もう一人の未来人
-バトルフィールド
大魔闘演武はフェアリーテイルの優勝で幕を閉じた……しかし観客達は未だに帰宅しようとせずにフェアリーテイルを讃えていた。
『初日のブーイングからは考えられないフェアリーテイルコールが未だに鳴りやみません!!かつての最強ギルド完全復活です!!』
『おめでとうマー坊……フェアリーテイル!』
『すごいカボ!最終日無敗なんて!』
『それとMVPは……フェアリーテイルのツナヨシ・サワダに決定しました!!初日のジュラとのバトルの勝利!MPFへの強烈な一撃!そして最終日の活躍が評価されました!!』
その発表にまたしても観客席から大歓声が上がった。観客達も予想通りといった感じで祝福している。
『……でもどっかに行っちゃったんだよな』
『城の方角だったカボ……(さっきからの呼び出しと何か関係あるカボ?)』
大会が終わったことで決勝を戦ったギルドは優勝したフェアリーテイルに惜しみない賞賛を贈っていた。
「やれやれ……分かっていた事だが強かったな……」
「あっさり負けちゃってゴメンね」
「まあシェリアは相手が悪かったからのう……それにしても見事じゃな……」
「大丈夫?カグラちゃん?」
「ああ。問題ない……フェアリーテイルか……よいギルドだな……」
「フェアリーテイルの諸君。優勝おめでとう」
「「「おめでとう!!」」」
フェアリーテイルの戦いぶりはセイバートゥースにも良い意味で影響を与えていた。
「フェアリーテイルすごい!」
「そうだな……フロッシュ、俺は彼らのように仲間を大切にできる男になりたい……」
「フローもそう思う」
「我々も変わらなければいけない……」
「そうだな」
ローグとフロッシュの元へルーファスとオルガがやって来た。二人とも怪我をしているがその顔には笑顔を見せている……
「記憶とはすなわち学習……偉大な敵に学ぶことは恥ではない」
「やっぱ新しいマスターのスティングは頼りねぇ……俺達も盛り上げていかねぇとな」
「ああ……レクターも無事だったようだし俺達も前へ進もう……仲間と共に」
「フローもがんばる」
この日よりセイバートゥースはギルドとしての新たな一歩を踏み出したのだった……
一方ツナが飛び去った後に残されたフェアリーテイルの4人は顔を見合せながら話し合いをしていた。
「あの野郎……作戦はどーすんだよ?」
「元々ツナが考えた作戦だけどな」
「だからこそその作戦を放棄してまで城へ向かったということは……」
「ナツ達に何かあったのを直感で感じたのかもな……どっちにしろマズイ状況じゃねえのか?」
「あの……さ」
難しい顔をしていた4人に遠慮がちにスティングが声をかける。
「何でナツさん出なかったの?あとツナヨシさんはどこに……?」
「何かあったんですか?二人に……」
その質問に答えることはできずに4人は城の方へ意識を向ける。全員が無事であるように願いながら……
華灯宮メルクリアス 下層
「取り囲め!!」
「一人も逃がすなよ!!」
ナツ達は通路を埋め尽くすほどの兵士達に囲まれながらも必死に抗い続けていた。
「くっそ!なんて数だ!!」
「きゃああああっ!!」
「ウェンディ!!」
餓狼騎士団のコスモスの食人植物に捕らえられたウェンディをリリーが大剣で植物を切り裂いて解放するが……
「しまった!体が……!」
リリーの魔力が戦闘モードを維持出来なくなるほど少なくなり元の小さな体に戻ってしまう……
「くっ!このままじゃ押しきられるよ!」
ロキはレグルスの光で敵を退けながら叫ぶが倒れた兵士達の後ろからさらに兵士達が押し寄せて来る。
「もうっ!しつこいわね!!」
「どうすれば……」
「諦めよ!罪人よ!!」
「もう終わりよ!!」
「ふざけんなぁっ!!」
カマとカミカの声に反応したナツが右手に大きな炎を宿して思いっきり叩きつける。その炎は兵士達を吹き飛ばして道を作るがすぐに後続の兵士達に塞がれてしまう。
「もう怒った!!処刑だ!!全員まとめて処刑だー!!」
終わりのない攻防にイライラが頂点に達したナツが叫びながら兵士達に飛びかかる。
「タイタイタ~イ」
「うわぁっ!!」
「また!?」
「させません!!」
「パンパーン……ジュワーッ」
ウオスケの重力帯に捕らえられて釣り上げられるハッピーとシャルルを助けようとコスモスから解放されたウェンディが飛び込むがネッパーに邪魔されてしまう……
時間だけが過ぎて行く中でさすがにナツ達も疲れが隠せなくなってきた……餓狼騎士団団長のカマがそう遠くないうちに勝利することを確信して兵士達に攻勢を強めるように指示を出そうとしたときにそれは起きた。
「うわぁっ!!」
「なにこれ!?」
「す……吸い込まれる!」
「タ……タ~イ」
兵士達の真ん中に現れた小さな黒い影がどんどん広がって巨大な影となって王国兵達を飲み込み始めた。
「た……助け……」
「これは一体!!」
「影に飲み込まれるっ!!」
「なんなのよ!これっ!!」
さらに広がっていく影は王国兵と餓狼騎士団の全員を飲み込んでいった。そして警戒するフェアリーテイルのメンバーを残して影は消え去った。
「な……んだこれ?」
「王国兵が全部影の中に……」
「消えちゃった……」
ナツ達は呆然とその光景を見ているしかできなかった……そしてその影の名残のような黒い煙の向こうに人影があるのを発見する。
「誰かいるぞ!!」
「気を付けろ!!」
その人影はゆっくりとこちらへと歩み寄ってきた。その風貌が明らかになる……
「お前……誰だ?」
ナツの問いかけにその人影は口元を歪ませた……
「くっ……急がなきゃいけないのに……」
ツナは王国兵が右往左往している通路を彼らに見つからないように急いでいた。潜入任務を得意としていた骸やクロームの霧の炎があれば……と思うが無い物ねだりをしても仕方がない。
見つかったらさらに時間を食ってしまうので慎重に急ぎながら先に進む。超直感の警報は強くなる一方だがその感覚が道を示してくれる。
ふと気付くと王国兵の人の流れが城の庭園へと向かっている。そこに見えたのは巨大な建造物……
「あれは……エクリプス?」
城内にあったはずのエクリプスが外に出されているということは使用するつもりなのだろう……だがそれを気にしている暇はない。
「みんな……無事でいてくれっ……!」
幸いにもエクリプスの方に兵士達が行ってしまったのでツナは再び走り出した。
-庭園
ツナが見たようにエクリプスは庭園へと移されていた。その場所には甲冑姿のヒスイ姫を筆頭に国防大臣のダートンと数多くな兵士達が集まっていた。そこに現れる一人の男……
「姫!!」
「アルカディオス様!ご無事でしたのね!!」
白き百合の鎧を身に纏ったアルカディオスがヒスイ姫に合流した。ダートンが言いにくそうに口を開く。
「大佐……奈落宮の件はその……私の一方的な偏見によるもので……」
「その件はもう忘れましょう……今ここにいる者達はエクリプス2の事を知っている者達ですか?」
「ええ……今全ての兵に情報共有させています。早く餓狼騎士団にも伝わるとよいのですが……あの未来から来た方の言葉は真実でした……よってエクリプス2計画を実行します」
「ゼレフ卿を倒す為の第一計画は破棄されるのですか?」
「いいえ……しかし今は目の前の危機を回避することが先決です。第一計画はこの危機を乗り越えた後に考えましょう」
姫の言葉を聞いたアルカディオスは覚悟を決めて腰につけている剣をゆっくりと抜いていく。そしてその切っ先を自分の喉に当てると剣をヒスイ姫に握らせる。
「えっ?」
「貴様!何を……」
「主を疑うなど騎士道にあってはならぬもの……あなたの言葉が真実だったならば私は命を捨てましょう……ですから本当の事を話して下さい」
「本当の事?」
「血迷ったか!?」
「私は姫の言う未来人と会いました……エクリプス2のことなど知りませんでした。ドラゴンの襲来は知っていましたが対処法がないと……自分の未来の為ではなく今を生きる仲間達の為に涙を流していました」
「いいえ!あの方は私にハッキリと対処法を告げました」
「ではその未来人が嘘をついていると!?それは考えられない!私には彼女が仲間を騙して得をすることは思い浮かばない!!」
「彼……女?」
「……?」
「私に未来を告げた方は……男性の方でした」
ヒスイ姫の思いがけない言葉にアルカディオスは目を見開いて絶句した……
-クロッカス近郊
「俺は……単純な事を見逃していた!くそっ!どうして気付かなかったんだ!!」
そう言うとジェラールは街へと走り出す。その後をウルティアとメルディは追いかけながら問いかける。
「いったいどうしたのよ!?」
「俺達が毎年感じていた魔力はエクリプスで間違いない!今年はそれが未来から来たルーシィだった。エクリプスというゼレフ書の魔法を使った為にゼレフに似た魔力が体に残留したんだ!!」
「それが……どうしたの?」
「ルーシィは3日の夜に来たと言っていた……ならば3日の夕刻のウェンディとシェリアとのバトルの時に感じた魔力は……」
「確かに!あの時も感じたわ!」
「どういうことなの!?まるで未来のルーシィがもう一人いるみたいじゃない!」
「そう!もう一人いたんだ!ルーシィとは別の……未来からの帰還者が!!ルーシィは仲間を救う為に!もう一人はいったい何の為に来た!?」
「急ぎましょう!!あまりエクリプスを使用して時の流れに干渉し過ぎれば時空そのものが歪んでしまうかもしれないわ!!」
「とりあえずナツ達に合流した方がいいわね!」
3人は全速で城を目指して走り出した……
華灯宮メルクリアス 下層
ナツ達の前に現れた人影はゆっくりと歩み寄りながら姿を現した。
「影がのびる先は過去か未来か人の心か……懐かしいなナツ・ドラグニル……俺はここより先の未来から来た……ローグだ」
髪が伸びてその色は半分だけ白髪となり顔に刺青を刻んだその容貌は確かに月日の流れを感じさせるものだった……
展開を考えるのに時間がかかりました……