-夢幻宮
ツナが精神世界で過去の夢を見ている頃、外ではマフィア対フェアリーテイルの戦いはさらに激しさを増していたが優勢なのはマフィア達だった。
しかし彼らは我の強い者達が多く協力することを知らないらしい……一対一ではなく四対四で戦うことでどうにか戦線を維持していた。
「邪魔だ!ドカス!!」
「あっれ~?そっちが邪魔してるんじゃない?」
「うるさいな……君達から咬み殺すよ?というより群れてる時点で咬み殺すけどね」
「はあ……これなら一人の方がましだよ……」
赤い髪の気弱な青年以外は協力という概念すらなく、すぐに仲間割れをおこそうとする。それを見て赤い髪の青年も落ち込んでしまう。
「チャンス!天輪・
無数の剣群が四人のマフィアに迫るが重力で地面に縫い付けられたり炎で逸らされたりして防がれてしまう。しかし、その隙をついてラクサスが雷を纏って高速移動で白蘭に接近する。
「雷竜の……鉄拳!!」
「ん~白指」
「なっ!?」
白蘭はラクサスの渾身の一撃を人差し指に大空の炎を集中させる事によって受け止めた。ラクサスが驚愕して大きな隙が出来てしまう。
「死ね!
近くにいる白蘭の背後から彼もろとも消し去ろうと巨大な炎が放たれた。白蘭は空中に飛翔することで躱すがラクサスは巨大な火球に飲み込まれそうになる……
「
エルザが飛び込んで切り札の
「イビルエクスプロージョン!!」
爆発がおこり粉塵が部屋を満たす中でその効果を確認しないままミラはツナへ向かって空を駆ける。
「ツナを返して!!」
「ロール、
粉塵の中で雲雀が呟いたと思ったらいきなり鎖がミラへ向かって伸びてミラの体を捕らえる。粉塵から現れた雲雀は改造された長ランに服装が変わっている。
「何?この鎖……切れない!?くっ……」
「君……何僕を無視してるの?」
トンファーの先端から伸びる鎖に捕らわれたミラはそのままツナから遠ざけられた場所に叩きつけられた。
「あっ……くううっ!」
「ミラ!!クラッシュ!!」
再び引っ張られようとした所でギルダーツが駆け寄って鎖を砕いてミラを解放する。
「ありがとうギルダーツ……きゃああっ!!」
「ぐううっ!!またかよ!!」
だが炎真が二人に対して重力を発生させる事によって二人は地面に押し付けられる。それを見た白蘭の瞳が怪しく光る……
「アレ?これってチャンスだね♪白竜」
ギルダーツが再び重力を砕く前に白蘭の腰のボックスから白いドラゴンが現れて二人に襲いかかるがラクサスが割って入って盾になる。
「「ラクサス!!」」
「ぐおおっ!ド……ドラゴンスレイヤーをなめんじゃねえ!!雷竜の……顎!!」
「そこだ!」
「くっ!」
ラクサスは白竜をその身を省みずに受け止めると両手を振り上げてそのまま白竜を地面に叩きつけた。その間にエルザが炎真に斬りかかって防御した炎真は重力を解く。
戦力は明らかに向こうの方が上だが彼らはまた仲間内で揉めていたので一息つく……
「大丈夫?ラクサス」
「はぁっ……同じドラゴンでもクロッカスのドラゴンに比べりゃ大した事ねーよ」
「だが彼らの強さは尋常ではないな……これがツナの世界のマフィア達……」
「ああ……ツナはこんな奴らと過ごしてたのか……そりゃあ強くなるわな」
4人共明らかに自分達よりも強いがそれでも共通して思っていることがあった……それでもツナの方がさらに強いということだ。
そして彼らは協力する事を知らない……たとえ格上の相手であろうと恐怖はない。
「仲間がいれば恐怖はない!私達の想いは一つ!」
「ツナはぜってーに助け出す!」
「俺達は一人で戦ってるんじゃないからな!」
「それが私達……フェアリーテイル!!」
4人は再び巨大な敵へと立ち向かっていく。先頭に出たギルダーツが気合いをいれて叫ぶ。
「そろそろ俺も本気でいくぜ!!」
ギルダーツが魔力を高めていくと夢幻宮が揺れ始める。圧倒的ともいえる魔力にフェアリーテイルの3人は頼もしさを覚えるが敵の4人が感じたのは恐怖ではなく歓喜だった。
「ほう……カスにしてはやるじゃねえか」
「あれちょ~だい。僕がやるよ♪」
「何言ってるの?アレは僕の獲物だよ」
「はあ……僕が相手をしていたのに……もういいや、僕がまとめて片付ける!」
ギルダーツに呼応するように炎真の炎もどんどん強くなっていく……
「
放たれた炎が黒い穴に変化する。同時にその穴は少しずつ大きくなりフェアリーテイルの4人を吸い込みだした。
「うおおおっ!?」
「これって……ブラックホール!?」
「まずい!吸い込まれるぞ!!」
「くっ!こうきたか!……ならこっちも出し惜しみは無しだ!!」
ギルダーツは踏ん張るのをやめて自らブラックホールに飛び込むように接近する。ミラ達が驚愕する中、ギルダーツは不敵に笑う……
「破邪顕正・一天!!」
突き上げられた拳が何とブラックホールを粉々に破壊した。これにはさすが炎真も目を見開いて驚いていた。
「さすがはおっさん……」
「無茶するわね~」
「見事の一言だな……」
「あんまりフェアリーテイルをなめんなよ!マフィア共!!」
リリスは目の前の戦闘を眺めながら溜息を漏らす……呼び出した4人は強力だが連携がなってないどころか仲間割れすら起こす始末だ。
よくもまあこのアクの強いメンバーをまとめていたものだとツナに感心する。
「はあ……アルコバレーノや復讐者を呼べればとっくに決着してるはずなのに何故呼べないのかしらね……まあ時間はあるのだし……」
意識のないツナは今頃いい夢を見ているだろう。そして二度と目を覚ますことはないだろう……そして永遠に自分の物になるのだ。
「失ってしまった仲間達への想い……何よりも笹川京子に対する罪悪感を未だに持ち続けているから万が一にも目覚めないわね。でも安心して、あなたにはずっと幸せな夢を見せてあげる……何なのこれは!?」
うっとりとツナを見つめていたリリスだったが突如ツナの胸元から眩い黄色の炎が燃えあがっているのを見て驚愕する。
戦闘していた者達もその炎を見て動きを止めてツナに注目していた。
「黄色い炎……晴れの炎なのか!?」
「ツナがやってんのか!?」
「違うわ!ツナが使えるのは大空だけのはず……あれってお守り?」
「どうやらあのお守りを送った奴がツナを守ってるように見えるな……もしかして女か?」
ギルダーツの言葉にミラが過剰に反応するがそれどころではない。光輝く炎は少しずつ小さくなってやがて消えた……リリスは安堵するが次の光景に今度こそ信じられないように目を見開いた。
ツナの額から大空の炎が勢いよく燃え盛り、それを見たフェアリーテイルのメンバーは安心したように笑みを漏らす。そしてツナは閉じられた瞳を開く……その瞳は炎と同じオレンジに染まっていた。
「うおぉぉぉぉっ!!」
「そ……そんなバカな!!」
ツナの全身から発生した炎は拘束を溶かしてさらには炎真達も包み込む……そして4人のマフィア達は光となって消えていった。
「迷惑かけてゴメンね。それからありがとう」
ツナは仲間達の元へと移動してハイパーモードを解除すると笑顔でそう言った……仲間達もつられて笑顔を見せる。
「ツナにはいつも助けてもらってばかりだからな。たまにはこういうのもいいだろう」
「まっ、あんまり心配はしてなかったけどな」
「一番心配してたのは決まってるだろ?」
「…………」
ギルダーツの言葉に既にサタンソウルを解いて俯いているミラを見る。
「ミラ……」
「ツナ!良かった……私、もう、ツナが目覚めないんじゃないかって……心配で……」
「大丈夫……俺はここにいるよ」
泣きながら抱きついてくるミラを優しく抱きしめると慰めるように言葉を紡ぐ……その空気を壊すようにギルダーツが前を見たまま口を開いた。
「お二人さん、ラブシーンは後でゆっくりとやってくれ……お客さんがお待ちかねだ」
ミラは慌てて離れるとツナと共に前を見据える。そこにはリリスが呆然とした表情でこちらを見ていた……
「バカな……何故……何故抜け出す事ができた!?お前が失ったもう取り戻せない幸せな夢だったはずなのに!!」
リリスは激昂して言葉遣いまで崩れている。ツナは胸元にかけられているお守りを手にとって見つめた。
「確かに……お前の見せた夢の世界に俺は囚われた。失った仲間との幸せ……偽りとはいえ俺一人では抜け出せなかった。でも京子ちゃんがこのお守りに込めた想いが俺の背中を押してくれた……」
ミラは京子という名前に少々不安げにツナを見るがその視線に気づいたツナは安心させるように笑みを浮かべた。
「京子ちゃんへの想いは俺の大切な思い出なのは変わらない……でも京子ちゃんが俺に込めてくれた想いが俺に伝えたのは過去ではなく
そしてツナは一歩踏み出す……後ろにいる仲間達の存在を確かめながら……
「俺はこの仲間達と共に
今までにない輝きと強さを見せるツナに対して本当に嬉しそうに微笑むフェアリーテイル一同……反対にリリスはその美しい顔を歪めて苛立っている。
「おのれ!ならばお前を殺して魂だけでも奪ってやる!」
そしてリリスの体から黒い瘴気が溢れ出してその姿を覆っていく……。そしてその瘴気が晴れた後には先程まで人間のような姿形だったリリスは悪魔と呼ばれるに相応しい姿へと変貌していた。
「これが私の真の姿……エーテリアス・フォームだ!!そして私の能力は集めた魂の分だけ呪力を増す!!」
リリスの背後には無数の光の玉……おそらくアルビオンの人達の魂と呼べるものが具現化していた。
「あれがアルビオンの人達かっ……!!」
「アイツにエネルギーを取られてるんなら時間をかけられねえな!!」
「……待って!ここは俺一人で戦わせて」
「何を言ってるの!?ツナ!!」
ツナの言葉に反発するミラだがギルダーツはそれを支持する。
「いや……ツナの判断は正しい。普通に攻撃したんじゃあの魂達がどうなるか分からねぇ。だからこそ当時の町長はフェアリーテイルとボンゴレの2つの紋章を持つ者に助けを求めるように遺してたんだろう」
「なるほど……大空の調和か……」
「でも!」
尚も反対しようとするミラにツナはグローブとボックスそしてリングを差し出す。
「ミラ……これを持っててくれる?すぐに終わらせるから……」
己の武器を全て手渡されたミラは驚くがツナの笑顔に言葉を失ってそれらを大事そうに受け取る……エルザとラクサスはその行動の先にあるものを予測しているので安心しているようだ……
「ツナの奴……あれをやる気か……」
「結局あの時はスティングの降参で戦ったところは見てねえからな……楽しみだぜ」
ツナは目を閉じながら前へと歩いていく……思うのはフェアリーテイルの仲間達の顔……
-今までありがとう……ボンゴレのみんな……そして京子ちゃん……俺はフェアリーテイルと共に
「死ぬ気の到達点!!」
目を開いたツナは全身から大空の炎を噴き出した。新たな未来を歩む決意が大魔闘演武で見せたときよりも炎を遥かに力強くしていた。
「すごい……」
「これがツナの真の力か……」
ミラもギルダーツもただツナの美しい炎の輝きを呆然と眺めていた。
「あの時よりも遥かに力強い……心の在り方が変わったからか?」
「遠いな……けどこの炎を見ると燃えてきたぜ!」
エルザとラクサスも力強くなった炎の頼もしさを肌で感じていた。
「くっ……だからどうしたー!!」
ツナの圧力に思わず後ろに下がろうとしたリリスだが何とかこらえると十数個の呪力による黒い球体を精製して宙に浮かべる。
「ナイトメア・シューター!!」
その呪力による弾丸が一斉にツナへと向かってくるがツナは微動だにしない……
「無駄だ……」
呪力弾がツナに触れる前にツナの体から噴き上がる炎に一瞬で燃やされて消滅する。
「なっ!?……ならばこれはどうだ!?私の最大の奥義を受けてみよ!!」
リリスは両手を上げると呪力を集めて先程の球体とは比べ物にならないほどの大きな球体を作り出した。……この隙だらけの間にもツナは攻撃を仕掛けない。リリスはバカにされているような気がして怒りの表情でさらに呪力を込めていく……
観戦しているメンバー達はツナに何も言わない……ツナを信じているからだ。
「闇に沈め!デアボリック・エミッション!!」
巨大な球体がツナへと直撃し、ツナは闇にのまれてしまった。リリスは勝利を確信した。
「アハ……アハハハハッ!!やったわ!油断しているからそうなるのよ!!」
リリスの高笑いが響く中でそれでもミラ達は動かない。
「アハハハッ……はっ?」
ツナがいた場所を中心に大空の炎が竜巻となって吹き荒れる。リリスの闇を祓い、炎の中からツナがその姿を現した。あまりの光景にリリスは呆然とツナを見ている……
「終わりか?」
ツナはリリスを睨み付ける。そのオレンジの瞳にリリスは視線を外すことができない……
リリスは圧倒的ともいえるツナの力に恐怖を感じていた。そして、勝ち目がない事を理解してしまった……ならば……
「逃げるのが奥の手か?」
ツナの心を見透かしたような言葉にリリスは跳ねあがるように体を揺らす……ツナは当然その可能性を予想していた。百年程前にジョットからも同じように逃げ出したからだ。
「ふふっ、そ……それがどうしたの?あなたの寿命はせいぜい百年……それだけあればどんな封印をしても破れるわよ」
リリスの余裕の笑みにフェアリーテイルのメンバー達は焦るがツナは落ち着いていた……
「お前に逃げ場はない……」
リリスはツナの炎がツナの体から球状に広がっていく光景を目の当たりにした……
「
ツナの呟きと共に炎が床を、壁を、天井を、そして空間そのものを燃やしていくように広がっていく……当然ながらリリスも巻き込まれていく……リリスの魂さえも燃やすような熱にリリスの叫びが夢幻宮に響く。
「あぐっ……あ……熱い!!バ……バカな!この炎では貴様の仲間も……私の後ろの魂さえも燃やし尽くすぞ!!」
「そんな事する訳がないだろう……よく見ろ」
リリスが苦悶の表情で辺りを見渡すと同じように炎を受けているはずのフェアリーテイルのメンバー達は平然としている。振り返って街の人々の魂を見てもまるで何も感じていないようだ……
「わ……私だけを燃やす炎なのか!?ジョットと同じ事を!!」
「違う……言ったはずだ。お前に逃げ場はないと……俺が燃やすのはお前とこの夢幻宮そのものだ!!」
ツナの言葉にリリスは驚愕する。この夢幻宮を燃やされたら……
「この夢幻宮はお前の夢そのもの……俺達は肉体ごとお前の作る夢の中に迷いこんでいたんだ!」
「ここが奴の夢の中!?ならば逃げるというのは……」
「なるほどな、俺達を外に放り出して夢幻宮に引きこもるつもりだったんだろうな……」
「そっか……だからツナの御先祖様も封印しか出来なかったのね!」
ミラが納得したように手を叩く。それに頷くとさらに炎が強くなっていく……
「ぎゃああぁっ!!や……やめろ!!燃える……私の夢が燃えてしまう!やめてくれー!!」
おそらく炎は夢幻宮全体に広がっているのだろう。それは夢を力の源とするリリスの終焉を意味している。ツナはゆっくりとリリスに近づいていく……
「お前には感謝している。偽物とはいえみんなにもう一度会えた……だがそれ以上に怒りを感じる!みんなを……大切な人を利用したことは許さない!!」
「あ……ああ……」
「夢を弄ぶ悪魔リリス……返してもらうぞ!お前が奪った街の人々の魂を!!」
「や……やめてーーー!!!」
ツナは右拳に炎を集中するとリリスを全力で殴り飛ばした。吹き飛ばされたリリスはもはや指一本動かすことは出来なかった……
「わ……私が……冥王……マルド・ギールを……越えたはずなのに…………人間って……やっ……ぱり……す……ごい…………」
リリスが意識を失うと突如夢幻宮が光に包まれ全員目を閉じる……
そして目を開くとツナ達はアルビオン近くの森の中にいた。夢幻宮は完全に消え去ったようだ。
「外に出たのか?」
「そのようだな……あれは!?」
エルザが見つけたのは燃えている一冊の本……誰もがそれがリリスだと確信していた。そしてその本はそのままツナの炎で燃え尽きた……
「やっぱりゼレフ書の悪魔だったのね……」
「ゼレフか……天狼島に現れたんだったな」
いつか戦うことになるかもしれない相手だが、フェアリーテイルとの因縁がある相手だとはこの時点ではまだ知らなかった……
「どうやら街の人達は元に戻ったみたいだね」
街の方が騒がしくなっているのに気づいたツナは街の人々の魂が解放されたことにホッとする。
「とりあえず説明に行かねばな……国王にも報告して食料なども運んでもらわねばなるまい」
「10年も止まってたなんて信じるのかよ?」
「食料品も腐ったりしてるだろうし草木も伸びてるし何とか分かってもらえるとは思うぞ」
「街で通信ラクリマを借りてアルカディオスさんにでも連絡しましょう」
国王陛下からの依頼なので滞りなく食料や必需品などは供給されるだろうが元の生活に戻るのは大変だろう……だがそれでも街の人々は救うことができた。
「何はともあれ10年クエスト達成だね!」
「うんっ!」
「おお!」
「ああ!」
「よくやったぞ!お前ら!!」
フェアリーテイル最強メンバー達はクエスト達成の喜びに浸りながらアルビオンへと歩を進めるのだった。
「ねえ……ツナ、今度京子ちゃんって子の事聞かせてね」
「そうだね……ミラにはちゃんと話すよ」
「ルーシィとウェンディにもね」
「分かってるよ」
「でも急ぐ必要はないわよ。これからも私達は共に歩んでいくんだから……」
「ありがとう……ミラ……」
何とか10年クエスト完結!いや~アイディアが浮かばなくて時間かかりました!ツナがこの世界で生きる決意を固めるシリーズでした。