生徒会長イッセーと鳥さんと猫   作:超人類DX

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意外とガチギレってこれが初だっけ?


越えてはならないラインを考えよう

 今更ながら一誠は人間だ。

 コカビエルと互角の死闘を演じたとしても人間だ。

 フェニックス家のイッセーだとしても人間だ。

 

 故に名家出身の若手悪魔達の会合に出席する権利も資格もありはしないし、本人も『いや、柄じゃないし』と頼まれたって行くつもりが無かった。

 

 だが今回ばかりはそうはいかなかった。

 名家の若手悪魔達ですら伝説として畏怖していたコカビエルとの一騎討ちに勝利した。

 元々悪魔の中でとりわけ変人血族のフェニックス家で育ってきただけでも、変な話だが、年若い人間がフェニックスの家の令嬢、一部のリアス・グレモリーとソーナ・シトリー眷属と協力して最強に一番近いと吟われていた堕天使を撃退したのだ……もはやこの事実は単なる偶然で片付けられる筈も無く、あの戦いで下僕悪魔が主の実力を遥かに超越した、優秀な転生悪魔の事もある。

 

 魔王・サーゼクス・ルシファーとセラフォルー・レヴィアタンにより明らかになったこの事実は、他の上層部悪魔も『一部認めたくは無いが見逃せない』と判断し、本来なら出席することすらありえない会合に招待する決心をつけたのだ。

 

 

「レイヴェルの眷属として出ろということか」

 

「ええ、どうしても『彼等』は悪魔がしたという体にしたいようです」

 

「どうする一誠よ?

私個人としては、こんな条件を寄越してきた奴等に対して久々にイラッとして思わず焼き付くしてしまいそうだ」

 

「いや、大丈夫だ。

元々俺は何れレイヴェルの眷属になりたいとか思ってたしな。

ちょうど良い……元士郎、祐斗、白音、ギャスパーの事もあるし、牽制の意味で出席させて頂こうか」

 

 

 フェニックス家に届けられた招待状を握り潰した一誠は、不敵な笑みを見せながら親であるシュラウドとエシルに出席すると宣言すると、何時ものように修行をしようと部屋を出る。

 

 

「レイヴェルに怒られちまうかも……。ハァ」

 

 

 出た瞬間、この事を伝えた時のレイヴェルの憤慨する顔を想像し、ちょっとナーバスになりながら。

 

 

 

 

 急に一誠に呼び出された俺達は、あまりの話に驚いた。

 

 

「と、いう訳で最年少ながら若手悪魔としての将来を期待されている我等がレイヴェルに、会合の招待が届いたんだが……まあ、ぶっちゃけそんな理由な訳がなく、あくまで連中はコカビエルを追っ払った俺達をとてつもなく警戒しているんだと」

 

 

 純血悪魔を集めて何かする。

 そしてその会合にレイヴェルさんが招待されたという話をされた俺達は、ぶっちゃけレイヴェルさんなら当然だろうなと思う反面、一誠の意味深な発言に押し黙ってしまった。

 いくらフェニックスの皆さんに守られる形で自由を獲ているとはいえ、他の存在からしてみたら『人間』や『下僕悪魔』がその地を管轄していた名家の純血悪魔を押し退けてコカビエルを撃退したという話は面白くもないだろう。

 

 ましてやコカビエルに関しては人間の一誠が一騎討ちで下したんだ。

 でしゃばりがと思うふざけた輩があの中に居るのも何と無く想像できる。

 

 俺は特にシトリー家から恨まれているとこの前肌で感じたのだから余計にな。

 

 

「だから俺達で出席するレイヴェルのボディガードをする。

血盛んな若手悪魔とやらにレイヴェルをどうこうするなんて無理だろうが、念には念をな……」

 

『………』

 

 

  別に『何様だ!』と思うことは無い。

 奴等が俺達をどう思おうが、俺達は自由の為に生きているだけなんだから。

 だから招待をされたのなら出てしまう事に異を唱える者は居ないし、上層部が一誠がレイヴェルさんの下僕悪魔としてコカビエルを撃退したのだと面の皮厚くほざいた事に対して今にもエシル様直伝の熱線光線で塵にしそうな表情なのにヒヤヒヤしたりはするものの、一誠が隣で終始レイヴェルさんの頭を撫で続けてるお陰で『上層部謎の失踪』と冥界ニューストップを飾る事は回避できているので安心だ。

 

 

「レイヴェルは一応まだ駒を持ってない。

なので俺達は『レイヴェルの眷属候補という体』で行こうと思うが、お前達はどうだ? 眷属になりたくない者はいるか?」

 

 

 問題は俺達に奴等が何を言うかだ。

 もしも『悪魔の未来の為にうんたらかんたら』なんて言い出す輩が居たら、レイヴェルさんがソイツを焼き消してしまいそうなのが微妙に心配なのだ。

 というか、エシル様やシュラウド様……そして三兄弟様達が寧ろレイヴェルさんに『ふざけた事を言ってきたらソイツの毛根を焼き殺せ』と言ってるせいで、心配事が後を絶たない。

 一誠もそれを考え、そして俺達の意思を尊重してレイヴェルさんの眷属になるって体でも下僕は嫌だかどうかを真剣な表情で聞いてくるので、俺は――俺達は全員黙って首を横に振ってレイヴェルさんの眷属になる意思を見せた。

 

 

「………。私としても不満はありますが、取り敢えずこの体でいきましょう」

 

「はい、でも位はどうしますか? 私は元々戦車(ルーク)でしたけど……」

 

「俺は兵士(ポーン)で……」

 

「僕は騎士(ナイト)だ」

 

「僕は僧侶(ビショップ)ですけど……。

うぅ、会合っていっぱい悪魔さんが居るのでしょうか……」

 

 

 ぶっちゃけ正直、レイヴェルさんって普通に王の素質ありまくりだからね。

 友達だし、このまま駒の交換のルールを使って眷属になっても良いくらいだ。

 それは木場も白音さんも同じ気持ちらしく、元々の駒を告げると、レイヴェルさんはふむと一瞬考える素振りを見せたあと、まずは白音さんに向かって言った。

 

 

「白音さんは戦車では無くて女王(クイーン)でお願いします」

 

「わ、私がですか? でも戦車の駒だし……」

 

 

 まさかの指名に驚く白音さんは、ちょっと戸惑いながら自分は戦車だと言葉を濁しているが、レイヴェルさんはツンとした態度でこう被せる。

 

 

「あくまで体ですから関係ありませんわ。

元々アナタは私に対して無遠慮にものを言いますし、実力としても申し分ありません」

 

 

 わざわざ向こうのルールに従ってやる必要もない。

 体でも良いから悪魔がやった事にしたいんだから……。

 この話を持ってきた悪魔の誰かに向けて吐き捨てるような台詞に、レイヴェルさんってば相当根に持ってるんだな……と改めて思う。

 まあ、この話を吹っ掛けてきた連中の目的は『人間』であり、コカビエルを倒した一誠を悪魔に転生させて兵として使い潰したいという思惑が見え隠れしてるしな。

 ぶっちゃけ、馬鹿としか言い様がねぇよマジで。

 

 

「匙さんは兵士のまま」

 

「おっす」

 

「木場さんも騎士のまま」

 

「了解だよ」

 

「ギャスパーさんも僧侶のまま……取り敢えず既に悪魔に転生されている方の人員はこんなものです」

 

 

 と、元々他の下僕悪魔だった俺達の人員は白音さんの変更以外はすんなりと決まっていき、次は転生してない組である一誠、ゼノヴィアさん、黒歌さんだ。

 

 

「ゼノヴィアさんはデュランダルを扱うという事もありますので、木場さんと同じ騎士でよろしいでしょうか?」

 

「うむ、寧ろ願ってり叶ったりだ」

 

「そして黒歌さんは――」

 

「あ、昔イッセーに転生悪魔って現実を否定される前は僧侶だったよ?」

 

「それならギャスパーさんと同じ僧侶をお願いします」

 

 これも本人の気質が分かりやすいのでアッサリ決まる。

 そして最後……正直純血悪魔であったらほぼ確定的に王の気質バリバリな一誠は、白音さんが女王となることで空席となっている戦車となった。

 

 

「一誠様を従えることになるなんて……!

一誠様に全部を支配されたいのに……こんなのってあんまりです……くっ!」

 

「大袈裟な……。徒手空拳しか出来ん俺としては戦車は寧ろ天職だと俺は思うぞ?」

 

 

 一誠以外にはサド。一誠本人にはマゾ。

 確実にシュラウド様とエシル様の血を受け継いでるなぁ……と思ってしまう発言に一誠は苦笑いしながらその場でシャドーをしている。

 何にせよ、これで一応は奴等の思う通りに一旦は従ってやった。

 

 

「まあ、俺は元々、将来はレイヴェルの眷属になりたいなーとか思ってたし丁度良いくらいで――」

 

「嫌です! 一誠様が私をメチャメチャにするのです! だから私が一誠様のえっちな奴隷になりたいですわ!」

 

「お、おう。

そ、そんな大きな声で言わなくても……」

 

 

 将来の眷属候補してという体にな。

 

 

 

 サーゼクス・ルシファーに物凄い謝罪されまくったから『別に良いや』で済ませるし、レイヴェルの将来のサポートもしたいので眷属としての体で会合とやらに出席させて頂く為に、会合場所であるルシファー領土まで全員で移動することにした。

 

 シュラウドのおっさんとエシルねーさんと三人の兄貴達は俺達とは別のルート時間帯に向こうに行くらしいく、別行動となるので先頭に俺達はフェニックス領土からルシファー領土に直通される地下鉄に乗る。

 

 

「キャーッ!! レイヴェル様ぁぁっ!!」

 

 

 

 その際、フェニックス家領土在住の悪魔市民達がレイヴェルの姿を見るや否や騒ぎだしてたりして、それにそつなく対応したりもしたが、無事に地下鉄でルシファー領……えっと確か名前がルシファード……? 何か結構そのままな名前の都市に到着した。

 冥界自体が初めての元士郎とゼノヴィアはその都市っぷりに驚いて目を丸くしてたが、同じく初めての筈の黒歌は妙にマイペースだった。

 

 

「ルシファー領の都市は入った事は無かったが、フェニックス領より賑やかだな――っと、予想通りの視線だな」

 

 

 電車を降りた直後に待ち構えていた、多分サーゼクス・ルシファーの命令で来た案内の悪魔が、レイヴェルと俺達を案内する中、会場までの距離を歩いてる最中向けられる『視線』に、俺は思わず笑いそうになったが流石にフェニックス家の令嬢とその眷属と伝わってるせいか、向けてくるだけで襲い掛かってくる事は無いまま、会合とやらが行われる会場へと到着した。

 

 

「お時間までお寛ぎください、それでは……」

 

 

 そして控えの部屋へと案内された俺達はそこで一息つく為にテーブルを囲って座って適当に雑談をする。

 すると、どうやら俺達が一番乗りでしかも控えの部屋が他の者達と一緒だったらしく、時間が経つにつれて次々と眷属を率いて他の若手悪魔達が入ってきた。

 

 

『…………』

 

 

 その際というかこれも予想通りというべきか、誰も彼もが俺達の遠巻きにジロジロと見てくる訳で、特に転生悪魔じゃない俺と黒歌とゼノヴィアは『何でこんなのが?』という目を向けられまくった。

 まあ、特に何も言ってこないので全員して無視だが。

 

 というかフェニックスの血族者というのもあるので誰も話し掛けられないのだ。

 ちょっと前に呼ばれたライザーが『誰も話し掛けて来なくてちょっと寂しかった……』とか言ってたしな。

 ましてや呼び出された若手の中では未成熟で完全な最年少だからなレイヴェルは……。

 

 

『……………』

 

「……。なんかスゲー見られてね?」

 

「大丈夫だ。見られてやましいことなぞ俺等はしてない」

 

 

 まあ、突っ掛かって来た所でレイヴェルに勝てるとは思えんがな。

 

 

 

 若手悪魔達は……そしてその眷属達は他の悪魔達の中でも一際異様に見える集団に、噂もあって監察する事に徹していた。

 

 

「バームクーヘンを持ってきたけど食うか?」

 

「え、マジで? 食う食う!」

 

「なら僕はお茶を……」

 

「いえ木場さん。私がやるので座っててください」

 

 

 まず、名家の悪魔の中で最も変と言われているフェニックス家の、それも駒すら持てない年齢の娘が自分達と同じように何でここにいるのか。

 そして何で下僕がやるべきお茶くみをやっているのか……。

 

 

「ふむ……やっぱりレイヴェルのお茶は美味いな。飽きがまるでこない」

 

「ふふ、『一誠様』に誉められると嬉しいですわ」

 

 

 そして何故転生悪魔ですら無い、そもそも居ること自体がおかしい人間風情を様付けで呼んでいるのか。

 コカビエルを撃退した集団という噂が本当だとしても基準が滅茶苦茶だった。

 しかし誰も突っ込めないし、茶々を入れられない。

 自分達と同世代で、本来なら来る筈だったシトリー家とグレモリー家の令嬢二人の元眷属があの中に居るとも、主を裏切った反逆者とも噂をされているが、あの雰囲気の中、それを口にするのはどうにも憚れるというか……もう一つの『赤龍帝に狂って堕落した自業自得』という話もあるので、今一つ判断ができなかった。

 

 

「バームクーヘン超うめぇ! ほらギャスパーも食ってみろよ」

 

「あ、ほ、ホントだ……美味しい」

 

「小腹が空いてたし、ちょうど良かったよね」

 

「そうだな。心なしか緊張も解れてきたし」

 

「もぐもぐもぐ」

 

「イッセー、あーんして?」

 

 

 そんな若手悪魔達の監察を他所に、レイヴェル眷属達はまるで自宅で寛いでるみたいに、全員が全員まったりしていた。

 四大魔王と上層部からの呼び出しだというのに、あの中の誰もが緊張もせず茶髪の少年が手提げ袋から取り出したバームクーヘンを食べてる姿は、変人集団扱いされても仕方ないかもしれない。

 

 それもこれも、良い意味でも悪い意味でも業火の不死鳥と憤怒の女帝と恐れられたフェニックス家夫婦とその家族と過ごした日々が完全に影響されていたりする訳で……。

 

 

「む?」

 

 

 控え室の外から聞こえる大きな破壊音が聞こえるまで、フェニックスチームは何時までもマイペースだったという。

 

 

「何ですか騒々しい」

 

「部屋のすぐ外からみたいですよ」

 

 

 金髪碧眼の少女レイヴェルとと白髪金眼の少女白音が顔をしかめる。

 どうやら控え室の外で誰かが何かをやっている様であり、戦車という体の少年と兵士という体の少年と騎士という体の少年がソファから立ち上がって部屋の外の様子を確かめようと扉を開ける。

 すると一誠達の目に飛び込んできたのは、さっきまで綺麗な絨毯で整備されていた廊下が見るも無惨な瓦礫の山と化している景色と砂ぼこり、そして壁に開けられた巨大な穴であり、その中にはこの参上を作り上げたと思われる二人の悪魔が睨みあっていた。

 

 

「ゼファードル、こんな所で戦いを始めても仕方なくてはなくて?

死ぬの? 死にたいの? 殺しても上に咎められないかしら……」

 

「言ってろよクソアマ!

俺がせっかくそっちの個室で一発仕込んでやるって言ってやってんのによ! アガレスのお姉さんはガードが固くて嫌だねぇぇっ!

だから未だに男も寄って来ずに処女やってんだろう? それで俺が開通式をしてやろうって親切で言ってんのによ!」

 

 

 女性悪魔と男性の悪魔が罵倒しあっている。

 特に片方の下品な物言いをしている男性悪魔からは攻撃的なオーラが感じられ、扉の影から三人揃って見ていた一誠達は、他人事の様に揃って呟いた。

 

 

「痴話喧嘩かアレは?」

 

「いや、違うと思うけど……。

だって、あの方達ってアガレス家とグラシャラボラス家の跡取りだし」

 

「何でも良いけど、じゃあ俺達には関係ないと?」

 

「うん、正直下僕の僕達が干渉する意味も権利もないよ」

 

「なるほど、なら戻ってバームクーヘンだな」

 

「「賛成」」

 

 

 実に平和そうに、殺し合い寸前の二人組を眺めて他人事よろしくに呟いた挙げ句、何事も無かったかのようにお茶に戻ろうとする三人は、ソッと扉の影から出してた頭を引っ込めようとする……。

 

 

「あ? おい、何見てんだコラ?」

 

 

 しかし、見られていることに気付いたグラシャラボラス家の跡取りの方がギラリとした目付きで一誠達三人少年を睨みつける。

 

 

「覗き見とは良い趣味してんなゴラ? 何処の下僕だ?」

 

 

 イライラしているせいか、余計に攻撃的なグラシャラボラス家のヤンキー悪魔は、逃げたら殺すといわんばかりに殺気を額辺りまで引っ込めてた頭に向かって言うと、三人はそーっと姿を晒す。

 

 

「なんてことだ……。早速レイヴェルの足を引っ張る真似をしてしまうとは……」

 

「おいどうすんだよ? あのヤンキーみたいなのがこっち近付いて来てるぜ?」

 

「低姿勢になっておくべきだね……」

 

 

 取り敢えず言われた通りに姿を見せた一誠達がヒソヒソと相談する中を、ヤンキー悪魔は大股で近付き、三人を無遠慮に見る。

 

 

「なんだぁ? こっちの二匹は下僕だが、こっちは人間じゃねーか? 何で人間がここに居るんだよ?」

 

「む? いや……色々とあって」

 

 

 正直怠いタイプだな……と内心思いつつも、それらしく答える一誠にヤンキー悪魔はケタケタと笑う。

 

 

「馬鹿かテメーは? 人間ごときがこんな所に来れるわけねーだろうが!」

 

「……………」

 

 

 見下すように大笑いしながら、おい聞けよジークヴァイラ! と目を細めて三人を見ていた青いローブを着込んでいる眼鏡の女性悪魔に振るのを一誠は『見ないでお茶してればよかったかもな……』と口を閉じる。

 

 

「人間が迷い込んでるぜ? コイツ殺しちまうか?」

 

 

 ケタケタしながら一誠の頬をペシペシと叩くヤンキー悪魔だが、ジークヴァイラと呼ばれた方の悪魔は何も言わず黙ったままの一誠をジーッと見つめながら何か引っ掛かる様な表情を浮かべている。

 

 

「人間……? そういえば今日の会合に人間が眷属候補として連れられて来るという噂が……」

 

「あー? これがそれだってのかよ? こんな弱そうなのがか?」

 

 

 馬鹿らしい噂だな。とさっきまでのジークヴァイラに向けていた殺気が無くなり、標的を変えたとばかりに無言の一誠にいじめっこ宜しくに軽くローキックをするヤンキー悪魔。

 その瞬間、隣で黙ってた祐斗と元士郎がヤンキー悪魔に殺意を発しようとしたが、その前に一誠が黙って二人を制止したおかげで未遂に終わる。

 

 

「まあ、人間のテメーは置いといて、そこの覗き趣味の転生悪魔二匹は何処の下僕だ?」

 

 

 今すぐにでも殴り倒したい気持ちを抑えてる祐斗と元士郎に、一誠から対象を変更したヤンキー悪魔がこれまた見下すように問い掛ける。

 しかし、元士郎は今すぐにでも殴り掛かりそうな程拳を握り締めてとても答えられる状況じゃ無かったので、比較的冷静――しかしそれでも怒りを内面に秘めている祐斗がわざと堂々と一歩前に出ながら口を開こうとしたが――

 

 

「私の友が何かしましたか?」

 

 

 祐斗の名乗りの前に現れた――いや現れたら色々とヤバイ金髪碧眼の少女によって、この後一誠がやらしてしまうとは、この時誰も思わなかったとか……。

 

 

「あ? 何だこの餓鬼?」

 

「失礼、レイヴェル・フェニックスでございますわ。ゼファードル・グラシャラボラス殿」

 

「っ!? フェニックス……だぁ?」

 

 

 突然三人を庇うように白髪の少女を傍らに現れた金髪碧眼の少女……レイヴェル・フェニックスの名前にヤンキー悪魔……ゼファードル・グラシャラボラスとジークヴァイラ・アガレスは顔色を変えた。

 フェニックスの名前は良くも悪くも元・ソロモン72柱の中では有名。

 

 しかし自分よりも年下の小娘だということもあって、ジークヴァイラはともかくゼファードルは寧ろ徐々に挑発的な笑みを浮かべる。

 

 

「ほほぅ? 前はライザー・フェニックスが来たが、今回はその妹ってか? おいおいおい、下僕も持てない年齢の餓鬼が来るべき所じゃねーぜここは?」

 

「私もそう思ってましたが、この様に名指しで招待状を頂いてしまえば出席しない訳にはいきませんので、未熟ながら勉強の為にと思いまして……」

 

 

 淡々と抑揚の無い表情と声でニタニタとしているゼファードルに返すレイヴェル。

 後ろで白音と黒歌以外の一誠達がハラハラしながら会話を聞いているのは、線がキレたら口調から何から全部が変わって相手を痛め付けるエシル・フェニックスの血を確実に引いているのを解ってるが故にで、逆にゼファードルを心配してるのだ。

 

 

「ふーん? なら時間まで俺の相手をしろよ? 心行くまで勉強させてやるぜ?」

 

 

 だが、そんな心配を他所にゼファードルは地雷だらけの荒野をスキップするかの如く駆け抜ける様な言葉をニヤニヤとしながら宣い。

 

 

「アガレスのお姉さんはお固いが、フェニックスのお嬢さんはそんな事は無さそうだ……それに、良いもんを持ってそうだ――」

 

 

 レイヴェルの胸元に手を伸ばしながら、最後の『踏み越えてはならない領域』を越えてしまった。

 誰のか? それは勿論、自分を安く見てるばかりかふざけた事を言われたレイヴェル…………では無く。

 

 

「ゲボァ!?!?」

 

「何、レイヴェルに触れようとしてるんだよ……ぶっ殺すぞ貴様ァ……!」

 

 

 殺意と怒気という感情が表れているかの様に髪の色を真っ赤に染め上げた――完全乱神モード状態の一誠の中の越えてはならないラインを越えたせいで……。

 

 

「が……かかっ……!?」

 

「レイヴェルに何をするつもりだ? 言ってみろ!!!」

 

「ぐがぁぁぁぁぁっ……!!!??」

 

 

 

 守る為なら何でもする。

 レイヴェルに向ける最大の独占欲が此処で爆発したせいでリミッター完全解除の乱神モードとなって殴り倒したゼファードルの首を、そのままへし折らんと片手で吊るし上げた一誠の目は本気のそれであり、それを見たレイヴェルは即座に皆へ指示を飛ばす。

 

 

「っ!? 全員で一誠様を止めなさい! 本気で彼が殺されてしまいます!」

 

「っの馬鹿悪魔が!!

どういう相手なのかも見切れらんねーのかよ!! オイ、そこの眼鏡も手伝え!! 目の前でヤンキー崩れの内臓がぶちまけられちまうぞ!!」

 

「え、えっ……わ、私がなぜ!?」

 

「元々アナタと彼の喧嘩でこうなったから――ということで今は納得してください! 早く!」

 

「は、はい!」

 

 

「チッ、一誠先輩が『後で怒られるかも……』とぼやいていたのはこれでしたか……」

 

「昔を思い出すやり取りでいい気分じゃなかったよ……でも止めないと」

 

「悪魔が皆フェニックスと同じ――な訳がなかったか」

 

「まずはイッセー先輩を僕が止めっ……う!? 停められない!」

 

 

 全員が一誠を止めようとし、気付けば他の若手悪魔達も団結して異常な力を持つ一誠を止めようと躍起になる。

 後に『人外極殺未遂事件』と冥界内に知れ渡ることなるこの事件は、レイヴェル達と若手悪魔……そして諸事情で遅れて到着した大魔王を夢見る熱い男の団結によって何とか収まり……ゼファードルの命は助かったのだという。

 

 




補足

目の前でレイヴェルたんがセクハラされました

 殴り殺す


レイヴェルたんが無理矢理何かされそうだ。

殺す、殺す、ぶっ殺す


レイヴェルたんが相手をぶちのめした後、抱き着いてきました

む、俺は一体何を? え、何でレイヴェルが抱き着いて……あ、でもレイヴェルの匂いがして眠くなってきた……。


リミッター解除条件。

全部レイヴェルたん関連。


前話で『突き詰めたら所詮俺も兄貴様と同じ』と言った理由はこれです。

簡単に言えば、普段はそんな見せませんが基本的に一誠は周期でレイヴェルたんに対しての独占欲が異常に膨れ上がるんです。

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