-華灯宮メルクリアス、上層階
ヒスイ姫の目の前にはいくつもの場面が映し出されていた。それは大魔闘演武の現況を映すラクリマだった。横に控えているダートンが声をかける。
「本当に未来人が言った結果になるのでしょうか?私にはとても……」
「私とて信じられませんが……現段階ではその結果になる可能性は消えていません」
確かに姫の言う通りなのだがダートンには到底その結果になるとは思えなかった。だがそれだけにもしその結果になれば未来から来た者の言葉の信憑性が増すということも理解していた。
「今は見守りましょう……この国の未来を決めるこの戦いを……」
そう締めくくると姫は映像に集中するのだった。
-バトルフィールド
現在戦闘をしているのは10人、残っているのは11人。戦っていないのはセイバートゥースのスティングだった。中継ラクリマに映らない位置で座っている。
「ククク……いいぞ…考えうる最高のシナリオだ……待っていろよレクター……もうすぐお前を……」
あの夜……レクターを失った怒りを爆発させてマスターを半殺しにした後でミネルバがレクターを助けてくれたということを聞いた。
他にも自分を次期マスターにという話を聞いた気がするがその時はレクターの無事を喜び全く頭に入っていなかった。
ミネルバに感謝してすぐにレクターに会わせてくれるように頼むがそれに帰ってきた答えは……
「大魔闘演武で優勝するまでは返さん」
涙を流しながら懇願するもミネルバには通じず自身が手にした新しい力でセイバートゥースを優勝に導けと言われた。
ならば優勝するしかない。このレクターへの想いの力で必ず優勝する。
「たとえ相手がツナヨシさんでも俺はもう負けない……レクターが俺に力を貸してくれる……」
スティングは暗い笑みを浮かべながらただ戦いの行方を見守ることにした……
リオンはグレイとの戦いの中でラクサスとオルガが向き合うラクリマを見て怒りを爆発させた。
「おのれ!セイバートゥース!よくもジュラさんをあんな卑怯な手で……グレイ!さっさと決着を付けてアイツを倒しに行く!!アイスメイク…
氷の虎がグレイに襲いかかったがグレイは焦ることなく対応する。
「アイスメイク……
氷の檻に氷の虎が捕らえられる。
「ちっ!アイスメイク……
「アイスメイク……
グレイは無数の氷の蜻蛉を同じように無数の氷の槍を飛ばして全てを叩きおとした。
「バカを言うな!ラクサスの魔力はもう残っていないだろう!!」
「それでも勝つさ!タイマンの邪魔されて黙ってやられる奴じゃねぇよ!!フェアリーテイルをナメんな!!」
焦るリオンに対して仲間の勝利を信じて戦うグレイ。氷の造形魔導士の戦いはさらに苛烈さを増していった。
「クックッ……無様だなぁラクサス……立つのがやっとかよ?」
「はぁ…はぁ…うるせぇよ……」
力を振りしぼって立ち上がったラクサスに対してオルガは嘲笑で応える……どう考えてもここからの逆転はあり得ない。
だからこそ慢心して気が緩む……それこそがラクサスが付け入る隙だ。ラクサスはオルガを挑発する。
「たとえ魔力が空っぽでも俺は雷に対する耐性は高い……テメェのちんけな静電気じゃ倒れねぇよ」
「ほう……静電気とは随分言ってくれるじゃねぇか……ならその静電気でくたばりな!特大のな!!」
自分の黒雷を馬鹿にされたオルガは両手を前に構えて黒雷を集中する……
「雷神の……荷電粒子砲!!」
オルガから放たれた黒雷は狙い通りにラクサスに直撃する。ラクサスの怪我では雷の速度を躱すことはできない。フェアリーテイル応援席から雷神衆の叫びが響くが当然二人には聞こえない。
「ハーハッハッ!!どうだいラクサス!黒雷の味は?これでも静電気かよ!?」
勝利を確信しているオルガは高笑いと共に黒雷を放ち続ける。だが聞こえるはずのない声が聞こえたことでその高笑いは凍りつく。
「まぁ……悪くはない味だ……性根は腐ってるがな」
「何!!」
オルガは信じられないものを見た。崩れ落ちるはずのラクサスがオルガの黒雷を食っていたのだ。
「バカな!!俺の黒雷を……滅神魔法を!?」
「簡単なことだろ……テメェより俺が強いからな……おかげで魔力もある程度回復できたぜ」
「ほざけ!!」
「テメェは俺の……雷竜の逆鱗に触れた……だからテメェは俺が潰す!!」
ラクサスの体全体に雷がほとばしり、両手に魔力が集中していく……右手には黄色い雷、左手には黒い雷が集まりそれを頭上で一つに融合させる。
「う……あ……待て……」
オルガは汗をかきながら自分でも気付かずに後ろへと後退していた。
「竜の雷と神の雷を一つに……竜神の轟雷!!!」
ラクサスが腕を振り下ろすと二つの魔力が合わさった巨大な雷球がオルガへと襲いかかる。
「ぐぎゃゃああああっ!!!」
あまりのスピードに避ける暇すらなかったオルガは体を痙攣させながら絶叫する。やがて雷が消えるとパッタリと地面へと崩れ落ちた……
「見事じゃ……」
倒れたままのジュラの言葉がラクサスの勝利を示していた。
『ラクサスの勝利だぁ!!聖十の魔導士と互角に戦いさらにボロボロの体ながらもオルガに逆転勝利!!』
実況の言葉にフェアリーテイル応援席が沸く。雷神衆は涙を流しながら喜んでいる。ラクサスは挑発によってオルガが黒雷を放ってきたことに安堵した。
普通に肉弾戦なら勝ち目はなかっただろう……地面に座り込みながらジュラへ声をかける
「ジュラのおっさん……今回は勝負無しだ……続きはまたいつかやろうぜ」
「イヤ……今回はそなたの勝ちじゃ。だが次は負けんからの」
「お互いもっと強くならねえとな」
「然り……目標は遥か高みにある……」
ある一人の男を思い浮かべながら二人は会話を続けるのだった……
フェアリーテイル→52pt
-華灯宮メルクリアス下層部
奈落宮を脱出したナツ達は広すぎる王宮内で兵士達から身を隠しながら移動していたため出口が分からなくなってしまった。現在は食堂と思われる場所にいる。
「まいったな」
「迷子になるとは……」
「困ったわね」
「いっそ敵の真ん中を突っ切るか?」
「無茶ですよ~」
「このお城様は広すぎますね」
「お城様!?」
これからどうするかを話し合っているが有効な脱出手段が見つからない。その時、未来ルーシィが目覚めた。
「う……ここは?まだ城の中なのね……」
「大丈夫?未来ルーシィ」
「……あたしの記憶だとこの後王国軍にまた捕まっちゃうの。だからその前にみんなに知らせようと……」
「あんな奴等に捕まる訳ねーだろ?」
「そうね……さすがにやられる気がしないわ」
「ううん……偶然エクリプスに近寄ったせいで魔法が使えなくて全員捕まっちゃうの……あの時が来るまで」
「あの時?あの……ルーシィさんはどうして未来からやってきたんですか?」
ウェンディの質問に未来ルーシィは全身を恐怖で震わせている。
「最悪の未来を変える為……」
「最悪の未来だぁ?」
「いったい……あなたのいた未来に何が起こったのですか?」
ユキノからの質問に対する答えを未来ルーシィは言いづらそうに言葉を紡ぐ。
「この国に待つのは絶望……一万を越えるドラゴンの群れがこの国を襲ってくるの……街は焼かれ城は崩壊し多くの命が失われる……」
「なっ!!一万!?」
「ドラゴンってそんなにいたの!?」
「どうしましょう……」
「さすがに一万なんて多すぎるよ!!」
「そうね……アクノロギアほどじゃないとしてもそれに近い強さを持ってるわよね……」
「こうしちゃいられねぇ!ハッピー!戦闘準備だ!!」
「無理だよ!!」
-これで繋がった!崩壊する城と……あれは歌ってるんじゃなくて泣き叫ぶルーシィ……でも!-
シャルルは以前の予知が最悪の未来を示していたことを知りそして浮かんだ疑問をルーシィに尋ねる。
「ね…ねぇ……ドラゴンが来た時同じ城の中にいた私達はどうなったの?」
ルーシィはその質問に答えずに顔を俯かせる。それが答えを示していた。代わりにウェンディがシャルルに答える。
「シャルル……察してあげよう……きっと私達は……」
「死んじまうのか!?」
「そんな……」
「……何日たったか分からない。目覚めた私はエクリプスの事を思い出した。過去に戻れると信じて扉を抜けたら本当に戻れたの。X791年7月4日に……」
「4日ってつい最近じゃないか」
「そんな少ししか戻れないの?」
「多分だけど一部壊れてたから……とにかく地上は大魔闘演武を映すラクリマが街中に配置されてるから地下を通って脱出しよう」
「ルーシィさん…あの…ツナさんが言ってましたよね?過去を変えてもルーシィさんのいた未来は……」
「……多分ツナの言う通りなんだと思う。現にこれからの事をそっちのあたしが知った……つまり過去を変えたはずなのにあたしにはそれを聞いた記憶がない……」
「じゃあルーシィさんは……」
「でも!未来は変えられるはず!あたしにとっての過去はあなた達にとっての現在!そしてあなた達の未来はまだ確定してないわ!!」
悲痛な叫びが食堂に響く……未来ルーシィは自分のいた未来の為でなく現在を生きる自分達の為に過去へと来たのだと理解させられた……
「とにかく地下を通って脱出したらジェラール達と合流してほしいの……彼には全部話してある……今対策を練ってるはずだから……」
「対策を練ってる……今?」
「ごめんなさい……あたしは未来から対策を持って来たんじゃないの。どうすればあの悲劇を止められるのか分からないの……」
その言葉を聞いた意識を取り戻したアルカディオスは疑問を覚える。ヒスイ姫が言っていたエクリプス2……それは未来人からもたらされたもので一万のドラゴンを殲滅する手段だった。
大魔闘演武で7年間エクリプスに集めていた魔力はエーテリオンに匹敵するほどになっている。それをドラゴンの大群に発射してドラゴンを殲滅する。それは目の前にいる未来ルーシィからもたらされたはずだ。
-お前が姫にエクリプス2計画を助言したはず!4日に来たというのも嘘だ!何故仲間に嘘をつく!?-
目を鋭くして未来ルーシィに視線を送るアルカディオス……ルーシィは俯きながらもナツ達に謝罪する。
「本当にゴメン……これじゃあたし何のために来たのか……今日までどうしていいのか分からずに街をウロウロするしかできなかった……」
「いや…俺達がなんとかする……とにかくここを出てみんなに知らせよう。お前が一番信じてる奴にもな」
「ナツ……」
「ありがとう……俺達の未来の為に……きっと未来を変えてみせる!」
その言葉に未来ルーシィは涙を流しながら笑顔で頷く。フェアリーテイルメンバーもその光景を笑顔で見つめていた。
しかしユキノは顔を伏せながら何かを考えており、アルカディオスはルーシィが流す涙を見て何かを確信していた。
-クロッカス近辺
ジェラールが未来ルーシィから聞いた襲いくる一万のドラゴンの対策をウルティアとメルディが話し合っていた。ジェラールはさっきから一人で考え事をしている。
「どうする?正直いって一万のドラゴンに対抗する手段なんてある?」
「住民だけでも避難させるしかないんじゃ……?」
「そんなことしたらパニックになるわよ。第一信じてもらえるかどうか……」
「私達犯罪者だしね……」
「何かいい考え浮かんだ?ジェラール」
「いや……だがこの話何かがおかしい……全てが真実だとは限らない」
「それって未来のルーシィが嘘をついてるってことなの?」
「そうは言わんが……一万を越えるドラゴン……エクリプス……魔力……つじつまが合わないことがいくつかあるんだ」
「……でもだからと言って無視は出来ない情報よ?」
「分かっている。あのルーシィが嘘を言ってるとは俺も思わん……それとも存在そのものが虚構なのか……」
結局答えは出ないまま時だけが過ぎてゆく……
-バトルフィールド
次々に爆発が巻き起こる。ミネルバは空間の属性を爆発に変えながら攻撃を続けていた。その全てを飛翔の鎧に換装したエルザが軽やかに躱し続けている。
「換装!黒羽の鎧!!」
連撃の一瞬の隙をついて換装したエルザが切りかかるも一瞬でエルザと位置を入れ替えて逆に攻撃しようとするミネルバだが……
「そこだ!」
「何!?」
入れ替えられる事を読んでいたエルザはミネルバの位置を瞬時に判断して剣を振るう。それを魔力の質を変えて受け止めるミネルバ……
「ちっ!小癪な……」
「素晴らしい力量だが……貴様ほどの力がありながら何故あんな手段を取るのだ!?」
「王者は旨い肉しか食わぬのだ!セイバートゥースは必ず勝たねばならん!!過程などどうでもいい!結果が全てだ!!」
「貴様のその性根……私が叩き直してやる!!」
「やってみよ
二人は再び激闘を再開する……
今日は久しぶりに大雪でした。