妖精達と歩む大空   作:グリーン

25 / 90
物騒なタイトルになりました。


消えない憎しみ

―Bチーム観覧席

 

第三試合はミラジェーンの勝利に終わった。これでフェアリーテイルはバトルパート負けなしで三日目を迎えることになる。応援席の盛り上がりもすごいが、観客たちの反応も最初とは違いその人気はセイバートゥースに迫るほどになっていた。

 

「さて今日は残すところあと1試合だな」

 

「残っているのはセイバートゥースとマーメイドヒールね」

 

「セイバーが負けてくれるとこちらがトップのままなんですけどね……」

 

「さすがにそう上手くはいかねえんじゃねえか?」

 

「どうだろう……」

 

「ツナ、何かあるの?」

 

「それは……」

 

『さあ本日も残すはあと1試合!!本日の最終試合、マーメイドヒール カグラ・ミカヅチVS.セイバートゥース ユキノ・アグリア!これはまたしても美女対決となったー!!』

 

ツナが真剣な顔で闘技場を見つめる。正確にはマーメイドヒールのカグラを…いや彼女の持つ刀をみつめていた。

 

―あの刀…なんと言ったらいいのか怨みに染まってる気がする―

 

その刃を振り下ろす相手が誰なのか…ツナにもまだ分からなかった。

 

 

 

―闘技場

 

『グラビア対決はもうスないのかね?』

 

『個人的にはそれもありなのですが……』

 

『このCOOLな二人にそれを求めちゃだめだよな!!』

 

カグラはマーメイドヒール最強の魔導士であり週ソラの一押しの女性魔導士である。対するユキノは初出場ながらもセイバートゥースの一員として大会に出場しているので期待大だ。試合開始の銅鑼がなる。

 

「よろしくお願いいたします」

 

ユキノが頭を下げると、

 

「こちらこそ」

 

カグラも頭を下げる。ユキノからこれまでの試合にのっとり賭けをしませんかと誘いがかかる。しかしカグラは軽はずみな余興はしたくないと断る。…だがユキノの次の言葉に会場中がざわめきに包まれる。

 

「では重たくいたしましょう……命を賭けましょう」

 

「その覚悟が誠のものなれば受けて立つのが礼というもの。よかろう、参られよ」

 

会場のざわめきなど関係ないというようにユキノは金色の鍵を取り出す。ルーシィとアルカディオスが驚愕する。ユキノは星霊魔導士だった。

 

「開け双魚宮の扉…ピスケス!!」

 

二匹の巨大な魚が呼び出されカグラを襲うがカグラは軽やかにかわす。だがユキノはさらに鍵を取り出す。

 

「開け天秤宮の扉…ライブラ!!」

 

両手に天秤の皿を持った女性が呼び出される。その能力である重力変化でカグラの重力を操り地面にめり込ませようとする。その隙にピスケスが上空より襲い掛かる。黄道十二門を二体同時に使いこなすのは星霊魔導士としてのレベルが高い証拠だ。

 

しかしカグラは重力場から抜け出しピスケスの攻撃をかわす。それを見たユキノは切り札を切る決意をする。

 

「私に開かせますか……十三番目の門を」

 

 

―Bチーム

 

「あの人今十三番目の門って言いませんでしたか?」

 

「黄道十二門なんだろ?」

 

「もしかして……蛇使い座かな?」

 

「なんだそりゃ?」

 

「俺の世界でも少し前に十三番目の星座が見つかったんだよ」

 

その予想は正しく、ユキノは黒い鍵を取り出し蛇使い座の星霊であるオフィウクスを呼び出した。その魔力と迫力は他の星霊を圧倒している。

 

「あれが……蛇使い座の星霊?すごい魔力ね」

 

「……」

 

「どうしたんですか?ツナさん」

 

「それでもマーメイドの人が勝つよ」

 

「なんでだ?」

 

「命を簡単に投げ出すような人にあの人が負けるとは思えないからね」

 

試合に目を向けるとカグラが刀を抜きさえもせずにオフィウクスを切り裂いている。

 

「オイ!あいつ刀も抜かずに……」

 

「スゲェな」

 

「やっぱり強いな彼女……心…覚悟が。エルザに勝るとも劣らない」

 

 

-闘技場

 

「うそ……」

 

「安い賭けをしたな………人魚は時に虎を喰う」

 

すれ違い様にユキノに刀の鞘で強打したカグラが勝利を掴んだ。

 

「私が…敗北……セイバートゥースが……」

 

「命……そなたの命は私が預かった。よいな」

 

「はい……仰せの通りに……」

 

『これにて大魔闘演武二日目終了ーー!!まさかのセイバートゥース二日目0ptー!そしてトップがフェアリーテイル両チーム!!』

 

大歓声が会場を包む。フェアリーテイル応援席は大興奮状態だ。

 

二日目までの結果は以下の通りだ。

 

1位 フェアリーテイルA 22pt

1位 フェアリーテイルB 22pt

3位 セイバートゥース 20pt

3位 ラミアスケイル 20pt

5位 マーメイドヒール 19pt

6位 ブルーペガサス 17pt

7位 レイヴンテイル 16pt

8位 クワトロパピー 12pt

 

エルフマンとバッカスの賭けの結果クワトロケルベロスはこの大会中クワトロパピーとなった。

 

 

王国騎士団長アルカディオスは歓喜に包まれていた。

 

「星霊魔導士がもう一人いるとはなんという天運!計画はより確実なものとなる!」

 

 

ジェラールは試合会場だけでなく街中を調べながら疑問を感じていた。

 

「やはりおかしい……二日目が終了したというのに毎年感じるあの魔力を感知できていない」

 

 

-大魔闘演武二日目が終了。運命の日まであと5日-

 

 

 

-街の橋の下

 

昨日エルザに伝言を頼んでいたが今日の誘拐未遂事件のことをジェラールに話しておきたかったのでツナも同行することにした。

 

「ゴメンね二人の邪魔したみたいで」

 

「な……何を言うんだツナ!」

 

「何かあったのか?」

 

「ん~嫌な予感が城の方からするんだけどそれだけじゃなくてね……」

 

ツナは誘拐未遂事件とその背後にいるだろう存在についての予想を話す。

 

「背後に王国がいるかもしれないだと!?」

 

「王国か……しかしさすがに城の中は調べられないだろうな……」

 

「ウルティアの水晶で調べられないの?」

 

「難しいだろうな……魔法を防ぐ結界くらい張ってあるだろう」

 

「だよね……王城だし」

 

「しかし今回は俺達が毎年感じていたゼレフに似た魔力を感じていない……手掛かりのない状況ではツナの意見を元に動くのがいいかもしれないな」

 

「そうだな…ツナの勘はかなり当たるからな」

 

「やはり明日以降は主催者側を探ってみるとしよう」

 

「あまり目立った事はするなよ」

 

「分かっている。ウルティアには相当釘をさされた」

 

「あ、ジェラールちょっと待って」

 

そう言うとツナはボックスから一つの小箱を取り出してジェラールに手渡す。

 

「これは?」

 

「時間がなかったからあまり凝ったものじゃないけどケーキ作ったからウルティアとメルディと一緒に食べて。あまり街にも入らないなら甘いものが恋しいでしょ」

 

「そうか…二人も喜ぶ。ありがとう」

 

「相変わらず気遣いのできる奴だな」

 

「お休み。エルザ、ツナ」

 

ジェラールはそのまま去っていった。反対方向に歩き出すツナに、

 

「で…ケーキ、私の分は?」

 

「……もうないよ…」

 

「気遣いのできない奴だな……」

 

二人は一緒に歩き出す。

 

「遅くなってしまったな。さすがに宴会は終わっているか」

 

「今日も飲んでるんだよね。大会中なのに…」

 

「お前が言えたことか?昨日は凄まじい飲みっぷりだったじゃないか」

 

「ふふっ…カナはちゃんと約束守ってるかな?」

 

「しばらくしたら許してやれよ」

 

「分かってるよ」

 

他愛のない雑談をしているとマントを被った女がエルザに声をかける。

 

「や~っと見つけた!」

 

「誰だ」

 

「ウフフ……元気最強?エルちゃん久しぶり~」

 

マントを脱ぎさった女はエルザの知り合いだったらしい。よく見たらマーメイドヒールのマントを被っていた人だ。そのままエルザに抱きついてきた。

 

「会いたかった~!」

 

「あはは、ミリアーナ!」

 

再会を喜ぶ二人は近況を報告し合う。ツナはそのまま二人にしてやろうと思い声をかける。

 

「エルザ。二人でゆっくり話しなよ」

 

「すまんな、ツナ」

 

「ニャ!ネコネコの人だ~!」

 

「は…ネコ?」

 

「ミリアーナは無類の愛猫家でな…ナッツのことだと思うが……」

 

「ナッツはライオンなんだけどね…あと俺の名前はツナヨシだからね。ツナでいいよ」

 

「ツナ?魚?だからネコネコに好かれるの!?」

 

「いや意味分かんないよ!?」

 

「ねぇネコネコ出して」

 

「すまん…ツナ頼む」

 

マイペースなミリアーナに結局ナッツを出して公園で一緒に話すことになった。ミリアーナはナッツを抱きながら隣に座るエルザに、本当は優勝するまで秘密にしておくつもりだったが我慢できなくなって来たと話した。

 

「それにしてもお前のとこのカグラという者本当に強いな」

 

「そりゃそうだよ。本気になったらエルちゃんより強いかもよ~でもカグラちゃんツナのこともメチャクチャ強いって言ってたよ」

 

「ありがとう」

 

「でもカグラちゃんは大会中に本気になることはないかな?あの抜かずの剣・不倶戴天見たでしょ?」

 

「随分物騒な名前の刀だな」

 

「その名の通り本当に切るべき相手にしか抜かないと誓った剣なんだって……カグラちゃんの全てを奪った男…ジェラールを殺す為の剣」

 

「え?」

 

「分かるよ。エルちゃんだって同じ気持ちだよね……私もジェラールが憎い……私達を奴隷にしてシモンを殺したんだ。許せない…許せない。だからカグラちゃんのギルドに入ったの」

 

憎しみに歪んだミリアーナの顔をエルザは辛そうな顔で見るしかできなかった。その時ナッツが小さな声をあげる。

 

「ガゥ……」

 

「ニャ!ゴメンね怖がらせちゃった!?」

 

「気にしないで。コイツすごく怖がりなんだ」

 

「そうなの~?」

 

「戦闘の時は勇ましいんだけどね……エルザも知らなかっただろ?」

 

「あ、ああ……意外だな」

 

「ガウ!」

 

「ミリアーナのこと気に入ったみたいだね」

 

「ニャ!本当?」

 

「良かったな、ミリアーナ」

 

「うん!元気最強~!」

 

「「ハハハ……」」

 

エルザはどうにか笑顔を作りながら話を反らしてくれたツナとナッツに感謝した。心の中でミリアーナの憎しみをどうにかしたいと考えていた。

 

自分はジェラールを許すことができた。しかし他の者はどうだろう。どれだけ時間が過ぎても許すことができないのではないだろうか?

 

エルザにその答えは出せなかった…………

 

 

 




明日からまた仕事なのでまたちょこちょこ書いていきます。お気にいりが1000件越えてました。応援ありがとうございます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。