-客席
ナツが一人で戦うと宣言した頃ジェラールはゼレフに似た魔力を感じ取っていた。
『ジェラール!今度は逃がさないで!』
「分かっている。試合も気になるが今は……」
ウルティアからの念話を受けてジェラールは魔力の持ち主を追うために走り出した。
-闘技場地下
闘技場の地下ではナツの宣言にスティングとローグは怒りの表情を見せていた。
「一人で充分だと…なめやがって!」
「お前に用はない。ガジルとやらせろ」
「俺を倒してからやるんだな」
スティングとローグはその言葉に再びドラゴンフォースを発動させる。スティングはナツへと殴りかかるがナツの腕で簡単に防がれる。竜と同じ力を持つはずのドラゴンフォースの力を余裕で受け止めている。
「バカな!ドラゴンフォースは竜と同じ力!俺はこの力で
「……それがお前の力か。なら俺は笑われて、傷つけられた仲間の為に戦う!」
ナツが想うのは7年間笑われバカにされてきた仲間達、そして競技で傷つけられたルーシィ……
想いを力に変えてナツはスティングを殴りつける。吹き飛ばされたスティングだったがその隙にローグが背後に回りこんだ。
「影竜の咆哮!!」
「火竜の咆哮!!」
背後から放たれたローグの咆哮をナツも同じく咆哮で迎え撃つ。一瞬の均衡すら許さずローグの放った影の咆哮はナツの放った炎の咆哮によって飲み込まれローグにも襲いかかった。
「来いよ」
信じられないような顔を見せるセイバーの二人に対してナツは挑発する。その言葉を受けて二人がかりで襲いかかるが全く歯がたたない。全ての攻撃を防がれて反撃を喰らう。ナツの独壇場が始まった……
-フェアリーテイル観覧席
ナツの戦いぶりをツナ、エルザ、ラクサスの3人は感嘆しながら眺めていた。
「やっぱりナツはすごいな……心の強さではフェアリーテイルNo.1だね」
「ああ……相手が強ければ強いほど実力以上の力を発揮するからな」
「前に俺と戦った時もそうだったな…おまけにしつこいしな」
「確かにな」
ラクサスの言葉にエルザも覚えがあるのか笑顔で同意する。戦況はもはや圧倒的ともいえる状態だった。
「いくら強くても他者を見下して傷つけるだけのセイバートゥースの二人じゃナツには届かない」
ツナの言葉にエルザとラクサスは頷いた。
-セイバートゥース観覧席
セイバートゥースのメンバーは信じられないものを見ていた……ドラゴンフォースを発動させた双竜がたった一人に圧倒されている。
「オイオイ…どうなってんだこりゃ」
「記憶にないね…ドラゴンフォースの力がこうも押されるとは……」
「力か……」
オルガとルーファスは呆然とラクリマに映った戦いを眺め、ミネルバは何かを考えるように呟く。
「スティング君……」
「ローグ……」
涙を浮かべて相棒を心配するレクターとフロッシュの小さな呟きが会場の歓声にかき消されていた……
-ラミアスケイル観覧席
「凄まじいな……」
「忘れていた…アイツはバカだが戦いに関しては頭の切れるやつだと……」
「すごいね……」
「フム…ツナヨシ殿にばかり目がいっていたがやはりフェアリーテイルは素晴らしいな」
ジュラとリオンはかつて共に戦った時の事を思い出して笑みを浮かべる。シェリアはただ感嘆していた……
-ブルーペガサス観覧席
「素晴らしい
「くそっ!どんだけ強ぇんだよ」
「さすが六魔のマスターを撃ち破っただけはあるね」
「スゴいや!2対1で圧倒するなんて」
「よく見たらワイルドでいい男かも……」
かつての戦友でもあるナツの活躍に喜ぶブルーペガサス。
-クワトロパピー観覧席
「「「「ワイルド~!!」」」」
「かっかっ!アイツも熱い
バッカスの高笑いが響く……
-マーメイドヒール観覧席
「ニャー!昔戦った時より凄く強い!」
「大したものだな……(フェアリーテイル……何故ジェラールを……)」
感嘆と共に暗い感情がカグラの心を乱す。
-フェアリーテイル応援席
フェアリーテイル応援席はナツの活躍に総立ちで応援していた。特にリサーナは大声で応援している。
「ナツ~!!ガンバれ~!!」
「ナツ兄!行けぇ~!!」
「そこだ!ナツ!」
「すげぇぞ!ナツー!」
「ガジルはどこ行ったの?」
「さあ?」
「へっ……あの野郎嬉しそうな顔しやがって……」
「ホントにバトルマニアね~」
「しかし敵もさる者。諦めん……」
「どちらも大したものです」
マカロフとメイビスがセイバーの二人にも感心する。ふと二人はスティングとローグが最後の勝負を仕掛けるのに気付く。
「むっ……あれは……」
「まさか……
セイバーの二人の魔力が合わさり増幅されているのを見たマカロフは右手の甲を前に向けて親指と人差し指を伸ばして高く掲げる。
…このポーズはかつて破門されたラクサスを見送る為にギルドメンバー全員でやったことがある。意味はいつでも見守っているということ。
この意味に気付いたギルドメンバーは次々に同じポーズを取り、遂には全員で同じポーズを取った。その姿を見たメイビスは笑みを浮かべる。
-力だけでは決して破れない壁がある。それを破るのは想いの力……-
メイビスはフェアリーテイル誕生の写真を撮った時の事を思い出す。
-ユーリ、プレヒト、ウォーロッド、そしてジョット……私達の想いは確かに受け継がれていますよ……-
-闘技場地下
「「はあぁぁぁっ!!」」
スティングとローグの魔力が融合して高まっていくのをナツは静かに見つめていた。そして思い出すのは試合前にツナに声をかけられたときの事……
-試合前 選手用通路
ナツとガジルは闘技場への通路を歩いていた。相手はセイバートゥース…競技で傷つけられたルーシィのカタキをうつためにも負けられない試合だった。
「ナツ、ガジル」
「ツナ」
「どうしたんだよ?こんなトコまで」
「ん~激励かな。相手はセイバートゥースだからね」
「あんな奴らにはぜってぇ負けねえよ」
「ギヒッ!当然だぜ」
「うん。俺も二人が負けるなんて思ってないよ…というわけでナツに差し入れ」
ツナはグローブに炎を灯すと球状にしてナツに放り投げた。ナツはそれを一息に吸い込んだ。
「ごちそうさま!相変わらずツナの炎はすごく旨いんだよな!」
「え~と…お粗末様?ナツ……俺の炎、死ぬ気の炎は覚悟の炎なんだ」
「覚悟……」
「そう。仲間を守るという俺の誓いを込めた炎」
「……ツナの覚悟か、確かに受け取ったぞ!」
「うん!ガンバってね……ガジルも!」
「ついでかよ……じゃあ行こうぜ」
「おう!!」
そう言うとナツとガジルは闘技場へと歩みを進めた。
-闘技場地下
「「聖影竜閃牙!!!」」
突き出された二人の拳より白と黒の2つの色を持つ波動がナツへと発射された。ナツは構えをとって両手に炎を纏わせる。
-勝負を決めるのは想いと……覚悟だ!!-
「滅竜奥義!紅蓮爆炎刃!!!」
螺旋状に放たれたナツの炎はスティングとローグの魔法を打ち消して二人をも飲み込んだ。闘技場地下で大爆発が起こり、その衝撃と粉塵で地下を映していたラクリマが映らなくなった……
-フェアリーテイル観覧席
「どうなった!?」
「ナツの奥義が決まったように見えたが……」
「…………」
『どうやらラクリマビジョンが回復したようです』
チャパテイの言葉に会場中がラクリマビジョンに視線を向ける。画面はまだ粉塵が晴れていない……
『こ…これは……』
ツナが笑みを浮かべる……粉塵が晴れるとそこには地に倒れ伏すスティングとローグ。そしてそれを見下ろすように立っているナツの姿。
『立っているのは……ナツ・ドラグニル!!フェアリーテイルだぁ~!!双竜敗れたり~!!再び首位に躍り出たぁ~!!』
画面のナツは勝利のポーズを決めている。それを見た会場中から割れんばかりの大歓声が巻き起こった。
ツナとラクサスが笑顔で腕を合わせ、エルザも嬉しそうに笑顔を浮かべている。応援席はお祭騒ぎのような状態だ。医務室でもルーシィとウェンディが抱き合って喜んでいた……ついでにエルフマンとエバーグリーンもだ。
『さあ残すは1日休みを挟んだ最終日のみ!全員参加のサバイバル戦!皆様楽しみにお待ちください!!』
各ギルドは最終日の標的をフェアリーテイルに見据えていた。いや、天馬やラミア、パピーなどのマスター同士の繋がりが深いギルドは最初からこうなることを予想していたようだ……打倒、フェアリーテイルを掲げて最終日に臨む。
ナツはスティングとローグにまた戦おうと言葉を残して闘技場を去る……残された二人は自分がどれだけ思いあがっていたのかを知った……
-通路
通路へと戻ってきたナツをツナ達が出迎えた。ハッピーとリリーも一緒にいた。ツナとナツは笑顔を浮かべるとハイタッチを交わす。その音が心地よく響いた。
「ナツの覚悟、見せてもらったよ」
「ヘヘッ!サンキュー!」
「本当によくやったぞ。ナツ」
「かたっ!」
エルザが己の胸にナツを抱き寄せるが硬い鎧をしているのでナツの頭には衝撃が走る。
「ナツ~すごかったよ!」
「よくやったな…所でガジルはどうなった?」
「おお!アイツ途中でいなくなりやがって!タッグバトルの意味分かってんのかな?」
「自分でやったこと忘れてるのかお前は!?」
「そりゃナツだもん……」
ハッピーとリリーとナツのやりとりにツナ達は思わず笑いをこぼす。
「残すは最終日だな」
「ああ……優勝まであと一息だ」
「ここまで来て負けたくないね」
「ああ!俺達は必ず優勝する!みんなの為にも!」
ナツの声にツナ達は同意を返す。その後ツナ達は医務室に向かう為に歩き出した……
四日目終了時点での順位は、
1位 フェアリーテイル 45pt
2位 セイバートゥース 44pt
3位 マーメイドヒール 40pt
3位 ラミアスケイル 40pt
5位 ブルーペガサス 30pt
6位 クワトロパピー 15pt
フェアリーテイルはツナの乱入によるマイナスポイント分を取り返して再び首位に浮上した。
-???
あの日私達は優勝を信じていた……ルーちゃん覚えてる?最終日は凄い激闘だったよね……
そしてあの日…7月7日…私達は運命という言葉に負ける……
××は死んだ……××も××も……大好きだった××も……言葉にならないよルーちゃん……もう嫌だよ……誰か……助けて……
廃墟のような場所で涙を流しながら日記を書く少女。その顔や体は傷だらけで痛ましい……
その少女……レビィ・マクガーデンは終わりのない絶望の中にいた……
-夜、クロッカスの街
「止まれ」
ジェラールは遂にゼレフに似た魔力を持つ者に接触することが出来た。後ろ姿のその者に声をかける。
「俺も正体を明かす。お前も顔を見せろ」
変装を解いたジェラールはその者が振り向くのを待つ。マントを被っていて分からなかったがその足を見てその者が女だということが分かった。
女はゆっくりと振り返る……その顔を見たジェラールは目を限界まで見開き驚愕する。
「バ……バカな……お前は!?」
その女はジェラールの知っている者……しかしあり得ないはずの女だった……
運命は動き出す……7月7日へと……
年内にあと何話か更新したいです。