生徒会長イッセーと鳥さんと猫   作:超人類DX

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と、見せかけて、懲りない方々の愚痴が……。

まあ、切羽詰まってるから多少は勘弁してつかぁさい。


つかの間の休息

 レイヴェル・フェニックスの実力は果たして一誠より下回るのだろうか? 答えは否である。

 そう話すは一誠本人だった。

 

 

「ハッキリ言うと、本気でやり合うとなると俺も『全力』を出さないとやられる」

 

 

 進化の異常を持ち、常日頃その身を無限に進化させ続ける一誠をして『本気』を越えて『全力』を出さないと確実に負けるとまで言わしめるレイヴェルの実力は紛れもなく本物であり、その証拠に日頃生徒会の仕事を放課後遅くまでこなした後に皆で行われる『修行』の際、白音と黒歌との三つ巴状態のバトルは表現のしようが無い程の熾烈極まりない戦闘だった。

 

 

「行きますよ……」

 

 

 炎と風を操るフェニックスの血を引き、尚且つ逸脱者と呼ばれた両親の血を色濃く受け継ぐことで発現せし七色の炎を操るレイヴェルの単純攻撃力は寧ろ一誠を上回ってすらおり、母から受け継ぎし特殊素材のグローブを嵌めたその両手に七色に輝く炎は神々しさすら思わせる。

 しかしどちらかと言えばエシルの血が濃いレイヴェルが得意とする炎の性質は虹の炎よりも、太陽を思わせる圧縮された破壊の炎だった。

 

 

 怒りの暴発(スコッピオ・ディーラ)………!!

 

 

 その言葉と共にレイヴェルの両手から極太のレーザーを思わせる炎が放たれる。

 憤怒の炎と人外の少女が提唱したその炎の性質がレイヴェルの最も得意とする炎であり、最も破壊力のある炎だった。

 

 

「チッ、やっぱり強いですねレイヴェルさん」

 

「あんなのまともに食らったら一発でお陀仏だわ」

 

「姉様はその反則スキルで何とかなりますが、私は正直やばいですよ……」

 

 

 フェニックス家が保有する土地に設置された鍛練施設。

 例えるならドーム球場クラスの広さを誇る平地なのだが、その平地を使って三つ巴の模擬戦をする白音、黒歌、レイヴェルはそれぞれ持つ力を極限まで引き出し、まるで本当に殺し合ってるのでは無いかと誤解する程の熾烈で苛烈な模擬戦を興じていた。

 

 その模擬戦たるや、まるで戦争であり、レイヴェルによる炎の一撃で地は荒れ果ててしまっている。

 勿論黒歌と白音もレイヴェルに食らい付いているのでますます周囲の状況が大変な事になっているのだが、それもこれも『先への進化』の為であり、手を抜く事も妥協することも一切ない。

 

 

「来いよ……」

 

「言われなくても……!」

 

「年長者嘗めんなにゃ!」

 

 

 全ては進化を体現せし少年に並ぶ為に……今日も三人の少女は己を磨き続ける。

 

 

 

 基本的にというか、絶対というべきか、一誠とレイヴェルは喧嘩をしない。

 レイヴェルが白音や黒歌のせいで若干拗ねる事はあるけど、大体は一誠が謝り倒す事で刹那に許しちゃうので、本格的な喧嘩は皆無に近い。

 

 しかしそんな仲でも一度修行となれば互いに妥協はせず、打って変わって本気で殺しに行くレベルの戦いを展開する。

 

 それは先程戦争レベルの模擬戦を終え、白音と黒歌に代わって一誠がレイヴェルと模擬戦を始めた時もそうである。

 

 

「っ……ラァッ!!」

 

「はぁっ!!」

 

 

 出し惜しみ無し、最初から全力状態から始まるレイヴェルと一誠の一戦は、基本的に飛行が出来ない筈の一誠が当たり前の様に空気を足場に宙を舞いながらレイヴェルと真正面から殴り合っている。

 

 

 フェニックスの炎を操る事で地力を上げているレイヴェルの身体能力は可憐な少女の見た目を平然と裏切るが如く半端ないものであり、炎を噴射する事で推進力を上げてスピードを増しているのもあって、ファントム連射 状態の一誠と互角の戦闘を演じている。

 

 

「白音と黒歌に触発されたか? 恐ろしいほど強くなってるなレイヴェル……!」

 

「一誠様こそ……いえ、少し今までより成長速度が落ちてますわね……!」

 

 

 だがレイヴェルは今の一誠が不安だった。

 というのも、スキルのリミッターを外した一誠の成長力がこの前を境に明らかな劣化を感じるからだ。

 今だって本来ならこんなにも自分の攻撃が当たる事は今まで無かったのに、今の一誠はレイヴェルの炎を纏った拳を何百と受けてかなりボロボロだった。

 

 

「お前の言う通りだ。

例の赤い龍が『自分を使わなければ使わざるを得なくしてやる』と言って、俺のスキルの邪魔をしていてな」

 

「……! あの赤蜥蜴が……!」

 

 

 その原因は、転生者から本来の宿主へと還った赤い龍による『妨害』であり、無神臓のスキルが思うように使えなくなっているのが原因だった。

 とはいえ、それを抜かしてもこれまで培ってきた経験があるのでそうそう遅れを取ることは無く、全身軽く焦げてるとはいえ、レイヴェルに拮抗しているのは流石だといえよう。

 

 

「心配するな、逆にここまでされると意地でも使いたいとは思わん。

俺のアイデンティティはお前のお陰で至った無神臓(これ)ただ一つだ」

 

 

 だからこそレイヴェルは早く神器の知識に強いアザゼルと接触し、愛しき方の邪魔となる赤蜥蜴を消し去ろうという考えを強くする。

 それこそ、師であるあの人に頼む事すら辞さない覚悟も入れて……。

 

 

「しかしお前とやり合うのは楽しいよレイヴェル。

もっと続けるぞ……!」

 

 

 愛する人にもっと安らぎを与える為に……。

 

 

閑話休題

 

 

 

 紫藤イリナが一誠と面会してから三日後。

 立場が殆どお飾りになったと言っても良いソーナとリアス達は、毎日を制限された日々を送らされていた。

 

 転生者によって最近まで色々とやらかした挙げ句、その尻拭いまでして貰ったのだが、評判としてはほぼ落ち目も良いところだった。

 

 だが、本人達は最早その評判を気にする余裕は無く、あるのは『転生者による洗脳で失った色々をどう取り戻すか』しか頭にない。

 

 

「……。これ以上彼に迷惑をかけるなら勘当すると言われたけど、ソーナの方は?」

 

「同じくよ……。恥の上塗りはやめろと言われたわ……」

 

「「……」」

 

 

 リアス、ソーナ、朱乃、椿姫……そして双方の持つ女性眷属達に残った忌まわしき記憶と体験。

 既に死んだ方がマシとすら言われる地獄に今尚閉じ込められているだろうあの男によって刻まれた色々の半分は、化け物と呼べる理不尽な力を持つ生徒会長によって無かった事にはなった。

 

 しかし経験した現実は残ったままなので、勿論処女なんかじゃないし、またそんな男と溺れたという風評もきっちり残ったまま。

 

 それもこれも中途半端に嫌味の如くあの生徒会長が残したせいと言えばそれまでだが、それは身勝手な考えであるし、何度も周囲に怒られたので納得する他無い。

 

 

「紫藤イリナの事、聞いた? 何でも相当なケアをしてあげたそうよ?」

 

「ええ、もしかしたらあの不思議な力を彼女だけに使ったかもしれないわね」

 

「だ、だとしたら何故私達にはそれを……?」

 

「聞いたところによると、紫藤イリナさんとは本来の幼馴染みらしいです。なのでよしみなのかもしれませんね……」

 

 

 だがしかしそれでも、それ程の力があるならもう一度使って『最初から最後まで無かった事に』して欲しいと思ってしまう訳で……。

 紫藤イリナに対する対応を聞いてしまったからこそ余計に理不尽さを覚えてしまっている。

 

 イリナに使ったのなら自分達にだって使ってくれても良いのに……と。

 しかし両親はおろか魔王二人にまで完全に釘を刺された今の状況で頼んだら、今度こそ……それこそ穴倉に戻される可能性が高いので、リアスとソーナ達は思うように動けず、すっかり溜まり場となった旧校舎のオカルト研究部にて沈んだオーラをこれでもかと放ちまくっていた。

 

 

「大体、祐斗と小猫とギャスパーは私の眷属なのに、何で今レイヴェル・フェニックスの眷属候補になってるのよ……。

強制されたからとはいえ、そこも私は納得してないのだけど……」

 

「それを言ったら私だって匙が彼女の兵士候補としていつの間にかトレードされた事に不満があるわよ。

加えて何で旧派で敵だったはずの女が私たちより優遇されてるのかも……」

 

「……。彼がいつの間にか祐斗君やギャスパー君や小猫ちゃん、それから匙君を取り込んだとしか思えませんわね」

 

「何せその時はあの嘘吐き男に無理矢理意識を取られてましたし、取り込むのに時間は十分です」

 

 

 99%の支持率を持つ生徒会長だが、支持をしない1%とされるのが彼女達だったりする。

 理由は勿論会話の通り、中途半端に扱われて惨めな思いをわざとさせてるからという…………まあ、簡単に言えば逆恨み爆発な理由だ。

 

 今だって気付けば生徒会長――つまり一誠に対する不平不満をぶちまけていた。

 

 

「大体あの彼だってあんな理不尽な力を持ってるのだし、もしかしたら祐斗や小猫達を洗脳してるかもしれないじゃない」

 

「ええ、レイヴェル・フェニックスが異常なまでに人間の彼を好いてるのも変ですし。……だってあのフェニックスがですよ?」

 

 

 本人が聞いたら多分逆にその場で笑い、レイヴェル達が聞いたら多分どころか最早戦争覚悟で八つ裂きにするだろう命知らずでズレ過ぎな事を愚痴っぽく話し合う辺り、どうやら反省云々の前によほど一誠のマイナスにある意味で魅入られてしまってるのかもしれない。

 

 でなくても、いくら何でも『まともだった頃』の彼女達と今の彼女達が違いすぎる。

 

 まあ、単純に今の状況から逃げたいが為に素が出てしまってるだけなのかもしれないが。

 

 

「そもそもあの男は彼の姿をトレースした存在だったと考えると、もしかしたら力もある程度トレースしていたと考えられない?」

 

「つまり私達の意識を無理矢理変えた洗脳術があの不思議な力のトレースだったと? ……ありえるかもしれません」

 

「そ、それは流石に考え過ぎな気が……」

 

「あの男みたいに洗脳した証拠なんてありませんし……」

 

 

 ブツクサとズレまくった予測までし始める主二人には流石の女王二人も否定的だったものの、それでも強くは否定しない。

 

 

「……。今だから気付けますが、匙って私に好意を持ってるから、上手くそれを利用して取り戻し、匙を介して何とか頼める事が出来たら良いのに……」

 

 

 しかも挙げ句の果てにソーナがとんでもない事を言い出す。

 

 

「匙って……確かあの真っ黒な鎧を纏う……?」

 

「五大龍王のウリドラを宿していた筈なのに、いつの間にかそんな力を持ってたので詳しくはわからないけど、そうよ。

あの子が持ってた私に対する好意を何とか使えば突破口が……」

 

「あ、あの……それも流石に今は無理な気が……。

だって匙君ってカテレア・レヴィアタンと仲良さそうにしていたというか……あとセラフォルー様とも」

 

「……。わからないじゃない。もしかしたら私を忘れようと無理してるだけかもしれないし……」

 

 

 椿姫のおずおずとした声にソーナがムッとしたように返す。

 確かに最近の元士郎を見てると、自分より優遇するカテレアやらいつの間にか姉と仲良くやってるように見える。

 しかしそれが無理をしてるだけだとしたら、ちょっと何か言ったら戻ってきてくれるかもしれない……等と何故か急に本気で思い込むソーナにちょっと引いてしまう面々。

 

 

「大体何であんな女を優遇するのよ……。匙も兵藤一誠も……」

 

 

 それこそ本人が聞いたら即鎧召喚で切り刻まれるだろう考えだと解らずに……。

 ブツブツと理不尽な自分達の状況で色々と訳がわからなくなってる者達はやはりちょっとやそっとじゃ変わらないらしい。

 

 

 

 

 

 そんな者達の逆恨みを知らない……いや知ったところでどうでも良いと本気で思うだろう一誠はといえば、転生者と取り巻きとの清算が一段落ついたという事をやっと自覚出来るようになり、少しだけ気を緩めていた。

 

 

「すーすー……」

 

「最近オーバーワークだったし、やっぱりあの人達の事で気疲れしたんだろうね……居眠りしちゃってるなんて珍しいや」

 

「まあ当たり前だわな。俺なら三日は寝込む自信があるぜ」

 

 

 肉体的疲労を凌駕する精神的疲労が蓄積し、つい生徒会室で居眠りをしてしまった一誠は、只今ソファにてレイヴェルに膝枕されながらスヤスヤ寝ており、居眠りをしてしまう理由を知っている生徒会メンバーはお疲れといった視線を向けて静かに労いの言葉を向ける。

 

 

「ちぇ、私が膝枕してあげたかったのになー」

 

「そんなの私だって同じですよ。鳥さんばっかりです……」

 

 

 黒歌と白音はレイヴェルの膝で眠る一誠の頬をつんつんしながら、自分もしてあげたかったと洩らすが、だからといって起こすという無粋な真似は絶対にせず、すやすやと気持ち良さそうにレイヴェルの膝で眠るその頬をつんつんし続ける。

 

 

「年期が違うのですよ雌猫さん? これに懲りてとっとと一誠様を諦め――」

 

「嫌ですね」

 

「ありえないから」

 

「――――でしょうね。アナタ達はそういう方ですものね……って、おい、黒雌猫……然り気無く一誠様のベルトを緩めるのはやめろ」

 

「えー? じゃあ絶対起こさないから、ちゅぱちゅぱするのは――」

 

「そんな真似してみろ……本気で焼き殺す」

 

「ちぇー……イッセーだって男の子だしそろそろ発散させてあげたいのになー?」

 

 

 然り気無くとんでもない事を口走る黒歌に当人達以外は苦笑いしてしまうが、不思議と居心地の悪さは感じなかった。

 

 

「んー……」

 

「あ……一誠先輩がレイヴェルさん側に向いちゃった……」

 

「良いなぁ~ 私もイッセーの事良いこ良いこしながら寝かしつけてみたいにゃん」

 

 

 何時もの様にレイヴェルの腰に腕を回してガッツリ抱きながらお腹に顔を埋めてスリスリと心地よさそうな顔を寝声を出し始める一誠。

 それを見て元士郎は自然とカテレアさんがしてくれたらなー……と指くわえて妄想するし、その隣でギャスパーが意味深に元士郎をチラチラ見て、祐斗はそういう事は考えなかったけど、さっきからゼノヴィアと互いに目が何度も合っては咄嗟に逸らすというやり取りに忙しくて気まずいとかが無いのだ。

 

 

「んん……」

 

「あん……♪ もう一誠様ったら……そんな所にお顔を埋められたら恥ずかしいのに……」

 

「その割りにはかなり嬉しそうな顔をしてるのがムカつくんですけど。

何ですか? 発情でもして下着がアレな事にでもなっちゃいました? 私に代わってくださいよ」

 

「嫌ですわ……ふふ♪」

 

「いーないーな……私の胸とかちゅぱちゅぱしてほしーなー」

 

 

 まあ、スイッチ入ると凄い一面があるのを知ってるからというのが大きいのかもしれない。

 

 

「ゆ……祐斗も寝てみるか? せ、折角だし私で良ければやってやれるぞ?」

 

「はぇっ!? ぜ、ゼノヴィアさんがレイヴェルさんみたいにしてくれるのかい……?」

 

「うん、嫌じゃなければだけど……」

 

 

「元士郎先輩……その、カテレアさんの前に僕で予行演習とか……きょ、今日僕女の子の日だし」

 

「女になってるなら逆にやっちゃダメじゃね? しかも俺にって……」

 

 

 こっちもこっちで影響を受け、今だけは平和な時間なのだった。




補足

とうとう、転生者と同じとか疑いだしちゃったけど。これ本人達の前で口滑らせたら何故かサーゼクスさんがマジギレするかもですね。

その2
流石に精神的に疲れたので、レイヴェルたんに癒される一誠くん。
何時もの様に膝枕と見せ掛けた抱き枕でな。

位置的にどこに顔を埋めてたのかは突っ込んだらいけないぜ!

おまた―――な、なんでもない。

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