?」
「グレイ……これもまた運命か……」
「!?」
意味深な言葉に反応するジュビアだがとにかくグレイの元へ行くためには目の前の敵を倒す事が先決だと思い直す。
「ジュビア!」
「ここは俺にっ!!…………!!」
「どうした?ツナ」
ジュビアに代わってキースを相手取ろうとしたツナがその動きを止めて辺りを見渡す。ラクサスが不思議に思って問いかけるがその顔色は青ざめている。
「分からない……けど何かが……まだすごく遠いけど恐ろしい何かが近づいている……」
「それっていったい……」
「分からない……ただこのままじゃ確実に全滅する」
「「なっ!?」」
ドラゴンをも倒すツナをもってしてそう言わしめるだけの相手……ルーシィには心当たりは一つしかなかった。
タルタロスの代理マスター、冥王マルドギールはフェアリーテイルが復活したのを感じて動き出した。九鬼門も何人か落とされその者達を情けなく思ったが自身の力に絶対の自信を持ち、人間を虫ケラとしか思っていない為余裕の表情を崩さない。
「見つけたぞ!!」
声をかけられて振り返るとそこには桜色の髪をした少年が勝ち気そうな顔で睨んでいた。
「虫ケラがこの冥王に殺されに来たのか?」
「テメェがマスターだな!?俺はフェアリーテイルのナツだ!勝負しろ!この野郎!!」
ナツの言葉にマルドギールは呆れたような顔で反論する。
「タルタロスのマスターはこのマルドギールではなくENDだ。今はこのような姿だがな」
マルドギールの掲げた一冊の古い本を目にしてナツは驚愕する。太陽の村でアトラスフレイムの残留思念から聞いたイグニールが倒そうとして倒せなかった悪魔が目の前の本だと言うのだ。
ナツは両腕に激しい炎を纏いながらマルドギールに宣言した。
「……ならテメェを倒してその本も燃やしてやる!!」
「ほう……竜の子か。しかし勝てんよ。このマルドギールにはな」
「上等だ!燃えてきたぞ!火竜の鉄拳!!」
「無知な……」
ナツの繰り出した拳を簡単に受け止めながらマルドギールは呟いた……
「換装!黒羽の鎧!黒羽一閃!!」
「ぐうっ!調子に……のるな!!」
エルザの鋭い一撃を呪力を込めた腕で受け流しながらミネルバはエルザのいる空間の属性を爆発へと変化させた。爆炎に包まれたエルザだが……
「うおおおっ!!」
「何っ!?ガハッ……」
煙を突き破りながら突撃してきたエルザの拳を受けてミネルバは壁まで吹き飛ばされる。
「くっ!わ……妾は最強の魔道士になったはずだ!これでどうだ!!」
「そこだ!!」
「ガハッ!!」
すぐに立ち上がったミネルバはエルザの背後の空間と自分の空間を入れ換えて瞬時に襲いかかる。だがエルザはそれを読んでいたのか振り返らずにその攻撃を躱して剣を持っていないほうの拳で再び殴りつけた。
「大魔闘演武での貴様の所業……許した訳ではない!だが今の貴様はあの頃よりももっと最低だ!思い出せ!自分が何の為に戦っていたのかを!!」
確かに大魔闘演武ではミネルバの悪辣さに怒りを覚えたがその行動の全てはセイバートゥースの優勝の為の行為だった。
「今のお前には何もない。こんな戦いに何の意味があるのかと……お前を殴る拳が泣いているんだ」
エルザの言葉にミネルバは俯いて自分の心の内に秘めていた想いを吐露する……
「そうだ……妾が弱かったから……あげくの果てにはこんな姿になってしまった……」
ミネルバが伏せたまま泣いているのがエルザには分かった。ミネルバは実父であるジエンマに子供の頃より虐待とも呼べる訓練を施されていた。
辛くて涙を流していた少女時代……ミネルバが泣くとジエンマは裸で猛獣が蠢く森の中に裸で放置していた。
泣くことを許されずただひたすら強さと勝利を求められていた。ミネルバはその教えの通りに泣くことをやめ、どんな手を使っても常に勝利する事を考えるようになっていった。だが今、ミネルバは涙を流しながらエルザに懇願する……
「妾を……殺して……」
「……そんな事をしたら私はスティング達にどう詫びればいいというのだ」
「ふふ……そのようなことする必要はないであろう……妾がしたことを考えればな……」
ミネルバは大魔闘演武最終戦にてスティングの力を最大限に引き出す為だけにレクターを人質に取った事を思い出した。きっと彼は自分を恨んでいるだろう。他の者も自分に対していい感情を覚えている者など存在しないだろう……
「バカを言うな。間違いに気づけばやり直せばいいだろう……仲間という名の繋がりは決して脆いものではない。きっと彼らもお前を待っている」
「エルザ……」
エルザの差し出す手を取ろうとおずおずと手を伸ばしたミネルバ……そこへ野太い声が響く。
「この屑が!また涙を流しておるのか!!」
「なっ!?」
「ゴハッ!!」
それと同時にミネルバは殴り飛ばされて壁に叩きつけられる。エルザが振り向くとそこには元セイバーのマスターにしてミネルバの父であるジエンマが拳を振りきったまま佇んでいた。
「貴様っ!自分の娘に何をっ!?」
「黙れいっ!!涙を流す弱者など我が娘の資格などないわっ!!せっかく人間を超えたにも関わらず無様に敗北しおって!!」
ジエンマもミネルバと同じように悪魔として改造されていた。だがそれを悔やむどころかむしろ嬉々としてその力を受け入れていた。
「貴様……」
「もはや我慢ならん!!我が血を受け継ぎながら弱者である貴様など生きる価値もない!死ねいっ!!」
「なっ!?待て!!」
ジエンマはミネルバに向かって強力な呪力弾を放った。咄嗟に止めようとするエルザだが間に合わない。
「ミネルバァァッ!!」
立ち上がれないミネルバは目前に迫った死を受け入れるように目を閉じる。ジエンマの呪力弾が直撃した……ようにエルザには見えた。
「ヌゥ?」
「お前達は……」
爆発の直前に割って入った二つの影がミネルバを救いだしていた。粉塵が晴れてその姿が現れる……痛みを感じなかったミネルバが目を開ける。
「迎えに来たぜ!お嬢!!」
「あんたの帰る場所はセイバートゥースだ」
目の前には自分を抱き抱えるスティング……そして傍らにはローグの姿もあった。
「御無事で何よりですね~はい!」
「フローもそう思う!」
さらには二人のパートナーのレクターとフロッシュまで一緒にいる。
「あっ……あ……」
かつて自分で捨てたはずの仲間……だがエルザの言うようにまだ自分に対してその繋がりを捨てないでいてくれた仲間達に感謝してミネルバは人生で初めての嬉し涙を流した。
「ん?何でライオス達まで来てやがるんだ?」
「え?スティング達が?」
トラフザーとの戦いの最中にスティングとローグが来たことを感じ取ったガジルの言葉を聞いていたルーシィも疑問に思った。彼らがここに来る理由などないはずだ。
「ツナ、行ってこい」
「ラクサス……」
「ここに恐ろしい何かが来るってんなら今対抗できるのはお前しかいねえ……二人の力を貰えば完全回復とパワーアッブ出来るはずだ」
「けど……」
ラクサスの言葉に頷きたくなるがここには九鬼門が二人もいる。ガジル達が早々に負けるとは思えないが相手の能力が不明なので不安も残る……
その迷う顔を目にしたのだろう。ガジルがトラフザーを相手取りながら叫ぶ。
「おい!コイツは俺の獲物だからな!テメェはさっさと行きやがれ!!」
「事情はよく分かりませんがこの者は私が引き受けます。ツナさんは他の場所へ!!」
「ガジル……ジュビア……」
ガジルだけでなくジュビアにも背中を押されたツナはスティング達を探す決意をする。巨大な力を持つ何かが確実に迫って来ている事も後押ししている……
ツナは炎を灯してハイパーモードになると空中にふわりと浮かんだ。
「悪い!ここは任せた!!」
「気を付けてね!ツナ!!」
ルーシィの言葉に頷くとツナはこの場から飛び去った。ルーシィはツナが見えなくなると途端に不安そうになる。
「ねえ……ラクサス……ツナがあそこまで言う相手って……」
「恐らくな……だがだとしても情けねえがツナに頼るしかねえ……悔しいがな」
ルーシィは不安に塗りつぶされそうになる心でツナの無事を願うことしかできず、自分の情けなさに唇を噛み締めるのだった……
ツナは冥界島内部を飛びながら思考を巡らす。残りの九鬼門、迫る強敵、虹の炎……頭の中には考える事が次々に浮かんでくる。
-ガジルから得た炎は『霧』の属性……だが骸やクロームのように有幻覚はまだ作れないな……-
恐らく7属性全ての炎を得ても虹の炎を作る事が出来ないとツナは感じていた。他の属性の炎を使いこなしている訳ではないからだ。
「それでも……みんなは絶対に守る!!」
ツナは決意を新たにスティングとローグの元へと向かって行った……
インフルエンザにかかったり休んだ分の仕事が忙しかったりで本当にお待たせしました。