【完結】 気が付くと学園都市で銀行強盗していた   作:hige2902

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第七話 The Client 「木山センセイ」

「何を言っているんだ。おれは、よくわからん方法でツリーダイアグラムの使用許可を出し、あまつさえあんたと不正使用したあげくアイテムを相手取って生きて帰った関係だろ。友達じゃあないが、他人と言うにはいささか冷たいくらいの」

「その情報はわたしが喋った事だろうが!」

 

「なんか勘違いしてないか……頼むよ、木山」

「請求書の氏名欄から確認したな! ……記載が本名なら裏社会に流れる個人情報と、偽名ならそれが露見した時のリスクの危惧その両方とも取れる言い方で!」

 

「ちょ、ちょっと落ち着いてください」 と女が無謀にもおれと木山の間に割って入る。

「部外者は黙ってろ!」 木山は興奮した様子で闇医者に銃口を向ける。 「こいつは撃たれた傷を残せと言ったはずだ! 格好いいかもとかいうバカげた理由で! なぜそれが無いッ!」

「こいつが、いざ手術の段階で言ったんだよ。やっぱ正円の傷はダサく見えるかもだから、跡が残らないようにしてくれって」

「そうだったか? よく覚えていない」

 

「思い出せ!」 女を突き飛ばし、おれの腹に銃を突きつける。 「正気か、おまえは、わかっているのか!? これがどういう事か。わたしを、なんだと思っているんだ!」

「あんたこそわかっているのか? おれは腹に穴が空いていたんだぞ。意識が朦朧とする中で確実な記憶なんぞあるもんか。刀傷ならともかく、普通は正円の傷を残したいと思うか? むしろ残したくないと考える方が正常だろうが。手術の前段階でそう選択できた事が、正しいんじゃないのか」

 

 闇医者が恐る恐る口を挟む。

「お、おいせっかく峠を越したんだから、患者を殺すなよ。撃つならせめて重症にしてくれ。割引で治すから」

 

「おまえは、おまえはいま、わたしの危惧している事を理解しているのか。自身のクローンが存在すれば殺すと言ったおまえは、どこでもいい、例えばこのベッドの下に術前の過去を持つ個体の死体がある可能性が生まれてしまったという事だ。おまえはもう、わたしと出会ったおまえでは無いかもしれないという事だ!」

「術前の個体を、いま会話しているおれが殺して成り代わった可能性を考慮しているのか」

「誰なんだ……本当におまえは」

 

 木山は崩れ落ちるようにぺたんと腰を下ろし、顔を伏せた。

 

「あー、そのなんだ。話はあまり見えんが」 と気まずそうに闇医者。 「なにかしらの、ほら。記憶を相互で確認し合えばいいんじゃないのか?」

「あまり意味はないな」 とおれ。顎に手をやり、思考を口にする。 「たとえば指定の日に、木山とどこで何を食べたか。という記憶が合致したとする、ではそれ一つで特定の個体だと納得できるのか? クローンなのだから木山とならどこで何を食べたいか、という趣味趣向はトレース出来るかもしれんし」

 

「では、わたしとの記憶の照合はどうでしょうか」 女がおずおずと提案する。

「あっても、あんたとの記憶を持つ個体と、術前の個体と、現在の個体が同一個体である証拠にはならん。そも記憶の確認なんぞは、術前の個体を拷問でもして情報を集められていたら役に立たん。それに証拠がない限り、どこで何をしたとかは現在の個体が嘘をついて水掛け論に発展させられれば平行線だ。なるほど木山が大慌てな理由を理解してきた。術前の個体と現在の個体を結ぶ正円の傷という連続性が断たれた今、最低でもおれは二体存在している訳だ。現在の個体が術前の個体に成り代わった可能性の所為で、観念的にだが木山の主観内でおれのクローンが生まれてしまった」

 

「あなたはクローンなのですか?」

「違う。と言ってはみるがしかし客観的には、というより木山の主観ではそうなった。擁護すると彼女は狂ってるわけじゃない。おれが木山でも、同じように判断する。せざるを得ない状況と情報だ」

 

 おれはうなだれる木山をベッドから見下ろして続ける。

 

「ま、諦めろ……それにしてもなぜ悲観する、術前の個体に思い入れがあったのか? ビジネスパートナーとしてではなく」

「それは……」 と木山はうなだれたまま力なく言った。 「わからん」

「ならいいだろ」

「わかりたかった、かも」

 

「なら楽観しろ。少なくとも、クローンが存在するなら殺す、だから殺されるかもと言っていた個体は、あんたの主観では消失した。あの個体は術後すぐにベッドから抜け出し、おれは当面の衣食住目当てにまんまともぬけの殻のベッドに潜り込んだ。あいつはわれわれクローン群からの離脱を果たした。木山春生に、あいつとわれわれが別人であると認識させた。信じられない事に、二番目に簡単な方法を実現させて一足先にアガリだ」

「……完全なる別人」

「完全かはわからん。仮に魂だけじぶんの全身サイボーグになれば、他のクローンを含めた誰もが他の誰かだと思うだろう。それは転じて誰も、おまえはクローンではないと言ってくれない訳だ。二万体のクローンの姿かたちが全員違うなら、二万体の別人としか映らないだろ? だから当人は、誰にもその苦悶を打ち明けずに一生を耐える必要がある。肉体を替えても、自分がクローンであるという自意識には囚われ続けるという事だ。だが誰かが、おまえだけはクローン群とは別個体だと、たとえ主観であっても認識してくれるなら、そいつにとっては慰めにはなるというだけ」

 

「あの、あなたはいったい……誰」 と女。

 

「おれが誰かなど、どうでもいい。誰なら納得する。きみの名前を言ってやろうか。クローニング技術が存在する以上、万人のクローンが存在しうるんだ。学園都市の医療水準は性転換や骨格レベルの整形まで出来るだろし、つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のクローンかもしれんという事だ」

 

 それを聞いた木山は無言でとぼとぼと部屋を出た。闇医者も、不気味なものを見るような視線をおれに向けた後でそれに続く。

 

 しばらくの沈黙の後に女が尋ねた。

「さっきのは本気で? クローン群からの離脱の件だけど」

「優しさ。いや、分からない方が良い時もあるという事。悪いが何かスープというか、ジュースとかあったらこっそり持って来てくれる? 味のするものを胃に収めたい」

 

 女が頷き、退室しようとするとスーツに入っていたプリペイド携帯が鳴った。ついでに取ってもらい、ドアが閉じられると同時におれは着信を認める。

 

 

 

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 数時間後、落ち着いた木山春生が野菜ジュース片手に病室に戻ると誰も居なかった。枕もとに、じぶんが買ってあげたプリペイド携帯があるだけだ。履歴を確認すると、直近で非通知通話の記録があった。

 

 ほんの少しの喪失感を覚え、ポケットからスコーピオンを取り出し、ゆっくりとゆっくりとベッドの下を覗きこむ。安価なパイプに支えられた安価なマットの下。年季の入った木目の床の上を。

 

 そこには正円の傷を持つあいつの色の無い顔が、光の無い目でこちらを見つめているのではないかと、木山は思考を止める事が出来なかった。

 木山は確認して、じんわりと力が抜けていくのがわかった。何もなかった。いや――と、手を伸ばしてまだ新しそうなメモ用紙を取り出した。埃を払い、内容に目を走らせる。

 

『急な野暮用ができた時の為に書いとく。木山春生に渡せ。

 ツリーによれば、安定した定職に就くにはやはり能力進化計画を破綻させる必要があるらしい。なぜかは知らん、ツリーに聞け。手段は三つで、実行しやすい順に記す。

 

 一つ。御坂美琴は、幻想御手っていう能力者の力を引き上げるドーピング音楽ソフトウェアを使っていたという事にする。つまりは、御坂は幻想御手を使ったからレベル5だったという事実を上層部に認知させる。

 どうもレベル4御坂のクローンの場合だと、第一位は星の数ほどの個数の御坂クローンを殺さなきゃならんらしい。第一位は計画全課程の12.08%をこなして老衰で死ぬんだと。ドーピング発覚、レベル4の場合の再演算、計画凍結の流れ。

 このソフト作ったの、あんたなんだって? 電話で言ってたあんたの技能の濫用ってこれの事ね。とんだサイコだ^^;

 本人がドーピングの使用を認めないと意味がないし、御坂は不名誉を被る事になるから、説得が無理なら別にいいよ。あとドーピングしても御坂は第一位を殺せん。

 

 二つ。計画完遂には二万体のクローンを使って、二万通りの戦場を経る必要がある。という事は、戦場でのクローンの初期位置も決定されているので、第一位との戦闘開始前にクローンをスナイプするなり爆撃なりで殺し続ける。第一位に経験を積ませない事で、計画は無限に延長する。計画参加者が折れるか第一位の寿命までやってくれ。個人的にはこれを推す。手段と金は任せる。

 第一位の敵になるのは無理だから、敵の敵になろうって考えが気に入った。

 

 三つ。たぶん無理ってか見た時ちょっと笑ったんだけど、どっかのレベル0が第一位くんを倒せば終了らしい。これ成功確率無限小って表示されてた。

【-∞】だぞ。

 いま絶対ニヤッとしたろ? グッドラック』

 

 読み終わると、木山はベッドの上のプリペイド携帯で黒子に連絡を取り、御坂に絶対能力進化計画の全容を話した。

 御坂の反応は事実を受け入れられていないように感じられる。それも当然だ、自身のクローンが存在するなど、誰も思いはしない。関連施設の襲撃は無駄なようなので止めておけと伝え、連絡先を教えて別れた。

 

 要するに木山は、二つ目の案を実行するくらいなら、あいつが定職に就かないくらいはどうでもいいかなって考えている。いざとなったら転がり込んでくるだろう。だからあとは御坂の選択次第だ。三つ目の案が叶う事など万に一つもない。だいたい、自身がレベル0と知りながらレベル5に喧嘩を売るなど正気の沙汰ではない。そんな事が出来るなら、まさしくヒロインの幻想の中でのヒーローだけだ。

 

 

 

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 一か月後、木山は自宅マンションの一室で瞬間を待っていた。しばらくは飲めなくなりそうなコーヒーを味わっていると、インターホンが鳴った。相手が誰かもわかっている。ドアを開けると完全装備のアンチスキルが数人いた。問答無用であっという間に組み伏せられ、固い床に頬をぶつけた。手錠とアイマスクで拘束される。

 

「木山春生だな。医療機関、製薬所、医大から無許可かつ藍線(インディゴライン)級の対外秘品薬物および超精密精製器具の横領でおまえを連行する」

 

 おまけに口には防言テープ ――酸素は通るが母音の空気振動を少しばかり抑制する―― をべったりと張られた。昏睡状態を安全に解除するワクチンを精製すればこうなると、ツリーでカンニングしていたとはいえここまでとは。弁護士も無理かと木山は内心で独りごちる。まあ、贖罪には妥当か。

 すでにワクチンは、ある信頼置けるカエルみたいな医者に届けてある。子供たちもそこで保護されているので覚醒は近い。

 

 そのまま隊員に抱え上げられ、ロープで地上まで降り、護送車両に乗せられた。車内は向かい合わせの座席で、木山の両隣りに二人、対面に一人。区切られた運転席に二人。

 木山の対面の一人がインカムに言った。

 

『こちらB班、統合司令所へ、目標の移送の準備完了、引き続きの支援を求む。以上』

『こちら統合司令所、了解』

 

 前後に一台の厳重態勢。片側三車線の大通りを進む。暗色の三台は色とりどりの乗用車の目を引き、浮いていた。

 

 覚醒した教え子にもう会えない事は、木山にとっては救いでもあった。原因の一端を担ったじぶんに対する批判、憎悪、冷ややかな視線。それを避ける体のいい言い訳になるからだ。だが同時にほんのちょっぴりの羨望もあった。回復した子供たちを、一目でいいから見たかった。

 これからどうなるのかはわからない。裁判があればいいが、最悪の場合は木原幻生と再会するかもしれない。そうなれば、投獄よりもひどい目に合うかも。

 

『……こちらB班、了解』

 

 陰鬱な木山の思考を、聴覚が打ち消した。微かに聞こえる、クラクションとタイヤのスリップ音に混ざる懐かしいエンジン音 ――車内の全隊員が小銃の遊底を一斉に引いた―― 聞き間違えるはずもない。あれは。

 

 一際鋭いドリフト音と同時に全護送車両が停止し、B班の一人が飛び出した。A班C班もそれに続いて周囲を警戒する。空気が緊迫している。

 

「マジで、信じられないんだけど!」 と、外から少女と思わしき怒声。 「アクセルベタ踏み逆走とかマリカーでもやってる気分って訳よ!?」

 

 悪びれずに男が答える。

「そうだっけ? あれだよ、ジッポーくらいの大きさの小っちゃいミニゲーム機みたいなの知らない? テトリスとか出来るやつで、自機を三レーン上で左右に移動させて車を避けて進むゲーム。あれ得意だったから行けると思って」

「そうだっけ、じゃない! ふざけんな! あれは進行車線で追い抜いていくゲームだろ! どのみちあんたのお粗末な脳味噌はゲーム脳って訳よ!?」

「しょうがないだろ! 急に頭の中で声が聞こえたんだよ! 木山センセイどうしてるかな? 会いたいね、って枝先だか春上だか知らんがおばけの会話が! ああー、今度お祓いに行かなきゃ。わ、待て待て撃つな。わたしは統括理事会を構成する一人だ。諸君らの目標を接収する」

「それたぶんテレパスの通信が混線してるか間違いテレパシーなんじゃあ……」

 

「おい何を勝手な事を」

「仕事に横やりを入れるような真似をして悪いと思っているが、おばけクライアントが木山センセイに会いたいって依頼を出したんだから諦めてくれ。あんたの上司は人間だが、わたしはおばけだぞ。祟られたら敵わんからマジで譲れ。ボーナスの査定に色つけるように手回しするから」

 

 カツリと革靴で誰かが車内に乗り込んでくる。木山はアイマスクを取られ、差し込む光に目を細めて闖入者を見やった。

 

「久しぶりだな、木山。悪いが、本当に申し訳ない、ごめんだけど何も言わずにおばけに会ってくれ、センセイって言ってたからたぶんあんたの教師時代の教え子だと思うけど。あと知り合いに霊媒師がいたら紹介してくれ。ゴーストバスターズみたいな掃除機を開発してくれてもいい。これは冗談じゃない」

「きさま誰の許可あって」

 

 はいこれ直接強制認可書、と男はアンチスキルの一人にペラ紙を押し付けて、ぞんざいに木山の防言テープを剥ぎ取った。

 

「ごめん、半泣きになるほど痛かった?」

「まあ、な。おまえは本当に」 気が利くんだか自己中なんだか。優しいんだか雑なだけなんだか。

 

 男はまだ納得のいっていない隊員に手錠を外させて木山と共に降車した。

 木山の視線の先、先導車の進行を防ぐように蒼天色のランボルギーニが美しい曲線のドリフト跡を残して横づけしてある。

 

「言ったろ、借りるって」

「驚いたな、どうやってインチキ研究員から取り戻した」

「カマをかけるのはなんで? 悪いが木山のとは別個体だ。個人で輸入業を営んでいてね。副業で理事会員をやってるんだが、イタリアに仕入れに行くことがあったんでなんとか手に入れた。頼むから次からはもうちょっと流通している車に乗ってくれ」

 

 男はキーを木山の手に……というところで止まった。悪戯に笑って続ける。

「免許の、所持はしているのか」

 

 つくづく、この男は。木山は軽く笑って助手席に乗り込んで、アシストグリップを露骨に握った。

 

 

 

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「すまんな、突然居なくなって。わたしにも色色と事情があってな」

「いいさ、仕事が繁盛しているようでなによりだ。あの後どうしてた」

「それが聞いてくれよ。笑える話なんだけどさ、あの後、アイテムの上司の謀略だと考えてるんだけど、理事会の定例会議に出席しなくちゃならなくなって」

「よく生きてるな。死んだからおばけの声が聞こえるようになったか?」

 

「生きてる実感が欲しさにしばらく目を閉じて運転したくなるぞ。そういう肝が冷える冗談はよせ。で、理事会長とか他にも何人か欠席だったんだけど、その場の全員が誰こいつみたいな顔してるんだよ。その内の一人が核心突いて誰おまえって言うから、存在しないはずの最初の七人みたいな事を言ったら割と納得された。ウケるだろ。たぶん学園都市だと抹消された~とか居ないはずの~ってのが珍しくないんだな」

「消えた最初の強盗とかな」

「このクソつまらん話題は止めよう」

 

「幻生関連はどうなった」

「理事会員の中でも少数派なんだが、幻生を快く思っていない会員と仲良くなったとか。あと木原一族って変人集団なんだな。何人かと会ったけど、幻生のクローンって言っても受け入れているみたいだった。たぶん、わたしと幻生が同じ場所に居て、木原の何人かが幻生に認印を求めたり会話をしてたりするだろ。で、途中で幻生が急死したら、そのままわたしに認印を求め、会話の続きをするような連中。狂ってるよな」

「居心地良さそうだな」

「全然。テレスティーナとかいうちょっとイイ女が幻生の孫らしいんで、おじいちゃんだよーってちょっかいかけたら危うく殺されかけた」

 

「ふぅん」 とつまらなそうに木山。露骨に話題を切り替えた。 「で後ろの一見して明白に未成年の少女は? 釈明を聞こう」

 

 二人乗りのランボルギーニ故にシートの後ろの空間に無理やり横たわる金髪ロングは、関わりたくないオーラでスマホをスワスワと弄っている。

 

「わたしの趣味じゃない。アイテムの一員。今のところ、こいつらの上司とは共同戦線を張ってる。互いの喉元にナイフを押しやった持ちつ持たれつな関係だけど。こいつはカメラマンとして借りた」

「カメラマン?」

「今からちょっと幻生の所に寄り道しようと思って」

「は? 何の為に」

 

「嫌がらせだよ。利用したやつにするって言わなかったか? おまえの計画を破綻させてやったぜ、ざまーみろってからかう所を撮ってもらおうと思って」

「このおっさ」 少女はバックルームミラーで男と視線が合った。 「おじさんの矮小な復讐の為に、アイテムの一人がしょうもない役割を担うって訳よ」 心底情けなさそうに零した。

「おまえ、ばかだろ」 と木山も呆れ顔。

 

「構図は考えてある。わたしと木山が肩を組んで、二人して幻生を指さして大笑いする、ってのはどう? 楽しみだな。奮発して凄いカメラを持ってきたから。動画も取れるし解像度が肉眼レベルって学園都市の技術レベルは天井知らずだな。SNSに投稿するのはやり過ぎか」

「つ、疲れる。おまえと久久に話すのは」

 

 懐かしさを覚えた木山の言葉に少女が反応した。

 

「このおじさんと話すときは、スマホでも弄りながら話半分じゃないと意識が汚染されるって訳よ」

「ふうむ、見習おう」

「……あーそう。じゃあわたしもそうする」

 

 そう言って男が携帯端末を弄ると二人は、ながら運転だけは止めろと慌てた。

 

「おまえに怖い事は無いのか」 と木山は携帯端末を取り上げて言った。

「あるよ。幻生が死ぬと非常に怖い事になる。わたしが後釜にされるから。まあ大丈夫だろうけどな、あの爺さんはいろいろ身体を弄ってるみたいだし」

「確かに、木原幻生は殺しても死ななそうだし、一世紀以上生きていると言われても納得するくらいだ」

「だろ? クリーチャーみたいにしぶとそうな幻生が死ぬわけないよな」

「ないない」

「でもひょっとして、嫌がらせをしたら憤死したりして」

 

 まさかー、はっはっは。男と木山が笑った。

 

 

 

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 気が付くと学園都市で銀行強盗していた 完

 

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 だがわたしはこの時、知る由も無かった。アイテムの上司が、なんとか幻生を暗殺してわたしを幻生に成り代わらせ、木原一族との太いパイプを構築できないだろうかと思案しているなど。

 だがまあ、木山の罪悪感から来る陰鬱な表情が消えて、いい感じになったのでとにかく何でも良しとする。あの失望と無念さに肩までつかったような顔が、今ではあっけらかんと笑っているのだから。

 映画なら、車を正面に捉えて、笑ってるわたしと木山の止め画でエンディングだ。

 


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