モモと手羽先の異世界道中〜神様ロールプレイ始めました〜   作:地沢臨

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状況確認

 残っていたプレアデスの数人によってようやく助け起こされた手羽先(L)を前に、モモンガは一体何をどう説明するべきなのか気を揉んでいた。

 

「あー、お前達は第9階層の警戒に入れ。私は手羽先(L)さんと話がある」

 

 体良くメイドたちを追い出し一息付くと、まずは彼女の状態確認から始めようと声をかける。

 

「ええと、もう倒れたりは……」

「え、嗚呼ハイ。足元が覚束ないのは相変わらずなんですがこう……覚束ない事に大分慣れてきました」

 

 当初は初心者が操作するラジコンヘリの様な挙動をしていた手羽先(L)も、一度しっかり立ってしまえば後は早かった様で。一通り前進後退や旋回、上昇下降を試すと安堵の息を漏らした。

 

「何が起きてるんでしょうね、コレ。NPCもバリバリ喋って動いてますし」

「その事で一点試したい事があるんですが、手羽先(L)さん負属性耐性はどの程度ありますか? 」

「負属性ですか? 魔法無効と盾で弾けるんで素の耐性しかありませんけど」

 

 それがどうしたのかと首をかしげる手羽先(L)に手を出すよう促したモモンガは、鎧の隙間から手首が覗いている事を確かめると。その部分に己の親指をゆっくりと押し当ててみた。

 

「……脈、ありますね」

「あのモモンガさん、地味になんか、なにかが痛いんですが」

「やっぱり《負の接触(ネガティブ・タッチ)》が効いてしまう様ですね……少し耐えて下さい、多分こうすれば……」

「あ、痛くない」

 

 フレンドリィ・ファイア解禁という互いの不都合でしかない状況に無い眉を潜めていたモモンガだが。先ほどまでの手羽先(L)の状況から、パッシブスキルのオン・オフについてはある程度の検討が付いていた。

 

「パッシブスキルについては、ある程度意識すれば自由に切り替えが出来そうです」

「嗚呼なるほど、さっき私が落っこちたのは」

「座っている意識の方が強すぎて、パッシブの飛行が切れてしまったんでしょう」

 

 ユグドラシルにおいて天使を含めた一部の異形種は、常時飛行のスキルを所持していた。その為着席モーションは段差の無い場所でもいわゆる「空気椅子」の状態だったのだが。どうやら現状では一事が万事そう言う訳にもいかないらしい。恐らくこれは他の部分でも発生しているだろうと考えたモモンガは、脳内のToDoリストに「スキル効果の確認」の一文を書き加えた。

 

「本当に何が……まさかネトゲに閉じ込められたとか、異世界に転生したとか。そういう大昔のSFネタが実際に起きてるんでしょうか」

「どちらにせよ、今は出来る事と出来ない事の洗い出しが先決ですよ。この様子だとスキルについては問題がなさそうですから、まずはギルドのギミック、次はアイテム、それから魔法ですね」

 

 ならば手分けをした方が早いだろうという手羽先(L)の提案に。モモンガはレメゲトンのゴーレムを相手にした動作チェック、手羽先(L)はアイテムボックスとアイテムの確認をそれぞれ行う事にする。

 

「あ、モモンガさんアイテムボックス開けました。ショートカットもこの通り健在です」

「そうですか、ギルドのギミックも取り敢えずは問題なさそうですね。それじゃあ暫くの間ギンヌンガガプを預かっていて下さい」

 

 目の前の裂け目からポーションやスクロールを出し入れして見せる彼女の姿に、これなら当面の身の安全は図れそうだと安堵の息を漏らす。

 

「いいですけど、私信仰系のビルドだから威力落ちますよ?」

 

 差し出されたギンヌンガガプに視線を向けた手羽先(L)は、自分自身の装備を見せつける様にその場で両手を広げた。

 釣られて大きく羽ばたいた3対6枚の翼は、天使系上位種の1つ「主天使」の特徴に他ならない。装備している鎧もゴッズアイテムの一種、即死や呪詛の魔法を無効化する「ザバーニーヤ(死天使の鎧)」であるし、左手に装備している「秘めたる信仰の鏡盾」もレガシーアイテムとしては破格を通り越し「レガシー詐欺」と呼ばれた性能の武器だ。先の両手剣はゴッズアイテムの中でも作成難易度が低く市場に氾濫していた様な物だが。今装備しているフレイルは愛用品という事もあり、モモンガの様なアンデット種とのパーティプレイには非常に勝手の良い作りになっている。その他の装備についても、ロールプレイ好きの彼女らしい遊びと、ソロプレイに耐えられるだけの性能を両立させた構成と言えるだろう。

 手羽先(L)は狩場で背中を預けるには十分な実力を誇るプレイヤーだが。それでも不安が残るのが、アインズ・ウール・ゴウンが誇る階層守護者達なのだ。

 

「それでも。もしもを考えると、MP消費無しで広範囲にある程度のダメージを確実に叩き出す手段は複数あった方がいいんです」

 

 自分にはギルド武器もあるからと半ば無理矢理押し付けると、彼女は渋々と言った様子でそれを武器の交換用スロットらしき場所に放り込み。かわりに一枚のスクロールをモモンガに見せた。

 

「次はアイテム使用と魔法ですね。取り敢えず一番使いそうな《伝言(メッセージ)》辺りから試してみましょうか」

 

 確かにスクロールならばアイテムの使用状況と魔法の挙動が一度に掴める上、MPの消費も抑えられて一石三鳥である。

 

『――もしもしモモンガさん、こちら手羽先(L)です。繋がってますか? 』

『はいこちらモモンガです。挙動に問題はなさそうですが……なんと言うべきでしょうね』

『この感覚は、うっかり考えてる事垂れ流しになっちゃいそうですよね』

 

 骸骨のモモンガは言うに及ばず、全身甲冑の手羽先(L)も表情は分からないのだが。顔を見合わせた2人はついクスクスと笑い声を上げていた。

 

「じゃあこれはこのまま維持して、そろそろ第6階層に移動しましょう」

 

 転移手段の無い手羽先(L)の事も考えて《ゲート(転移門)》を使用したモモンガは。闘技場の薄暗い通路を進む道すがら、今後の身の振り方に関する1つのプランを彼女に説明する。

 

『まずNPCに対する態度ですが。敵対する意思が無い場合も、ある程度上に立つ人間として振る舞った方が良いと思うんです』

『モモンガさんはギルドマスターですからね。さっきのアルベドちゃんの様子から考えて、皆ご主人様万歳みたいなキャラになってる可能性もありますし』

『あれは多分、補足テキストに書いておいた設定のせいだと思います……その、俺も悪いと言えば悪いんですが』

 

 まさかギャップ萌えを主張して憚らないタブラ・スマラグティナに対し「いくらなんでも最後までビッチ設定なのは可哀想だ」と主張した結果がアレだとは言い出せず。モモンガは話を強引に進める事でその場を切り抜ける。

 

『ともかく。NPCの統率が取れたとして、次に問題になるのは手羽先(L)さんの立ち位置です。ユグドラシル本来の仕様がどこまで生きているのか分からない以上、下手に新しいギルドメンバーだと言いはるのは不安が残ります』

『じゃあどうするんです? 』

『今まで通り、俺の友人として紹介します。その上でアインズ・ウール・ゴウンの同盟者、客人として俺と同じように扱う事を徹底させます』

 

 その為に一芝居お願いします、というモモンガの言葉に。手羽先(L)が見せたのは実に気持ちの良いサムズアップであった。




この話の中での設定として、プレイヤー種族の「主天使」は権天使から分岐する種族の1つという扱いにしています。
イメージとしては天使から大天使を経て権天使までが一本道。そこから近接特化の力天使、魔法特化の能天使、バランス型の主天使にツリーが枝分かれする大器晩成型になります。

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