-魔法評議院 ERA
魔導士ギルドをまとめるいわば上位組織でもある魔法評議会は9人の議員による会議が行われていた。といっても会議が始まる前の単なる愚痴の言い合いになっていた。主にあるギルドのせいで……
「大魔闘演武はフェアリーテイルの優勝か……」
「天狼組が帰還したと思ったらコレか……」
「ふん!セイバーも何と情けない!あんな奴らを優勝させてしまうとは!!」
「これでまたフェアリーテイルが調子に乗ってしまうでしょうな」
「あの問題児集団め……」
彼ら評議院は優秀だが問題行動を数多く起こしていたフェアリーテイルを煙たがっていた。この中でフェアリーテイルを擁護しようとするのはオーグ老師のみ。議長のグラン・ドマは過去の行動は問題だがその強さは認めていて厳正に判断しようとしている。
「皆……静粛に。そろそろ今日の議題に移らせてもらうぞ」
議長が杖で床を叩いてそう言うと雑談していたメンバー達は一斉に口を閉じる……
「まず最初の議題は……フェアリーテイルのツナヨシ・サワダを聖十大魔道として認めるか否か」
「認められる訳がありません!」
「ただでさえマカロフがいるのにさらにフェアリーテイルから聖十大魔道を任命すれば奴らはさらに調子づきますよ!」
「確かに……」
「あまり勧められたものではありませんな」
「これは認めざるを得ないのでは?」
断固とした反対意見や慎重な意見が出る中でオーグ老師のみが賛成意見を述べる。全員が一斉にオーグ老師に注目する。
「オーグ老師!何を……」
「まあ待て。オーグ老師、理由を述べよ」
食って掛かる議員を止めると議長はオーグ老師に続きを促す……
「はい。彼はイシュガルの四天王を除く人類最強の魔導士であるジュラ・ネェキスを圧倒する実力を見せました。しかも国王を含めた大勢の観客……いや、映像を含めればこの大陸全ての者の前でと言った方がいいでしょう」
「ぬうっ……」
「それは……」
「さらには彼を中心としたチームによって数多くのS級クエストもクリアされています。国王依頼の10年クエストもです」
「アルビオンの街の事か……」
「確かに評価に値するがな……」
「さらにジュラ自身がツナヨシ・サワダとラクサス・ドレアーを聖十に推薦しております。ラクサスの方は過去に問題行動を起こした事もあり保留という形にすればいいと思いますがツナヨシは問題行動を起こした事もありません」
「まあ入ったばかりだからだろうがな……」
「確かに依頼後に妖精の連中が大喧嘩する所を諫めたという話も聞く……」
「妖精の中ではまともな部類ということか」
そこまで聞いた議長が再び杖で床を叩き、結論を出す。
「うむ。大魔闘演武によってツナヨシ・サワダの実力と知名度が知れ渡った今、聖十に任命しなければ我々評議院に対する不信を招きかねん……よってツナヨシ・サワダを聖十大魔道として認める!」
他の評議員達も渋々とだが認めざるを得なかった。この部屋の外で警護していたラハールとドランバルトは顔を見合わせて愉快そうに笑っている。
そして次の議題は
「どうせフェアリーテイルの仕業ではないのか?」
「あり得るな……」
「強い力は誇示したくなるというものですからな」
再びフェアリーテイルに対しての愚痴の言い合いに発展しようとするがオーグ老師が口を挟む。オーグ老師はタルタロスによる接収を意見として出すが議長以外の議員はバカにしたように大笑いする。どうやらフェアリーテイルに好意的な意見を述べる為に疎ましく思われているようだ。
しかし公正な議長はその可能性がかなり高いと感じていた。少々の怒りを込めて議員達を嗜める。
「オーグ老師の意見はかなり信憑性が高いと思われる。そしてそれが正しいなら奴らは何かしらの行動に出るはずだ」
「議長!?」
「全てが謎に包まれたタルタロス……後手に回ればそれだけでこちらが不利になるだろう。こちらから行動を起こすべきだ。六魔とグリモアが倒れた今こそ魔法評議院の総力をかけてタルタロス問題に立ち向かうべきなのだ!!」
ゴクッ……と議員全員が議長の本気を感じて息をのむ……
「そなたらはフェアリーテイルを敵視しているがタルタロスを倒すには彼らの力は必要だ!最早過去の問題行動などこの場において何の意味もないと心得よ!!」
「議長……そこまで……」
「確かにこれはバラム同盟を完全消滅させる好機……」
「ならば確かに六魔とグリモアを討ち取った妖精の力も必要でしょうな……」
「ツナヨシ・サワダも大きな戦力となるか……」
「決まりですな。ではフェアリーテイルへの使者を決めなければなりませんな」
「では面識のあるラハールとドランバルトに……」
「大変です皆さん!!」
そこに現れたのはカエルの姿をした下っぱ議員が慌てた様子で飛び込んで来た。
「バカモノ!議会中だぞ!!」
「大変なんです!……侵入…者……」
その言葉が最後まで紡がれる事はなく次の瞬間にERA全体を破壊する程の大爆発が起きる……
「がはぁっ!!」
「ぐわぁっ!!」
「な……何が!?」
爆発の衝撃と瓦礫によって現在ERAにいる殆どの者が死亡したり大怪我を負ったりしていた……
崩れた瓦礫を押し退けて何とか立ち上がったドランバルトは相棒のラハールに声をかける。
「くっ……おい!ラハール!しっかりしろ!……なあ……ラハール……くそっ!」
だが既にラハールは息絶えていた……絶望に囚われるドランバルトだが自身も怪我をしていてろくに動けないまま会議室の中へ目を向けるとその目を見開く……
そこには議長のグラン・ドマを始めとする議員達の死体があった。
「そんな……誰か!無事な者はいないのか!?」
床を這いながら生存者を探すドランバルトの耳にか細い声が聞こえた。
「ドランバルトよ……」
「オーグ老師!よかった!ご無事でしたか!」
瓦礫に埋もれているオーグ老師を発見したドランバルトはすぐに助け出そうと痛む体にムチをいれる。
「ぐふっ!!」
「な!?」
だがその時……何者かが倒れているオーグ老師の頭を腕で押さえつけた。そして嘲るようにドランバルトへと視線を向けるとニヤリと口角を上げる。
その男は猫耳と尻尾を生やして首にスカーフを巻いた男であった。明らかに人間ではない……
「アカンアカン、あんたは生きてたらアカンわ。狙いは9人の議員全員やからな」
オーグとドランバルトはその言葉でこの男がERAを爆破した犯人である事に気付いた。
「爆」
そして男がそう呟くと同時にオーグ老師を押さえつけている男の右手が輝きだす。男が直前に呟いた言葉でドランバルドは最悪の想像をする……
「よ……よせ……」
「ドランバルト……お前は逃げろ……」
「できません!!」
「お前まで死んでどうする!」
そう言ってドランバルトたちに逃げるように言うオーグ老師。すると、男の右手がさらに輝きを増し始める。
「逃げられへんわ、オレの爆発からはな」
「行け!!ドランバルト!!」
ドランバルトは未だに動けない。確かに彼の魔法ならこの場から無傷で脱出出来るだろう……しかしそれは目の前のオーグ老師を見捨てるということだ。しかし怪我をしている自分には他にできる事がない……
「…………」
「オレの名はジャッカル。タルタロス九鬼門の1人や。地獄で思い出せや、評議院を皆殺しにした男の名をな」
「己の正義を貫く為に生きろ!!ドランバルト!!」
ジャッカルの右手の光がさらに増してそれが臨界に達した。直後に先程よりも強い爆発が起こり、ERAはさらに破壊される……
「オーグ老師ィィッ!!」
ドランバルトはオーグの名を叫びながらも間一髪で転移した。そうすることしか彼にはできなかった……
-フェアリーテイル
数多くの依頼が舞い込んでくるフェアリーテイルは登録している魔導士達で賑わっていた。そんな中でツナはカウンターでコーヒーを飲みながらフェアリーリングに炎を灯して虹の炎を出す為に試行錯誤していた。
「出来ないなあ……」
「苦労しておるようじゃのう……」
マカロフが隣で酒を飲みながら話しかけて来る。さっきからずっと見られていたようだ。
「そこまで急ぐ必要はないのではないか?」
「いつゼレフやアクノロギアと対峙するか分かりませんからね。特にアクノロギアはジョットですら敵わなかった相手ですし……そういえばマスターはジョットに会ったことはあるんですか?」
「ワシが物心つくかつかないかじゃったからのう……会ったことはあると思うが……先代のプレヒトが言うには間違いなく当時のフェアリーテイル最強の男という話じゃ」
「そうですか……」
「じゃがお主はそんなジョットの強さを既に超えていると思うがのう……」
それはジョットに面識のあるバミューダにもかつて言われた事があった。
「確かにその自信はありますけど……ナツが未来のローグから聞いた話ではアクノロギアによって世界の人口の9割が減らされるという話ですからね……」
「確かにあの強さならばあり得ん話ではないな」
「それに……ナツが言っていたENDも気になりますしね……」
ナツがこの前の依頼で聞いてきたナツの育ての親であるイグニールが倒そうとして倒せなかったという話を聞いてそのENDを自分が倒すと気合いを入れている。
それだけでなくイグニールの居場所の手掛りになると考えているのだろう。ガジルとウェンディも真剣に調べていた。
-虹の炎と滅竜魔法か……-
3人のドラゴンスレイヤーを見ながらここにいないもう一人のドラゴンスレイヤーを思い浮かべる。マスターの知己であるヤジマの店の手伝いという依頼に雷神衆を連れて行っている。
ラクサスが店の手伝いなど出来るのだろうか?と失礼な事を考えていた時、エルザがマスターへ1つの報告を挙げたのが聞こえた。それはミネルバが闇ギルドに所属したということだった。
「ミネルバってセイバーの?」
「そうだ」
「闇ギルドにのう……奴の親父はセイバーの前マスターじゃったな?何をしとるんじゃ!」
「分かりません……一応スティングに一声かけておこうと思いますが」
「それがいいね……何か嫌な予感がするんだ。何かが起こりそうな気がする」
「ツナが言うとシャレにならないわよ」
「た……大変だぁ~!!」
「ほらね」
カウンターの向こうから声を掛けてきたミラの言葉に全員が苦笑しているとギルドの扉を壊す勢いでジェットとドロイが飛び込んで来た。手には新聞が握られている。
「騒々しいぞ!何じゃいったい!?」
「マ……マスター!これを見てくれ!!」
「いったい何じゃと言うんじゃ………………こ、これは!?」
新聞を読んだマカロフは驚愕に顔を染める。後ろから覗き込んだツナとエルザも絶句していた。
「評議院本部が……壊滅!?」
新たな戦いの幕は既に上がっていたのだった……
-ERA跡地
「タルタロス……」
ドランバルドが怨嗟の声を漏らす……彼に残されたのはタルタロスを壊滅させることだ。既に彼は戻れない所まで来ていた。
全てが謎に包まれたタルタロスの情報を得るために彼はオラシオンセイスのコブラが収監されている監獄へと足を向けた。
大魔闘演武の際のドラゴン襲来に対するために彼を一時的に釈放した事があった。その際にコブラはタルタロスに関する情報を持っている事を匂わせてきた。
それを教える対価は逮捕されているオラシオンセイスの全員を解放すること……彼らを外へ出すのは危険だが他に宛はなかった為に取引に応じた。
「奴らは全員がゼレフ書の悪魔か……」
手に入れた情報は役に立つものであったがよりタルタロスの脅威をより知らしめる結果になった……
「マスターの名はEND……」
亡き友と自分を逃がす為に死んだオーグ老師の為に必ずENDを倒す事を誓い、六魔全てを解放するために牢の鍵を取りに行くドランバルト……
「コブラ……ただで出してやると思うなよ……」
そう呟いたドランバルトはある人物に連絡を入れるために通信ラクリマを手に取った。
-???
巨大な城を思わせる建物の中で7人の男女が顔を合わせて話をしている……だが彼らは人間ではない。タルタロス九鬼門と呼ばれる彼らは全員がゼレフ書の悪魔だった。
「ゲヘヘ……ジャッカルさん派手にやりましたなあ!評議員9人の命の値段はおいくらか?おいくらか?」
堅甲のフランマルス……一つ目で恰幅の良い球体のような体型をしており鎧を着ている。
「フランマルス!下品な笑いかたはやめろ。品位が下がる」
晦冥のトラフザー……赤い鮫のような大柄な姿をしている。
「ジャッカルとテンペスターだけずりぃぞ!俺も早く人間を切り刻みてえ!!」
童子切のエゼル……藍色の肌で4本の腕にタコのような複数の足が特徴的な姿をしている。
「エゼルさん。まだ物語は序章にも入っていませんわ。前書きといったところですわ」
涼月天 セイラ……2本の角が付いたカチューシャに豹柄の着物が特徴の女性の姿をしている。
「その通りだ。慌てなくともそなたには存分に暴れてもらうつもりだ」
隷星天 キョウカ……鳥のような髪型や足に尻尾が付いた仮面を被った緑色の長髪の女性の姿をしている。
「祈り……囁き……そして冥府の祝福あれ」
漆黒僧正 キース……髑髏の仮面が特徴で、チェック模様の入ったマントに身を包み錫杖を持っている。
「ただ厄介な奴もいるんだろ?」
絶対零度のシルバー……両肩のプロテクターに左額に傷があり、髭面と両耳の十字型のピアスが特徴の中年男性……彼だけは人間のように見える。
「その通りだシルバー……そなたの前任の九鬼門だったリリスが完全に倒されたのだ」
「あのリリスが?何故ヘルズ・コアで再生されなかったのでしょうか?」
キョウカの言葉に疑問を抱くのは聞き返したセイラだけでなくここにいる全員が思っていた事だった。
「分からん……少なくともリリスの実力はここにいる者に劣るわけではない。さらに我らは敗れてもここのヘルズ・コアで再び甦る……それが成されなかったのは事実だ」
「倒した者も分からんのか?」
「どこかのギルドの魔導士らしいが……今度協力者に調べさせておこう」
「それがいいだろう……所でジャッカルとテンペスターはどこに行ってるんだ?」
トラフザーの質問にキョウカは魅惑的な笑みを浮かべて答える。
「ジャッカルは次の標的の元へそのまま向かうそうだ。テンペスターも今頃は…………」
とある店の前にフードを被った男が佇んでいた。フードでその容貌は分からない。その店の看板は『8アイランド』と書かれていた……
暑い日が続きます……夏バテ気味です。