-クロッカス
「どうだ?ウルティア?」
「どうやらこの時空の歪みも治まりつつあるようね」
「ふう……良かったね」
ジェラール、ウルティア、メルディが何をしていたかというとエクリプスの使用によって発生した時空の歪みというべきものがこの世界に悪影響を及ぼさないかどうかの確認をしていたのだった。
「とりあえず調査はおしまいにしましょう」
「それにしても随分と壊れたな……てっきり壊れた家屋も元に戻るかと思ったんだが……」
「私もそう思ってたけどね……知識だけでは分からないってことね」
「ん?って!あれ評議員じゃない!」
「あいつは……」
こちらへ歩いて来た評議員の男はジェラールには見覚えがある男だった……
-Bチーム宿
「忘れ物ないね?じゃあ全部ボックスに仕舞うよ?」
「お願いね、ツナ」
「相変わらず便利な道具だな」
全ての予定を消化して帰る準備を整えたBチームのメンバー達は荷物をまとめてツナのボックスにしまうと宿を引き払った。
「そういえばヒスイ姫は合流しないのかしら?」
「Aチームと一緒に行くらしいな」
「ルーシィと同じ星霊魔導士だから仲良くなったんだろうね」
「グレイ様と一緒に……まさか恋敵!?」
「いかれてるぜ……」
「ラクサス~!馬車の準備が出来たぞ!」
宿を出て会話を楽しんでいたBチームの面々はフリードの声に振り返ると二台の馬車が用意してあった。大きくて乗り心地よさそうだ。何でもダートンがせめてものお詫びにと手配してくれたらしいが……
「馬車かよ……」
「くそっ!サラマンダーと同じになっちまうなんて!」
「そっか、二人も乗り物ダメなのよね……」
ラクサスは雷神衆と馬車に乗ったので残った四人とリリーはもう一つの馬車に乗った。
「うぷ……お……お……」
「ガジル君大丈夫ですか?」
隣に座っているガジルを心配するジュビアだがガジルはまともに返事すらできない……
「
「う~ん……これならどうかな?」
ツナは人差し指をガジルの額に当てて炎とも言えないような小さな炎を灯した。
「おぷっ……ん?おおっ!どうなってんだ!?急に気分が良くなったぞ!?」
「ツナの炎の力なの?」
「うん。大空の炎の属性は調和だからね。使い方に寄ってはこんな事もできるんだよ」
「そういえばカグラさんの時も似たような事をしてましたね」
「ギヒッ!助かったぜ……」
「ガジルが迷惑をかけてすまないな」
ガジルが復活したことにより馬車の中は活気づいてにわかに騒がしくなったが楽しい道中となった。
「そういえばツナ王様に何か貰ってなかった?」
「ん?ああ……王立図書館の使用許可証だよ。今回の件のお礼にって貰ったんだ」
「何でそんなもん貰ったんだよ?」
「エクリプスのような時間を行き来するような魔法があるんだから元の世界に戻るような魔法もあるかもしれないと思ってね……可能性は薄いけどね」
ツナの言葉に馬車の中には沈黙が訪れる……ジュビアは対面に座るミラが今にも泣き出しそうになっているのを見て顔を伏せた。
「ツナは……その魔法が見つかったら元の世界に帰るのよね?」
「……分からない」
「えっ?」
全員が驚いてツナを見る……当然ツナは帰ると思っていたからだ。ツナは自分の胸中を語り出す……
「俺は最初はマフィアのボスになんてなりたくなかった……でもその途中で色々な出会いや戦いがあって仲間と共に歩む内に逃れられない事を知って覚悟を決めて自分自身で選んだつもりだった……」
ツナの独白をみんなが口を挟まずに聞く……今のツナはとても弱々しく見えた。
「もちろんかつての仲間達には会いたいけど……でもこの世界に来てみんなと出会って俺は本当にやりたい事を見つけられるかもしれないと思ったんだ」
ツナがボンゴレを解体した後に仲間と別れてでも旅に出たのは誰かに決められたものではない自分だけの道を見つける為だった……
だがあちらの世界ではどこにいても元ボンゴレデーチモという肩書きは付いて回る。
「ははっ……ちょっとしんみりしちゃったね。まあ俺の勘では元の世界に帰る魔法なんて見つからないと思うけどね……」
「ツナ……みんな同じよ。誰だって自分の道を探してる。だからみんなで探しましょう。私達は家族なんだから」
「ありがとう……ミラ」
ツナの手を優しく包みながら言うミラにツナは笑顔で応える。
「全く……仮にもフェアリーテイル最強の男が女々しいこと言ってんじゃねえよ」
「ちょっ!ガジル君!」
「お前は少しは空気を読め!」
「るせっ!」
「ガジルは自分の道に迷ったことはないの?」
「あん?俺の道は俺の後にできるんだよ」
「そんなこと言って……ジュビアはフェアリーテイルに入った時ガジル君がマスターから言われた事知ってるんですよ?」
「んなっ!?ジュビア!てめえ……」
「えっ?何を言われたの?」
「ミラさんそれがですね……」
「だあぁっ!ジュビア!余計な事を言うんじゃねえぞ!!」
「ふふふっ……」
現在の大切な仲間達との一時はツナにとって何よりも大切なものだと再認識してツナは笑みを深めるのだった……
「評議員達の記憶を消した?」
「ああ。今回の件が表沙汰になれば国家転覆の危機だからな……王室がゼレフ書の黒魔術を使用したなんてシャレになんねーからな」
ジェラール達の前に現れたドランバルトがラハール以下評議員の部隊達からエクリプスとそれに伴うドラゴンの襲来の記憶を消して別の記憶を植え付けたことを報告する。
「まあ死人がでなかったから出来たことだけどな……それで?お尋ね者のお前達は何でまだここにいるんだ?」
「エクリプスの使用によって時空間に歪みが発生してたの。それを調査してたのよ」
「おいおい……それって大丈夫なのかよ」
「とりあえずは問題ないみたいだよ」
「そうか……ならいい。今回は見逃してやるから感謝しろよ。貸し一つだからな」
「ああ。何かあればいつでも言ってくれ」
「じゃあな」
ドランバルトはそう言って去って行った。一応貸しを返す時の為に通信手段も用意した。
「それじゃあ私達も行きましょう」
「とりあえず任務完了だね!」
「ああ……フェアリーテイルには感謝しなくてはな」
「そうね……彼らは今頃何をしてるのかしらね?」
「きっと優勝記念に大騒ぎしてるんじゃないかな?」
ジェラール達はフェアリーテイルのギルドがあるマグノリアの方角を見ながら笑みを浮かべていた。
-マグノリア
ばらばらに帰ったフェアリーテイルのメンバー達は街の外で一旦集まって全員揃って街の門をくぐった。
そして彼らが見たのは街中の人々が大通りの両側に並んでフェアリーテイルを迎えている光景だった。音楽や拍手の音が割れんばかりに鳴り響きメンバー達は感動してその通りをマスターを先頭に凱旋している。
「すごいね……街中の人が全部集まってるんじゃない?」
「こんなにたくさんの人が応援してくれてたのね」
「俺達が優勝したぞ~!!」
「あいー!!」
「皆さん応援ありがとうございます」
「今日は祝い酒よ~!!」
「カナ……いい加減に飲むのやめろよ」
喜びに溢れるフェアリーテイルメンバー達……新たに加わったヒスイ姫も初めて訪れる街に興味津々といった感じだ。
「皆さん街の人々に愛されているのですね」
「ちょっと前までは低迷してたんだけどね」
ルーシィが苦笑いしながらヒスイ姫に答える。幼い頃からのフェアリーテイルメンバー達は街の人々に声をかけられていた。
「エルザさん!伏魔殿感動しました!」
「いや!ミネルバ戦だろ!」
「少々照れるな……」
「ミラちゃ~ん!グラビア対決凄く綺麗だったよ!」
「は~い!ありがとう!」
「やっぱりラクサスは強えな!!」
「フン……」
「ナツ!お前のバトル、すっげー燃えたぜ!」
「おおよ!」
「ルーシィよくやったね!でも家賃は別!」
「大家さんってば……」
ツナはその様子を笑顔で見つめていた。ギルドと街の人々との絆……それは自警団としてのボンゴレ創設時にジョットが願ったことと似ているような気がした。
「みんな大人気だね」
「あら~一番人気を忘れてない?」
いつの間にか隣に来ていたミラが満面の笑顔でそう言うので周りを見ると人々の視線がツナへと集中していた。
「おい見ろよ!」
「ツナヨシ・サワダだ!」
「フェアリーテイルの新しい最強!」
「聖十のジュラも倒したんだよな!?」
「MPFもぶっ壊したぜ!」
「ルーシィを助けた時が凄かったわ!」
「あのカグラも倒したのよ!!」
「実物は凄くカッコいいわ!!」
向けられる称賛に少し恥ずかしくなりながらも笑顔を見せるツナに街の女性達は黄色い歓声で応える。
「すごい人気ですね……ツナさん」
「ほんとよね~ツナ」
「ここまでとは思ってなかったわ、ツナ」
ジトーっと音がするような視線を向けてくる3人の女性から目をそらすと前方でナツがロメオを肩車しながら優勝の証である国王杯を掲げているところだった。
「ん?何で
「兜を脱いだってことじゃないでしょうか?」
「調子のいい奴ら……」
グレイとジュビアの会話が聞こえてきて前方を見ると確かにトワイライトオウガのメンバーが市長の近くで祝っていた。特にマスターはこの凱旋式を企画したのか司会のようなことまでしている。
「まあまあ一緒にドラゴンと戦った仲じゃない」
「そうだけどよ~ツナ兄、なんか納得いかねーよ」
「小さい男だね。ちょっとはツナヨシを見習ったらどうだい」
「う……分かったよ」
「はは……」
ポーリュシカのキツい一言で縮こまるロメオに苦笑いするツナ……その時トワイライトオウガのマスターがマグノリア町長よりフェアリーテイルに記念品の贈呈があると発表がありマカロフが照れながら前へと進み出た。
「記念品とな?そんな気を使わんでも……」
言葉とは裏腹に顔はニヤけていて嬉しそうだ。
「コホン……フェアリーテイルの皆様こちらへどうぞ」
そして町長が指し示す先を見てフェアリーテイルメンバー達は驚愕と喜びに包まれた。
「フェアリーテイルは我が街の誉れであります。よってギルドを修繕して贈呈したいと思います」
そこにはかつて借金のカタに手放した大きなギルドが完全に修復され、紋章を刻んだ旗も新しくなって悠然と佇んでいた。
「ギルドが元通りだー!!」
「あいさー!!」
「素敵なギルドですね!」
「姫を迎えるならやっぱりこっちのギルドじゃないとね」
「私は前のギルドというのも気になりますが……ツナ、これからはヒスイと呼んでください。これからは私もフェアリーテイルの一員なのですから」
「分かったよ。ヒスイ……これでいいかな?」
「はい!!」
「「「あやしい……」」」
「ええっ!?」
「なんてね!よろしくねヒスイ!」
「よろしくお願いしますヒスイさん!」
「ヒスイ、たまにはウエイトレスもしてくれると嬉しいわね」
「はい!」
ツナは上手く馴染めそうで良かったと思いながら号泣しているマカロフを見る。
「ワシはこの街が大好きじゃあ~!!」
涙と鼻水にまみれた顔で叫ぶマカロフに街中が笑顔になるがツナはふと明後日の方向に顔を向ける。
「どうしたのツナ?」
「いや……気のせいかな」
ミラの問いに答えながらもツナの視線はその方向を見続けていた……
-マグノリア近郊の森
森の中では黒い服に身を包んだ黒髪の少年がメイビスの幽体と睨み合っていた。彼の名は黒魔導士ゼレフ……彼は大魔闘演武の頃から使い魔を通してフェアリーテイルを見ていた。
それはレイブンテイルのオーブラの肩にいたあの使い魔だった。ゼレフは命を尊く思うほど周りの命を奪ってしまう呪いに犯されて不老不死である。
かつては自分の死に場所を探していたが既に人類に絶望してこの世界を滅ぼすことを決めてしまった。そして姿も見えず声も聞こえないはずのメイビスの存在を確かに感じ取っており交わせないはずの会話を交わしていた。
そしてゼレフはメイビスに宣戦布告する。メイビスはフェアリーテイルを信じてそれを受け入れる。
「君が期待しているのは彼かい?」
「ええ……あなたも見ていたでしょう?」
「確かにね……彼は紛れもなく大空だ。しかしジョットでさえもなし得なかった事をできるかな?」
「私は彼を……ツナを信じます」
「フフ……ではその時を楽しみに待つとしよう……彼が勝つか人類が滅びるか……」
ゼレフが去った後もメイビスはその場を動かずにただ悲しみに顔を伏せながら涙を流した……
「ツナ……お願いします。どうか彼を……」
その先は言葉にならなかった……
-???
エクリプスによる時空の歪みは思わぬ所に影響を与えていた……暗闇の中で3人の男が話し合っていた。
「間違いねえのか?」
「確かだよ……ほんの僅かに反応したんだけど座標の確定は困難だ」
「何でだよ!?」
「平行世界の括りの中には彼がいないのは確認済だ……残る可能性は異世界しかない。そうなると平行世界を覗けるあの人でも手の打ちようがないらしい……」
「何とかなんねーのかよ!?反応を感じたってことはあの人が炎を最大限に使うほどの状況にあるってことじゃねえか!!」
「どんなに上手くいっても座標の確認だけで最低でも一年以上はかかる……さらには行く方法も呼び戻す方法もないんだからね……」
「くっ!どうすれば……」
「とにかく何とか座標を割り出してくれ。方法を考えるのは後回しだ」
「分かったよ」
「頼むぜ……」
「ダメツナが……」
竜王祭編終了です。最後に出てきた3人はあえて名前を出してませんがおそらく分かると思います。
次回からしばらくオリジナルの話が続きます。よろしくお願いします。