聖十第4位の男
-ツナの自宅
ツナが新しく購入した家は2階建てで庭付き一戸建て、リビングも広くみんなで集まったりもできる広さを持つマグノリアでは豪邸といっても差し支えないほどの家だった。
引っ越し当日には本気でミラが一緒に住もうと荷物を持って押し掛けて来たり、それを見たルーシィとウェンディまで対抗するように加わろうとしていた。
さらにはミラを追いかけてエルフマンが殴り込みに来たり、騒ぎを聞き付けたナツやガジルが俺も混ぜろと乱入したりした。
わずか一日で新居が廃墟になるのを怖れたツナが本気で怒りこの家で暴れるのを禁じなければそれが実現していたかもしれない……
女性三人はなかなか粘ったがツナがいつでも来ていいと合鍵を渡した事によってとりあえず同居はしないということで決着がついた。
「おはよう、ツナ」
「おはよう」
朝起きてリビングに降りたツナを出迎えたのはミラと食欲をそそるいい臭いだった。引っ越してから必ず誰かが朝食を作りに来てくれる。一人だったりあるいは三人一緒だったりだが一人の方が珍しいくらいだった。
「ルーシィとウェンディは依頼に行ったんだっけ」
「そうよ。聖十序列4位のウォーロッド・シーケン様の依頼。元々ナツとグレイが呼ばれたんだけどエルザも一緒に行ってるわ」
朝食を取りながらジュラより格上の聖十に興味を持つ二人……そしてミラが手紙を取り出してツナへと手渡す。
「マスターから預かって来たの。依頼じゃないんだけどウォーロッド様がツナに会いたいらしいわ」
「依頼じゃないってどういうこと?」
「マスターが言うにはウォーロッド様はフェアリーテイル創設メンバーの一人らしいのよ」
「ジョットを知っている人か……」
感慨深く手紙を開くと伝えなければならない事があるので家に来て欲しいと書いてあった。地図も同封されている。
「じゃあ今日行こうかな」
「そうね、さっそく準備しましょう」
「…………ミラも行くの?」
「もちろん!」
二人で空を飛んで行くと目に入ったのは巨大な木が一方向へと真っ直ぐ伸びている光景……何千メートルも伸びているそれは明らかに自然物ではない。
「もしかしてウォーロッド様の魔法かしら?」
「確かにすごい魔力を感じるな……」
その木を辿って飛んで行くと高台の上に一軒の家を発見した。木の根も見えることからどうやらウォーロッドの家に着いたようだ。
「あそこかしら?」
「同封された地図もあそこを示しているな……降りるぞ」
「分かったわ」
二人は家の前に着地するとハイパーモードとサタンソウルを解除した。
「ごめんください。フェアリーテイルのツナヨシ・サワダです」
「付き添いのミラジェーン・ストラウスです」
扉が開いていたので声をかけながら家の中に入ると中にはたくさんの植物に囲まれた男が背を向けて植物の世話をしていた。
「あの……」
「しっ!草木は静寂を好む……理解したのならその忌々しい口を閉じよ」
ツナとミラは顔を見合わせて口を閉じる……
「なんてなっ!冗談じゃよ!草木も花も人間の声は大好きなんじゃ!あははははっ!!」
「「あははは…………」」
厳かな雰囲気をぶち壊してハイテンションな老人……人間と木が融合したような容姿のウォーロッド・シーケンの登場にツナとミラは苦笑で応える……
するとウォーロッドは懐かしい者を見るように目を細めて口を開く。
「君は本当にジョットによく似ている……大魔闘演武の映像を見た時はびっくりしたよ」
「ジョットさんはどんな人だったんですか?」
ミラの質問に当時を思い出すように語り出すウォーロッド。
「彼はまさしく大空だった……メイビスの親代わりであり、誰よりも強く、誰よりも優しく、だが仲間に手を出す者は決して許さない……誰からも頼りにされる男だった……」
「そんなところもツナそっくりなのね……」
「そうかな?」
「彼はきっと今も君達を見守っているじゃろう」
「そうですね」
「さて……君に来てもらったのは他でもない。ジョットが成し得なかった事を伝えるためなのじゃ」
「ジョットが成し得なかった事……?」
ツナはおうむ返しに尋ねる……ウォーロッドは真剣な顔でツナに対して口を開く。
「ジョットがやろうとしていたのは3つ……1つはメイビスの成長しない体を元に戻すこと……これは今更どうしようもないのじゃが……」
「何故初代は成長しない体に?」
「仲間を助ける為に未完成の黒魔法を使ってしまってのう……」
当時の事を思い出したのか苦々しい顔をするウォーロッドはその時の事を今でも後悔してる事がツナ達にはハッキリと分かった……
「そして2つ目はゼレフの永遠の生を終わらせる事じゃ。かつてゼレフ自身もそう望んでいた……」
「ゼレフを!?」
「奴は不老不死……さらには側にいるだけで他の命を奪ってしまう存在なのじゃ。だがジョットだけはその呪いが通じなかった……だからこそゼレフ自身もジョットに期待していたのじゃ」
「ジョットには大空の調和の波動が流れていたからかな?」
「ジョットもそう言っておった……じゃがそのジョットの炎ですらゼレフを死なせる事はできんかった。そして最後の3つ目は……アクノロギアを倒すことじゃ!」
「待って下さい!!」
その言葉に反応したのはミラだった。彼女はアクノロギアの恐ろしさを嫌と言うほど味わっている。
「いくらツナが強くもアクノロギアを倒すなんて……」
「確かに……アクノロギアにはジョットですら敵わなかった……」
「!戦ったんですか!?ジョットが!」
「……その通りじゃ。そして致命傷を負いながらもジョットはワッシの待機していた天狼島へと戻り息をひきとった……その戦いの前に天狼島に自分の墓を作っていたがな。ワッシはジョットに頼まれて墓にヌシの指にあるフェアリーリングとジョットが研究していた匣を納めた」
つまりジョットはアクノロギアとの戦いで自分が死ぬことを予期していたのだろう。
「ジョットはゼレフを死なせる事が出来なかった時から大空の炎の先にあるものを求めていた。それこそが虹の炎!!」
「虹の炎……」
「ジョットは虹の炎を得ればその3つを為し遂げられると考えておった」
ツナは自分でも色々と考えてきたが未だに虹の炎の取っ掛かりすら掴めない現状で自分に何が出来るのか考えていた。その険しい顔をミラは悲しい瞳で見つめていた……
「虹の炎か……」
ツナはウォーロッドに勧められた温泉に浸かりながら虹の炎について考えを巡らす。だが自分には大空属性しか流れておらず他の属性の炎すら出せないのにどうやって七属性全ての炎を灯せるのか分からない……
「何かヒントでもあればいいんだけどな……」
「そうね~でもツナならできるわよきっと」
「そうだといいんだけ……ど……」
独り言に返ってきた声に気づいて横を見るとそこにはバスタオルを巻いたミラがタオルを外しながらお湯に入って来る所だった……思わず呆然としたツナの横に体を寄せる。
「何でミラまで入って来てるの?」
「ふふ……ここ混浴なのよ」
「そうなんだ……って普通俺が入ってるの分かってて入ってくる!?」
「いいじゃない♪せっかくだし」
そう言ってさらに体を寄せてくるミラ……ツナは溜め息をつきながらも視線を前に向けて直視しないようにした。
「ねえツナ……アクノロギア相手に一人で戦ったりしないでね」
「ミラ……」
「ツナがいなくなるのは嫌……私ももっと強くなるから!だから……」
「分かったよ。安心して。死にに行くような真似は絶対にしないから」
「約束よ……」
ミラはそう言うと目を閉じて顔を寄せてくる……その想いに応えようとツナも目を閉じる……
「イヤッホー!!」
「「!!」」
ドボンという水音と大きな声が辺りに響いて焦ったツナとミラはお互いに額をぶつけてしまう。
「痛っ……今の声って……」
「ナツの声ね……いいところで……」
「おい!飛び込むなよ!」
「いーじゃねーかグレイ!ハッピーも来いよ!」
「あい~いい湯だね~」
依頼を終わらせて帰ってきたのだろう、まだこちらには気づいてはいないようだが3人はゆったりとお湯に浸かっていた。
「わぁ!すごくいい景色だね!」
「さすがはウォーロッド様。こんな秘湯を知っておられるとは……」
「気持ちいいですね~」
「なかなかいいじゃない」
いつのまにかルーシィ、ウェンディ、エルザ、シャルルも来ていた。女性だけに温泉を楽しんでいるようだ。
「ナツさん達に悪い気がしますね」
「アイツラは温泉なんて興味ないわよ」
「いや、そうでもねえぞ」
「たまには温泉もいいもんだ」
「あい!」
声をかけられたルーシィとウェンディはナツ達が温泉に浸かっている事を知ると悲鳴をあげて近くの物を投げながらお湯に体を隠す。
ウォーロッドは堂々と入ってきてエルザはその裸体を隠そうともせずに仲間なら一緒に入って問題ないと口にする。そしてウォーロッドもかつてフェアリーテイルの創設メンバーの一員であることを明らかにしてみんなを驚かせた。
「ん?ツナとミラも来ていたのか?」
「えっ!?ってツナ!ミラさん!何で二人はこんなところにいるんですか!?ってか何で二人で温泉に!?」
「ツナさん!ミラさん!!」
「お~おめえらも来てたのかよ?」
「はは……エルザ、少しは前隠そうか」
「色々あってここにいるのよ」
別に隠れてた訳ではないが湯気で見つかってなかったツナとミラをエルザが見つけるとルーシィとウェンディはくってかかる。
「ちょっと!何で二人仲良く温泉に入ってるの!?」
「どういうことですか!?」
「二人とも落ち着いて……あと隠して」
「「へっ?……きゃああああっ!!」」
「あらあら♪」
ツナへと詰めよっていた二人は自分の格好に気付くと顔を真っ赤にしてお湯に潜ってしまった。
その後何とか説明を終えたツナに不承不承ながら納得した二人はそのままツナの近くでお湯に浸かっていた。ツナはなるべく女性陣を見ないようにウォーロッドに問いかける。
「ウォーロッドさん。虹の炎について何か知りませんか?」
「いや、ワッシもよく分からん……じゃがジョットがある魔法を研究していたのはよく覚えておる」
「それってどんな魔法なんですか?」
「……滅竜魔法じゃ」
「「滅竜魔法!?」」
ルーシィの質問に対してのウォーロッドの答えにナツとウェンディの叫びが重なる。
「正しくは滅竜の魔力じゃがな」
「虹の炎と滅竜魔法か……」
「おおっ!そういえば!」
エルザに背中を流されていたナツが思い出したように手を叩く。
「どうしたの?ナツ」
「未来のローグが最後に言ってたんだよ!ツナに虹の炎を手に入れるように伝えろって!アクノロギアを倒せる可能性があるらしいぜ!!」
「おいおいマジかよ……」
「他には何か言ってなかった?」
ナツは腕を組んでウンウン唸っていたがやがて思い出したのか口を開く。
「未来のツナは虹の炎を手に入れる機会を永遠に失ったって言ってたかな……」
「どういう意味かしら?」
「手に入れる機会を失った……か……ならその機会は絶対に逃さないようにしないとね」
「ツナ!さっきも言ったけどあなた一人で戦おうとしちゃダメよ!」
「そうだぜ!俺も一緒に戦うぜ!」
「天狼島での借りを返さねえといけねえしな」
「確かに我々の力はお前には及ばんが我々も今のままではない。お前一人が背負う必要はないのだからな」
「そーよ!あたしだって戦うわ!」
「私もガンバります!!」
「みんな……」
「うむ。それこそがメイビスの唱えた“和”血よりも濃い魂の絆で結ばれた魔導士ギルド、フェアリーテイルの精神……それは時が流れた今でも君達の心に受け継がれておる」
そしてウォーロッドは語る……フェアリーテイル創始の言葉を。言葉だけでなく心……無条件に信じられる相手を仲間ということ。
“どうか私を頼ってください。私もいつかきっとあなたを頼る事があるでしょう。苦しい時も悲しい時も私が隣についています。あなたは決して一人じゃない。空に輝く星々は希望の数、肌にふれる風は明日への予感、さあ歩みましょう。妖精たちの詩に合わせて……”
その言葉を全員が胸に刻み込んだ。その後ナツがイグニールが倒そうとしていたゼレフ書の悪魔ENDについて質問したが詳しい事は何も分からず絶対に自分が倒すと興奮したナツが何故かエルザを殴っていた。
怒りのエルザに10倍返しされたのは言うまでもない……
そのままウォーロッドの家で一夜を明かした後、フェアリーテイルへと帰る時間となった。
「お世話になりました」
「うむ。いつでも来なさい。若き妖精たちを歓迎しよう……」
「はい」
「じゃあな!ジッチャン!」
「ウォーロッド様もご壮健でありますよう」
「また来ますね」
去って行くメンバー達を……特にツナを見送りながらウォーロッドはジョットの残した言葉を思い出す。
『いつの日か……必ず現れる……俺の遺志を継ぐ者が……俺の魂は……ボンゴレリングを託してくれた……セピラとの契約により……あちらの世界の……ボンゴレリングに宿る……』
『ジョット!もう喋るな!』
『ボンゴレを……在りし日の姿に……戻した者、トゥリニセッテの運命を覆した者こそが……大空を越えて……虹へと至る者だ……きっとメイビスやゼレフを救ってくれる……』
『ジョット……』
『心残りは……その者を運命……という名の……鎖で縛って……しまうことだが……未来の妖精たちが……その者を……支えてくれ……る事を……祈る……』
ウォーロッドは知らずに涙を流していた……ジョットと同じように強く、優しい新たな大空をウォーロッドはずっと待ち望んでいたのだから……
「新しき大空……どうか運命に潰される事のないように……若き妖精たちよ……彼を支えてやってくれ……」
ウォーロッドはツナ達の姿が見えなくなるまで見送っていた……
地震から4ヶ月近くたちます。熊本も少しずつ元気になってきてます。