ハイスクールD×D~アルギュロス・ディアボロス~ 作:Mr.エメト
「そろそろ時間ね」
リアスがそう言って立ち上がる。
ディオドラとの戦う日、鋼弥達はオカルト研究部の部室に集まっていた。
アーシアはシスター服、ゼノヴィアは黒いボンテージ風の戦闘服、鋼弥は黒いマントを身に纏っている。
◇◆◇◆
目を開けて視界に飛び込んで来たのはとてつもなく広い場所だった。
ギリシャにありそうな神殿の様な風景で、後方に入り口があった。
「・・・おかしいわね」
リアスが怪訝そうに言う。
他のメンバーも訝しげに思っていると、神殿とは逆方向に魔方陣が出現する。
しかも、1つだけじゃなく辺り一面、鋼弥達を囲うように。
「これは・・・アスタロトの紋様じゃない!」
祐斗が剣を構え、朱乃も手に雷を走らせる
「魔方陣全て共通性はありませんわ。ただ――――」
「全部、悪魔。しかも記憶が確かなら『禍の団』の旧魔王派に傾倒した者達よ」
魔方陣から大勢の悪魔が現れたのだ。
それだけではなく上空から白い巨鳥の群れで向かってきたのだ。
鋼弥はその姿を確認すると、口を開く
「あれは、ルフ。そうか、ここにいる連中はおそらく――――――」
「忌々しき偽りの魔王の血縁者、グレモリー。ここで散ってもらおう」
悪魔の1人がリアスに挑戦的な物言いをする。
その数秒後、突然アーシアの悲鳴が聞こえた。
振り向いても、そこにアーシアはいない。
「イッセーさん!」
空から聞こえてきた声、上を見るとアーシアを捕らえたディオドラの姿が・・・。
「やあ、リアス・グレモリー。そして赤龍帝。アーシア・アルジェントはいただくよ」
「アーシアを放せ!このクソ野郎!卑怯だぞ!ゲームをするんじゃないのかよ!?」
一誠の叫びにディオドラは醜悪な笑みを見せる
「バカじゃないの?最初からゲームなんてしないさ。
キミ達はここで彼ら『禍の団』のエージェント達とゾロアスターの悪魔によって八つ裂きにされるのさ」
「ディオドラ。あなた、『禍の団』だけでなくゾロアスターとも通じたと言うの?
最低だわ。しかもゲームまで汚すなんて万死に値する!!
何よりも私の可愛いアーシアを奪い去ろうとするなんて・・・!!」
リアスの怒りによって、真紅のオーラが一層盛り上がる
「彼らと行動した方が、僕の好きな事を好きなだけ出来そうだと思ったものだからね。
ま、最期の足掻きをしていてくれ。僕はその間にアーシアと契る。
意味は分かるよね赤龍帝。僕はアーシアを自分のものにするよ。
追ってきたかったら、神殿の奥まで来てごらん。素敵なものが見られる筈だよ」
「一誠!アスカロンを!」
「おう!」
ゼノヴィアの呼び掛けに反応した一誠は籠手を出し、先端から聖剣アスカロンを取り出してゼノヴィアに渡した。
「アーシアは私の友達だ!お前達の好きにはさせん!」
ゼノヴィアはディオドラに向かってジャンプをして、斬りかかろうとする。
しかし、ディオドラの手から魔力弾が放たれゼノヴィアが直撃して落とされた。
「イッセーさん!ゼノヴィアさん!」
助けを請うアーシアだったが無情にも空間が歪み、次第にアーシアとディオドラは姿を消した。
「アーシアァァァアアアアアアッ!」
「一誠くん!今は目の前の敵を片付けるのが先だ!」
祐斗は一誠に檄を入れる。一誠も頷いて囲っている悪魔の軍勢と対峙する。
業魔化身を使おうとしたが、鋼弥は何かの気配に気付く。
ローブ姿の隻眼の老人が朱乃のスカートを捲ろうとしていた。
鋼弥は、老人の頭を掴みギリギリと強める。それに気が付いたのか、朱乃が振り向く。
「え、鋼弥さん!?」
「なにをしているのですかな?オーディン殿?」
「少しは老人労らんかい。減るもんじゃあ・・・イタタタタタッ!!」
朱乃のスカートを捲ろうとした老人の正体は、北欧の主神オーディンだった。
鋼弥はオーディンの頭を離して、朱乃を庇い立つ。
「朱乃は俺のものだ。例え、主神でも許さん」
「鋼弥さん・・・」
少し頬を赤くする朱乃、リアスはオーディンに聞く
「オーディン様!どうしてここへ?」
「ほっほっほっ、ワシだけじゃないぞ」
オーディンがそう言うと、見覚えのある赤い帽子の男と白い髪の女性がいた。
「ドルキー、リオ、お前達も来たのか!!」
「ああ、俺はヘル様の命令でオーディンの護衛をして欲しいと頼まれてな。
リオも鋼弥達が心配だかと言って、後を付いてきたんだよ。これがな」
ドルキーの説明にオーディンが髭を擦りながら言う
「今、運営側と各勢力の面々が協力態勢で迎え撃っとる。
まぁ、ディオドラ・アスタロトが裏で旧魔王派とゾロアスターの手を引いていたのまでは判明しとる。
先日の試合での急激なパワー向上もオーフィスに『蛇』でも貰い受けたのじゃろう。
だがの、このままじゃとお主らが危険じゃろ?救援が必要だった訳じゃ。
しかし、このゲームフィールドごと強力な結界に覆われててのぅ、そんじょそこらの力の持ち主では突破も破壊も難しい。
特に破壊は厳しいな、内部で結界を張っているものを停止させんとどうにもならんのじゃよ」
「じゃあ、爺さんとドルキーとリオさんはどうやってここに?」
「ミーミルの泉に片方の目を差し出した時、
ワシはこの手の魔術、魔力、その他の術式に関して詳しくなってのぅ。
結界に関しても同様。こっちの二人はワシと一緒についてきただけじゃ」
オーディンが左の隻眼を見せると、そこには水晶が埋め込まれ、目の奥に輝く魔術文字が浮かんでいた。
ありとあらゆる知恵と知識を得るために片目を差し出して、英知を手に入れたのだ。
そのため、魔術にも長けている神として君臨しているのだ。
「相手は北欧の神だ!!討ちとれば名が揚がるぞーーー!!」
旧魔王派の悪魔達がオーディンに攻撃を仕掛けた。
オーディンは杖をトンッと地に突き、ドルキーは小型の竜巻を放つ。
ボボボボボボボンッ!!
向かってきた無数の魔力弾がが弾け飛んだのだ。
「本来ならば、わしの力があれば結界も打ち破れる筈なんじゃがここにいるだけで精一杯とは・・・。
はてさて、相手はどれ程の使い手か。これをとりあえず渡すようアザゼルの小僧から言われてのぅ。
まったく年寄りを使いに出すとは、あの若造はどうしてくれるものか・・・」
オーディンはグレモリー眷属人数分の小型通信機を渡す。
「ここはこのジジイと風小僧と眼鏡のお嬢ちゃんに任せて神殿の方まで走れ。
ジジイが戦場に立ってお主らを援護すると言っておるのじゃ。めっけもんだと思え」
オーディンが杖を鋼弥達に向けると、薄く輝くオーラが発生する。
「それが神殿までお主らを守ってくれる。ほれほれ、走れ走れ」
「でも、たった3人で大丈夫なのかよ!」
一誠が心配を口にするが、オーディンは愉快そうに笑い、ドルキーは帽子を直し、リオは杖を構える。
「まだ十数年しか生きていない赤ん坊が、わしを心配するなぞ―――――」
「フッ。心配性だな、ブラザー」
「私達は負けません」
オーディンの左手に槍が出現し、ドルキーの両手に風が渦巻き、リオの杖先から雷が奔る。
「グングニル」
「"
「マハジオダイン!!」
悪魔達に向かって槍から極大のオーラが放出、無数の風の刃、凄まじき雷雨が放たれ薙ぎ払った。
三人の実力に我が目を疑う、一誠だった。
「なーに、ジジイもたまには運動しないと体が鈍るんでな。さーて、テロリストども。
全力でかかってくるんじゃな。この老いぼれは想像を絶する程強いぞい」
三人の強さに悪魔達は容易に攻め込まなくなった。
一誠達は神殿へと走り出すが、鋼弥は振り向いて、ドルキーとリオに言葉を贈る。
「ドルキー、リオ。気をつけろよ」
「さっさとディオドラを捕まってきな。俺たちが負けない事はよく知っているだろ?」
「私達の事は大丈夫です。急いでアーシアさんを救出してください」
鋼弥も神殿の方へ走り出し、見届けたオーディン、ドルキー、リオは再びテロリスト軍団と対峙する。
◇◆◇◆
神殿の入り口に入り、全員がオーディンから貰った通信機を耳に付ける
『無事か?こちらアザゼルだ。オーディンの爺さんから渡されたみたいだな。言いたい事もあるだろうが、まずは聞いてくれ。
このレーティングゲームは禍の団の旧魔王派の襲撃を受けている。
そのフィールドも、近くの空間領域にあるVIPルーム付近も旧魔王派の悪魔だらけだ。
禍の団は予測していたが、ゾロアスターまで結託して攻め込んでくるのは予想外だった。
現在、各勢力が協力して連中を撃退している』
オーディンの報告通り、観戦側にも敵が乗り込んでいるようだ。
『最近、現魔王に関与する者達が不審死するのが多発していた。裏で動いていたのは禍の団の旧魔王派。
グラシャラボラス家の次期当主が不慮の事故死をしたのも実際は旧魔王派の連中が手にかけてたって訳だ』
グラシャラボラスの家柄の関係者は『禍の団』の旧魔王派に殺されたと言う事だ。
『首謀者として挙がっているのは旧ベルゼブブと旧アスモデウスの子孫だ。
捕まえたカテレア・レヴィアタンが同じだった様に、旧魔王派の連中が抱く現魔王政府への憎悪は大きい。
このゲームにテロを仕掛ける事で世界転覆の前哨戦として、現魔王の関係者を血祭りにあげるつもりだったんだろう。
現魔王や各勢力の幹部クラスも来ている。襲撃するのにこれ程好都合なものはない。
ゾロアスターの連中も禍の団に兵力を貸したんだと思う。
先日のアスタロト対大公アガレスの一戦からも今回の件を予見出来る疑惑は生じていたんだよ』
グレモリー眷属の試合は最初から旧魔王派に狙われていた。
ゾロアスターは邪魔ものである鋼弥もろとも葬る機会とみて今回の事件を起こした。
ターゲットはそれだけではなく、現魔王とその血縁者、観戦に来ていた各勢力のボス達を狙いに来たという訳だ。
「やはり、ディオドラが急激に強くなったのはカテレアと同じ・・・」
『オーフィスの力を借りたんだろう。
最も、ディオドラがそれをゲームで使った事は奴らも計算外だったろうな。
グラシャラボラス家の一件と併せて、今回のゲームで何か起こるかもしれないと予見が出来たんだ。
しかし、奴らは作戦を途中で覆さず所か、またゾロアスターの力を借りやがった』
ディオドラは『禍の団』のトップの力でパワーアップして試合に勝った。
互いの実力を出し合い、正々堂々のゲーム試合を汚すとは本当に卑劣な悪魔だ。
『あっちにしてみればこちらを始末出来ればどちらでも良いんだろうが、俺逹としてもまたとない機会だ。
今後の世界に悪影響を出しそうな旧魔王派を一気に潰すにはちょうど良い。
最もゾロアスターの幹部の姿を見せてないのは残念だが仕方ない。
現魔王、天界のセラフ逹、オーディンのジジイ、ギリシャの神々、帝釈天とこの仏どもも出張ってテロリスト共を一網打尽にする寸法だ。
事前にテロの可能性を各勢力のボスに極秘裏に示唆して、この作戦に参加するかどうか聞いたんだがな。
どいつもこいつも応じやがった。どこの勢力も勝ち気だよ。今全員、旧魔王派達と暴れてるぜ』
「・・・このゲームは完全にご破算って訳ね」
『悪かったな、リアス。戦争なんてそう起こらないと言っておいて、こんな事になっちまっている。
今回、お前逹を危険な目に遭わせた。一応、ゲームが開始する寸前までは事を進めておきたかったんだ。
奴らもそこで仕掛けてくるだろうと踏んでいたからな。案の定その通りになったが、お前逹を危ない所に転送したのは確かだ。
この作戦はサーゼクスを説得して、俺が立案した。どうしても旧魔王派の連中をいぶり出したかったからな』
「最初から俺たちを餌にして、それを解ってて実行したという事か。仮に失敗したら、どうする気だ?」
『・・・俺もそれ相応の責任を取るつもりだった。俺の首で済むならそうした』
「先生、アーシアがディオドラに連れ去られたんです!」
『――――そうか、どちらにしてもお前逹をこれ以上危険な所に置いておく訳にはいかない。
アーシアは俺達に任せておけ、そこは戦場になる。どんどん旧魔王派の連中と魔界の魔獣が魔方陣で転送されてきているからな。
その神殿には隠し地下室が設けられている。かなり丈夫な造りだ。戦闘が静まるまでそこに隠れていてくれ。後は俺達がテロリストを始末する。
このフィールドは禍の団の所属の神滅具所持者が作った結界に覆われているために、入るのは何とか出来るが出るのは不可能に近いんだよ。
神滅具の「
術に長けたオーディンでも破壊出来ない代物だ』
「先生も戦場に来ているんですか?」
『ああ、同じフィールドにいる。かなり広大なフィールドだから、離れてはいるが・・・』
「・・・アーシアは俺達が救います」
「一誠、これはゲームではなく、本物の戦場となった。リタイヤ転送も無い、アザゼルは俺達を助ける手段も無いということだ」
鋼弥は魔界でハンターをしていた為、命懸けの戦場を一番よく知っている。
それは、常に死と隣り合わせの危険な世界だ。しかし、一誠には諦めの文字は微塵も無い。
「それでも、アーシアは俺の仲間だ!家族なんだ!助けたいんだ!俺はアーシアを失いたくない!」
一誠の覚悟を聞いた鋼弥とアザゼル。リアスが不敵な笑みで言う。
「アザゼル先生、悪いけれど私達はこのまま神殿に入ってアーシアを救うわ。
ゲームはダメになったけれど、ディオドラとは決着をつけなくちゃ納得出来ない。
私の眷属を奪うと言う事がどれ程、愚かな事か、教え込まないといけないのよ!」
「アザゼル先生?私達、三大勢力で不審な行為を行う者に実力行使する権限があるのでしょう?
今がそれを使う時では?ディオドラは現悪魔勢力に反政府的な行動を取っていますわよ?」
「・・・これでも反対するか?」
『・・・ったく、頑固なガキどもだ。今回は限定条件なんて一切無い。
だからこそ、お前逹のパワーを抑えるものなんて何も無い。存分に暴れてこい!
特にイッセーと鋼弥!赤龍帝と銀流星の力を裏切り小僧のディオドラに見せつけてこい!』
「オッス!」
「任せろ」
『最後にこれだけは聞いていけ、本当に大事なことだ。
奴らはこちらに予見されている可能性も視野に入れておきながら事を起こした。
多少敵に勘付かれても問題の無い作戦でもあると言う事だ』
「つまり、相手の方にも隠し球があるというわけか・・・」
『ああ、それが何かはまだ分からないがこのフィールドが危険な事に変わりはない。
鋼弥の言う通り、ゲームは停止している以上リタイヤ転送は無い。
危なくなっても助ける手段は無いから肝に銘じておけ。――――充分に気をつけてくれ』
ここでアザゼルからの通信が切れる。
敵は自信があるから、今回のテロが予想されていても強引に仕掛けてきた。
何をしでかすかも分からないが、アーシアを助けなければならない事だけは理解出来る
「小猫、アーシアは?」
「あちらからアーシア先輩とディオドラ・アスタロトを感じます」
全員が無言で頷き合い、神殿の奥へ向かって走り出す。