モモと手羽先の異世界道中〜神様ロールプレイ始めました〜   作:地沢臨

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この話ではそんな事になりませんが、「神官は神官らしく〜」等と言ってしまうガゼフさんは生き残ってもその内ルプーに撲殺されていた気がします。
やめよう、ジョブハラ(ブロントさんと忍者の関係は除く)


ラッパ吹きの不在

 生き残りの村人達が葬儀の準備を整えている間に少女――確かネムと言う名前だった様に思う、姉らしい少女がそう呼んでいたはずだ。ついでに言うとそちらの少女の名前はすっかり聞き忘れている――をなんとか丸め込んでいた手羽先(L)は、久し振りの多大な精神疲労に今すぐ座り込みたい気分に陥っていた。

 

「ほんとにてんしさまじゃないの? 」

「人はね。困った人や苦しんでいる人に『大丈夫? 』って手を差し伸べるだけで、誰でも天使になれるんだよ」

「ほんとー? 」

「本当本当、だからお兄さんは天使かもしれないけど天使じゃないんだよー」

『なんでちょっと人生の格言めいた話になってるんですか、っていうかやっぱ手羽先さんネナベなんですか? 』

『出 汁 を 取 る ぞ』

 

 自分の監督不行届を棚に上げている骸骨に悪魔も逃げ出すドス黒い伝言を投げつけた手羽先(L)は、ネムが姉に呼ばれて葬列に混ざったのを見届けた所でついに演技も投げ捨てた。モモンガに「女2人を盾にする魔法詠唱者(お座りスペルキャスター)」等という事実だが不名誉な称号が付く事を慮って男を名乗った彼女の海より深い慈悲の心は、悲しいかなモモンガの頭骨には響かなかったらしい。

 壊れた荷車に座り込んでぼんやりと葬列を眺めている手羽先(L)の傍らには、いつの間にかデス・ナイトが無言で仁王立ちをしている。真昼の陽射しを遮る彼のさり気ない気遣いに気付いた手羽先(L)は。その出来る男振りに誰へとも分からない憐憫の情を抱きつつ、只々無言で弔いの光景を眺め続けていた。

 複数回に分けての埋葬作業は日が傾き始める頃まで続き。最後の方は見かねたモモンガと、不用意な発言の反省を言い渡されたアルベドが手伝いに混ざっていた。

 

『――手羽先(L)さん』

『何ですかモモンガさん、まだ弄ってくる様ならホーリー・スマイトお見舞いしますよ』

『やめてくださいしなないけど痛いです、地味に。そうじゃなくて斥候に出した僕がこちらへ向かってくる集団を見つけました』

『えー、もうそれ村に来る前に更地にしましょうよ更地に』

 

 覚悟こそしていたものの、気疲れがピークを迎えた手羽先(L)としてはこれ以上の面倒は御免被りたい所だ。アイテムボックスを漁って期間限定イベントの残り物を引っ張り出した彼女は、小粒の飴玉をまとめて口に放り込みガリガリと咀嚼する。

 

『どうも毛色の違う集団が複数らしいんです。騎士メインの集団はかなり接近しているそうですから、派手な事をすればすぐ村人に見つかりますよ』

『じゃーとりあえず何処の集団なのか確認して、誤魔化し切れないか襲ってきた時はササっと殲滅で』

『……まあ、それなら大丈夫でしょう』

『問答無用で殴りに来てくれたら楽なんだけどなぁ』

 

 手羽先(L)が重い腰を上げる頃には村の見張りも事態に気付いたらしく、向かう先を見遣れば村長以下生き残った男達が額を突き合わせている最中だった。

 

 

 

 

 問答無用で殴りに来なかったその一団は、どうやら自己申告通りの存在らしいと手羽先(L)は視認した。「リ・エスティーゼ王国戦士長」という肩書きを訝しむモモンガにその旨を遠回しに伝えてやれば、彼はすぐに意を汲んで打ち合わせ通りの作り話を戦士長に吹き込みはじめる。

 

「帝国の騎士ばかりか、あの様な魔獣まで現れていたとは……」

 

 村の外れまで案内され、森の手前で無残に引き裂かれた偽帝国騎士達をこれ見よがしに傷めつけているルーンクロー・ベアを見せられた王国戦士長ガゼフ・ストロノーフは眉間の皺を益々深くした。モモンガ達としては簡単に騙されてくれて有難い所だが、こうもあっさり信じ込まれるとガゼフ本人は元より王国全体についていらぬ心配をしそうになる。

 

「あの獣に関しては、恐らく血か煙の匂いを嗅ぎつけて来ただけでしょう。柵沿いに獣除けの魔法を張り巡らせていますから、そっとしておけばその内元の住処へ戻ると思いますよ」

「そう願いたいものですな」

『いいのか、いいのかそれで戦士長。HPだけならレベル30くらいはありそうだけどアレですか、力こそパワー的なアレですか』

『この世界でのHPやレベルがどういう状態なのか確かめずに脳筋扱いするのはほら……やめてあげましょう? 』

 

 裏では天使に馬鹿にされアンデットに微妙なフォローをされている事など知る由のないガゼフは、警護を兼ねて一晩この村で野営をしたいと村長に申し出ている。それを聞いたモモンガはアウラに捕虜と僕の回収時間を変える様に伝言を繋ごうとしていたのだが。直後現れたエイトエッジ・アサシン(八肢刀の暗殺蟲)の報告に耳を傾けると、仮面越しに微かな唸り声を上げた。

 

「どうかしました? 」

「いえ、それが……」

 

「戦士長! 緊急事態です!! 」

 

 ガゼフの部下らしい騎士が広場に飛び込んできたのは、その直後の事だ。

 毛色の違うもう一方、と言うのが下位の天使を従えた集団と判明した事で手羽先(L)個人としては大幅にやる気を削がれてしまったが。カルマ値がマイナスに振り切れたアンデットには思う所があったらしい。ガゼフと二言三言会話を交わしたモモンガは、上手い事丸め込んだ彼に課金ガチャの外れアイテムを渡すと村の外へ放り出していた。

 

「あれ何でしたっけ? 」

「100個集めて限定外装と交換する奴です」

「嗚呼、ゴミですね」

 

 何と言って渡したのかは知らないが、それで士気が高まるのならまあいいか。と手羽先(L)は軽く結論付けて集まった村人に防御や加護の魔法を掛ける。モモンガも幾つかの魔法を掛けてくれたが、必要そうな魔法を使い終わるとすぐガゼフの様子見に移ってしまった。

 

「戦士長はどんな感じなんです? 」

「まあ健闘はしてると思いますが……ちょっと見てもらえますか? 」

 

 そう呼ばれて見せられた水晶の画面(クリスタル・モニター)は。ダメージを負いつつも攻撃の手を緩めないガゼフ達と、一向に減る気配の無い天使達を見下ろしている。戦場を一望した手羽先(L)はへえ、と僅かに感心した声を上げ。迷う事なく戦場の奥を指し示した。

 

「ここにいるプリンシパリティ・オブザベイション(監視の権天使)、これだけ強化済み――でもってこの人間が一番高レベルっぽいので、多分こいつがアインズさんみたいなスキル使ってるんでしょう」

「なるほど。となるとガゼフの勝ち目はほぼ無いのか……」

「でしょうねぇ、ご丁寧に全員呪いが付いてるし」

 

 見た所スリップダメージも行動阻害の様子もないので、呪詛は呪詛でもバフ系統だろう。と補足した彼女はスキルを止めて目頭を揉み解した。ユグドラシルの仕様とは言え、弱体の呪いも竜血の呪いで強化されたベルセルクも天眼の前では同じ呪い状態、というのは恐ろしく不便だ。

 

「片付けどうします? 」

「隠し玉が無いとも言い切れませんし、ここは手羽先さんにお願いしたいですね」

「じゃあセラフ超えが来た時はサポートお願いしますよ? 一応これどうぞ」

 

 モモンガに正属性耐性を高める魔法のスクロールを渡した手羽先(L)は、代わりに受け取ったマキシマイズマジック(魔法最強化)のスクロールをショートカットに追加する。更に武器専用の無限の背負い袋を開けた彼女は、少し考えてから一振のグレート・ソードを手に取った。

 

「よし、手羽先(L)さんはいつでも出撃可能ですよ」

 

 大剣を背負い、仁王立で腕組みを決めた手羽先(L)の宣言を受けて。モモンガは用意していた転移魔法を速やかに発動させる。

 

 彼女と入れ替わりに現れたガゼフは、ほんの少し目を離した隙に満身創痍となっていたが。モモンガはすぐに千里眼(クレアボヤンス)で映し出された光景へ意識を戻すと、手羽先(L)の戦闘を観察する事に没頭してしまった。


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