-冥界島
タルタロス九鬼門のジャッカルは苛立っていた。同じ九鬼門のテンペスターと二人がかりでも仕留めきれない程に目の前の男は強い。ゼレフ書の悪魔である自分達よりもただの人間であるはずのこの男が強いなどあっていいはずがない。
「あの桜頭といいワレといいホンマにムカつく奴らやな!!」
「奇遇だな……俺もお前達には苛立っている!」
ツナの胸中には魔障粒子によって苦しんだ街の人々達の顔が浮かんでいた。助けられなかった人達の無念を晴らすようにツナは力を振り絞る……既に炎は尽きかけているがツナの覚悟が死ぬ気の炎を燃え上がらせていた。
「ヒュル……」
テンペスターの呟きと共に暴風が竜巻となってツナを襲う。ツナはそれを恐れもせずに飛び込んだ。
「!?」
テンペスターは驚くがツナは竜巻の中心の影響の少ない場所を突っ切ってテンペスターの眼前に迫る。
「お前があの街を!!」
「クボァッ!!」
思いっきり顔面に拳を叩きつけられたテンペスターは吹き飛ばされて壁に激突する。だが動きが止まったツナをジャッカルが狙っていた。いつの間にかジャッカルは巨大な狼の怪物のような姿のエーテリアスモードに変身している。
「ダボがぁっ!死にさらせ!爆螺旋!!」
「!!」
ツナの周りを螺旋を描くように地面が爆発する。大爆発が起こり爆風と粉塵が辺りを包み込んだ。躱せるタイミングではなかったので直撃した事を確信したジャッカルの高笑いが響く。
「クハハハハッ!やったで粉々や!!クハハハハッ……はっ?」
勝利を確信したジャッカルは粉塵が晴れるのを愉快そうに見ていたがその表情が凍りつく……
そこにはルーシィがツナを守るように前に出て水のバリアを展開していた。
「ルーシィ助かったよ」
「ツナにはいつも助けられてるから。アクエリアスが力を貸してくれたの。一緒に戦おう!」
「調子にのんなや!!」
再び爆発が二人を襲うがルーシィの水のバリアは強力でジャッカルに対して相性がいい。バリアを抜けずにさらに苛立ちを募らせるジャッカルだったが相手は一人ではない……
「ゴロン」
「きゃあああっ!!」
「ぐっ!!」
水のバリアに雷が走りツナとルーシィに襲いかかり二人を蹂躙しようとするが咄嗟にツナが炎で散らす。雷の出所を見るとエーテリアスモードになったテンペスターが手を突き出していた。
-一撃では無理だったか……-
全力で撃ち込んだにも関わらず倒せなかった事に自分の炎が本当に残り少なくなっていると痛感させられた。
「ナイスやテンペスター!もっと撃ち込まんかい!!」
「ゴロン……ゴロン……」
「させない!」
「天を測り天を開きあまねく全ての星々……」
次々に襲いかかる雷をルーシィを守りながら防ぐツナ。ルーシィは水のバリアを展開しながらも小声で呪文を詠唱していたからだ。
ジャッカルの攻撃を防ぎつつルーシィの詠唱が進むと共に魔力がどんどん高まっていく……そして詠唱が完結する。
「荒ぶる門を解放せよ。全天88星光る!ウラノ・メトリア!!」
解放された星々の超魔力がルーシィから放たれた。それは狙い違わずテンペスターへと直撃した。
「ぐおおおおっ!!」
「テ、テンペスター!!」
「流石だルーシィ」
「えへへ……」
初めて会った時からルーシィを雑魚と侮っていたジャッカルはこの魔法を見て確かに恐怖していた。直撃を受けたテンペスターは倒れ伏し、体を動かすことすら出来なかった。
「最早……死ぬしか……ないか……」
そう言い残すとテンペスターの体が弾け飛んだように音をたてて消え去った。だがそこに残された黒色の霧にツナの顔色が変わる……
「あれは……魔障粒子!?」
「貴様らも冥府へ道連れだ……」
「待ってたぜこの時を!!」
魔障粒子を何とかしなくてはならないがそれだけの炎が残されていないツナが後ろから聞こえたラクサスの声に振り向くと、ラクサスの足元から眩しい光が溢れていた。
「ラクサス!?」
「あれはまさか……」
「テメエが不死でも魔障粒子の状態で跡形もなくなれば消滅するしかねえだろ。あの街の奴らにあの世で償え!!」
光はどんどん強くなっていきラクサスは両手を胸の前で構えた。恐るべき魔力にジャッカルも後ずさる……
「な……何かヤバイで……」
「仲間も絶対に助けてみせる!これが俺の全身全霊の
ラクサスの柏手と共に光が爆発的に冥界島を覆いつくした。ジャッカルは岩陰に隠れると呪力を高めて防御を最大まで高めたが、テンペスターは魔障粒子状態なので防御も何もなかった……
「……ぐ……ぐおお…おっ…っ…………」
文字通り光に飲み込まれ消滅したテンペスター。だがこの魔法の効果はそれだけではなかった……
ラクサスの魔法が炸裂する直前、ネオミネルバは冥界島に取り込まれて岩と同化したエルザの前で激しく怒りに燃えていた。
エルザが取り込まれるまでは心踊るバトルを楽しんでいたのにタルタロスの介入によってそれが突如終わりを迎えた……
エルザと戦うのは三度目だが悪魔に転生した自分に一歩をひけをとらないエルザに歓喜していたというのに……
何故そうまで喜んでいたのかミネルバは自分でも理解していなかった。それは心の奥底に秘めた想い……
-エルザなら……エルザならきっと妾を……-
自分の本当の想いに気付かず自嘲するように力ない笑みを浮かべるとこれからどうするべきか考える。だが次の瞬間、冥界島全体が眩しい光に包まれ、ミネルバは咄嗟に“
「ギシャアアアアッ!!!」
「くっ!うるさい奴め……これはまさかフェアリーロウとかいう魔法か?となるとマスターマカロフの仕業か……」
さすがはフェアリーテイルのマスターというべきかと感心していたミネルバの視界の端で何かが動いたような気がした。そちらを向くとミネルバは驚愕し、そして歓喜する。
ミネルバが見たのは冥界島に取り込まれたエルザが本来の色を取り戻していく光景だった。鮮やかな緋色の髪が翻りミネルバに向かって飛び込んで来た。
「はっ!!」
「そうだ!それでこそ……それでこそ我が愛しのエルザァッ!!」
復活したエルザの剣撃を受けとめ、ミネルバは再び心踊るバトルに身を委ねた……
冥界島は地に堕ちてフェアリーテイルのメンバー達は次々に復活していった。マカロフはみんなを助けたのがラクサスであることに気付いていた。
「フェアリーロウか……あ奴め……」
ニヤッと笑みを浮かべると周りにいるメンバー達に声をかけて態勢を整え始めた。
「ふう……もう一歩も動けねえぜ……」
地面に大の字に倒れこんだラクサスに歩み寄るツナとルーシィ。そばに行くと二人も座り込んだ。3人は島中でいくつもの魔力が復活したのでフェアリーテイルのメンバー達が解放された事を知った。
「ラクサスお疲れ様」
「凄いわ!マスターのフェアリーロウを完璧に!上手くみんなも助け出せたみたいだし!!」
「落ち着けよ」
少々興奮気味のルーシィを諫めながら苦笑するラクサス。だがタルタロスとの戦いは終わったわけではない。雑魚は一掃されただろうが九鬼門クラスは生き残っている者もいるだろう。
「とりあえずみんなと合流するしかないかな」
「そうね……私達は魔力をほとんど使い果たしてるし」
「そうだな……」
「へえ……そらええ事聞いたわ」
「「「!!」」」
3人の会話に割って入って来たのはジャッカルだった。身体中傷だらけだがその瞳は憎悪でギラギラしている。
「ホンマにまいったわ……ただで済むと思わんこっちゃな!!」
ツナ達3人の周囲が爆発する。明らかに脅しの一撃だったが爆風だけでも今の3人にはキツい……
「きゃあっ!!」
「くっ!ヤベエな……」
「ルーシィ!ラクサスを連れて逃げるんだ!ここは俺がやる!!」
「そんな!ツナだけ残して行けないよ!!」
ツナが二人の前に出て炎を灯すがチョロチョロの炎しか出せない……それを見たジャッカルは馬鹿にしたように笑いだした。
「何やねんそのちっさい炎は!アーッハッハッ!!ならオノレから爆殺したるわ!!」
「ツナ!!逃げて!!」
「ツナ!!」
ジャッカルは炎で無効化されないように直に触って爆発させるつもりのようだ。近づいて来るのを迎え撃つ為に構える。
-せめて二人だけは絶対に逃がす!絞り出すんだ!俺に残された力の全てを!!-
体の細胞全てから力を集めるように悲壮の決意で最後の力を振り絞るツナ……意識を自分の内側へと向けた時だった。
-これは!?-
ジャッカルが呪力を纏った拳を振りかぶった……
-熱い……この力は……この熱は……-
ルーシィとラクサスが悲痛な叫びをあげる……
-覚えがある。これは……-
ジャッカルの拳が突き出されツナの顔めがけて迫ってくる……
-……ナツ?-
「クボァァッ!!」
ジャッカルが叫びながら吹っ飛んでいく。突き出されたツナの拳を覆っている炎を見てルーシィとラクサスだけでなくツナも目を見開いていた。
何故ならその炎は全てを包み込む橙色の大空の炎ではなく深紅に染まった『嵐』の炎だったからだ……
自らの手を呆然と見つめるツナ……自分の額の炎までもが深紅に染まっている。
「これが……虹の炎へ至る道か……」
「ツナ!大丈夫なの!?」
「大丈夫。ナツが力を貸してくれた」
「「??」」
ラクサスとルーシィは揃って疑問符を浮かべていたがツナは笑みを浮かべる。一度気付いたら全てがクリアになったように自分の中にある力を理解していた。
ナツとの模擬戦の際に零地点突破・改によって吸収した魔力がツナの中で息づいていた。
-ナツの魔力とほんの僅かな大空の炎を融合させる事によって嵐の属性になるのか……それにしても常に攻撃の核となり休むことない嵐の炎はナツにぴったりだな-
「滅竜魔法と虹の炎……これがジョットの求めていた答えなんだな……」
そしてツナはナツの魔力の他に自分の中にあと2つの魔力が存在するのを見つけた。それを試そうとする前に再びジャッカルが現れる。
嵐の炎によって付けられた傷は細胞を分解してさらに広がっていた。最早フラフラで殴られた顔面の傷は痛々しいがそれでもこちらを睨む視線は変わらない。
「このっ……やってくれたやないか……ワイの全力で全員纏めて消し飛ばしたらぁ!!」
ジャッカルは全呪力を振り絞って掌に集め出す。だが隙だらけにも関わらずツナは動かない……ラクサスとルーシィは慌てて動こうとするがツナがそれを制する。
「二人共その場所を動くな。今度はラクサスの力を貸してもらう」
「はぁ?」
「ちょっ!ツナ!」
「死にさらせ!極!爆螺旋!!」
ツナを中心に今までで最大の大爆発が起こり粉塵が空間を埋め尽くしていた。今度こそ粉々になっただろうと息を吐き出すジャッカルだが……
「う……あ………」
絶望がジャッカルを支配する。ツナも後ろにいた二人すら傷一つ負っていなかった。ツナが突き出している右手から緑色の電気に似た炎が3人を囲うように展開されていた。
「雷の炎の特徴は硬化……その程度ではこの炎を抜くことはできないぞ」
ツナは静かにそう告げた……
ルーシィとラクサスはまた違う色の炎を使ったツナに驚いていた。
「ツナ……他の属性の炎を使えるようになったの?」
「……?どういうことだ?」
「ツナが使う炎はオレンジ色の大空の属性のはずなんだけど……ツナが言うには人によって属性が違って色んな種類の炎があるらしいの」
「そーいや依頼で夢魔と戦った時にはツナの記憶から作られた奴の中に違う色の炎を使う奴がいたな」
10年クエストでの夢魔リリスとの戦いを思い出すラクサス……ルーシィはツナがこの世界に来た時に聞いた炎の種類を思い出す。
「確か赤い炎は……属性は嵐で特徴は分解、緑の炎の属性は雷で特徴は硬化よ。でも全然使えなかったのに何で突然使えるようになったんだろう?」
「微かにだがあの緑の炎からは俺の魔力を感じるな……さっきも力を借りるって言ってやがったが……」
それを聞いたルーシィは手をポンと叩いて答えを導き出した。
「そっか!ツナの御先祖様が残した言葉!前に吸収した滅竜の魔力を利用してるんだわ!!」
ラクサスは以前ツナとやった模擬戦を思い出した。確かに自分の最後の一撃を吸収されていた。
「なるほど……となるとさっきの赤い炎はナツの魔力って訳か。新たに2つの属性を手に入れやがったのか……さらに差が開いちまったな」
「……!違うわ!もう一種類あるはずよ!」
-こ……こらアカン……-
ジャッカルには最早目の前の敵を倒す力は残っておらずただ恐怖していた。近づいて来る男に精一杯強がった笑みを浮かべる。
「き、今日はこのくらいにしといたる!ほなさいなら!!」
そう言い残すと180度振り返り脱兎のごとく逃走した。とにかく振り返らずに走り続ける……どれだけ逃げただろうか。ここまで来れば大丈夫と後ろを向いて驚愕した。
そこにはツナが悠然と歩いてきていた。それだけでなくかなり走ったはずなのにさらに後方にルーシィとラクサスの姿も見えた。
「どういうことや!?」
訳も分からず混乱するジャッカルだが近づいてきたツナに殴りかかろうとしてさらに驚愕する。
ジャッカルが見たのは本気で殴ろうとした自分の腕が文字通りゆっくりとスローモーションのように進んでいく光景だった。
-ワイの動きが鈍くなっとる!?-
ジャッカルはあまりに混乱している為、ツナの額と拳の炎の色が青色になっているのには気付いていない……
「ウェンディの力は雨の炎。雨属性の炎の特徴は沈静……お前はもう自由に動く事はできない」
ツナの炎の色が青から再び赤へと変わる……ツナはかつての右腕であった男の技をイメージしながら炎を矢の形へと変えて自分の周りにいくつも浮かべた。
ジャッカルは逃げようとするも意思に反して体がゆっくりとしか動かない。絶望するジャッカルにツナは無慈悲に告げる。
「ガトリング・アロー」
「かっ……っ……はっ……!」
浮かんでいた赤い炎の矢が次々とジャッカルへと突き刺さり、さらには嵐の分解の炎の効果で突き刺さった箇所から肉体を破壊されていく。
声にならない悲鳴をあげながらジャッカルは遂に地に倒れ伏したのだった……
遂に大空以外の炎を解禁です。大空と滅竜の魔力を混ぜる事によって発動できます。
ナツ→火竜→嵐
ラクサス→雷竜→雷
ウェンディ→天竜→雨
ガジル→鉄竜→?(魔力で鉄を構築する)
スティング→白竜→?(光すなわち……)
ローグ→影竜→?(影は形を変えて大きさを増す)
になります。コブラとかは考えてないです。