とはいえ、それが果たして救済なのかは不明ですけど。
その後と新学期
それからどうなったか。
兵藤誠八……だった男は陽の光を浴びることも不可能な地下で無理矢理生かされるという地獄の末路となり、その男の魅了により狂った女達は正気に戻るものの、悪魔社会での評判は地に落ちきった。
リアス・グレモリーとソーナ・シトリーの元眷属である木場祐斗、塔城小猫、ギャスパー・ヴラディ、匙元士郎の四名はフェニックス家預かりとなり、二度と彼女達に忠誠を誓う事は無いだろう。
そして兵藤誠八だった男との間に関係を持ち、見事なまでに身ごもってしまった者達は、正気と共に絶望と後悔の念に苛まれてしまうのは想像に難くない。
あれだけ愛と宣っていた己への嫌悪、正気に戻ってしまうことで突きつけられる、好きでもない者との子。
全てが正気に戻ってからの彼女達は発狂するのも時間の問題だった。
勿論、堕天使に引き取られた姫島朱乃や、天界陣営に隔離されていた紫藤イリナも、兵藤誠八の全てが嘘で塗り固められた物だったという証明を一誠達によって暴かれた時の映像を見た時、絶望をしたのは云うまでも無い。
その後彼女達は一体どうなったのだろうか? 簡単に言ってしまえば彼女達は今も生きている。
世間的には夏休みが終わり、新学期が始まった今でもちゃんと生きている。
しかも全員が全員、『転校』という処理で退学になった筈の高校を裏で色々やって再び登校している。
そう……。
「言っておくが、別に感謝して欲しくない。
何せ俺は『どうであれ』貴様達の子供を『居なかった事』にした殺し屋だからな」
『………』
兵藤誠八だった者との決着により失う寸前だった、夢と現実を入れ換える力の最後の二回の内のひとつを使って貰う事で、ある程度身を綺麗な状態へと改編して貰う事で……。
「それから祐斗と元士郎達にはちゃんと謝れよ。
割りを食ったのはアイツ等なんだから」
『………』
マイナスという要素を完全に消す代償で尻拭いして貰う形で……。
グレモリーの人達とシトリーの人達が一誠に土下座まで噛ましてあの日言った言葉は、『キミのその不思議な力でどうか娘達の妊娠を無かったことにして欲しい』という、一誠にしてみればメリットのメの字も無いものだった。
『さて、一学期の終業式で諸君等も知って通り、この日から我々生徒会は本格的に活動の幅を広げる。
よって一学期同様、相談ごとがあれば遠慮せずこの目安箱に投書してくれ』
しかし一誠は結果的に奴等の頼みを引き受けて、最後の一回だったマイナスのスキルを犠牲にして奴等が兵藤誠八によって孕んだという現実を否定した。
それは前にチラッと本人が言ってた初恋の人……確か紫藤だかなんだかと、堕天使に引き取られた姫島朱乃も適応させ、この一打により一誠のマイナスは完全に消滅した。
そして奴等は監視の目を受けながら復学までした。
それもグレモリーとシトリーの当主達の懇願だった。
一誠はその懇願に対して『別に俺の許可なんて要らないと思うが?』と言って俺と木場達元眷属の意見を尊重するように奴等に求めた訳だが、俺たちももう無関係となった相手に何も抱かなかったので、好きにしたら良いのではと言ってやった。
『俺からは以上だ』
フェニックス家預かりとなった俺達と奴等は最早関係ない、
今も生徒会として壇上に上がる俺達の視界にリアス・グレモリー達やソーナ・シトリーが映るが、その表情は一様に暗いものであり、それを見ても俺はなんにも感じないのが正直な感想だ。
今の俺の目標は、もっと強くなって皆に追い付く事だからな……。
決別した相手と、もう終わっちまった事で何時までもグダグダやりたく無いのさ。
それよりも気になるのは一誠だ。
『次は校長の話だ。寝るなよ?』
あの性欲バカとの決着によりマイナスを失った。
しかしそれと同時に発覚したのが、一誠の中に何やら入り込んでしまったモノがあるらしい。
そのお陰かどうか知らないが、最近一誠はほんの少しだが自分で『身体が重い』とぼやいていた。
調べてみると、どうも性欲バカに宿っていたモノが一誠に――いや、聞けば本来の持ち主に戻ったらしいのだが……。
「………」
一誠にしてみればマイナス以上にそれが枷になってる気がしてならない。
夏休み中の修行で直接模擬戦を何度もした俺達が感じるんだ。多分本人もそれに気付いているだろう。
宿ってしまったそのモノに関しては一誠は一切使用していない。
今まで散々一誠に世話になった分、今度は俺達がその枷を何とかしないとな。
そう思いながら二学期の始業式は幕を閉じた。
二学期となっても、オカルト研究部を退部したとしても女子に人気があって男子に嫉妬される運命を持つ学園王子の木場祐斗。
生徒会に書記として加入しても尚その人気はある意味衰えないのだが、最近そんな彼には夏休み直前に学園に転入してきた外国人の美少女との噂が出ていた。
「っはー! やっと昼休みだぁ~」
「飯行こうぜ飯~」
「今日は何処で食べる?」
「うーん、木場君を誘ってみようかしら?」
二学期も始まって数日が経った頃、一ヶ月振りの授業のブランクなのか、あちらこちらで生徒達が身体を伸ばして精神的な疲労を覚えつつも、昼休みという憩いの時間をどう過ごそうかとあちらこちらで声が飛び交ってる中、この度生徒会長の推薦により書記として加入した木場祐斗は、先の授業で使用していた教科書等々を丁寧に仕舞うと、昼休みで羽を伸ばそうと考えていた。
今日は何を食べようか?
一誠くんたちと合流しようかな?
リアス達との決着によって精神的な疲労から解放され、過去との決着により根に残る闇も晴れていたせいか、素直な気分で今の人生を楽しむ意気込みを持ち始めていた祐斗は、それが表面に出ているせいかますます周囲の女子達からモテモテであり、男子達からの嫉妬も凄まじいものであった。
現に今だって女子の一部が勉強道具をしまってた祐斗に声を掛けようかと黄色い視線を送り、それを察した男子が妬むという構図が出来上がってたりするのだが、祐斗にしてみれば申し訳ないがそのどちらにも関心は無かった。
「祐斗」
「ゼノヴィアさん」
そう、期間は短いけど、それでも胸を張って仲間と呼べる者の一人、ゼノヴィアの存在が周囲からの視線を全部シャットアウトしていたのだ。
美少女外国人という事で復学したリアス達並みに人気が会ったりするゼノヴィアに直接話し掛けられた祐斗は、ただただ嬉しそうに微笑みながら彼女に返事をする。
「お昼、食べるだろ?」
「うん」
ゼノヴィアという、ほぼ無理ゲーに近い美少女が何の躊躇いも無く祐斗に話しかける時点で敗北を悟る女子達と、そんな美少女に柔らかい表情で話しかけて貰える事に妬む男子の視線を気にせず、ゼノヴィアが持ってきた二人分のお弁当の片方を受け取った祐斗は実に嬉しそうに立ち上がる。
「エシルさんから叩き込まれたが、まだ未熟なんで味は保証しかねるぞ……」
『ナニィィィ!?』
どうやら本人の手作りらしく、ちょっと不器用っぽく布に包まれたお弁当箱を受け取る権利を既に所持しているという現実に男子達が思わず騒ぐ。
「そんなのは関係ないよ。だ、だってほら……美味しかったの知ってるし」
『えぇぇぇっ!?』
そして祐斗は祐斗とちょっと照れながらも嬉しそうにするもんだから、木場祐斗狙いの女子達もまた悲鳴をあげる。
何というか、独り者には入り込めなさそうなオーラが二人から溢れていた。
というかだ……。
「えっと、何処で食べようか? あ、一誠君達と合流する?」
「それもいいが、その……お前と二人はダメか……?」
「へ!? そ、それは勿論ダメな訳が無いよ! う、うん……あははは!」
「そ、そうか……ふふっ!」
『…………』
何だこの付き合いたての中学生みたいなやり取りは。
どっちも初っぽくなってるし、基本お堅そうなゼノヴィアももじもじしてるし、祐斗も目を泳がせまくりだし。
周囲の生徒達も何故か恥ずかしくなってきた。
「て、テメー木場ァ! ゼノヴィアさんとつ、付き合ってんのか!?」
「「え!?」」
しかしそんな中を勇者と化した生徒Aが、妬みと伝染させられた気恥ずかしさを交えながら祐斗に挑みかかった。
勿論声には出さないものの、見ていた男女両方はビックリした様に固まる二人の回答を食い入る様な目で待っていた。
すると……。
「つ、付き合うってそんな……ゼノヴィアさんに失礼だよ……」
完全に目が泳ぎ、吃りまくりな声で祐斗は違うとは言った。
しかし普段の木場祐斗の様子とは明らかに真逆のテンパりっぷりのせいで信用しようにも無理があった。
「失礼なものか、お前の強さを私は知ってるつもりだし、そ、そ、その……私はそんな祐斗が、き、嫌いじゃないぞ?」
「ゼ、ゼノヴィアさん……」
加えて祐斗並とは言わないが、それでも照れていたゼノヴィアの一言が完全に決定打となってしまった。
何せまだ日は浅いが、ゼノヴィアのキャラとは思えない程の、言ってしまえば可愛らしい言い方とほんのりと頬を染めながらのもじもじした仕種は、男子は若干前屈みになるわ、女子は何かに目覚めそうになるわの一撃だった。
「き、木場ァ……リア充死ね!」
「そ、そうだそうだ! 羨ましくて死にたくなるわボケ!!」
チェリーにはちょっと刺激がお強かったのか、ゼノヴィアのギャップにやられてほぼほぼ前屈みになりながら、祐斗に呪詛の言葉を投げつけるが、正直格好がアレ過ぎてみっともない様にしか見えない。
「何か此処だとアレだし、外行こうかゼノヴィアさん」
「うむ、そうだな……あ、一誠達みたいに、その、腕とか組んでみるか?」
「へ!? あ……えっと、な、何事も経験だしやってみようかな? あは、あはははー……」
結局、中学生みたいなやり取りを見せ付けられてしまい、少なくともクラスの生徒達は二人の仲を確定させてしまうしか無く、完全敗北しか気分で、これまたテンパりながら不器用に腕を組ながら教室を出ていった二人を見送るしか出来なかったとか。
ちなみに、女の影が全く見えないとされる元士郎なのだが、彼も彼でただ今衝撃の事実を発覚させられていた。
「あ、元士郎」
「はぇ!? か、カテレアさん!? な、なな、何で!?」
その日元士郎は弁当を学食で済ませる気でいた。
それか一誠達と合流でもしようかとも考えていたのだが、突如自分の所属する教室に来賓カードを首から下げてやって来たカテレアに元士郎はさっきまでの数学授業の疲労が消し飛び、ただただ驚きの眼差しで、同じく『だ、誰だこの褐色美人!?』と思いながら、男子の視線を釘付けにしている彼女を見る。
「お弁当……元士郎持っていかずに行ってしまったので……」
「え? じゃあまさか……」
「はい、かなり失敗しましたけど、これなら何とか食べられない事は無いかなと思って……」
どうやらカテレアが来た理由は、元士郎に弁当を持ってきたかららしい。
なるほど、だからエプロン姿なのか……と元士郎は内心めっちゃ嬉しくてハシャイでいたのだが、ふと弁当を手渡された際、カテレアの手に数ヵ所程切り傷が出来ている事に気付く。
「カテレアさん、その指……」
「これ? ふふ、今までこういった経験は無かったから、かなり失敗しちゃいましてね。
いい年してこの様です」
褐色の綺麗な手に刻まれていた切り傷を隠しながら自嘲気味に笑うカテレア。
既に周囲の生徒達は『誰なんだ?』と『てか何で匙なんかとこの美人が?』といった疑問だらけでリアクションすら忘れてる訳だが、そんな空気の中自嘲するカテレアが隠そうとした手をサッと取った元士郎は、嬉しいけど申し訳無い様な気持ちでキュっと握りながら、ひたすらにお礼を口にする。
「ホントありがとうっすカテレアさん。何かもうホント……嬉しいです」
「アナタのお陰で今がありますから……私に出来るといってもこれくらいしか無いから気にしないでも――」
「いえ! 俺はもうカテレアさん居てくれたらそれだけで十分ですから! ありがとうございます!」
「元士郎……」
元士郎と同じクラスに『復学した』元仲間の女子が苦虫を一万匹噛み潰した顔をしてるのなんて最初から気付かず、照れる元旧派の悪魔の両手を握ってイチャイチャしてる様にしか見えないやり取りをしてる元士郎。
本当なら道さえ間違わなければ自分達や主に向けるその感情が、あんな敵でもあった存在に向けられる。
わかってはいるが元仲間である者達からしたら気にくわない話ではあった。
「じゃあそろそろ帰るわね? 頑張ってください元士郎」
「うっす! ……………へへ!」
『…………』
結局謎の褐色美人と楽しげにしていたという事で、正気に戻った生徒達から物凄い追求があったりしたのは云うまでも無かった。
しかし元士郎は頑なに彼女について話そうとはせず……。
「無いとは思うけど、あの人にちょっかい出したら俺怒るからな?」
逆に釘を刺されるというオチを迎えるのだった。
補足
幻実逃否は消えました。
理由は覚醒した理由との決着。
その2
最後にまた尻拭いです。
ぶっちゃけ断ろうと思えば出来ましたが、最後の禊として終わらせました。
まぁただ、復学して元眷属達が幸せそうにしてるのを見せられるのが果たして救済なのかは知りませんがね。
その3
木場きゅんは相変わらず中学生みたいな感じです。
そして匙きゅんもめでたく生徒達からの嫉妬受けの対象に。
つーか、エプロン姿のカテレアさんとか創造力試され過ぎだぜ。
その4
暫くこんな緩いノリ―――と見せ掛けて最後の小競り合いが始まります。
誰と? というのはお察しで。