モモと手羽先の異世界道中〜神様ロールプレイ始めました〜   作:地沢臨

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遅くなりました、本編再開です。
話の区切りを若干見誤りました。


密やかな誤解

「えーっと、取り敢えず今までの情報を整理しよっか? 」

 

 突如発狂と見紛うばかりのパニックに見舞われた陽光聖典の面々をなんとか宥め、不意打ちの《次元の目(プレイナー・アイ)》に過剰反応するモモンガを落ち着かせ、何故か一緒になって憤慨した上に突如爆発した陽光聖典の一部に《緊急復活(リヴィヴィファイ)》を使い、さらには念のために《集団呪詛除去(マス・リムーヴ・カース)》を施すという作業をこなした手羽先(L)は。じんわりと痛み始めた側頭部をグリグリと揉み解しながら中空に腰を下ろした。

 

「まず君達のモンスター情報がプレイ歴3ヶ月以下のお粗末さんなのは把握した、アインズさんもこの辺は異論ないですよね? 」

「ええ、まあ大体その位でしょう。さっきのプレイナー・アイを考えるとここにいるのが最低レベルの可能性もありますが」

 

 爆発した陽光聖典の発言に拠れば、次元の目は法国の上層部が発動させた様だが。秘匿のひの字も無い無防備ぶりを鑑みるに、今頃は手羽先(L)の攻性防壁で状態異常のバーゲンセールを喰らっている頃だろう。モモンガの攻性防壁以上に舐めて掛かった作りのマクロではあるが、こちらが隠匿系の補助魔法をかける時間位は稼げたはずである。

 

「やっぱり場所を変えませんか? ナザリックの中ならグライアイを持ちだされない限り探知は不可能ですし……」

「心配性ですねぇ……」

 

 しっかりと補助魔法を重ね掛け、それでも尚心配そうに周囲を伺うモモンガに手羽先(L)は呆れた声を上げるが。そこは年長者、かつ精神面でも彼女より大人なモモンガの発言である。今は探知魔法の存在が認知されていると分かっただけで十分だろう。と無理やり自分を納得させた手羽先(L)は、モモンガにカルネ村での工作を丸投げすると陽光聖典を従え帰投の用意に移った。

 初めての相手に向けて伝言をかけようと黙り込んだ彼女の眉間には、気合いの表れが見事な皺となって寄せられる。モモンガに出来るのなら自分もなんとかなるはずだ、という無根拠な自信と共に。彼女はその脳裏に、ひねくれ者の親友が願った理想の姿を呼び起こした。

 

 

 脳髄に絹糸を通される様な感触に、デミウルゴスはふと手を止めた。複数の要素が入り混じったそれは初めての感覚だったが、糸の通る様な刺激は伝言で呼びかけられている証左であるし、そこに乗せられた気配の主には覚えがあるのも事実である。

 彼の反応を固唾を飲んで伺う僕達に何でもないと手振りで示し、デミウルゴスは慎重に伝言を繋ぐ。

 

『やあデミウルゴス、ちゃんと伝言は繋がったみたいだね』

『これは手羽先(L)様、私に何かご用命でしょうか? 』

 

 耳の奥へ届く澄んだ声音は果たして予想通りの人物で、デミウルゴスはそっと唇を歪めると彼女の言葉に耳をそばだてる。

 

『今からそっちに人間連れていくんだけど。ほらあのネイルしてるタブラさんと同じ種類の娘、確かログ抜き(脳の詮索)覚えてたよね? 』

『無論でございます。手羽先(L)様の記憶に留めて頂けたとあれば、ニューロ二ストも喜びましょう』

『じゃあそっち行くから迎えを頼むよ』

『直ぐにシャルティアを向かわせます、今暫しのお待ちを』

 

 鼻腔の奥で立ち昇るローズマリーの香に顔を顰めながら、デミウルゴスは手羽先(L)の望みを汲むべく思考を巡らせた。ニューロ二スト・ペインキルを所望している事から、人間の用途が情報収集なのは明確だが。それだけであればこうして己に声をかけずとも、現地の僕に任せてしまえば良いはずだ。

 手羽先(L)に関する数少ない記憶を紐解いた彼は、かつて己の創造主達と彼女の交わしていた会話の一つに行き当たる。

 

(――折角拷問キャラ作ったんだしさぁ、なんかこうソレっぽい仕掛けの一つも欲しいじゃん? )

(それっぽい……笑いすぎで強制ログアウトになるまでくすぐるとか? )

(手羽ちゃんそれは地味にエグいわー。採用)

(やめろるし★ふぁー、呼吸器疾患持ちにでも当たった日には傷害沙汰だぞ)

(なんという事でしょう手羽先さん! ゲームでは食えない悪役ロールしかしないはずのあのウルベルトさんが! )

(まるでマダムに人気のイケメン小児科ドクターの様な正論ではありませんか! )

(おう表へ出ろ仲良し馬鹿天使共、今日こそ羽毛布団にしてやる)

 

『――お望みとあらば、どの様な趣向でもご用意致しますが』

 

 天使でありながら死を撒く存在でもある手羽先(L)にとって、愚かな人間共に相応しい責め苦を与えるのは己が使命と言う事だろうか。そう推測したデミウルゴスの進言を、しかし彼女は冷徹に一蹴する。

 

『ん? ……嗚呼、一々お遊び(拷問)してる人数でもないから今回はナシね。情報取れたら他の事にも使う予定だし』

『浅慮な進言をお許し下さい。必ずや手羽先(L)様の望む通りに取り計いましょう』

『じゃあお急ぎで宜しくね』

 

 咎めも許しもしないその口振りに、己の矮小さを突き付けられた悪魔は静かに奥歯を噛みしめる。彼は手羽先(L)とはその様な、僕とは全く異なる思想を抱く存在であると理解していながら。しかし一方で、荒野に打ち捨てられた者のそれにも似た、理不尽な反発と悲しみを覚えずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

『モモンガさん、牢獄のなんちゃって拷問装置って完成してたんですか? 』

『え? 』

『いや、るし★ふぁーさんが折角だから嫌がらせ用のギミック仕込むって結構前に……』

 

 そして同時刻、単なるフレーバーで作られたはずの施設に魔改造の手が及んでいた事を、モモンガは数年越しに知らされていた。


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