妖精達と歩む大空   作:グリーン

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冥府の門編第三話です。お待たせしました。


雷竜の意地

 

 

-8アイランド

 

元評議員でマカロフの友人でもあるヤジマが経営するこの店では雷神衆が依頼としてお手伝いをしていた。大魔闘演武以降重い依頼が多かったのでエバーグリーン発案で息抜きも兼ねてこの依頼を選んだのだ。

 

ヤジマは新聞を読みながらかつて所属していた評議院壊滅の報に胸を痛めていた。

 

「こりゃあ大変だなぁ……」

 

「評議院を爆破するような奴……何者なのだろうか?」

 

「9人の議員も全滅……あんた辞めてて良かったねえ」

 

「バカタレ!不謹スンなことを!」

 

フリードは料理を作りながら、ビッグスローは盛り付けをしながらもその話題について考える。そこへウエイトレス姿のエバーグリーンが戻ってきて仕事をするように叱責する。ほのぼのとした雰囲気の店内に嵐が近づいているのにも気付かずに……

 

「所でラクサス君は?」

 

「道に迷ってるのか?」

 

「お使いも出来ないとは……仕方のない奴め」

 

「あら、噂をすれば……?」

 

店内に男が入店してきた。一瞬ラクサスかと思ったがその男はフードを被って顔を隠していた。

 

「ヒュル……」

 

「「「「!!??」」」」

 

男が呟いた瞬間に店が吹き飛ぶ程の巨大な竜巻が巻き起こって店を完全に破壊していた。

 

「何じゃあ!?」

 

「コイツは!?」

 

やって来た男はその身に風を纏いながらヤジマへと突っ込んで来る。それを庇うようにフリードとビッグスローが前に出るが……

 

「どどん」

 

「何っ!?」

 

「がっ!!」

 

二人の体に添えられた手から放たれた波動が二人を吹き飛ばした。

 

「くっ……妖精機銃!レブラホーン!!」

 

「ヒュル」

 

「きゃあああぁっ!!」

 

エバーグリーンの攻撃も簡単に弾き飛ばされて本人もそのまま壁に叩きつけられる。

 

「ヌヌッ!よくも!」

 

ヤジマは紙のように体を変化させて謎の男に巻き付こうと近寄るが……

 

「ボッ」

 

「ぐわあああっ!!」

 

男の体全体から炎が吹き出してヤジマを直撃する。

 

「ヤジマさーん!!」

 

「くっ!コイツいったい!?」

 

「まじいぜ!体が動かねえ!ヤジマさんが……」

 

男はヤジマの小さな体を持ち上げると竜巻を腕に巻き付けてヤジマの首を絞める。

 

「ぐううっ!!な……何者じゃ……」

 

「……我に名はない。九鬼門の一人……人類は我を厄災と呼ぶ……冥府の門は開かれた。人類に裁きを」

 

「ヤジマさん!!」

 

「冥府の門……タルタロス!?」

 

「コイツらが評議員を!?しかも元評議員まで狙っているのか!?」

 

男はフリード達の疑問には答えない。ヤジマを掴んでいる腕の竜巻が更に激しさを増していき、ヤジマの苦しみも増していく……

 

「ガアッ……ぐわあああっ!!」

 

「冥府へ堕ちろ」

 

「よせー!!」

 

「ちくしょう!!」

 

「ヤジマさーん!!」

 

動くことも出来ずにヤジマの命が消えていくのを見ていることしか出来ないフリード達は必死に叫ぶが男は反応一つしない。もはやこれまでかと思われた時、謎の男の腕に晴天にも関わらず雷が落ちる。

 

「ヌヌ!」

 

「ぷはぁっ!!」

 

思わずヤジマを放した男に再び雷が落ちる。フリード達は動けないが安堵の笑みを浮かべていた。自分達の信頼するリーダーが帰ってきたのだ。

 

「道には迷っちまったが……テメェを殺すのに迷いはねえぞ」

 

静かなる怒りを纏いながら雷神衆のリーダー、ラクサス・ドレアーがお使いから帰ってきた。

 

「なんだあ?コイツは?」

 

「タルタロスよ!ヤジマさんを狙って来たの!!」

 

「ほう……」

 

ラクサスを睨み付ける男は油断できないと感じたのかヤジマを一旦意識から外してラクサスに向き直ると雷でボロボロになったフードを引き裂く。

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

謎の男は獣人のような姿をしていた。タルタロス九鬼門の一人『不死のテンペスター』の正体に全員が驚愕に顔を染める……

 

「人間じゃねえ!?まさかゼレフ書の悪魔かよ?」

 

「ヒュル」

 

「フン!だが前の奴の方が強えな……」

 

再び竜巻を纏ってラクサスに突っ込んで来るが相手が悪い……ラクサスは持ち前の雷を纏った高速移動で突進を躱してテンペスターを蹴り飛ばす。

 

壁に激突したテンペスターはすぐに立ち上がってラクサスに攻撃しようと目を向けるがそこにラクサスの姿はなかった。一瞬硬直してしまったテンペスターは自分の背後に立っている気配を見落としていた。その一瞬で勝負は決まった。

 

「相手が悪かったな……雷竜の顎!!」

 

「ぐぼおおおぉっ!!」

 

雷を纏ったハンマーパンチがテンペスターの頭を直撃する。地面に叩きつけられたテンペスターは地面に顔半分を埋めながら気を失っていた。

 

「さっすがラクサス!」

 

「見事な勝利だ!!」

 

「やっぱり漢ね~!!」

 

「ヤジマのじいさん。コイツどうするよ?」

 

「フム……評議院は壊滅スとるからのう」

 

ビッグスローは本部がダメでも支部とかあるだろうと反論したがヤジマはやはり無理だと首を振る。フリードがフェアリーテイルに連れ帰って目的を吐かせようと提案してエバーグリーンがノリノリで賛成していた。

 

だが……ラクサスは気を抜いてはいなかった。ツナが倒したリリスのように本に戻っていないからだ。その予感は正しくテンペスターは意識を取り戻す。ラクサスは倒れたままのテンペスターを警戒していた。

 

「フェアリーテイルか……これほどの力を持っているとは計算外……一度死ぬしかないか……」

 

「?……何言ってやがる?」

 

「相手が悪かった……ということだ」

 

「!!!」

 

テンペスターがいきなり弾けたように破裂すると辺りに黒い霧が拡がっていく……自爆かと思われた行動はこの魔障粒子を撒き散らす為だった。魔障粒子からテンペスターの声が聞こえてくる……

 

「こ……コイツは!?」

 

「この魔障粒子は空気中のエーテルナノを破壊して汚染していく……そしてそれは魔力欠乏症や魔障病を発生させる。それは魔導士にとっては死に至る病。唯一の弱点は再生の為に本部に戻らなくてはならん事」

 

「アンチエーテルナノ領域か!?」

 

「先程気になる事を言っていたな……リリスをやったのは貴様か?それとも貴様の仲間か?」

 

「さあな……自分で調べてみやがれ」

 

「……ならばそのまま死ね。冥府で会おう死人達よ」

 

テンペスターの気配が消え去っても魔障粒子は更に拡がっていく……

 

「とにかく逃げるんじゃ!風上へ!!」

 

「霧は吸い込むな!!」

 

「このままじゃ……ぐっ!!」

 

「ヤジマさ……うっ!!」

 

「ぐうっ!!」

 

「エバ!ビッグスロー!ヤジマさん!!くっ……まずい…………ラクサス?」

 

ビッグスロー、エバーグリーン、ヤジマは倒れて意識を失ってしまう。フリードは朦朧とする意識の中で仁王立ちするラクサスの姿を見た。

 

「ラクサス!何を……」

 

「誰も死なせねえ!!死なせねえぞぉ!!」

 

そしてフリードは目を見開き信じられないものを見た。ラクサスが魔障粒子を自ら吸い込んでいる姿を……

 

「おい……何を……?」

 

「ドラゴンスレイヤーの肺は少し特殊なんだ。こんなもん全部吸い込んでやる……グボォッ!ゲホッ!!」

 

「よせ……やめろ……」

 

咳き込みながらも魔障粒子を吸い込むのを止めないラクサスの顔には血管が浮き出ている。そして魔障粒子の濃度が薄くなっているのをフリードは感じていた。それはつまりあれだけ撒き散らされた魔障粒子がラクサスの体内に吸収されていると同義だ……

 

「必ず全員連れて帰れ……それがお前の仕事だ」

 

フリードにそう告げるとラクサスは仕上げとばかりに魔障粒子を吸い込んでそのまま地面に倒れ込んだ。

 

「ラクサーース!!!」

 

フリードの悲痛な叫びが辺りに虚しく響いた……

 

 

 

 

 

 

-フェアリーテイル

 

医務室の扉の前にフェアリーテイルのメンバー達が集まっている。その扉が開くと中からフェアリーテイルの顧問薬剤師であるポーリュシカが出てきた。

 

「ポーリュシカ!ラクサス達はどうなんだ!?無事なのか!?おいいぃっ!!!」

 

「生きてはいる……が体内を魔障粒子に酷く犯されている……中でもラクサスは生きてるのが不思議なくらいだ……」

 

「そんな……」

 

「治せねえのかよ!?」

 

「あたしには無理だ……その悪魔の血液でもあればワクチンを作れるかもしれないが……今はあの子に頼るしかないね」

 

ポーリュシカが医務室の扉を開けるとそこにはツナが顔の前で拳を握りしめてフェアリーリングに炎を灯している。祈るように目を閉じているツナを中心にドーム状に炎が形成されてラクサス達を包み込んでいた。

 

「ツナは何をやっておるんじゃ?」

 

「ツナは大空の調和の炎で結界のようなものを作っているのさ。これが多分一番効果があるだろうよ」

 

全員の視線がツナへと集中するがツナは気にせずに作業を続けていた。やがて炎とドームが消えてツナが目を開いた。

 

「ツナ!こやつらは大丈夫なのか!?」

 

マカロフの言葉に笑みで応えると心配しているギルドメンバーに向き直る。

 

「しばらくは動けないと思うけど体内の魔障粒子というのは全て消えてるはず……」

 

「確かに全て消えてるね。けど内臓まで犯されてたから回復には時間がかかるよ。ラクサスは特にね。ただ命の心配はなくなったよ」

 

ラクサスを中心に診察していたポーリュシカの笑顔とお墨付きもあってツナは息を吐き出した。それを見て沸き上がるギルドメンバー達。

 

「よくぞやってくれた!!」

 

「さすがはツナだぜ!!」

 

「すごいです!!」

 

「あんた達!!病人の前で騒ぐんじゃないよ!!」

 

騒ぎはピタッと止んだがそのせいかフリードの目が覚めたようだ。

 

「ここは……?ぐっ!!」

 

「まだ起きるんじゃないよ。体内の魔障粒子は消えたとはいえまだ身体の中まで痛みがあるはずだよ。ツナに感謝するんだね」

 

「ツナが治してくれたのか……ありがとう……ラクサスは!?」

 

「大丈夫。回復に時間がかかるかもしれないけど無事だよ」

 

「よかっ……た……ラクサスは……街を救ったんだ。ラクサスがいなければ街は……」

 

「分かっておる……お主もよくみなを連れて帰ってきてくれたのう……」

 

「街は……無事ですか……?」

 

フリードの質問にみんなは顔を伏せる……だがマカロフは笑みを浮かべておかげで無事だったと告げる。安心したフリードは再び眠りについた。

 

しかし実際は街には今も魔障粒子が漂っており魔力を持たない人間すらもその毒牙にかけているのだった……

 

誰もが沈痛な思いで彼らを見つめている……その中でツナはマカロフに願い出た。

 

「マスター……俺が街に行って魔障粒子の対処をしてきます」

 

「ツナ……」

 

「俺は大空の炎を纏っていれば魔障粒子に犯されることはありませんから……ラクサスが命を懸けて守ったものを無にはさせません」

 

ツナは血が流れる程に強く拳を握りしめていた……

 

「確かにお主に頼むしかないの……頼むぞい」

 

ツナは頷くとすぐに出発しようと入り口に向かうがミラやルーシィ、ウェンディも一緒に行こうとするので何とか宥める。魔障粒子への対処はツナにしか出来ないので3人は渋々諦めた。

 

ツナがギルドを出る時に後ろからナツの声が聞こえた。

 

「じっちゃん…………戦争だ!!」

 

ナツの宣言は全員の心情を表していた。タルタロスとの全面戦争が幕を開ける……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ラクサスしばらく動けませんが魔障粒子は全て消えてます。

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