-華灯宮メルクリアス
溶岩に落ちた体も癒えてないがアルカディオスは体の痛みなど感じていないかのような足取りで城内を歩いていた。しかしその姿はいつものものとは違い、真っ白な戦用の白き百合の鎧を身に付けていた。
当然ながら堂々と歩いていては兵士達に見つかるのは当たり前だった。だが反逆の容疑がかかっていてもその人望が厚い事とあまりにも堂々とした立ち振舞いに兵士達は手を出しあぐねていた……
「ア…アルカディオス大佐?何故ここに……あ…あなたには王国反逆罪の容疑が……」
「姫はどこに?」
「あ……いや……ですから……」
「どこにおられるのか?」
「最上階に……」
あまりの威圧感に兵士達は質問に答えて道を譲った。ガシャガシャと音をたてながら歩くアルカディオスは先程未来ルーシィが流した涙を思い出していた。
-あれは嘘をついている者の涙ではない……ならば嘘をついているのは……-
自分の仕えるべき主君の顔を脳裏に描きながらアルカディオスは最上階へと歩いていった……
-バトルフィールド
「はぁ……はぁっ……」
「…………」
地面に片膝を付き愛刀を支えに肩で息をしているのはカグラ……その体にはかなりのダメージを受けている。
対するのは息一つ乱さずに無傷のツナ……ツナは悲しそうな瞳でカグラを見ている。
「……まだ続けるか?」
「はぁっ……無論だ!私はまだ負けたわけではない!!」
そう言ったカグラは飛び上がりながら自身に重力魔法をかけて落下のスピードを速める。
「不倶戴天!剛の型!!」
凄まじい勢いで落下してきたカグラを軽く躱すとそのあまりの威力に地面が割れる。体勢を崩したツナに追い討ちをかけるようにカグラは疾走する。
「不倶戴天!斬の型!!」
間合いを詰めながらの連続攻撃をツナは超直感で全てを読みきりグローブで弾いて捌く。
「はっ!!」
「がっ……!!ゴホッ!」
捌きながら反撃の機会を窺っていたツナはがら空きのボディに炎を纏った拳を叩き込んだ。カグラは思わずお腹を押さえて後ろに下がった。
『やはり強い!!フェアリーテイルのツナヨシ!マーメイドヒールのカグラを全くよせつけない!恐るべき強さだ~!!』
「ぐっ!強い……」
「カグラ……気付いてないのか?」
「な……何がだ?」
「今のお前は……ユキノと戦った時よりも弱くなっているぞ」
「なっ……!!」
「というより攻撃が雑だ……余計な事を考えているんじゃないのか?」
「……貴様が……貴様らがそれを言うのか!!」
叫びながらも斬りかかってくるカグラだが怒りに目を曇らせているためにより攻撃が読みやすくなってただの一撃すらツナには届かない。
それでもカグラは攻撃の手を緩めず鞘に納めたままの不倶戴天を振るい続ける……
「何故だ!何故貴様もエルザもジェラールを匿う!?奴が何をしたのか知っているのだろう!?」
「……確かに聞いている。俺がジェラールに会ったのも何日か前が初めてだがな」
「私は絶対にジェラールを許さん!必ず私の手でジェラールを殺す!!」
「怨みか……」
「そうだ!私はジェラールを殺す時にこの不倶戴天の刃を抜く!!言え!ジェラールの居場所を!!」
「ジェラールは贖罪の為に生きている。と言っても無駄だろうな……」
「当たり前だ!!私は許さん!!優しかった兄を……シモンを殺したジェラールを殺す!!」
カグラの降り下ろしの一撃を後ろに下がって避けたツナは視界の端に見慣れた人物がいることに気付いて動きを止める。
「エルザ……」
「お前がシモンの……妹?」
「くっ……グレイ……あの状態からここまで粘るとは……だがそろそろ魔力も持たんだろう?」
「ぜぇ……ぜぇ……まだまだいけるぜ……」
既にルーファスとの死闘を繰り広げたグレイは息も絶え絶えになりながらもその瞳には闘志を漲らせていた。
「ならばそろそろ決着をつけてやろう!そしてジュビアはラミアスケイルが頂くぞ!!」
「まだそんなこと言ってやがんのか……ならば尚更負けらんねぇな!!」
「行くぞ!アイスメイク……
巨大な動物を三体同時に造形する。リオンの奥の手とも言える魔法を見てグレイは心の中で称賛する。
-流石はウルが認めた天才だ……こっちはもう魔力もあんまり残ってねえってのによ……けど負けらんねぇ!!ギルドの為にも!城で頑張ってる奴らの為にも!!-
「アイスメイク……
ものすごい速さで造形を繰り返し無数の剣を造形するグレイをリオンは冷静に見ていた。
「セイバーの奴を倒した造形か……面白い!勝負だ!」
「行くぜ!一斉乱舞!!」
無数の剣がリオンに向かって飛翔する。リオンは白竜に乗りながら白虎と大猿を操って剣を弾き飛ばしていく。全ての剣を弾き飛ばした時、白虎と大猿は崩れさっていた……
「防ぎきったぞ!!これで俺の勝……なんだと!!」
「うおぉぉぉぉっ!!」
勝利宣言をする直前にリオンは自分の周囲の変化に気付いた。自分の周囲360度に氷の剣が浮かんでいた。それはさながら氷の剣による結界……グレイはリオンが攻撃を防いでる間も造形をし続けていたのだ。しかもまだまだ増え続けている。
「バカな!どこにそんな力が!?」
「限界を越えてこそのアンリミテッドだ!!くらいやがれ!!」
「ぐああああっ!!」
白竜だけでは360度からの攻撃には対応できずに無数の剣をその身に受けたリオンは凍りつきながら倒れる。……グレイはもう魔力は残っておらずその場に座り込みながらも高々と右手を突き上げる。
『兄弟弟子対決を制したのはグレイだぁ!!これでラミアスケイルも全滅です!これがかつて最強と呼ばれていたギルドの底力なのか!?トップのセイバートゥースとの差はあと1pt!』
フェアリーテイル→59p
カグラの言葉はエルザの胸に深く突き刺さった。シモンの妹……ならば彼女が真に怨むべきは……
「私達は貧しかったが……幸せだった……」
ツナとエルザはカグラの話を静かに聞いている。17年前の子供狩りから逃げ延びたカグラは何年も兄を探していた……そしてミリアーナに出会った。
「何年も奴隷として働かされジェラールに殺された……目の前が真っ暗になった……」
そして先程ツナにも話したようにジェラールを殺す時にこの刀を抜く決意を誓ったと締めくくった。エルザはそれを聞いて顔を伏せながら言葉を紡ぐ……
「あの場にいたのは私とジェラール、ナツとシモン……確かにシモンが死んだのはジェラールのせいかもしれん……だが殺したのはジェラールじゃない……私だ」
カグラは目を険しくして身体中を震わせながらもエルザに詰問する。
「そうまでしてジェラールをかばうつもりか?」
「いいや真実だ……私の弱さがシモンを殺したのだ……」
涙を流しながら告白するエルザに対してカグラは刀の柄に震えながら手を添える……刀を抜こうとする意志と抜いてはいけないという意志とが心の中で激しくせめぎ合っていた。
「カグラちゃん……ダメ……」
離れた場所で倒れているミリアーナがか細い声で止めるもカグラには届かない……マーメイドヒールの他のメンバーも応援席から大声で叫ぶがそれも聞こえない。
カグラは幼い頃の兄の姿を思い浮かべていた……優しい笑顔の兄の姿が黒く暗い想いに塗り潰されていく……
「ああああああああっっ!!」
「すまない」
エルザの謝罪の言葉を無視してカグラは刀を抜き、大上段から降り下ろす。鮮血が舞う……その衝撃はいくつもの建物を両断していた。
「「なっ!?」」
その驚愕はエルザとカグラのものだった。観客席も同様に全員が目を見開いていた……エルザとカグラの間に割ってはいったのはツナだった。その額からは衝撃波で切れたのか少し血が流れている。
「憎しみと怨みに支配されて剣筋が単調になっている……それなら…とれる!!」
死ぬ気の零地点突破・改、真剣白刃取り……かつて幻騎士と戦った時のようにツナは零地点突破の手の形でカグラの刀を受け止めていた。そのまま刀を通して魔力を吸収しはじめる。
「ぐううっ!!このっ!!」
何とかツナを振りほどいたカグラは刀を抜いたまま後方へと下がり間合いを空ける。
「エルザは下がってろ。ここは俺がやる」
「だがツナ……」
「カグラを見てみろ」
「おのれ……おのれ……おのれ!よくも邪魔を!!」
ツナに促されたエルザが見たのは怒りに顔を歪めながらツナに敵意を向けるカグラの姿。黒く淀んだ闘気がカグラを包んでいるかのように見えた……
「なんだあれは……」
「おそらく怨刀・不倶戴天がカグラの怨みを増幅しているんだろうな。普段のカグラはその強靭な心で不倶戴天を押さえているんだろうけど……」
「私の話を聞いたことで……?」
「心のバランスが崩れて狂気に支配されているんだ」
「救えるのか?ツナ……」
「救ってみせる!俺の誇りにかけて!!」
「誇りにかけてか……ならば任せたぞツナ!私はカグラに伝えたいことがある!!」
「ああ!!」
エルザが下がるのを確認したツナはカグラへと向き直る。カグラはツナへの呪詛を吐きながら刀に魔力を込めている……
それを見たツナは眉間に皺を寄せ、左の拳を顔の前に持って来て祈るように目を閉じる。そして目を開くとその左手を突き出し右手を後ろに持ってきて口を開く。
「オペレーション
これに驚いたのはエルザだ。三日目の競技パートで見せた技を今のカグラに使ったらカグラの命が危ない。止めようとしたエルザだがツナのどこまでも真っ直ぐなオレンジ色の瞳を見て言葉を飲み込んだ。
「殺す……殺す!!貴様らもジェラールも纏めて殺す!!絶対に殺してやる!!」
「悲しいな……怨みを捨てろとは言わないけど今のあなたは怨みに振り回されている。だから……」
「死いぃぃぃねえぇぇぇぇ!!」
「
突進してくるカグラに対してツナが放ったイクスバーナーは瞬く間にカグラを飲み込んだ……
MPFをも消滅させる炎に包まれながらもカグラはだんだんハッキリしてきた意識と共に疑問を感じていた。
-!?この炎は私を燃やしてはいない……それどころか先程までの暗い気持ちが溶かされてゆくようだ……-
「必ず助ける!俺の……誇りにかけて!!」
-暖かい……まるで兄さんが側にいるみたいな不思議な感じがする……これがツナヨシ・サワダの炎-
暖かさと心地よさに身を委ねながらカグラは意識を手放した…………
大魔闘演武終了まであと2話かな?