モモと手羽先の異世界道中〜神様ロールプレイ始めました〜   作:地沢臨

22 / 22
息をするように捏造設定が出てくる。
ここに来てようやく、主人公のそれなりに暗い要素が直接的に垣間見えてきました。


小さな確変

「いいですかモモンガさん、今の貴方はぶっちゃけ両手ワンドで殴り縛りしてる様な状態です。ノースキルで適当に振り回すなんてドヤ顔ダブルなんとか界の恥、武さんと二式さんが草葉の陰で泣いてます! ――と言う事で、まず初歩的なステップを絡めたジャストアタックから練習しましょう」

「手羽先さん……昨日俺だけナザリックに帰った事、まだ根に持ってるんですか? 」

 

 まだ日も昇り切らぬ早朝、宿から近い空き地に人祓いの結界を張る手羽先(L)に、モモンガは半ば呆れ気味に疑問を投げかけた。

 

「イヤダナー、ワタシハココロノヒロイテンシサンデスヨー? 」

「おい棒読み」

 

 両手にメイスを構えたまま微笑まれた所で説得力は皆無に等しく。モモンガは今朝何度目かも分からない溜息を吐くと仕方なく肩を回す等の準備体操を始めた。効力があるのかは分からないが、なんとなくそうしておいた方が良い気がしたのだ。

 

「まあ確かに、前衛の動きは専門外なのでレクチャーは有り難いですが……具体的には何を? 」

「まずは連続ステップからですね、盾を持たないスタイルはキチッと回避しないと装備もHPもすぐにドボドボですから」

 

 すらりと2振りのグレードソードを抜いたモモンガの問いに。手羽先(L)はそう言うと自身の周囲に《守りの障壁(ウォール・オブ・プロテクション)》を出現させ、次いでアイテムボックスから何故かメトロノームを取り出した。

 

「このリズムに合わせてウォール・オブ・プロテクションの縁をぐるぐるして下さい、きちんと出来れば6ステップで1周できます。じゃあ取り敢えず10周始め! 」

 

 唐突に鳴り出したメトロノームで虚を突かれたモモンガは、返事もそこそこにバタバタと足を動かし始める。ステップで回る、と口で言われると単純明快で簡単そうだが。実際にやってみると後ろに下がってしまったり、前のめりになって障壁にぶつかったり、きちんと回れたかと思えばタイミングが合わず1ステップ増えてしまったりと。回避や防御を魔法に頼り切っていたモモンガには中々難しいものがあった。

 ラスト2周でようやく動きをものにしたモモンガに、手羽先(L)は若干の渋い顔をして口を開く。

 

「あー、うーん……まあこの練習は今後も時々やるとして、取り敢えず次行っちゃいましょう、うん」

 

 障壁とメトロノームを片付けた彼女は、《聖霊召喚(サモン・スピリット)》で手頃な的を用意すると二刀流の要領でワンドを構えた。

 

「次、基本のステップJA(ジャスアタ)! ステップの勢いが一番乗る所で思いっきり武器を振る、それだけです! 」

 

 妙に気合だけが入った説明と共に、手羽先(L)が足元の土を強く蹴る。地上を滑る様に飛び出した彼女が右手のメイスを勢い良く振り抜けば、靄のようなスピリットの身体半分が、見事に文字通り霧散する。

 

「――まあこんな感じに。基本片手武器の動きは打撃も斬撃もそんなに変わらないんで、結局は慣れの問題ですね」

 

 もぞもぞと再生し始めたスピリットを気にする様子もない手羽先(L)は、空の様子と手元の時計に目を向けると。1時間あれば形にはなるでしょう、とモモンガにとって鬼のような一言を言い放った。

 

 その後、約束の時間までになんとか初歩の動きを身に付けたモモンガは、心なし疲弊した気分のまま冒険者ギルドの前へと辿り着いた。見れば通りの向こう側から漆黒の剣の面々もこちらへ歩いてくる所で、ルクルットなどはサキの姿を見つけるなり大げさに手を振って存在をアピールしている。

 

「……昨日も思ったんですけど、なんで中身が女だってバレてるんでしょうね」

「さあ、大方仲間で慣れてるとかでしょう」

 

 珍しく引き攣った笑顔で手を振り返す手羽先(L)に少し溜飲を下げたモモンガが、彼女に代わって彼等と雑談を交わす。その内に馬車を連れたンフィーレアが合流し、簡単な打ち合わせを済ませた一行はカルネ村に向けて出立した。

 

 

 

 

 

「――そう、ニニャ君の故郷でもそんな事が……」

「何処へ行っても、貴族なんて同じ様なものなんですね――期待はしていなかったけど、改めて聞かされると何だか落胆しちゃいました」

 

 カルネ村へ向かう道中、朗らかな快晴に似つかわしくない空気を漂わせているのはニニャとサキの魔法詠唱者二人組だ。似たようなタイプだからなのか、すぐに打ち解けた2人はお互いの話で盛り上がっていたのだが。話がサキの(無論こちらの世界に合わせて多少改変した上での)来歴に及んだ辺りで雲行きが怪しくなりはじめ、ニニャが自らの家族について明かした頃には、既にどん底まで落ちきった空気が周りを覆い尽くしていた。

 

「――な、なあモモンさん。あの2人、放ったらかしでいいのか? 」

「サキについては問題ない……と思う、切り替えの速さが取り柄の一つでもあるからな」

 

 せっついてきたペテルが声を顰めているのは、迂闊な事をすればニニャの努力が水泡に帰すと分かっているからなのだろう。何とも仲間思いな行動に懐かしさと羨ましさを感じているモモンの背後で、突然サキの声が響いた。振り返れば一瞬ぎょっとする程の美丈夫オーラを纏ったサキが、うっすらと憂いを帯びたニニャの手を取り。そこから急転、花の様に破顔すると二人分の拳を高々と突き上げている。

 

「よし! じゃあ私もニニャ君のお姉さんが早く見つかる様、出来るだけ協力しようじゃないか! 」

「本当ですか! サキさんみたいな司祭(クレリック)が力になってくれるなんて、すごく心強いです! 」

 

 出立時の振る舞いは何処へやら。すっかり年頃の女性らしい明るさを隠すことなく手を取り合う2人にペテルとダインは苦笑を零し、モモンはそら見たことかと肩を竦める。ようやく和やかさを取り戻した一行にンフィーレアが安堵の息を吐いた所で。先を行くルクルットが一変、驚くほど真剣な声で警戒を促した。

 

「オーガだ、恐らくゴブリンも居る。今はこっちが風下だからまだ気付かれちゃ居ない、どうする? 」

 

 馬車を隠せる場所が無い現状、この「どうする」は何時仕掛けるべきかという事だろう。そう判断したモモンの目配せに、無言で頷いたサキは馬車の前で祈る様に跪いた。

 

「――オーガ2、ゴブリン15。周辺に伏兵なし、ゴブリンに散開の兆候なし」

「全く、羨ましいね」

 

 奇跡の眼、とでも言うべきサキのタレントに苦笑を零して。ルクルットは背負っていたロングボウを手に構える。

 

「モモンさん、オーガ1体任せてもいいですか? 」

「2体でも構わないが」

「そいつは頼もしい。じゃあこっちはいつも通り、何があっても馬車には近付けさせるなよ」

「サキさん、念のため全体の回復支援とンフィーレアさんの護衛を。後は漆黒の剣に合わせましょう」

 

 たったそれだけの会話で、場の空気は様変わりしていた。サキとニニャは馬車を庇う様に並び、ルクルットが弓を引き絞る。

 風向きが変わる、その一瞬より僅かに早い速度で放たれた矢が、ゴブリン達の10メートル程手前に突き刺さった。

 

リーンフォース・アーマー(鎧強化)

シールド・オヴ・フェイス(信仰の盾)

 

 ルクルットが第二射に移るより早く、ニニャとサキの防御魔法が発動する。1体、2体と撃ち抜かれるゴブリンの数が増すにつれ、オーガとの距離はあっと言う間に開き始める。更に2体のゴブリンが倒れた所でダインの《植物の絡みつき(トワイン・プラント)》が発動され、彼等は完全に分断される形となった。同時にペテル、後を追う様にモモンが駆け出し、すれ違い様にゴブリン数体の首を跳ね飛ばす。オーガと共に足止めされていた数匹のゴブリンは、ニニャの放った《魔法の矢(マジック・アロー)》に胸を撃ち抜かれて沈黙した。

 

ガイディング・ボルト(導きの矢)

 

 それでも馬車に向かってくるゴブリン達に、サキが四本の光の矢を放つ。それぞれ脳天に直撃を食らったゴブリン達は、血を流す事なく静かに崩れ落ちていった。残りは4体、ゴブリンの数だけを見れば、勝敗は決したと言えるだろう。

 ワルツを踊る様に滑らかな足運びでオーガの背後を取ったモモンの一刀が、無防備な首を一閃の元に切り落とし。そうして転がり落ちた首を片足で止めた彼は、改めて戦況を把握すると軽く息を吐いた。

 視線の隅ではオーガの棍棒を受け止めたペテルがうめき声を上げたが、それも即座に発動したサキの《軽傷治癒(ライト・ヒーリング)》で事なきを得る。そのまま彼は武技――YGGDRASILで言う所のスキルを発動させてオーガの胴を両断し。ゴブリンの方もルクルット達2人の手によって仕留められる。

 

「いやぁ、何っつーか……やっぱり人は見た目に拠るもんだな」

「やはり専門の司祭には敵わないのである、精進せねば」

「私とモモンさんだけじゃこうは行かないよ。皆の役割分担が出来ているおかげで、こっちも自分の仕事に専念できたからね」

 

 実際問題。通常攻撃しか使えないモモンとアタッカー寄りビルドのサキが、ンフィーレアに不信感を抱かせない配慮をした上であの集団を倒すのはそれなりに骨の折れる仕事だっただろう。

 頭数が揃う事のありがたみを噛みしめる2人を他所に。漆黒の剣とンフィーレアは、モモンの類稀なる豪腕とサキの的確な魔法捌きを思い出して。もしかして自分達は、何かとてつもない伝説の幕開けに立ち会ってしまったのではないかと思い始めていた。

 

 

 

 




女の子の友情もいいよね!

あの終末世界における芸能、というものについて考えた結果を少し出してみました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。