-闘技場
「「「ツナ!!」」」
煙が晴れた水球にいたのはルーシィを守るように抱き抱えるツナの姿。それを見たナツ、グレイ、エルザは歓喜の声をあげる。
『あ~っとこれは!フェアリーテイルBツナヨシ・サワダが乱入!ルーシィを救い出したあ!!』
客席からも大歓声があがった。ルール違反をして乱入してしまったツナだが周りから見ればその姿は絶体絶命の危機に駆けつけたヒーローにしか見えない。
ツナはルーシィの意識がないことを確認するとルーシィを横抱きにして急いで水球から外へと飛び出した。
「ウェンディ!来てくれ!」
「ハイ!」
「私も手伝うよ!」
「ルーシィしっかりして!」
ツナがこちらに向かっていたウェンディに声をかけるとすぐにたどり着き回復魔法をかける。この競技に参加したシェリアも協力を申し出てくれた。ジュビアも必死にルーシィに声をかけている。
「何てことしやがんだこのやろう!!」
ナツがミネルバに向かって吼えるがミネルバは涼しい顔を崩さない。
「その目はなにか?妾はルールにのっとって試合をしたまでのことよ。むしろルール違反をしたのはそちらであろう?試合中の競技に乱入したのだからな。謝罪して欲しいのは妾のほうだ」
「「なんだと!!」」
ミネルバの言い様にナツとグレイの顔が怒りに染まり、一歩踏み出した所にミネルバを守るようにスティング、ルーファス、オルガが現れる。
「ルールだと?勝負のついた相手をいたぶるのがルールだとでも言うのか?」
「フフ……感謝して欲しいものだな……そのような使えぬクズを2位にしてやったのだからな。最もこの乱入でどうなるかは分からんが……」
「なんだと……」
エルザももはや我慢の限界といった感じだが必死に自分とナツ達を押さえている。
『おっと!両チームとも一触即発の状態だ!このまま始まってしまうのか!?』
『ここは冷静になって欲スいね……』
『とっても熱いですね、ありがとうございます』
観客もここまで来たらもう両チームの激突は避けられないと感じたのか勝負コールを繰り返している。応援席のフェアリーテイルメンバーも臨戦態勢を取っていた。
その時ルーシィの容態を見ていたツナが立ちあがりセイバートゥースの方を向く。その顔は俯いていて表情は見えない。
「まーまーナツさんも落ち着きなって。ツナヨシさんもさ、ルールってもんをちゃ…「黙れ」…んと……」
スティングは最後まで言葉を発せなかった。ツナの声と共に暗く濃密な殺気が自分達を包んだからだ。ナツ達もその光景に動きを止める。
-んだよっ!これ!?-
-記憶にない……これが恐怖!?-
-体が動かねぇ……動きやがれ!-
-よもやこれほどとは……-
「お前達は俺の大切な仲間を傷付けた…その報いは受けてもらう!」
本気の殺意を纏って一歩踏み出そうとしたツナの足を誰かが掴む。掴んだのは意識を取り戻したルーシィだった。
「ルーシィ!」
駆け寄ったツナにルーシィは弱々しく言葉を発する。
「ダメだよ…ツナ…そんな顔しちゃ…アタシは大丈夫だから…試合でやられた分は…試合で返そ…ねっ……」
傷が痛むだろうに無理して笑顔を作るルーシィにツナは頷き、そのまま医務室のポーリュシカの元へ運んでいく。殺気から解き放たれたセイバーのメンバーは肩で息をしている。
「ひとつだけ言っておく…お前達は決して怒らせてははいけないギルドを敵に回した……」
エルザもナツ達と共に医務室へと下がっていく。
-医務室
医務室にはAチームのメンバー、ツナ、ポーリュシカとルーシィが心配で駆けつけたハッピーとシャルルが眠っているルーシィを囲んでいた。そこへBチームのメンバーも駆けつける。命に別状はないとの報告に安心する一同。
「うっ……」
「ルーシィ!!」
「ツナ…ゴメンね…迷惑かけて……」
「迷惑なんかじゃないよ。あそこで飛び出さなかったら俺は自分を許せない」
「ありがとう……か…鍵……」
「ここにあるよ」
ハッピーが鍵を差し出すとルーシィは安心したように鍵を抱いて眠りにつく。その姿を見てみんなはホッと息をつく。
「眠っちゃったみたいね」
「アイツら……」
「言いてぇことは分かってる」
「セイバートゥース……」
「気に食わねぇな」
ミラは安心したように微笑むがナツ、ラクサス、グレイ、ガジルは怒りを隠しきれていない。そこへマカロフがやって来た。
「AチームBチーム全員揃っておるか…ちょうど良かった……色々と決まったことがあるので1つずつ伝えていく」
全員がマカロフに注目する。
「まずは先程の試合の順位じゃがこれはそのままじゃ。ルーシィが2位でジュビアが3位になった。これはツナの乱入があってもなくても変わらんかったからのう」
全員が頷く。これでAチームは8ptプラスで45pt、Bチームは6ptプラスで46ptになった。セイバーは10ptプラスで44ptだ。
「次に運営側からAB両チームの統合命令が言い渡された」
「何!?」
「ABチーム統合だと!?」
「どうしてですか?」
ナツとラクサスが驚きミラは聞き返す。
「レイヴンテイルの失格によって参加チームが7つになったからじゃ。バトルパートの組み合わせが奇数じゃ困るとのことで両チームを一つにして新規5人でチームを再編成しろと……な」
「点数はどうなるの?」
「低いほうに準じるらしい……つまりAの45ptじゃ」
「酷いねそれ……」
シャルルの質問に答えるマカロフにハッピーが素直な感想を述べる。
「最後にツナの乱入についてじゃ……試合中に乱入した者は出場停止なん……」
「「ふざけんなあーー!!」」
「納得できません!」
「ジジィ!それをアッサリ受け入れたのか!?」
「お……落ち着け!最後まで聞け!」
出場停止の言葉が出た瞬間に叫ぶナツとグレイ。ミラとラクサスも詰め寄るが何とか諫める。
「ふう……出場停止なんじゃが相手の過剰な攻撃、レフリーストップの直前だったこと、相手の選手に攻撃してないこと、ルーシィの命が危険だったこと、観客の反応等を考慮した結果出場停止にはならんかった」
ホッと息を吐く一同だが……
「ただしマイナス10ptのペナルティが与えられた」
「ということは俺達の点数は35ptってことか」
「ルーシィの命に比べたら安いものだ」
「そうですね」
「もう一度逆転すればいいだけの話だ!」
「あいさ~」
「ありがとう」
ペナルティを責めない元Aチームの面々にお礼を言う。謝罪だとルーシィの命を軽くみてるような気がしたからだ。
「でも今からチームを作っても残るのはこれからやるタッグマッチだけなんだろ?」
「いや…明日の休みを挟んで最終日に全員参加の戦いがあるはず……慎重に選んだ方がいいよ」
グレイの疑問にポーリュシカが答える。
「俺は絶対にルーシィの敵をとる!仲間を笑われた!俺は奴等を許さねえ!!」
「ナツ……それはみんな同じだよ。マスター、チームを決めて下さい」
ツナの言葉に頷く一同。マカロフは一度全員を見渡すと口を開く。
「分かった…まずツナ、エルザ、ラクサスは確定……ミラはどうする?」
「……私もルーシィの分もがんばりたいけど他にものすごく出たがってる人もいるし辞退します」
「では、ナツ、グレイ、ガジルの中から二人を……」
「「「俺が出る!!!」」」
「俺が出るんだ!!」
「いーや俺だ!」
「ギヒッ!すっこんでろ!!」
言い争いから殴り合いに発展しそうになった時にエルザが鉄拳で静かにさせる。
「ふう……話し合いじゃ決まらんのう……ツナ、お主が決めてくれい。お主にはチームリーダーを任せたいからのう……」
「丸投げですか……」
「ツナが決めるなら文句はない」
「元ボスの采配ってやつを見せてみろよ」
「はあ……分かったよ。じゃあ……」
-闘技場
『フェアリーテイルのチーム再編成も終了しいよいよ四日目バトルパートに突入です!!』
『四日目のバトルパートはタッグマッチなんだね?』
『2対2ですか、熱いですね!ありがとうございます!』
今回は既に対戦カードも発表されている。
第一試合 ブルーペガサスVS.クワトロパピー
第二試合 マーメイドヒールVS.ラミアスケイル
第三試合 セイバートゥースVS.フェアリーテイル
『注目はやはり第三試合でしょう!フェアリーテイルはツナヨシの乱入で10pt引かれてしまいましたが……』
『全く気にスてないと思うよ。あスこは…』
『さあ…その新・フェアリーテイルが姿を現したぞーー!!』
「がんばってねみんな……」
医務室のベッドの中で勝利を祈るルーシィ……
「頼んだぜ……」
同じく未だにベッドの住人のエルフマン……
「本当の意味での最強チームね」
「本当ね」
笑顔で見つめるミラとリサーナの姉妹……
「応援してます!」
「負けるんじゃないわよ!」
治療の為医務室に残るウェンディとシャルル……
「これはすごいチームだよ」
「負ける姿が想像出来ないメンツです」
「……」
応援席で勝利を信じるカナ、ジュビア、レビィ……
「ちっ、俺を外して負けたらただじゃおかねーからな」
悪態をつきつつも勝利を願うグレイ……
「我らギルドの想いは一つになった。この想い、主等に託すぞ」
メンバーを信じるマカロフ……
「今こそ見せる時です。私達の絆の力を……」
メイビスが全員の想いを代弁する……
『会場が震えるーー!!今ここに!フェアリーテイル参上!!』
会場を揺るがす大歓声と共に現れたフェアリーテイルのメンバー。
『四日間でかつての人気を取り戻して来ましたー!!中央にはツナヨシ!その左右をエルザとラクサスが固め、右端にガジル!左端にはナツという豪華布陣で登場だー!!その姿は正に威風堂々ー!!』
-フェアリーテイル応援席
「グレイ様やっぱり出たかったんじゃ……」
「上手くツナにのせられた気がしてきた……」
「ツナって口が上手いわね~」
ミラの言葉に少し前の会話を思い出すグレイ……
-少々前の医務室
「……じゃあナツとガジルで」
「よっしゃ!」
「ギヒッ!」
「ちょっと待てー!」
「そうです!ツナさん!グレイ様は……」
「落ち着いて…グレイはルーシィのことの他にはルーファスに借りを返したいんでしょ?」
「分かってんじゃねーか!だったら……」
「間違いなくタッグマッチはセイバーと当たる。さっきの観客の反応を見ると主催者側もそれ以外の選択をしない。そして相手は間違いなくスティングとローグになる」
その予想に驚く一同。まあ元Bチームはそれほどでもないが……
「人気ギルドであるセイバーは全員をちゃんと出したいはずだ。あの二人はコンビで双竜と異名を持ってるしローグに至っては今大会何もしてないからね」
ナツとハッピー以外はここまでは理解した。二人は首をかしげている。
「そこにナツとガジルをチームに加えれば高確率で二人が選ばれる。同じドラゴンスレイヤーで1度もバトルパートをしてないしね。スティングはナツに、ローグはガジルに敵愾心を見せてるし丁度いいと思う」
「もちろんだ!!」
「格の違いを見せてやる!」
「で……グレイは最終日に二人のどちらかと交代してルーファスを倒すってことでどう?」
「「おい!!」」
「それならいいぜ!」
「じゃあ今日の所はジュビアの隣で応援しててね」
「グレイ様!一緒にがんばりましょう!」
-フェアリーテイル応援席
「よく考えたらあの二人が素直に交代するとは思えねぇな……」
「確かにね……」
「ジュビア的には最終日もこのままでいいです!」
「これも計算のうちか……恐ろしい奴……」
睨み合うフェアリーテイルとセイバートゥースのメンバー達を見ながら呟くグレイだった。
-貴賓室
「星霊魔導士がいない!」
「医務室にいるようですな」
「貴様!また手荒なまねを……」
「いえ、あれは失策でした。次はもう少し確実な方法を取ります。今は祭を楽しみましょう…計画は三日後です」
「エクリプス…もはや止める術は無しか……」
「ゼレフ卿が待っておられるのでね……」
アルカディオスと別れたダートンは一つの絵の前で立ち止まる。
「大魔闘演武…かつては別の呼ばれかたをしていた……竜王祭。竜と人と魔の宴……」
そこには炎を吐く竜に魔法で対抗する人間の絵が飾られていた。
グレイさんがんばって!出番はあるよ!