モモと手羽先の異世界道中〜神様ロールプレイ始めました〜   作:地沢臨

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今回も今回とて捏造が捗っています、後ネタに走るのも。


冒険者組合にて

「以上で講習は終了です」

 

 ふう、と安堵の息を付いて。ロフォシャは目の前の二人組に受付嬢として相応しい笑顔を向けた。

 

「おめでとうございます、ロナルドさん、ナーべさん。我々冒険者ギルドは貴方がたを冒険者と認め、共に歩んでいける事を祈っています」

 

 此処は海の街リ・ロベル。リ・エスティーゼ王国で最も大きな港であり、主にローブル聖王国やアークランド評議国との交易拠点という側面を兼ね備えた商業の街でもある。それ故この街は他国からの旅人が多く集い。また航海中の護衛に需要が集中する事から、ギルドに集う冒険者は腕に覚えのある魔法詠唱者や弓兵、野伏の比率が他の街より多いという特徴があった。

 

「半刻程でプレートの発行が完了しますので、その間にギルドの外へ出られる場合はこちらの登録証明書を必ずお持ち下さい」

「以外と呆気無いな」

「そうね」

 

 ロフォシャが差し出した仮の身分証を受け取った“ロナルド”は2枚の内自分の物を懐に収めると、もう一枚を“ナーべ”に手渡そうとし、受け取る気配が無いのを悟るとそれも同じ用に懐へ仕舞いこんだ。今朝方ふらりと現れたこの2人組は当初からずっとこの調子で、2人分の書類を書いたのもロナルドなら、先程の講習を真面目に聞いていたのもロナルド1人という有様である。当初はナーベの美貌も相まって貴族の道楽を危惧したロフォシャであったが。手続きの途中で絡んできた酔っ払いを見事なウォール・オブ・ウィンドで追い返した事から、それはむしろ若くして大成する魔法詠唱者にありがちな、社会性の乏しさに由来するのだろうと彼女は思い直した。

 此処はリ・ロベルの冒険者ギルド、多少の偏屈に動じるようでは務まらない職場である。

 

「プレートが出来上がるまでに依頼を選びたいんだが。何か肩慣らしに調度良い、1日2日で済む様な仕事は入っていないのだろうか? 」

 

 あちらの物は長期の依頼ばかりだからな、と背後に張り出された依頼の数々を示したロナルドに。ロフォシャは待ってましたと言わんばかりに2枚の依頼書を差し出した。

 

「一般的に初めての方々にはポーターの依頼をお勧めしていますが。当ギルドの場合、銅級・鉄級冒険者による低難度モンスターの定期駆除依頼も同様にご紹介しております」

「銅級と鉄級の混成? 」

「はい。リ・ロベルは貿易港という土地柄、上位の依頼ほど募集人数が多くなる傾向にあります。その為ギルドの方針として積極的なチーム登録を推奨しているんです」

「つまり、広く顔を売って早い内に仲間を見つけろと」

 

 どうする? と意見を仰ぐロナルドに、ナーべは不機嫌そうに即答する。

 

「仲間はどうでもいい、けど、魔物狩りの方がまだ退屈しなさそう」

「ではこちらの依頼を。それからチーム登録の件は――」

 

 呆れ顔で相棒に視線を向ける男に。そう言う貴方も自信過剰では、という嫌味を飲み込んだロフォシャは張り付けた笑顔のままマニュアルの一文を諳んじる。

 

「登録は2名から可能です。が、依頼の適性はチーム単位での能力が判断基準となります。当然個々の実力が拮抗していれば、より人数の多いチームが有利となりますので。その点については予めご了承下さい」

 

 これを機に社交性の重要さを痛感して来い、とは口が裂けても言わない受付嬢は。独り身冒険者達から発せられる怨嗟の如き視線から意識を逸らす為、目の前の事務処理に没頭する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、ナザリック第九階層。

 ナーベラルとロンデスのギルド登録を見届けた手羽先(L)は、とある事情でずぶ濡れになってしまった全身鎧を鍛治長に預けた足でモモンガの私室へ向かっていた。

 

「モモンガさーん、問題の自称海水さんですよー」

「手間をかけ――何事ですかその格好は」

 

 扉の傍らに控えていたメイドに内心やってしまったと後悔する手羽先(L)だったが、家主もあっさり威厳(RP)を投げ捨てたのでこれ幸いと開き直る事にした。そのモモンガと言えば、彼女の平素とは異なるド派手な服装に若干引いたらしく。両の眼孔に宿る光を半分程に細めては、なんとも言えない顔で無遠慮に手羽先(L)を観察しはじめている。

 

「外装は大昔のゲームに出てくるラスボスの奴です。中身は耐久値の底上げくらいしか入れてませんけどね」

 

 鎧を脱いだ彼女が着込んでいたのは、その豪華絢爛さに対してあまりにもお粗末な性能しか持たない、完全な趣味の装備だった。

 金糸で孔雀の羽根を刺繍した白のカソックに同じ意匠のローブ、肩を覆う白い孔雀の襟巻きという一歩間違えれば悪趣味な出で立ちも。手羽先(L)の中性的な容姿と大きな翼が合わさると神々しく見えるのだから不思議なものである。

 

「嗚呼――そういえば好きでしたもんね、古いゲームキャラの外装集め」

 

 その過程で何度かペロロンチーノの口車に乗せられ、無用な姉弟喧嘩の種を増やしていたのも懐かしい思い出だと。モモンガは気晴らしに持ち出した水煙草を吹かしながら、遠い日の記憶を暫し反芻していた。

 

「その話は置いといて、今はこっちですよ」

 

 彼の声音に良からぬ流れを感じた手羽先(L)は、話を逸らそうと持ってきた品物をデスクの上へ半ば叩きつける様に差し出した。上等なクリスタルガラスの内側で、無色透明の液体がちゃぷりと波打つ。

 

「これがリ・ロベルの海水ですか……見た目は本当にただの水ですね」

 

 渡されたそれをぐるりと眺め回したモモンガは、蓋を開けて匂いを確かめてみる。少し埃っぽい様な、しかしそれほど不快ではない香り。消毒剤の匂いがしない点は無限の水差しから得られる物と変わらないが、この水はそれよりも複雑で、まるで雑踏の中にいる様な印象を受けた。

 

「浄水されていないのは間違いなさそうですが……」

「モモンガさん、私の味覚疑ってますね? 」

「別にそこまでは言ってないでしょう」

 

 それ以前の問題として、どんな影響があるのかわからないものを安易に口にするのはどうなのかという意見はあったが。ブルー・プラネットから「海水は塩辛い」と再三聞かされていたのは彼も同じであり、故に「あの話は本当なのかどうしても確かめたかった」という手羽先(L)の気持ち自体には大いに賛同しているモモンガである。

 果たしてこの世界が地球とは全く異なる環境なのか、或いはこの地域の人々が海と呼ぶそれが実際には別物だったのか。その真相はこれから活動範囲を広げて行く事で自ずと判明してくる事だろう。

 彼女曰く塩気の欠片もないという海水を控えるメイドに任せ、一つ水煙草を吹かしたモモンガはそう思案すると。傍に避けていた遠隔視の鏡をおざなりに操作して溜息を吐いた。

 

「ナーベラル達は暫く様子見、海の件も生産組の解析を待つしかなし。やる事はあっても書類仕事――下手に動けないとは言え、何だかなぁ……」

「折れるの早いですねえ」

「疲れたり眠くなったりしない分、ずっと同じペースで作業できますからね。びっくりする位すぐに飽きますよ? 」

 

 手羽先(L)の存在はモモンガの内心をある程度慰撫してはくれるものの。殊ナザリックの管理運営という点では、事務能力の問題やギルドの部外者であるという面で完全な戦力外である。結局頼る相手の居ないモモンガは、不死者としての特性を大いに活用しつつ、机に向かって孤立無援の消耗戦を繰り広げていたのだった。

 

「あー、じゃあどっか散歩にでも行きます? 」

 

 仕事は手伝えないと早々に理解した手羽先(L)の申し出に、凝り固まった関節をゴリゴリと鳴らしたモモンガは二つ返事で賛同する。

 

「丁度アウラ達がトブの大森林の北で大きな湖を見つけたんですよ、折角だから行ってみましょうか」

「湖! いいですねえ、ユグドラシル風景写真部の腕が鳴りますよ〜」

 

 そうと決まれば、と早速外へ繰り出す2人は。途中デミウルゴスに発見される等のハプニングに見舞われるも。自然の素晴らしさと冒険への憧憬を改めて噛み締めつつ、束の間の息抜きを思う存分満喫してナザリックへ帰っていった。

 

 

 ――この行為が後の禍根を生み出していた事を、彼等が知るのは少し先の話である。




現地民のネーミング問題、他の皆さんはどうしているのでしょうか。
良い知恵があればお借りしたい今日このごろです。


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