シュラウド様とエシル様。
フェニックス家の当主夫婦が私達の身請けをして戴けるお陰で、私達ははぐれ悪魔として追われる心配は無くなった。
一誠先輩も言っていましたけど、やっぱり人も悪魔も独りで生きるというのは無理なんですね。
「ぜぇ、はぁ……!」
「正直俺は驚いているが……」
そんな私達はレイヴェルさんと一誠先輩が育った実家であるフェニックス城に滞在しています。
そして今はそのお城の中庭で皆さんに見守られながら一誠先輩を相手に全力でぶつかっている真っ最中です。
「どうした、へばったか白音?」
「っ、まだ……まだっ!!」
自分で掴んだスキルの感覚を確かめる意味と、一誠先輩と戦うという約束の為に全力で一誠先輩にぶつかる。
けれど、いくら自分の持つ力を全てぶつけても先輩はびくともせず、逆に弾き返されてしまう。
「
「!?」
近くで見ていたつもりだけど、それでも尚甘かった。
直接ぶつかることでより先輩の大きさを実感すると共に、やはり嬉しく思ってしまう。
「クロカミ・ファントム……!!」
「ぬっ!?」
昔から変わらない……私のヒーローだって。
「う……やっぱり付け焼き刃では駄目でしたね」
一誠先輩の得意技を自分なりのやり方で真似して使ってみましたが、結果は見事にカウンターを顔面に貰ってKOされちゃいました。
数分程意識を失い、目が覚めた時には戦いは終わっており、得意気に笑ってる先輩の顔が見えます。
「お前のスキルについてはレイヴェルから聞いていたが、やはり凄いな。
もしかしたら俺以上になるかもしれん」
「そんな事を言われても自覚できませんよ……」
「はは、拗ねるな拗ねるな!」
悔しいと思う。
けど、それと同時に私の中に宿るは先輩への憧れ。
諦めずにその力を高め続けるその背中を初めて見た時から、私はずっと追い付きたい……その横に立ちたいと想い続けてきた。
だから諦めない。
諦めず、レイヴェルさんや姉様と同じように、先輩の横で戦える様になりたい。
「もう一度お願いします……」
「良いだろう。
ふふ、強い目をしてるな……それで良い白音。さあ来い!!」
その為にどんな小さな事でも全力で……無我夢中でやり通すんだ。
そうすることで私は強くなると信じて、嬉しそうに笑って両手を広げる先輩に、私は全力で今日もぶつかる。
私のコレ……
何でもその気になれば世界最強も無傷で『仕留められる』らしいけど、私は世界最強なんてものに何時だって興味なんか無い。
「イッセ~」
「む、黒歌か。どうした?」
私が欲しいのはイッセーだけ。
だから最強なんて要らないし、この力はイッセーの為に使う。
昔、小さかったイッセーに救われた時から、ずっとずっとこの気持ちは変わらない。
例えレイヴェルという昔から隣に居る様な子が居て、イッセーもそのせいで私達に『俺はやめておけ、良いことなんて絶対に無い』と言われようが変わらない。
「白音と修行してたんでしょ? 疲れてなかったら一緒にお散歩しない?」
「ふむ、それは良いけど、それなら白音とレイヴェルも誘う――おわっ!?」
「もーイッセーは鈍いなぁ? 当然二人でだよフ・タ・リ!」
いや、変えない。
変えてなるものか。
例え偶然で、力の制御の修行次いでだったとしても私と白音が救われた事に変わりは無いし、その時から私はずっとイッセーを想ってきたんだ。
「っ!? キ、
オーケー解った俺の敗けだよ黒歌、行こうぜ」
「やった!」
この想いだけは幻想じゃない……私の本物。
変態? 何の事だかわからないにゃ~ん?
「ここは?」
何気にイッセーとまともに二人きりになるのってあるようで無かった。
何時だって左右には白音とレイヴェルが居たからね。
だから無理を承知でイッセーだけを何とか連れ出してお城の外に出たんだけど、土地勘が上のイッセーに連れてこられた場所は、お城から少し歩いた先にある森。
そしてその森を更に歩いて抜けた先にあった小さな崖だった。
周りに何がある訳じゃない、本当に単なる崖で、何でここに来たのは解らず質問をした私にイッセーは懐かしむ様に目を細めて崖から見える広大な森を見つめながら、小さく微笑んでいた。
「俺が餓鬼の頃からよく一人で来てる、秘密の場所って奴だ」
「秘密の場所?」
「おう」
昔を思い出しているのか、穏やかに笑いながらイッセーは頷きながらその場に腰掛けるので、私もその隣に座って一緒に崖からの景色を眺める。
「今もあまり変わらんが、昔はよく上の兄三人に戦いを挑んでは見事に叩き潰されて負けてな。
その都度ここに来て一人で泣いてたんだよ」
「え、イッセーが?」
「あぁ、涙を見せたらカッコ悪いが、ここなら誰にも見られないから……」
負ける。
イッセーはよく『俺はよく負けるぞ』と言ってたし、驚く事じゃないけど、悔し涙を見せないためにここに一人で来ていた事。
そして何よりそれをレイヴェルや白音じゃなく私一人に教えていることに驚いてしまった。
「何でその事を私に? レイヴェルと白音には教えてないのに……」
だから思わず聞いてしまった。
あのレイヴェルにすら隠してる事を私一人に教えたその真意が知りたいから。
するとイッセーは軽く目を閉じながら小さく微笑むと、小さく言った。
「アイツ等は……まあ、何だ、年下だしな。
アイツ等の前でだけはあんまり弱いところは見せたくないが、お前は違う。
何というか、お前にだったら多少見せても良いかなー……なーんてな」
そしてニッと、私と白音を助けてくれたあの時見せたヤンチャしてる子供みたいな笑顔で私に言った。
「俺は決して強くなんか無い。
時には嫌な現実から目を背けて逃げる真似だってするし、俺から何かを奪う輩が居るなら、何が何でも排除しようとどんな手も使う。
それこそ、幻滅させてしまう手すらな」
その瞬間、イッセーが何で私だけをここに連れてきたのかが解った気がした。
「お前と白音は、昔俺に救われたと思っているだろうがそれは違う。
俺は何時だって『二度と失いたくない』と怯えてるだけの人間で、
イッセーは一度失ったからこそ、また失うのが怖いんだ。
私や白音やレイヴェル。そして友達の匙や木場やゼノヴィアやギャスパーとの繋がりを、あの男みたいな奴に壊されるのに恐怖してるんだ。
だからひたすらに強くなって、私達をソイツ等に渡さないと躍起になり強く在ろうとする。
例え誰かに化け物と呼ばれて恐怖されても……。
「だからお前も白音も俺やあの『兄貴様。』みたいな輩より、もっとイカした奴が良いと思うぜ? 突き詰めれば俺だって『兄貴様。』と同じなのだからな」
その内面を教えることで、私が幻滅して好意を向ける事が無くなるとイッセーは私に教えたんだ。
悪びれた表情のイッセーを見て何と無く察する事が出来てしまった私は……。
「ひょっとして私を嘗めてる?」
初めてイッセーに対してカチンと来てしまった。
「え……?」
「そう言えば私が幻滅するとでも? そしてその話を白音に持っていって白音も同じく幻滅して嫌うとでも?」
私の……私と白音の気持ちを軽く見られた気がした。
目を丸くするイッセーに、多分酷い表情になって睨んでしまってるんだろうな……とか内心思いつつも沸き上がる気持ちに従うようにして私は言った。
「甘いよイッセー
そんな程度で私も白音も変わらない。どんなになろうと、どんな姿に変わり果てようとも私達は絶対に変わらないし変えない」
「黒歌……」
何年想い続けてきたと思ってるの? 想い続けてきた年数ならレイヴェルにすら退けを取らないと自負できるんだよ? それに何をしてでも私達を守ろうとするというのが『自分の身勝手な欲だから』と思いたければ思えば良い。
試しに白音……そして他の皆に聞いてみると良い。
必ず全員が揃ってこう言うから――
「『それでも自分達はアナタの傍で笑い合いたい』……。
その覚悟があって皆イッセーの傍に居るんだよ? その皆の気持ちを踏みにじる言い方はやめてよイッセー」
「…………」
匙だって、木場だって、ゼノヴィアだって、ギャスパーだって、白音だって、レイヴェルだって……皆同じ。
イッセーが居たから今の自分がある。
そしてアイツみたいなセコい洗脳とやらじゃない、本当に自分の意思で傍に居たいと思ってる。
友達として、想い人として。
「逆に言わせて貰うよ――――私は死ぬ事になろうがイッセーの傍から絶対に離れないから」
「…………」
「だから今イッセーが言った言葉は全部撤回して」
それが正真正銘……私達の気持ち。
目を丸くしながら呆然としているイッセーにそれだけを言った私は、顔を背けながらそこから一切喋らずに無言を貫く。
すると、顔が見えなくなったイッセーの小さく笑う声が聞こえたかと思ったら……。
「ふ、くっ、クックックッ! ハーッハハハハハハ!!」
近くの木々に止まっていた鳥達がその声に驚いて逃げてしまうほどの大きな笑い声を出した。
ひょっとして馬鹿にされた? なんてありもしない事を考えながら思わずイッセーの方へと振り向いた瞬間――
「俺に救われたとお前は言うが、逆だぜ黒歌。
俺は何時だってお前達に救われてるよ……ありがとな」
「ぁ……」
包み込んでくれそうな穏やかな笑顔を浮かべ、私の頭を撫でてくれた。
「そうだな。あんな事を言うなんてお前等に失礼だったよ、俺が完全に悪かった」
「む……む……わかれば良い」
………。ふ、ふ……ふふ。
背丈というか私より小さい白音が居るから経験が無かったけど、これは良いにゃ……。
思わずイタダキマスをしてしまいそうに―――っと、いけないいけない。
流石にこの空気でやっては駄目だって事くらい私は解ってるつもりだし、ここはまだちょっと怒ってる感じに返事をして凌がないとね。
「決めた、もう二度とこの場所には来ない。
悔しさに泣いていた、お前に弱音を吐いた挙げ句失礼な事を宣った思い出はこの場所に置いていく」
何とか理性を保とうと結構必死な私を知ってか知らずか、イッセーは意を決した表情と共に立ち上がると、座ったままの私に、まだ小さかった頃の時と同じように手を差し伸べる。
「帰ろうぜ黒歌。何か心が軽くなったせいかメチャメチャ身体を動かしたいんだ」
そしてコカビエルと戦った時に見せた好戦的な笑みを浮かべ、帰ろうと言って差し出した手を取った私を立たせた。
あぁ……もぅ。
「何だかんだ急に身体が軽くなったな……。今なら新技も完成させられるかもしれんくらいだ……ふっふっふっ」
「イッセー?」
レイヴェルや白音が居るから……。
なんてデキた考えを私は残念ながら持ち合わせてなんかない。
何時だって追いかけて、追いかけて、追いかけて追いかけて追いかけて追いかけて追いかけて追いかけて、追い付いて近くでその姿を見ながら何度我慢したか。
イッセーの私物を手にする度に身体が熱くなって、お腹が切なくなって、欲しくなってと何度味わったか。
「ん、何だくろ――」
この前、家の屋根でレイヴェルとキスしてたのを見せられた時だって平気な気持ちでは無かった。
でも今はレイヴェルが居ない。
私と二人きりで、私にだけ弱味を見せた。
うん……もうさ――
Chu!
「か……え?」
我慢しなくて良いよね?
「え……え?」
「隙だらけだよイッセー
まずはその額を貰ったにゃん」
第一、私はハッキリとレイヴェルとレイヴェルの家族の前で『イッセーが欲しい』と啖呵を切ったんだ。
だから私は悪くない。
額へのキスに、された本人のイッセーは呆然としてるのでハッキリその事を教えながら、もう一度近付いてスキルも使わず抱き着いた。
そして首に手を回し、まだ状況が掴めてなさそうな顔をしてイッセーの額に自分の額をくっつけた私は――
「そして次は――んっ……!」
「っ!? ちょっ、待っ――んぅ!?」
我慢の限界を越え、レイヴェルに負けじとその唇を奪ってやった。
それもただ重ねるだけじゃ満足出来なかったし、重ねた瞬間一気に理性のタガが外れてしまった私は、どうせレイヴェルがどうとか言うこのわからず屋の舌を黙らせてやるように、自分の舌を思いきりねじ込んで絡ませてやった。
「みゃ、みゃて! お、おりぇはレイ――」
だがそれでもイッセーは真っ赤な顔でまだ言おうとする。
それが余計に私の負けん気に火がつくことも知らずにね。
「
解ってるよそんなの。
でも止められないんだよ私も。
何年想ったと思ってるの? 今更言われて『ハイそうですか』なんて……嫌だ。
「ん……ん……っんあ……んく……!」
初めてするキスに、普段以上に止まらなくなった私はイッセーを抱き締めながら、ただひたすらし続けた。
舌で歯をなぞり、逃げようと引っ込めるイッセーの舌を逃がさないと絡ませて……。
「あは……♪ 好き、好き……大好きいっせぇ……♪」
心ゆくまでイッセーを堪能した。
そして……。
「あ、あぅぅ……」
「あれ? 気絶したの? そっか……そっか、そうなんだイッセー? ふふ……イタダキマス」
真っ赤になって目を渦巻きにしてるイッセーを見てもっと堪らなくなっちゃったので、そのままイタダキマスをする事にした。
「……………。やってくれたな淫乱雌猫、よろしい、ならば戦争をしましょうか?」
「上手いこと出し抜いてくれましたね姉さま。
割りと普通に悔しいですよ……本気で」
まあ、そんな時に限ってイッセーの気配を辿って二人が来ちゃうから困ったもんだにゃん。
「あは、あはははははは……………」
補足
レイヴェルたんが居るからと身を引きますか?
姉妹の答え
そんなオカルトありえません。
一誠が逃げようとしました。
姉妹の答え
安察願望と無我夢誅の姉妹丼で地の果てまで追いかけて捕まえて、凄いことしてやります。
レイヴェルさんがこっちを睨んでます
猫姉妹の答え
三人で追いかければ捕まえられる確率があがるので…………(この先は濡れてて読めない)
おいおい、四大魔王からの呼び出しで、転生悪魔なのに若手の純血悪魔さん達の集まりに出るだってよ
ったく、俺と木場と白音さんだけでコカビエルを撃退した訳じゃねーのに、どいつもこいつも転生『悪魔』の俺達がやった事にしようとしやがって。
位の昇格なんざ、俺等にゃ必要ねぇよ。
次回……会合
俺達はただ自由で在りたいんだ!