モモと手羽先の異世界道中〜神様ロールプレイ始めました〜   作:地沢臨

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長らくおまたせ致しました。申し訳ない事に今回はほぼ説明回となります。


求めよ、さらば押し付けられん

「さあさあ! もっと激しく攻め立ててくんなまし! 」

 

 第6階層、円形劇場。レベリングの為に無限湧きするアンデットの撃破を命ぜられていたはずのロンデスは、何故か今、素足が眩しい体操服姿のシャルティアを相手にひたすらスキルを連打させられていた。シャルティアが繰り出す竹刀の一突きに辛うじてイージスの発動を間に合わせた彼は、10メートル程弾き飛ばされた先でルプスレギナのぞんざいな回復魔法を受けると再び立ち上がる。

 その繰り返しを遠巻きに眺めていたアウラは、敬愛する主の気配が背後に現れた事で弛緩しきっていた全身に緊張を走らせる事になった。

 

「ご苦労アウラ、ロンデスのレベルはどの程度――ぉ? 」

 

 転移するなり耳障りな音を立てて転がっていく僕の姿を目撃してしまったモモンガに、アウラは悔悟の念とシャルティア達に対する僅かな憤怒で咄嗟に両手をオーバーに振り回した。

 

「申し訳ありませんモモンガ様! その、ワタシは止めたんですけどコキュートスが『私とばかり戦っていては偏りが出るだろう』って……」

「嗚呼、そうか……うん、確かにコキュートスの言う事も一理ある。シャルティアも手加減をしている様だし――手加減してるよな? とにかくお前達がより良い方法を考えたと言うのなら、咎める必要は無いだろう? 」

 

 心優しいナザリックの支配者は、アウラの言葉に眼孔に揺れる真紅の灯火を少し揺らめかせると。探知魔法で何かを調べる様な素振りを見せ、次いで低く唸り声を上げる。

 

「アウラ、ロンデスのレベルとステータスについてだが――」

「はい、元あった職業レベルとモモンガ様がお与えになられた種族レベル、総合して50レベル程度まで成長させる事ができました。御命令通り、どんな行動で成長が見られたかの記録もばっちり取ってあります! 」

 

 彼の問いかけにアウラが胸を張って差し出したのは、少女らしい丸っこい文字がびっしりと書き込まれた一枚の羊皮紙だった。その内容に素早く目を通したモモンガは、困惑をより一層深めた声でシャルティア達に一時中断を命じる。すわ不手際かとルプスレギナを除いた僕達は一様に身を強張らせたが、直後に手羽先(L)が転移してきた事により、それは杞憂に終わる事となった。

 

「手羽先(L)さん、これをどう思いますか? 」

 

 モモンガからレベリングの記録を見せられた手羽先(L)は、それに目を通すにつれてしきりに首を傾げる様になる。

 暫くの後、何度か紙面を読み返した末に彼女が出した結論は。

 

「――これは久々に詫びアムブロシアが期待できそうな」

「今運営いないからな? 」

 

 早々に現実逃避を始めた手羽先(L)を正気に立ち返らせつつ、モモンガは帰ってきた羊皮紙を見ると改めて目頭を抑えた。

 確かにこれが、もしYGGDRASILの内部で発生していたのなら緊急メンテナンス騒ぎになっていただろう。何しろ「可能性」という単語に並々ならぬ拘りがあったかの運営に対し、今モモンガ達が直面している問題は対極に位置する事態なのだ。剣を振れば筋力が、攻撃を受け止めれば耐久力が、行動によって上昇するパラメーターに違いが発生するというのは現実的だが面倒この上ない話である――尤も此処が現実であるのなら当然の事だが。モモンガ達にとって死亡以外ですら安易なレベルダウンに及べないという事は、より慎重な戦略が必要になるという事にも繋がってくる。

 

「因みにスキルはどうなっているのかな? 」

 

 今から全部見せて、と気易い調子で提案した手羽先(L)は。これまた気易い調子で数体の天使系モンスターを召喚するとロンデスにけしかけ始める。襲われるロンデスの方もこの程度の理不尽には早速慣れた様子で。冷静にランパートやエンデュアの防御スキルを展開するとパリィで初撃を防ぎ、二撃目を回避するとすかさず風斬を発動させて最初の一体を仕留めて見せた。続けて魔法詠唱に入った遠方の一体にフォースブラストを放ち、アクセルブレードで一気に間合いを詰めてとどめを刺す。

 

「……まあ、それなりに戦えるなら別にいいかな」

 

 時には妥協も大切だよね、と濁った目で微笑む手羽先(L)の反応を横目に。やはり本格的なレベルとスキルの検証手段が必要だとモモンガは確信した。

 

「勝手に妥協されては困るな。レベルで遅れを取る事はないだろうが、あれには万が一の時ナーベラルの盾になって貰わねばならないんだぞ? 」

「あの妙な速さだったらヘイトが取れなくても十分庇えるだろうし、回避も耐久も高そうだから、まあ私相手でもデスナイト程度には働くんじゃないかな? ジェリコが抜けてるのはネックだけど、丁度要らない盾にスキル付きの物があるからね、それを使えばいい」

 

 手羽先(L)の言い様に、まあそれなら問題は無いだろうと判明したモモンガは。階層守護者達を玉座の間に集めると潜入調査の意義をそれらしく説明して納得させる作業に移った。尤も守護者達にはモモンガに異を唱えるという発想や気概が無いらしく。むしろ難航する事になったのは、手羽先(L)によるロンデスへの不要装備譲渡の部分であったが。

 

 貴重な宝物を一介の下僕に与えずとも、必要なものは鍛冶長に用意させれば良いのでは。というアルベドの意見に殆どの守護者が同意を示し。対抗手段を失った手羽先(L)に捨て犬の様な視線を送られたモモンガは、長い葛藤と思案の末に口を開く。

 

「お前達の考えはよく分かった、だが今回の供与は同時にナーベラル・ガンマの身を護る為の投資でもある。ナザリックの資材も有限である事を鑑みて、ここは手羽先(L)さんの好意に甘えようじゃないか」

「しかし……」

「そもそも、あれを僕として利用するという案自体が彼女の希望でもある。私達41人とお前達がそうであった様に。自ら選んだ僕には、やはり自ら選んだ装備を与えたい――言うなれば親心という奴だ。それを無下にするのは忍びないだろう? 」

 

 食い下がったアルベドに対するモモンガの一言は効果覿面で、ある者は押し黙り、ある者は無言で目を輝かせている。その反応に視線を巡らせた彼は、一度手羽先(L)と目を合わせると。少し茶化す様な、一転して明るい声を上げた。

 

「そう僻むな。少し先の事になるだろうが、お前達にも何かしら労働の対価となる物を与えたいと考えているんだ」

 

 対価という言葉を聞いて俄にざわつき始める僕を軽く諌めて、モモンガは腕のバングルに視線を落とした。表面に触れて現在時刻を確認すれば、会議を初めてかれこれ2時間程度は経っている。

 

「ふむ、思ったより時間をかけてしまったか。外部調査についての話し合いはもう十分だな。賞与についてはまた別に時間を設けるので、それまでに各々意見なり、希望なりを纏めておくと良い」

 

 そう言って解散を宣言すれば、先程の喧騒が嘘の様に守護者達は各々の持ち場に戻って行く。アルベドに派遣する4名を連れて来る事を命じたモモンガは、彼女が玉座の間を出た事を確認するなり長い長い溜息を付いて玉座の背もたれに沈み込んだ。

 

「あー、何でそっちに反対するかなぁ! 」

「モモンガさん、本当に只の会社員だったんですか? 」

 

 精神無効で肉体面の影響はレジストされるとは言え、感覚的なストレスは一切軽減されていない現状。飲食が出来ないのならせめて煙草にでも手を出そうかと考え始める彼の横で。口を開くだけの元気を取り戻した手羽先(L)は、尊敬と疑問を一纏めにした器用な表情をしていた。

 

「平社員でも10年以上続けていれば、そりゃあ会議の進行くらいは出来るようになりますよ。まして俺は営業ですから」

 

 気の抜けた声を上げる彼女に半笑いで肩を竦めたモモンガは。再び玉座に深く背を預け。アルベドが戻るまでの僅かな時間を、只虚脱感に身を任せて過ごす事にした。




近接攻撃スキルはD&Dから名称を取って来るのが難しいのが困り物。
エンデュアもといインデュアさんにはよくお世話になりました。

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