-夢幻宮
リリスがツナの記憶より呼び出した4人の戦士……古里炎真、ザンザス、雲雀恭弥、白蘭はツナの世界のマフィアの中でも上位に位置する者達だ。
ツナの記憶を覗いたリリスはこの4人の強さに絶対の自信を持っていた。本来なら誰かの下で戦うのを良しとしない者もいるが彼女の呪法によって生み出された彼らはリリスの命令に従ってフェアリーテイルに襲いかかる。
「さあ!行きなさい!」
リリスは高らかに宣言した。
「お前本当にマフィアか?ツナより似合わねえぞ」
「あなたには関係ない……けどツナ君の敵なら僕が倒す!」
「敵じゃねえんだけどな……と言っても無駄だよな……」
ギルダーツと対峙しているのは古里炎真……炎真はツナのように額に炎を灯す。ツナの炎とは大分形が違うが凄い力を秘めているのが感じられる。
それもそのはず戦闘技術はさておきこの中で炎の出力が最も強いのは古里炎真に他ならない……かつて白蘭を倒したオリジナルのボンゴレリングを持ったツナですらも1度は敗れたのだ……
「
「ぬおおおっ!?」
球状に放たれた炎がギルダーツの足下へ着弾するが熱は感じない……しかし突如自分の体重が何十倍にもなったように球体に引き寄せられ地面に押し潰されてしまう。
「な……なんつー力だ!天狼島で戦った奴よりも遥かに強い……!」
かつて戦ったブルーノートを思い出すが彼よりもずっと年下の青年がこれほどの力を持ってるとは思わなかった……
-ツナはこんな奴らと戦ってたのかよ!?どうりであの歳であんなに強えわけだ……けどよ-
ギルダーツは腕に魔力を込めるとクラッシュで炎真が作り出した球状の炎を破壊する。それでも炎の力は強くて完全には破壊できなかった。
多少軽くなった重力に抗いながらギルダーツは立ち上がって笑う。
「そう簡単に沈む訳にはいかねえんだよ、大人としてな!!」
「こっちも本気でいくよ」
ザンザスはラクサスと睨みあっていた。初対面の二人だがお互い何故か気に入らないようだ。
「ちっ!ドカスが……」
「ああん?随分とガラの悪い奴だな?」
「てめえ……カッ消すぞ」
「やってみろよ……」
ザンザスは銃を抜き、ラクサスは全身に雷を纏う。先に動いたのはザンザスだった。
「消えろ!ドカス!
「雷竜の……咆哮!!」
ザンザスの2丁拳銃からレーザーのように炎が発射されラクサスを襲うがラクサスが口から吐いた咆哮によって相殺される。
「チッ!ドカスにしてはやるじゃねえか」
「ふん……ツナよりも全然弱いじゃねえか」
ザンザスの頭からブチッと何かが切れるような音が聞こえたような気がした。それと同時にザンザスの顔に傷が現れる……
「顔に傷痕が……?」
「カッ消す!!」
ザンザスは禁句に触れられ、独立暗殺部隊ヴァリアーの本性を剥き出しにしてラクサスに襲いかかってきた。
「君……おもしろいね」
エルザが鎧と剣を換装する度に戦い方が変化するのでバトルマニアの雲雀は戦闘中にも関わらず賞賛の声を漏らす。
だがエルザにはそれに応える余裕もない。トンファーから繰り出される連撃はそれに伴う紫色の炎と相まってエルザを追い詰める。
「くっ!くらえ!天輪・
「ロール、防御だよ」
その瞬間をエルザは見た。雲雀のブレスレットから飛び出した紫の炎を纏ったハリネズミが一瞬で5匹に増えて五閃の剣撃をガードしていた。
「この紫色の炎は……確か雲の炎で炎の特徴は増殖だったか?」
「彼から聞いたのかい?まあいいや……精一杯僕を楽しませてね」
さらに勢いを増していく雲雀の炎に威圧されながらもエルザは剣を構える……
ミラは白蘭の人をくったような態度に苛ついていた。あまりマフィアっぽくは見えないしニコニコ笑っているがこちらを通すつもりはないらしい。
「そこをどいてちょうだい。私はツナを助けなきゃいけないの」
「う~ん……そうだね……やっぱりダメ♪綱吉君は君には渡さないよ」
「ならあなたを倒してツナを助けるわ」
「怖いなあ~でも無駄なことは止めたら?君じゃあ僕には勝てないよ♪」
「やってみなくちゃ分からないわ!ソウルイクスティンクター!!」
不意討ち気味の攻撃に動きを見せない白蘭に向けて魔力光線を放ったミラは勝利を確信していた。白蘭は掌に炎を集中するとニッコリと嗤う……
「白拍手」
だがミラの放った光線は白蘭の拍手一つで霧散して消えてしまった……そして白蘭の炎を見て驚愕する。
「大空属性の炎!?」
「そ♪綱吉君と同じ大空の調和の炎だよ……さてミラちゃんだっけ?今度はマジだよ?」
白蘭は背中から羽を生やすと空へ浮かび上がってミラを見下ろしながらそう告げる……ミラは恐怖を感じながらも白蘭に向き合うのだった……
リリスは戦況を見守りながら意識のないツナへと視線を向ける……
「この子もジョットと同じ異世界から来たなんて思わなかったけど……仲間と離れて淋しい思いをしてるのね。だからこそ私の夢からは抜け出せないわ」
リリスは口の端を持ち上げて妖艶に微笑む……
「失った幸せというものは麻薬よりも強力よ……あなたはこのまま永遠に楽園の夢を見続けなさい」
リリスの言うようにツナの精神は夢の中でかつての世界にいた……
ツナは執務室の椅子に座りながら勢揃いしている守護者達の報告を受けている。ボンゴレを継いで既に3年……自分の無茶な目標に付き合ってくれる何よりも大切な仲間達だ……
「……以上のようにカルカッサとの講和が完了しました。雲のアルコバレーノ、スカルの説得も大きかったですが何よりも十代目の誠意が伝わったのだと思います」
嵐の守護者……獄寺隼人がそう締め括る。
「ありがとう隼人……武、ヴァリアーからの報告は?」
「ああ、スクアーロから連絡があって麻薬取引、人体実験をしていた新興のファミリーはボスを始め幹部連中も全て捕らえたみたいだぜ。まとめて
雨の守護者……山本武はツナの質問に答える。
「そうか……バミューダにも一言言っておくべきかな?骸、クロームも潜入お疲れ様」
「やれやれ……僕に始末をさせて欲しかったのですがね……」
「骸様……ボスの考えを尊重してるのに……」
「黙りなさい」
霧の守護者の二人……六道骸とクローム髑髏の二人は証拠集めの為にそのファミリーへ潜入していた。
ボンゴレを自警団に戻すという目標の為にはあまり力で押さえつけるようなやり方では反発を生むだけだ。マフィア界の法をきっちりと整備して証拠を突き付け復讐者に送った方が後腐れない。
「おかげで最近は退屈してるんだけど?こっちのファミリーはどうするの?証拠を上手く隠してるけど完全に黒だよ」
席につかず壁に寄りかかっていた雲の守護者……雲雀恭弥がそう問いかける。
「確かに俺は9代目以上の穏健派なんて言われてるけどここまでされて黙ってる訳じゃないよ」
「……あの小動物が今や穏やかな笑みの裏に獰猛な肉食動物を飼ってるなんてね」
ツナの微笑みの裏に隠されている闘志を垣間見た雲雀は嬉しそうに笑っている。
そこに割り込むのはこの会議の場に似つかわしくない子供の声。雷の守護者……ランボが少々怒ったような声でツナに物申す。
「ツナ!次の戦闘がある時は俺に任せろ~!」
ツナはランボを戦闘には出したがらない……ランボは現在8歳。確かに炎の質、量共に年々増しているがまだ戦闘技術は甘い所が多い……ランボの副官であるイーピンの方が技術的には上だ。
「イーピンも同じ意見なんだぞ!俺達だって強くなっているんだぞ!」
「まだ二人には早いよ……」
「アホ牛!十代目のお気持ちも考えろ!!」
「だって……」
ランボは涙を溜めながら尚もツナに懇願する。
「俺達にだって分かるよ……ツナが大変な思いをしてるのは……でも……俺が大人になってからじゃもう遅いって……」
「ランボ……」
「うちのボスだってツナの力になってやりなさいって言ってる……俺はツナの守護者だぞ!今力にならないでどうするんだよ!?」
「うむ!それでこそ男だ!沢田!俺が極限にランボとイーピンの面倒を見る。それならいいだろう?」
晴れの守護者……笹川了平がランボを援護するように口を開く。
「了平さん……分かったよランボ。でも絶対に無理はしないこと、怪我をしたらすぐに了平さんに治してもらうんだよ」
「分かった。俺に任せろ~!ランボさんは最強だもんね!!」
さっきまで泣いていたのにランボはおどけたようにかつての口癖を口にするランボの頭を撫でるツナ……その時自分の知らない光景が頭に浮かんだ。こうやって誰かの頭を撫でた記憶……顔を赤くして俯く青髪の女の子。名前は……
「痛ぅっ!!」
そこまで考えたツナは突然の頭痛に顔をしかめる。
「大丈夫ですか!?十代目!!」
「ツナ!?」
「平気……ちょっと頭痛がしただけだから」
「今日はもう休め沢田!ちょうど日本から京子も来ているしな!!」
「えっ!?何で!?」
「あまり婚約者を放っておくものではありませんよ」
骸が溜め息をつきながら嗜めるように口を出したがその内容にツナは混乱する……
「婚約者……?」
「うむ!極限に京子を任せられるのは沢田だけだからな!!」
-俺と京子ちゃんが婚約?そんなバカな……だって俺達はもう終わったはず……-
「うっ!また……」
再び頭痛がするとさっきまでの疑問は跡形もなくなっていた……確かに忙しいけど婚約者を放っておきすぎるのも問題だと思い直した。
「ツナ君!!」
京子が待つ部屋へと急いだツナは久し振りに会う彼女の姿に見蕩れていた。中学時代よりも伸びた茶色の髪……だがそれよりも明るい金色の髪の少女の姿が重なる……
-また頭に痛みが……それに何か頭の中にノイズが走ってるみたいに……-
「どうしたのツナ君?」
顔を歪めたツナの顔を京子は下から覗きこんで来る。慌てて何でもないと首を振って豪華なソファーに並んで座る。
「本当に久し振りだね!」
「ゴメンね……俺が忙しいせいで……」
「ううん。ツナ君がしてるのは大事な事って分かってるよ!ちょっと淋しいけどこうして一緒にいられるし……」
京子はそこまで言うと顔を俯かせツナの腕にしがみつくように抱きついてくる。
-京子ちゃんがこんなにも甘えてくるのは珍しいな?アレ、じゃあ腕を良く絡めてくるのは……?-
最近すぐに腕を組んでくる女性が身近にいたはずと思うが頭の痛みに再び思考を停止する。
「あ、このお守りまだ持ってたの?」
その時、京子がツナの首にかかっていたお守りを手に取る。手に取ったお守りをツナから奪い取るように取り外した。
「もうコレいらないよね?私がずっと側にいるから」
「えっ!?いや、それは持っておきたいよ!」
「これはダメだよ!私が預かっておくから!」
「京子ちゃん……?」
そのままお守りを床へと投げ捨てる。あまりにも不審な京子の態度に首を傾げるツナの頭の中に声が響く……
『ツナを返して!!』
「くっ!誰の声……?また頭がっ……どうなってるんだ!?」
「気にしちゃダメだよツナ君。それよりも……」
京子は着ていた服を全て脱ぎ去った。美しい裸体を隠そうともせずにツナをソファーへと押し倒す。何度か体を重ねた関係だがこうも積極的な彼女は初めて見る……
「ねえツナ君……私はツナ君に何でもしてあげるし何をされてもいいよ……だからここにずっと一緒にいよう?」
京子の甘い声と香りに意識がクラクラするツナ……京子の唇がツナの唇に触れようとした時、床に捨てられたお守りから黄色い晴れの炎が噴き出した。
「何これ!?」
驚く京子を余所にツナはお守りへと手を伸ばす……京子は慌ててツナを止めようとするが遅く、ツナはお守りを手に取った。
「ツナ君!それを放して!!」
「これは……この暖かさは……」
ツナはその暖かさに覚えがあった……それはかつて自ら手放したはずの太陽の様なぬくもり……そう、それは笹川京子の暖かさそのものだった。
その暖かさがツナの記憶を呼び覚ます……虹の代理戦争からしばらくしてツナは京子と正式に付き合い始めた……ハルにも自分の気持ちを伝えると泣きながらも二人を祝福してくれた。
マフィアのボスとしての道を歩き始めたツナだったが時間を見つけては京子と二人の時間を過ごしてお互いの愛を深めていった……
付き合い始めて3年後……京子が夏休みを利用してイタリアに来た時に事件は起きた……さすがに一人でイタリアを出歩かせる訳にはいかないのでツナや守護者がいない時はボンゴレ本部に護衛をつけて出歩かないように言いつけていた。
ツナやリボーン、守護者達が全員出席のパーティに出席している時に嫌な予感を感じたツナはリボーンのみを連れて本部に戻った。
そこで聞いたのは京子が人質に取られたということ。犯人は護衛に付いていた一人……その男はボンゴレが規模を縮小して自警団になるのを望まない者だった。本部の一室に立て籠り9代目の説得にも耳を貸さない……
犯人が立て籠っている部屋に飛び込んだツナが見たのは取り押さえられる男と背中にナイフで深い傷を刻まれた血の海に沈む京子の姿……
男が何か喚いていたがその雑音を無視して殴り飛ばすとツナは京子を抱えて医務室へと全力で運んだ。幸いにも医務室にいたシャマルの高い医療技術と帰ってきた了平の治療で傷は跡形も残らなかったがツナの心に大きな傷を残す事になった……
そしてその事件はツナに2つの大きな現実を突きつける結果になった。
1つは自分のやろうとしている事は特に身内に少なくない敵を作るということ。そしてもう1つは……
「リボーン……マフィアのボスの恋人は一般人とカウントされないんだな……」
「ツナ……」
ベッドで眠る京子を見守りながら隣にいるリボーンに呟く。この件に復讐者達は介入しなかった……それは京子を一般人認定していないのと同義だった。だからこそ犯人の男も行動に移したのだろう。
京子を守るはずの最大の防波堤が機能しない事でツナは1つの決心をする。
「ツナ……おめえが今何を考えているかは分かるつもりだ……けどな、本当にそれでいいのか?」
「……無理があったんだ。俺が行くのは血塗られた道だ。だから……京子ちゃんとはお別れだ……」
ツナは京子からもらったお守りを取り外すとそれを見つめる……幾多の戦いの中で自分に勇気を与えてくれたことに感謝しながら京子の枕元にそれをそっと置いた。
「リボーン……京子ちゃんの目が覚めたら並盛まで護衛してくれ」
「分かったぞ……」
ツナは京子の顔を見つめる……
「……さよなら」
名残惜しそうにしばらく見つめていたがやがて別れの言葉を残して踵を返して病室から出て行った。扉が閉まる時、京子が一筋の涙を流したことに気づかないまま……
「はあ……いつまでたってもダメツナだな」
「違うよ。ツナ君は優しすぎるだけだよ」
京子は目を開くと体を起こしてリボーンに笑いかける。だがその笑顔は悲しげだ……枕元に置かれたお守りをじっと見つめるとリボーンに懇願する。
「リボーン君……お願いがあるの」
その後京子はリボーンに連れられて並盛へと帰った。守護者達に伝えた時には了平に一発殴られ、その後に泣きながら謝罪とお礼を言われた……
並盛から帰ってきたリボーンから再び預かってきたとお守りを返された。受け取るつもりはなかったが受け取らなきゃ捨てるように言われた為に再び首にかけている。
そして今に至るまで京子とは会っていない……
光輝く晴れの炎を見つめながら過去に想いを馳せていたツナがふと気づくとボンゴレ本部の一室だったはずなのに何もない真っ白な空間に変わっていた。京子の姿もない……
するとお守りが浮き上がり光を放ちながら人の形を為していく……それは京子の姿になった。
「リボーン君に無理を言ってね、私の炎をお守りに封印していたの……私もお兄ちゃんと同じ晴れの属性だったから……ツナ君が怪我した時に助けになれるようにね」
「京子ちゃん……」
「ここはね、ツナ君の夢の中なんだよ。だから炎に込めた私の想いが具現化したみたい」
「夢の中……そうか、俺はリリスに……」
「外ではツナ君のお友達がツナ君を取り返そうと必死に戦ってるみたい。さっきも声が聞こえたでしょう?」
どうやらさっき自分を返してと聞こえたのは外で戦ってるミラの声だったらしい……
「じゃあ早く行かないと……ゴメンね京子ちゃん」
「何を謝るの?」
「君を巻き込んだ事……君に傷を負わせた事……一方的に別れた事……全て終わった後に会いに行かなかった事……数え出したらきりがないね……」
「それは直接言って欲しかったな……でもツナ君は今大切な人達がいるでしょう?」
そう言われてツナは仲間達の顔を思い浮かべる……自分に好意を持ってくれるミラ、ルーシィ、ウェンディ……そしてナツ達フェアリーテイルみんなの顔を……
「だから……自分を許してあげて。過去よりも今を大事にして。そんなツナ君を私はずっと……ず~っと応援してるから!」
「ありがとう……京子ちゃん……」
ツナの瞳から涙が溢れる……京子も泣きながらツナに抱きついてきた。その体が少しずつ薄くなっていく……
「今度こそお別れだね……ありがとうツナ君……私、ツナ君と一緒に居れて幸せだったよ!……さよなら」
「俺もだよ。本当に……本当にありがとう京子ちゃん……さよなら」
京子の姿が消えるとそこには力を失ったお守りが残された……そのお守りを大事に首にかけると京子の言葉を思い出す……
過去よりも現在、ボンゴレよりもフェアリーテイル、京子よりも今自分を想ってくれる人……それは過去への決別だった。
「本当にありがとう京子ちゃん……俺は……この世界の仲間と共に生きる!待っててみんな!!」
ツナが決意を新たにするとツナの額と掌から凄まじい勢いで炎が噴き出した。それは現在、そして未来を生きる覚悟の炎……そして周りの空間はひび割れたように崩壊していき、ツナの姿が消えていった……
次回は10年クエスト完結編です!