Ⅰ
さて。地獄の合宿を乗り越えた生徒達が心地よい疲労と充足感の中で最後の夜を楽しんでいる頃、薙切えりなは秘書である緋沙子と共にトランプに興じていた。
ゲーム内容はポーカー。チップをやり取りする降りた降りないの本格的なものではなく、一戦ごとに出来た役をただ競い合うだけの純粋な運勝負。これは心理戦に向かない主を想った従者のささやかな配慮だった。
その甲斐あってかその晩のえりなは珍しく連戦連勝。この結果には相手を務める緋沙子も内心で大いに喜んでいたのだが―――程なくして主の様子がいつもと異なることに気が付くこととなる。なんというか、暗いのだ。
日輪の様に光り輝く美しい御顔にはどこか影が差し、勝負に勝ってもいつも程大きくは喜ばない。余りえりなのことを知らない人間からすれば些細な変化かもしれない。
けれど毎日顔を合わせる緋沙子にとってはハッキリとした変化のように思えた。
「えりな様。もしかしてご気分が優れないのでしょうか?」
「えっ? そんなつもりはないけれど……どうしたの?」
「いえ。少し顔色が思わしくないように見えたものですから」
「そう。別にそんなことはないからカードを配ってちょうだい」
「ですが……いえ、すぐにカードをお配りいたします」
どこか腑に落ちない様子ながらも緋沙子は言いつけどおり2人分のカードを配った。
えりなは受け取った5枚のカードを顔の前で広げ、緋沙子には見えないようそっと息を零す。
……顔色が悪い……か。
緋沙子に言ったようにえりな本人としては気分が悪いつもりは全くなかった。生徒の中には連日の緊張から解放されたことで体調を崩す者も少なくないらしいが、地獄の合宿を所詮はこの程度と言い切るえりなにとっては他人事でしかない。
体調面は完璧。精神的にも多少苛立つことはあったにせよ特別問題はない。
……でも。
言葉に出来ない違和感を、心に小さな穴が空いているかの様な物足りなさを合宿の間感じているのもまた事実だった。えりなは二枚のカードをチェンジし、己の右隣にそっと視線を走らせる。ぽっかりと空いた無人の空間。
こうして部屋で緋沙子と共に遊戯に興じていると、どうしてもえりなはそこに一人の姿を求めてしまう。ある人物の姿を重ねてしまう。
……そういえばこの一か月、金一と会わない日は殆どなかったわね。
半ば無理やり薙切の離れに押し込んだ成果だろう。
真面目に学校に通わせるための苦肉の策は、結果的に二人が顔を会わせる機会を以前の何倍にも増やした。それこそ、一日として顔を見ない日はないぐらいに。
……たった数日顔を見ていないだけ。いえそもそも、金一がいないからって寂しいわけないじゃない。
そう、薙切えりなにとってそんなことはあり得ない。あり得る筈がないと首を横に振りカードをオープンしようとした、その時だった。
来客者を告げる部屋のベルが鳴ったのは。
こんな夜分に誰かしらとえりなが少し顔をしかめると、緋沙子が確認のために部屋につけられたインターホンへ向かう。通話ボタンを押してどちら様ですかと尋ねると、
『えりな~。遊びにきてあげたわよ~』
聞き覚えるある少女の明るい声が耳を打った。
えりなは思わずこめかみを抑えると、「ふ~」と大きなため息をついた。
「え、えりな様?」
「放っておきなさい」
「よ。よろしいのですか?」
「構いません」
ピシャりとした命令に従って緋沙子は通話を切る。
すると切ったインターホンからまた再びベルの音が室内に響いた。それを無視すると、今度はベル音の連打が二人を襲った。ジリリ、ジリリと絶えまなく続く電子音。どう取り繕っても愉快なものではない。
……我慢、我慢よ。
ここで出て行っては相手の思うツボと自分に言い聞かせること少し。
実際の時間以上に長く続いているように感じられたベル連打がようやく終わる。
えりなが「ほっ」と息を漏らした直後、ガンガンと直接ドアを叩く音が室内に木霊した。
もう、限界だった。
「あぁもう!」
「えりな様っ!?」
手にしていたカードを机に叩きつけ、えりなは自ら音のする入口へと向かう。
荒々しい感情そのままに重たい扉を開くとそこにいたのは、
「やっほ~、えりな!」
「……ども」
ドアに打ち続けていたであろう右手を上げたまま欠伸を噛み殺す長身の従者と、その背後で悪意のない笑みを浮かべる主の姿だった。
えりなは苛立ちを隠そうともせず従妹を睨みつけた。
「……なんのようかしらアリス? あんな力任せにドアを叩くなんていったいどういう―――」
「お邪魔するわよ~」
「あっ、まちなさいっ!」
止めるよりも早くアリスは器用に隙間を抜けてそのまま部屋の中へと入ってしまう。えりなが慌てて振り向くと、アリスは困惑する緋沙子をしり目に湖を一望できる窓際に立っていた。
「あら。私の部屋よりも良い眺めね。むぅ、えりなだけずる~い! リョウ君、あなたもそんな所に立ってないでこっちに来てみなさい。夜景が綺麗よ~」
「ちょっとアリス! なにを勝手に!」
「……お嬢。俺眠いんでそろそろ寝たいんですけど」
「ん~。いつもならダメっていう所だけど……いいわ! リョウ君とはもうたくさん遊んだし特別に許してあげるわっ! あっ。でも、明日はちゃんと私を起こしに来るのよ!」
「うっす」
そうして黒木場リョウはふらふらとした足取りで廊下の奥へと消えていく。アリスの従者とは言えあまりよく知らない異性を自分の部屋に上げずに済んだことにえりなは一先ずほっとしたが、最大の問題がまだ室内に残っている。
えりなは扉を閉めると、いつの間にか自分のベッドを占領する不届き者に眉を吊り上げた。
「アリス。あなたって人は―――」
「もぅ。えりなったらカリカリしちゃって! 金一君がいなくて寂しいのはわかるけど私にあたらないでちょうだい!」
「誰のせいだと思って――! それに金一がいなくたって寂しいなんてことあり得ません!」
「えー。本当に?」
「本当です! さぁわかったなら早く部屋を出て行って―――」
言い終えるよりも先にアリスはすっと真っ白な右手を突き出して続く言葉を制した。えりなが思わず口を閉じると、アリスはまるで童話に登場する同名の少女を彷彿とさせる可愛らしい笑みを魅せた。
「ねぇえりな、それに緋沙子も。久しぶりに三人でおしゃべりしましょう?」
◇
どうしてこうなったんだと、緋沙子は思った。
長かった合宿も終わり、これでようやくまた明日から金一兄様のお世話ができると胸を高鳴らせた合宿最後の夜。何やらえりなの様子が少しおかしいことから緋沙子としては早めにトランプを切り上げ、そのまま就寝の流れに持っていく予定だった。
ところがそんな彼女の計画を粉々に打ち壊す敵が現れた。
薙切アリスという天敵が。
最初は主のえりなと共に追い出すつもりだった。だがいつの間にかアリス特有のフリーダムな空気に呑まれ、あれよあれよと気が付けばこうしてベッドに三人仲良く座ったりしている。やっぱり苦手だと、緋沙子が再認識した瞬間だった。
とりあえず付き合うだけ付き合って早く帰ってもらおう。
そう思ったのはどうやら緋沙子だけではなかったらしく、半眼になったえりなが億劫そうに口火を切った。
「……それで。おしゃべりって今更何を話そうというんです? そんなの屋敷に戻ってからでいいじゃない」
「もう! えりなったら相変わらずわかってないわねっ! いい? こうやって大勢で旅行に来た時は同姓で集まってお話をするのが常識なのよ?」
「えっ? そ、そうなの緋沙子?」
「確かにそういうことが多いとは聞いたことがありますが……」
小さい頃からえりなと共に行動していたため、緋沙子も同年代の女子の行動―――それも特殊な状況下における集団行動にはかなり疎い。だからアリスが言うようにそれが常識かどうかまでは確信が持てなかった。
そんな戸惑う主従を見て、アリスはふふっと凹凸のついた綺麗な胸を張った。
「二人とも世間知らずねぇ。しかたないから旅行に行った時の常識を私が教えてあげるわっ! いい? まずはパジャマを着て誰かの部屋に集まった後、今みたいに同じ布団の上に座るの」
「パジャマって……私達浴衣じゃない。それに布団じゃなくベッドだし」
「いいのよ、そんな些細なことはっ!」
「はぁ。それで?」
「恋バナをするのよっ!」
「あ、アリスお嬢!?」
「コイ……バナ? それって確か『恋しよっ!』のマミコ達がやっていたような。あの時は確か―――っつ!?」
「あら? えりなも知ってたみたいね。そう、みんなで自分の好きな人について話すのよっ!」
アリスがそう宣言すると、えりなの顔が俄かに紅くなる。
そんな主の反応に緋沙子は「あぁ!」と短い悲鳴を上げた。
「えりな様っ! 何もそんな俗世間の色恋沙汰などに染まる必要はありませんっ! やはり今すぐにでもアリスお嬢にはお帰り願いましょう!」
「相変わらず過保護ねぇ、秘書子は」
「過保護で結構です! アリスお嬢! えりな様には恋愛などまだ早すぎますっ! 第一そういう話は好きな人が出来てからするものですっ!」
「ふ~ん。好きな人が出来てからねぇ」
「そうです! ですからもうお引き取りを―――」
「ねぇ、えりな。あなた、好きな人いる?」
「アリスお嬢っ―――!」
外野の声などなんのその。アリスは固まるえりなに顔を寄せると、大きなアメジストの瞳を覗き込んで問いかけた。
好きな人はいるのか、と。
対して問いかけられたえりなは、いつもの余裕をなくして赤い頬を更に深紅へと染めた。
「そ、そんなのいるわけないじゃない!」
「本当に?」
「え、えぇ!」
「じゃあ金一君は好きじゃないの?」
「っつ!?」
率直な質問にえりなの身体が強張る。
不自然な数秒の空白の後、えりなは「ふんっ」と顔を背けた。
「す、好きじゃないわよっ! 金一なんて!」
「へ~」
「気が付いたらすぐにいなくなっているし、いつもいつも私を子供扱いするし、緋沙子とばかり電話しているし! えぇそうですっ! 金一のことなんて好きじゃありませんっ!」
「えりな様……」
それが本心でないことは誰の目から見ても明らかだった。緋沙子がどう言葉を賭けて良いか迷っていると、ふ~んとアリスがとんでもない爆弾を放り込んだ。
「じゃあ私がもらってもいいのよね?」
「えっ?」
ぽかんと、珍しくえりなは間抜けた声を出した。
いったい何を言っているのかわからない、そんな顔だった。
そしてそれはまた緋沙子も同様。主従揃って状況についていけず呆然としていると、爆弾を放り込んだ張本人はだからぁと可愛らしく頬を膨らませた。
「えりなは好きじゃないんでしょ、金一君のこと? だったら私が貰っても問題ないじゃない」
「な、なにを言って……」
「問題大ありです! なぜアリスお嬢が金一兄様をっ!」
「だって好きだもの」
この上なくあっさりと、銀色のお姫様は己の想いを口にした。えりなも緋沙子も身動きどころか声すら出せずに硬直する中、アリスはゆっくりと瞼を閉じる。
「まぁこの気持ちが本当に恋なのかはわからないのだけれど、金一君を好きっていう気持ちは本物よ。これから一緒にいたいって思うのも」
そう語るアリスの横顔はとても綺麗で。
自然と目を奪われていた緋沙子は脳内に響く警鐘でハッと我に返った。
これは駄目だ。
漠然としながらも確たる形を持った不安が震える彼女の口を無理やり動かした。
「あ、アリスお嬢には黒木場がいるではありませんかっ!」
「確かにリョウ君も大好きよ。大切な家族ですもの」
「でしたらっ!」
「でも金一君は家族じゃない。家族以外で一緒にいたいって思った“他人”なの。ねぇ秘書子、この気持ちってなんだと思う?」
「それは……」
緋沙子は答えることが出来なかった。
もしも答えてしまえばきっと彼女が抱く感情の正体をハッキリとさせてしまうと思ったから。恐れたのだ。目の前の少女が自身の感情を自覚してしまうことを。ブレーキを知らない薙切アリスに“目的地”を与えてしまうことを恐怖したのだ。
アリスは何も言葉を発さない緋沙子から視線を切ると、再び未だ呆然としたままのえりなへと向き直る。
「ねぇえりな。もう一度だけ聞くけど金一君のこと、好き?」
「わ、私は―――」
Ⅱ
「わ、私は―――」
そう切り出したものの、えりなは続く言葉を持ってはいなかった。
わからなかった。
薙切えりなが堂島金一をどう思っているのかなど。
料理に関することならこんな風に迷ったことなどなかった。ただただ己の舌が感ずるままに進めばよかった。でも今直面している難題に対して“神の舌”は余りにも無力。
……私が金一のことを…好き?
日本語の好きには大きく分けて二つの意味がある。
友愛や敬愛の意味を持ったLikeと、少女マンガに登場するような“恋”や“愛”としてのLove。もしも問いかけられた『好き』が前者を意味しているのなら、えりなは何だかんだ否定しつつも最後にはそれを認めただろう。
けれど実際にアリスが尋ねているのは間違いなく後者の方。
それぐらいは世間の常識に疎いえりなにもわかった。
わかってしまうからこそ余計に、
……わからない。
深く考え込みすぎて純粋な自分の気持ちが見えなくなってしまう。
色々な情報が頭の中を錯綜しすぎて処理が追いつかなくなってしまう。
少女漫画(それも極めてプラトニックな)という外付けの知識しか持たないえりなには、己が抱いているこの感情が恋なのか、それとも違うのかなど判別出来ようはずもない。
しかしここで曖昧な答えを返せばきっとアリスは有言通り金一を奪おうとするだろう。その時、えりなには彼女に対峙するだけの明確な標がない。
だから今、否が応でも向き合うしかない。
自分の本当の想いに。
……金一は私にとっての幼馴染で―――
幼馴染で、なんだろうか?
ただの先輩―――ではもちろんない。
兄貴分――――でもない。
家族――――とも少し違う。
猶予はそう長くない。
大して暑くもないのに喉が渇き、心臓の鼓動が速くなる。
ぎゅっと浴衣の胸元を握りしめてえりなは己の中に埋没した。
外界の情報が閉ざされた世界に蘇るのは過去の記憶。この遠月リゾートで薙切えりなと堂島金一が出会ってから積み重ねてきた7年間にも及ぶ思い出がまるで走馬灯のように駆け巡っていく。最初は嫉妬だった。でも次第にそれは興味となり、いつの間にか信頼へと変わっていた。
これまで振る舞ってくれた料理の味をこの舌が覚えている。
見せてくれた明るい笑顔をこの目が焼き付けている。
お嬢と呼んでくれた親しげな声をこの耳は残している。
堂島金一という全てを、薙切えりなは覚えている。
……そう。そうだったわね。
いったい何を悩んでいたのだろうか。
薙切えりなが堂島金一をどう思っているのかなど、至極簡単ではないか。
えりなは自身の迷走っぷりにくすりと小さく笑みを漏らし、晴れ晴れとした顔でアリスと向き合う。
「私は―――金一のことなんて好きじゃないわ」
断言すると、アリスは眼を瞬かせた。
そう来るとは思わなかったと、ハッキリ顔に書いてある。
「……意外ね。まぁでも、これで私が金一君をもらっても問題ないわね?」
「ダメよ。アリスには絶対に渡さないわ」
「へ?」
「だって金一は私のモノですもの」
まぁ詰まるはなし、薙切えりなはやっぱり薙切えりなだったのだ。
わがままで意地っ張りで嫉妬深くて、そして捻くれ者なお嬢だったということ。
ふふんと自信満々に暴論を吐いたえりなに、アリスは珍しく呆然としながら「はぁ」とため息をついた。
「もうえりなったら。小さい頃から何も変わってないじゃない。相変わらず憎たらしいこと」
「なんとでも言うがいいわ。私は絶対に金一を離さない」
「そう……あーあ。なんだか負けた気分になったみたいじゃない。でもいいわ。せっかく面白いものが録れたんですもの」
「面白いもの? とれた?」
何のことかしらとえりなが首を傾げていると、アリスは自分の浴衣の袖口をごそごそと漁る。抜かれたその細い指先に挟まれていたのは長細いスティック状の機械。
「ボイス……レコーダー? ってアリス! あなたまさかっ!?」
「ふふ。『金一は私のモノです』。予定していたものとは違ったけれど、これはこれで面白い音声が録音出来たわ!」
「じゃあもしかして、さっきまでのあなたの発言は……」
「前に見た映画を参考にしたのだけれどどうだったかしら? リョウ君には中々いい演技だって褒められたんだけど」
「あ、アリスっ!!」
「それじゃあごめんあそばせ。おほほほ」
上品な笑い声を置き土産にアリスはそそくさと逃げるように部屋を後にした。
えりなは一瞬腰を浮き上がらせたものの、すぐに自分の足では追いつけないと気付いてぐったりとベッドに倒れ込む。たった十分足らずの出来事だったというのに、昼間の課題とは比較にならない疲労が華奢な体には刻まれていた。
「まるで台風ね……ふぅ、緋沙子。私は疲れたから今日はもう休みます。あなたもそう遅くならない内に横になりなさい」
すぐ隣に座る従者にそう声をかけるもいつもの様に了解の返事が返ってこない。
気になって顔を向けてみれば、そこにはアリスが出て行ったドアをじっと見つめる緋沙子の姿があった。
「緋沙子? どうかしたかしら?」
「あっ! いえ、なんでもありません。すぐにご就寝の準備に移ります」
「そう。お願いね」
「はい。えりな様」
◇
えりなの部屋を出た後、見事に目的を果たしたアリスはいつにも増してご機嫌な顔で無人の廊下を歩いていた。淡い色の絨毯を踏みしめる足取りはどこまでも軽く、緩んだ口元からは鼻歌さえ零れ落ちる。
まるでこの世の春でも謳歌しているかのような振る舞いで角を右に曲がった彼女は、エレベーターの前で大きな欠伸をしている少年を見つけた。アリスはにんまりと人の悪い笑みを浮かべると、自分の部屋で寝ている筈の従者に声をかけた。
「あらリョウ君。部屋で寝てるんじゃなかったの?」
「……お嬢がここで待ってろって言ったんでしょ?」
「ふふ、冗談よ冗談よ」
男がいるとえりなが変に警戒してボロを出さないかもという理由で、アリスは黒木場を部屋に戻した振りをしてここに待機させていた。明るい主の顔に黒木場はどことなく結果を察しつつも一応は聞いてみることにした。
「んで、どうだったんすか?」
「それが聞いてよリョウ君! えりなったら見事に私の演技に引っかかったのよ! ふふっ、これでしばらくえりなをからかえる材料が手に入ったわ」
「そりゃ良かったすねー」
それでこそ昨晩消灯時間を過ぎてもアリスの演技の練習に付き合わされた黒木場の苦労も報われるというもの。主の一方的なマシンガントークに曖昧な相槌を打ちながら、黒木場はエレベーターのボタンを押した。
「あっ。そういやお嬢、聞きたいことがあったんですけどいいっすか?」
「ん? なにかしら?」
「昨日のあれって本当に演技だったんすか?」
「もうリョウ君ってば! 主の私を疑うの?」
「……いや別にそういうわけじゃないっすけど。なんか妙に力が入ってたなぁって」
「演技よ演技。えりなの反応を見るためのお芝居よ」
――――少なくとも今はまだ、ね。
色々と急展開。正直急すぎたようにも思いますが、特にブログで反応がなかったのでそのまま掲載することにしました。
というかここら辺で変化を与えないといつまで経っても終わらないという……
追伸 最近ファフナーにはまっています。ただ周りで語れる人が誰もいないという……