モモと手羽先の異世界道中〜神様ロールプレイ始めました〜   作:地沢臨

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回線復活したので取り急ぎ。
※至高の41人のリアル事情と人間関係に多大な捏造が発生しています。


閑話/ラグナロク・シンドローム:01

 救急搬送を告げるアラーム音が鳴り止まない。

  

 下のフロアを走り回る同僚達の事を思いながら。瀬名は夜勤の看護師や保育士と共に、不安でぐずり出す子供達を懸命に寝かし付けていた。

 

 瀬名の勤める総合病院はアーコロジーの外れにある。博愛を建前とした統治機構のガス抜き政策の為に建てられたその病院は、常日頃からひっきりなしに患者が運び込まれて来るが。この夜の救急搬送の多さは野戦病院もかくや、もはや異常と呼んで差し支えの無い件数に及んでいる。

 

「瀬名先生。ここは私が面倒を見ますから、先生は救急外来の応援に行ってあげてください」

「すみません、お願いします」

 

 保育士に子供達を任せ、外来に向かう為のエレベーターに滑り込む。3重構造のエアロックで外来勤務用の制服を着込んだ瀬名は、悪い予感に急かされる様にして救急外来の扉を開けた。

 棺の様な覆い付きのストレッチャーが整然と並ぶ大部屋の違和感に、彼ははっと足を止める。

 

「これは……」

「『電脳性意識障害』これでもう19人目よ」

 

 神経内科に所属する先輩医師の言葉に振り返れば、洗浄されたばかりのストレッチャーがガラガラと音を立てて滑り込んできた。通り過ぎ際に垣間見た患者の様子に苦悶はなく、一見すれば只眠っている様にも受け取れる。

 

「状態は?」

「深昏睡、投薬も今の所効果無し――どんなゲームか知らないけど、最後の最後にとんでもない事をやらかしてくれたわね」

 

 渡されたカルテの記載に目を落とした瀬名の耳を、先輩の忌々しげな呟きが深く抉った。

 

 ――DMMORPG『ユグドラシル』――

 

 頻出する懐かしい固有名詞の指し示す恐ろしい現実が、彼の思考を一瞬にして焼き尽くす。

 

 かつては競い合った事もある廃人プレイヤー達、今日もあの円卓で待っていただろうギルドメンバー、奇妙な縁により今も現実での交流が続く気の良い友人。皆無事であってくれと、今すぐにその安否を確認したい欲求を職業倫理で抑え付けた瀬名は。病棟程綺麗ではない外来の空気を深く吸い込むと一歩を踏み出した。

 

「付き添いのご家族に、状況の説明をしてきます。――それから、"延命期間"についても」

「後で事務の連中にさせなさいよ、今話しても殴られるのがオチよ」

 

 何か痛ましい者を見る様な先輩医師の視線に、彼は精一杯の虚勢を込めて肩を竦めた。

 

「俺が殴られるだけで済むなら大歓迎ですよ、これでも悪役は得意ですから」

 

 果たして自分は思った通りに笑えているのだろうか。そんな場違いな不安を抱いた瀬名は、タブレット端末の画面を掻き抱く様にして待合ロビーへ向かう廊下に足を進める。

 

 

 13人目の搬送患者は、彼のよく知る女性と同姓同名、同じ病を抱え同じ治療を受けたばかりだった。

 

 

 

 

 夜更け過ぎに届いた不躾なメッセージに海堂が大人しく従っているのは。それが他ならぬ瀬名からの緊急要請だったからだ。

 

 モモンガがたっち・みーの所謂弟分なら、ウルベルト・アレイン・オードルのそれはるし★ふぁーである――というのがアインズ・ウール・ゴウンとその関係者の不文律だ。尤も「るし★ふぁー」こと海堂は先輩を敬える様なタイプではないが、少なくともあのウルベルトが――瀬名が時と場合を考えずに連絡を送って来る事の重大性と、それを汲む程度の常識は持ち合わせていると彼は自負している。

 

 仕上げたばかりのCADデータをクライアントに送り付け、スマートフォンだの何だのをポケットにねじ込んだ海堂は外出着に袖を通して居住塔の廊下へ出る。彼の住まうファミリー向けの居住塔はモモンガこと鈴木悟の住む単身者向け居住塔と隣接しており、時間はかかるが地下街を経由すれば外気に接触する事なく行き来が出来る関係にあるらしい。らしいと言うのは海堂の住む居住塔には窓が無く、海堂自身が在宅の仕事であまり外出しない事もあり隣の物件の存在をあまりよく分かっていない為なのだが。こういう時の瀬名に全幅の信頼を置く彼はあまり気にする事もなく、メッセージの指示に従ってエレベーターの乗り継ぎを続ける事にした。

 

 ナザリックよりも迷宮染みた地下街を踏破し、再びエレベーターを乗り継いだ先。ありきたりな扉の表札を確かめた海堂は無遠慮にインターフォンを連打する。1分程続けた辺りで鳴り出した通話アプリを起動すると、インカム越しに随分と憔悴した様子の瀬名の声が聞こえて来た。

 

『海堂、モモンガさん居たか? 』

「いんや全然、これもう仕事行っちゃったとかじゃねーの? 」

『どこに居ようが意識があるなら着信切るぐらいはするはずだろ、そこで何か聞こえないか? 』

 

 瀬名に問われた海堂が玄関扉に耳を押し付けると、部屋の中からは微かだが複数のアラームらしき音が聞こえてくる。

 

「ヤベェ、めっちゃ鳴ってる」

『チッ――海堂、急いで管理会社に連絡入れろ、救急は俺が何とかする』

「い、イエッサー!! 」

 

 豹変した瀬名の言動に気圧された海堂が慌てて居住塔の管理会社に連絡を入れると、平素なら塩対応が常の窓口が今日は不気味な程に迅速な対応でオートロック解除の手配を進めていく。手続きの完了と前後して到着した救急隊員の1人が部屋に入るなり、切迫した声が上がった。

 

「鈴木さん? 大丈夫ですか、鈴木悟さん? 」

 

 海堂が数年ぶりに見た鈴木悟は。雪崩れ込んだ救急隊員の向こう、手狭なワンルームの片隅で蒼ざめた顔のまま眠り続けていた。


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