モモと手羽先の異世界道中〜神様ロールプレイ始めました〜   作:地沢臨

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ナーべラルちゃん初めてのお使いとダークォーリア様の両立を目指した結果こうなりました。
リ・ロベルが港町なのは公式の地図を見て推測した独自設定です。





ロンデス・ディ・クランプの奇妙な再誕

 自分を殺した相手に化物として蘇らされ、永劫の忠誠を誓わされる。

 神を罵倒したロンデス・ディ・グランプに科せられた罰は、その罪に対してはあまりに重く、そして奇怪な仕打ちであった。

 

「……うむ、表を上げよ。その忠誠しかと受け取った」

 

 肩口から黄金の蛇が離れたのを察知して顔を上げると。彼の君主となった「新たな死の神」は上等な天鵞絨張りのソファに腰を下ろし、ロンデスの後方に声をかけた。その声音は刃に似て冴え冴えとしており、奈落へと引き込む様な仄暗い重さに満ちている。

 

「お前達も、これで良いな? 」

「嗚呼、折角なら玉座の間でやれば良かったと思う位には様になっていたよ」

「流石はモモンガ様。不肖パンドラズ・アクター、改めて――」

「お前はもう良い、それ以上口を開くな」

 

 ロンデスが後ろを見やれば、彼が剣を向けた鎧の――純白の翼を背負った天使と。先程までは黒い翼の天使であった、今は禍々しい泥人形を思わせる虚ろな顔に、奇妙な装束を身に纏う痩身の男が和気藹々とした様子でこちらを眺めている。

 

「要件は済んだ、さっさと宝物庫の警備に戻れ」

「あ、返す前にちょっと借りてもいいかな? これに魔法を込め直したいんだ」

 

 1秒でも早く視界から追い払いたいとでも言いたげな君主の態度に俄か落ち込む痩身の男、パンドラズ・アクターであったが。天使が懐から取り出した護符を見るなり、踊る様な動きでその前へと跪いた。鋭敏になったロンデスの耳に君主の重い溜息が届いた所で、彼はなんとなく、この空間に会する三者の関係を把握するに至る。

 

「あー、あの2人の事は暫く無視しろ。お前にはこれよりやって貰う事が幾つかある」

「御意に」

 

 疲れ、呆れている事をもはや隠しもしない君主に、彼は不敬だと思いながらも親近感を覚えずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 検証を兼ねたロンデスの強行レベリングが終わるまでの24時間を使い、モモンガと手羽先(L)は改めて情報収集についての検討を行った。玉座のコンソールで僕のカルマ値等を確認してはみたものの、ナザリック内の全ギミックを把握しているジズやプレアデスの取り纏め役であるユリを表に出す訳にもいかず。結局人選それ自体は当初の通りセバスとソリュシャン、ナーベラルに現在盛栄レベリング中のロンデスを交える形で落ち着く事になった。

 

「後は組み合わせと配役ですが……」

「えーっと、この世界って結構な階級社会なんでしたっけ? 満遍なくってなると、一組はそれなりのお金持ち設定にしなきゃですよねぇ」

 

 ギルドメンバーが残していった僕3人のフィギュアと、ロンデスの名前を貼り付けられた騎士の人形を卓上に並べた手羽先(L)はうんうんと唸った後、徐にソリュシャンとナーベラルの人形を手に取った。

 

「髪型は変えれば済むとしても、この辺で黒髪ってのはやっぱり目立っちゃいそうなんですよねぇ」

「村人も捕虜の兵士も、陽光聖典の連中も茶色っぽい髪でしたからね。目立てばその分嘘もバレ易くなるでしょうし」

「その点ソリュちゃんなら、何処かの貴族の隠し子で押し通してもなんとかなりそうなんですよね。素のキャラもそれっぽいし」

 

 そう言ってソリュシャン人形を右に、ナーベラル人形を左に振り分けた彼女は、その下に敷いた紙にそれぞれ「訳ありお金持ち」「旅人」と書き加える。

 

「そうなるとセバスはソリュシャンと組む方向ですか」

「たっちさん、クサい台詞大好きな割に演技力は残念だったもんなぁ……」

 

 演劇経験者が素人の演技力を語るものではないだろう、と言うツッコミを飲み込んだモモンガは、セバスの人形をソリュシャンの側へ、残った騎士の人形をナーベラルの側へ移動させる。

 

「……って事を考えると、結局はこの組み合わせかぁ」

「まあ、読み書きの問題を考えても今はこれがベターでしょう。次は活動地域ですが……」

 

 陽光聖典から拝借したやや詳しいリ・エスティリーゼ王国の地図を卓上に広げ、モモンガはふむ、と顎を撫でた。

 2人の意見は「王都の調査は必須である」という点で一致していたが。ナーベラル組の潜入先については、できるだけナザリックの近隣にするべきだとするモモンガと、新規の情報に期待できる港周辺を推す手羽先(L)の主張とで完全に二分する事なった。

 

「大体RPGのスタートって言えば定番は港町でしょう!? 」

「そんな理由でナーベラルを馬で3週間もかかる縁もゆかりも無い街へ放り出そうって言うんですか! 」

「え、縁もゆかりもないのは何処だって一緒じゃないですか! 」

 

 次第に言い争いの様相を見せ始める会話に、しかし興奮の持続しないモモンガが先にチェックをかける。

 

「大体ナーベラルはゲートが使えない上に騎乗スキルも持ってないんですよ? 」

 

 しかし今回ばかりは手羽先(L)も負けてはいなかった。

 

「そ、それはそうですけど……ほらロンデス! 法国の作戦で焼け出された人が顔を覚えてる可能性もあるんですから、そこを考えるとエ・ランテルよりリ・ロベルの方が安全性は高いじゃない、かと! 」

 

 距離の問題なら私の異界蜂の馬車(課金バイアクヘー)出しますから。と更なる駄目押しをする彼女に、流石のモモンガも唸り声を上げる。

 

「……手羽先さん、最初からそれを見越して――」

「あの時は完全にその場の思い付きで言いました」

 

 予想はしていたがやはり肩透かしを食らう発言に呆れた溜息が口を吐くも。確かに偽装帝国兵による襲撃も落ち着かぬ内に、ナザリック近隣を嗅ぎまわるのは危険が伴うし。万が一ナザリックを離れるような事態が起きた時の為、遠方に拠点を作っておくのは悪く無い話である。そもエ・ランテルについては遠隔視の鏡の捕捉範囲内なのだから、常時誰かを派遣せずとも転移先になる拠点を手に入れれば事足りるのだと気付いたモモンガは。「手羽先(L)さんがそこまで仰るのでしたら」と勿体ぶった前置きの上で結論を出した。

 

「セバスとソリュシャンは王都で主に中央政治と上層階級の様子を、ナーベラルとロンデスはリ・ロベルの周辺地域と物流等について。エ・ランテルについては他の者の手を借りつつ、当面は陽光聖典の一件がどうなるかの様子見としましょう」

「ありがとうモモンガさん! 」

 

 エモーションが使えれば花でも撒き散らしていただろう手羽先(L)に苦笑したモモンガは、彼女から約束のアイテムを受け取ると柱時計に目を向ける。

 

「少し時間が出来ましたね。俺はこれから第6階層でロンデスの様子を見てきますけど、手羽先(L)さんも一緒に来ますか? 」

「あ、私はちょっとゲストルームで荷物の整理してきます。ボックスのどっかに男女兼用の鎧とか持ってたはずなんで」

 

 その鎧を何に使うつもりなのかは分からないまま。モモンガはメイドを手伝いに使う様、去っていく彼女に助言を残すと自分も席を離れた。




パンドラズ・アクターの台詞回しはデミウルゴスとは別ベクトルの難しさがあると痛感しました。
中二病の才能を誰か下さい。

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