ハイスクールD×D~アルギュロス・ディアボロス~   作:Mr.エメト

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第二話 =ディオドラ・アスタロト=

リアスは部員全員+鋼弥とリオが集まった事を確認すると、記録メディアを取り出した

 

「若手悪魔の試合を記録したものよ。私達とシトリー眷属のものもあるわ」

 

眼前に巨大なモニターが用意され、アザゼルがその前に立って言う

 

「お前ら以外にも若手達はゲームをした。大王バアル家とグラシャラボラス家、大公アガレス家とアスタロト家。

 それぞれがお前らの対決後に試合をした記録映像だ。ライバルの試合だから、よーく見ておくようにな」

 

アザゼルの言葉に皆が真剣に頷き、まずはサイラオーグとグラシャラボラス家のゼファードルの勝負だ。

その映像で見たのは圧倒的な力だった。

ゼファードルの繰り出す攻撃全てがサイラオーグに弾かれ、サイラオーグの拳が相手の防御術式を破壊していく。

更にサイラオーグは拳と蹴りしか使っていない。

 

「凶児と呼ばれ、忌み嫌われたグラシャラボラスの新しい次期当主候補がまるで相手になっていない。ここまでのものか、サイラオーグ・バアル」

 

祐斗はあまりの光景に目を細めた。

驚くべき事なのは、サイラオーグは拳と蹴りで戦っていたのだ。

映像だけ見ても、強いと言う気迫を感じる。

 

「そういや、あのヤンキー悪魔ってどのぐらい強いんですか?」

 

一誠の問いにリアスが答える

 

「今回の六家限定にしなければ決して弱くはないけど、前次期当主が事故で亡くなっているから、彼は代理と言う事で参加している訳だけれど・・・」

 

「若手同士の対決前にゲーム運営委員会が出したランキングでは、

 1位がバアル、2位がアガレス、3位がグレモリー、4位がアスタロト、5位がシトリー、6位がグラシャラボラスでしたわ。

 『王(キング)』と眷属を含み平均で比べた強さランクです。

 それぞれ、一度手合わせして、一部結果が覆ってしまいましたけれど・・・」

 

「このサイラオーグだけは、桁違いに強いのか。前に戦ったライザー・フェニックスより強いのか?」

 

「両者がやってみないと分からないけれど、私の贔屓目で見てもサイラオーグの方が強い気がするわ」

 

次にアザゼルが各勢力のパラメーターを表したグラフを出す。

グラフはパワー、テクニック、サポート、ウィザード、『キング』と表示された。

最も注目したのはサイラオーグのパワーだ、どんどんグラフは伸びていき、部室の天井にまで届いた。

 

「パワーの一点に伸ばしですね。サイラオーグ以外の中で一番パワーがあるゼファードルの数倍はあります」

 

「やっぱ天才なんスかね?このサイラオーグさんも?」

 

「いや、サイラオーグ・バアルはバアル家始まって以来の才能が無かった純血悪魔だ。

 バアル家に伝わる特色の1つ、滅びの力を得られなかった。

 滅びの力を強く手に入れたのは従兄弟のグレモリー兄妹だったのさ。

 それにサイラオーグは、家の才能を引き継ぐ純血悪魔が本来しないものをして、天才共を追い抜いたのさ」

 

「本来しないもの?」

 

アザゼルは真剣な面持ちで言い放った。

 

「それは、凄まじいまでの修業だよ。サイラオーグは尋常じゃない修練の果てに力を得た稀有な純血悪魔だ。

 あいつには己の体しか無かった。それを愚直なまでに鍛えたのさ」

 

殆どの上級悪魔は才能に恵まれていたが、サイラオーグだけは才能に恵まれていなかった。

若手悪魔ナンバー1でいられるのは、徹底的に行った修練の賜物なのだ。

 

「奴は生まれた時から何度も何度も打倒され、敗北し続けた。

 華やかに彩られた上級悪魔、純血種の中で泥臭いまでに血まみれの世界を歩んでる野郎なんだよ。

 鋼弥、リオ、お前らと似たようなものかもな」

 

「才能が有ろうが無かろうが己の体力と拳を鍛える。サイラオーグは圧倒的な破壊力と強靭な精神力を身に付けた」

 

結果はサイラオーグの圧勝で、アザゼルは静まり返る空気の中で言った。

 

「先に言っておくが、お前ら、ディオドラと戦ったら次はサイラオーグだぞ」

 

「マジっスか!」

 

一誠が驚くのも無理はない、相手は若手悪魔の最強。

しかし、戦うには早すぎると思うぐらいである。

 

「少し早いのではなくて?グラシャラボラスのゼファードルと先にやるものだと思っていたわ」

 

「奴はもうダメだ。ゼファードルはサイラオーグとの試合で潰れた。

 あの戦いで心身に恐怖を刻み込まれたんだよ、もう奴は戦えん。

 サイラオーグはゼファードルの心を精神まで断ってしまったのさ。

 だから残りのメンバーで戦う事になる。若手同士のゲーム、グラシャラボラス家はここまでだ」

 

フェニックス家の特徴である不死身でも、いずれは精神崩壊する。

鋼弥は一度は追い詰めたが、サイラオーグほどの気迫はなかった。

 

「お前らも充分に気をつけておけ、あいつは対戦者の精神も断つ程の気迫で向かってくるぞ。

 あいつは本気で魔王になろうとしているからな。そこに一切の妥協も躊躇も無い」

 

アザゼルの忠告を全員が染み込ませる様に受け止め、リアスは深呼吸した後、改めて言う

 

「まずは目先の試合ね。

 今度戦うアスタロトの映像も研究の為にこの後見るわよ。

 対戦相手の大公家の次期当主シーグヴァイラ・アガレスを倒したって話だもの」

 

「大公が負けた?あそこも見た限り、実力は中々あるはずだが・・・」

 

「私達を苦しめたソーナ達は金星、2位のアガレスを打ち破ったアスタロトは大金星と言う結果ね。

 悔しいけれど、所詮対決前のランキングはデータから算出した予想に過ぎないわ。

 いざ、ゲームが始まれば何が起こるか分からない。それがレーティングゲームよ。

 でも・・・アガレスが負けるなんて、何処かおかしいわね」

 

そう言いながらリアスが次の記録映像を再生させようとした時、部室の片隅で転移用魔方陣が展開した

 

「――――アスタロト」

 

朱乃がぼそりと呟き、部室の片隅に爽やかな笑顔を浮かべる優男が現れた

 

「ごきげんよう、ディオドラ・アスタロトです。アーシアに会いに来ました」

 

 

◇◇◇◇

 

 

部室のテーブルにリアスとディオドラ、顧問としてアザゼルも座り、朱乃がお茶を淹れてリアスの傍らに待機する。

他の皆は部室の片隅で待機しているが、何処と無くライザーの時と似ている雰囲気を醸し出している。

 

「リアスさん、単刀直入に言います。『僧侶(ビショップ)』のトレードをお願いしたいのです」

 

トレードとは『王(キング)』同士で駒となる眷属を交換出来るルールの1つで、同じ駒同士なら可能なシステムだ。

以前、冥界パーティで出会ったレイヴェルの言葉を思い出す。

 

「いやん!僕のことですか!?」

 

「んな訳ねぇだろ、ヘタレ女装」

 

一誠はギャスパーの頭を軽く叩く。

ディオドラが欲しがる『僧侶(ビショップ)』は十中八九アーシアの事だ。

聞いた瞬間から、アーシアは一誠の手を強く握っている。

嫌だと言う主張の表れであろう。

 

「僕が望むリアスさんの眷属は『僧侶』のアーシア・アルジェントです」

 

ディオドラはなんの躊躇いなくアーシアを選択した。

 

「こちらが用意するのは―――――」

 

ディオドラが自分の下僕が載っているカタログらしきものを出そうとしたが、リアスは間髪入れずに言う

 

「・・・だと思ったわ。けれど、ゴメンなさい。

 その下僕カタログみたいなものを見る前に言っておいた方が良いと思ったから先に言うわ。

 私はトレードをする気は無いの。あなたの『僧侶』と釣り合わないとかそういう事ではなくて、

 単純にアーシアを手放したくないから。私の大事な眷属悪魔だもの」

 

真っ正面からリアスは言い放ったが、ディオドラは淡々と訊いてくる。

 

「それは能力として?それとも彼女自身が魅力だから?」

 

「両方よ。私は彼女を妹の様に思っているわ」

 

「部長さんっ!」

 

アーシアが口元に手をやり、瞳を潤ませる。

 

「一緒に生活している仲だもの。

 情が深くなって、手放したくないって理由はダメなのかしら?私は充分だと思うのだけれど。

 それに求婚した女性をトレードで手に入れようとすると言うのもどうなのかしらね。

 そういう風に私を介してアーシアを手に入れようとするのは解せないわ。

 そもそも、あなたは求婚の意味を理解しているのかしら?」

 

迫力のある笑顔で問い返すリアスだが、ディオドラは笑みを浮かべたままだった。

 

「――――分かりました。今日はこれで帰ります。けれど、僕は諦めません」

 

ディオドラは立ち上がりアーシアのもとへ近寄る。

当惑しているアーシアの前に立つと、その場で跪いて手を取ろうとした。

 

「アーシア。僕はキミを愛しているよ。大丈夫、運命は僕達を裏切らない。

 この世の全てが僕達の間を否定しても僕はそれを乗り越えてみせるよ」

 

訳の分からない事を抜かしてアーシアの手の甲にキスしようとするディオドラ。

鋼弥は右手を、一誠は肩を掴んでディオドラを制止させる

 

「アーシアは俺たちの仲間だ。それに、貴様がアーシアが教会を追放される原因を作ったんじゃないのか?」

 

鋼弥の的確な言葉を言うが、ディオドラは笑みを浮かべながら言う

 

「話してくれないか?薄汚いドラゴンと半魔人に触れられるのはちょっとね」

 

一誠はキレそうになったが、アーシアがディオドラの頬にビンタを炸裂させる。

アーシアは一誠に抱きついて叫ぶ様に言った。

 

「そんな事を言わないでください!」

 

ディオドラの頬はビンタで赤くなっていたが、それでも笑みを止めない。

 

「なるほど、分かったよ。

 では、こうしようかな。次のゲーム、僕は赤龍帝の兵藤一誠を倒そう。

 そうしたら、アーシアは僕の愛に答えて―――――」

 

「お前に負ける訳ねぇだろッ!」

 

一誠は面と向かって言い切る。ディオドラは笑みを崩さず余裕の態度だ。

その時アザゼルの携帯が鳴り、いくつかの応答の後にアザゼルは告げる。

 

「リアス、ディオドラ、丁度良い。ゲームの日取りが決まったぞ。5日後だ」

 

その日はそれで終わり、ディオドラは帰っていった。

アーシアを絶対にディオドラに渡さないためにも一誠はゲームに気合を入れた。


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