生徒会長イッセーと鳥さんと猫   作:超人類DX

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久々ですね。

ちょっと展開が遅すぎたので此処から手抜きレベルで早くなります。


未来へのケジメ
決着へ……


 月満る夜に木霊する獣の咆哮。

 

 心滅した龍帝にもはや言葉は用を成さぬ。

 

 憎悪を糧に、怒りを糧に、欲望を糧に。

 龍帝は進むべき道を違え、開けてはならない領域にへと突き進む。

 

 

『Beast Dragon Mode!』

 

「殺して……やる……!」

 

 

 心を滅した獣へと堕ちて――――

 

 

『グォォォォォッーーー!!!』

 

 

 全てを破壊する獣は、全てを壊すためにその身を食わせて変わり果てて動き出す。

 憎む存在を殺す為に――

 

 

 

 

 

 

「うるさいですわ」

 

「黙っててもらえますか」

 

「イッセーが出向く必要もないにゃん」

 

 

『っ!?』

 

 

 まあ、その憎悪を向ける相手を殺そうと動こうとした瞬間、一誠とコカビエルの戦いを一番近くで見守っていた三人娘が立ちはだかったかと思いきや――

 

 

「えい!」

 

「にゃん!」

 

「ハァっ!!」

 

『グキャァァァッ!?!?』

 

 即座に変質しかけたその身を戻して地面を転がってしまった訳だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇を切り裂く牙は無い。

 神をも滅する器も無い。

 けれど、全てを一度失った少年はそれでも尚掴み取った。

 

 

「「ウォォォォォッ!!!!」」

 

 

 人外の師の想像をも塗り替え、永遠に昇華し続ける存在へと……。

 

 

「これで……終わりだぁぁぁっ!!!」

 

「な、なに!? 空間が捻曲がって――ハッ!?」

 

 

 そしてその集大成は、人外に勝ちたいと思い、同じく昇華した堕天使の能力保持者(スキルホルダー)に放った空間すらねじ曲げた正真正銘の一撃となり……。

 

 

「がっ!?」

 

「…………………」

 

 

 その拳で打ち砕いた。

 

 

「がっ……はっ!?

ぐ……ひょ、兵藤……一誠……ェ……!」

 

「……」

 

 

 自分なりの『終神モード』となって放ったシンプルな一撃。

 その一撃は迎え撃とうとした堕天使・コカビエルの身を貫き、一誠の勝利を揺るぎ無いものへと導いた。

 月輝く駒王の校庭の真ん中にて、左胸を貫かれたコカビエルは口から止めどなき血を吐き出し、鷹を思わせる瞳で見据えながら自身の胸を貫いた一誠の腕を力無く掴む。

 

 

「俺の勝ちだ……コカビエル」

 

 

 鮮血に染まる一誠が自身の腕を掴むコカビエルに勝利の宣言。

 全身を巡る血流循環を異常なまでに高めた結果至る最強にて最良の身体能力に、一誠自身の真骨頂である無限進化が異界に住まう人ならざる者を含めた地球上の全生物を越えた領域へと一誠を引き上げた。

 

 その一撃は音速を超え、亜光速に到達し、そして時間をも置き去りにしてコカビエルを打ち破ったのだ。

 

 

「ごほっ!? く、くくく……安心院なじみに続き、その系譜である貴様に破れるとはな……」

 

 

 まさに最終最後の一撃であり、その一撃は超戦者であるコカビエルをも置き去りとする異次元となり、致命傷を与えた。

 しかしコカビエルはいっそ清々しいと思える気持ちで、目の前の小僧でしかない少年に笑って見せると……。

 

 

「…………。見事だ……兵藤一誠」

 

「………」

 

 

 静かに腕を引き抜いた一誠を称賛し、糸の切れた人形のように崩れ落ちた。

 

 

「………………」

 

「グフッ………ククク……! フリード……には……ゴフッ……情けなくて見せられんな……」

 

「……。いや、そうでもない。

今の貴様を見て落胆する程度の男とは俺は思わん。寧ろ俺を殺そうとするだろうな……ぐっ」

 

 

 ドクドクと貫かれた傷口から大量の血を流し、仰向けに倒れるコカビエルの自嘲した笑みに一誠は終神モードを解くと、途端に苦悶の表情を浮かべてその場に膝を付く。

 

 

「ふ……ふふ……。

やはり黒神めだかの真似事をしてるだけでしかない俺が、あの終神モードを使えばこの様になるのは必然か……。

正直これで貴様が倒れてくれなかったら、立場は逆だっただろうな」

 

「それは惜しかったな……ははは……っ!? ごほっごほっ……!?」

 

 

 死力を尽くしたというべき戦闘は、コカビエルの性質に圧されて幻実逃否(リアリティーエスケープ)を半ば封印されてしまったせいで一誠自身も結構ギリギリだった様で、ボロボロに破れた制服と身体に刻み込まれた傷がそれを物語っていた。

 これでもしフリードが敵討ちのつもりで襲い掛かってきたら結構どころじゃなくヤバイのだが……。

 

 

「一誠様!」

 

「一誠先輩!」

 

「イッセー!」

 

 

 それはどうやら杞憂に終わりそうだ。

 膝を付いて動けない自分と、倒れているコカビエルを視認して決着を悟った見届け人である三人の少女が自分を心配して駆け寄ってくれた瞬間、久々とすら感じる安堵感が一誠の心を包み込んでくれた。

 

 

「イッセ~! 大丈夫にゃ!?」

 

「もぶ!? ちょ……黒歌!? お、俺は大丈夫だから離れて……」

 

「この姉雌猫!! 今の一誠様をちゃんと見てから行動しなさい!!」

 

「無駄にデカい脂肪の塊をこれ見よがしに押し付けても一誠先輩の傷は治りませんよ」

 

 

 …………。このやり取りが酷く懐かしく感じる気がする。

 障害物が身体をすり抜ける様に通り抜け、躊躇無しに飛び込んできた黒歌の胸を思いきり顔面で受け止め、それを見て怒るレイヴェルや白音の姿を見てると酷く安心するのは何故なのか?

 

 

「わ、わかったからちょっと離れてくれないか黒歌? 色々とアレなんで……」

 

「にゃ……わかった……」

 

 

 この戦いで何故か誠八に負けてまた全てを失うとか。

 死にたくても死ねずに異界で惨めに生きるとか……。

 

 そんなビジョンが脳内の片隅からちょっとだけ現れたが、即座に『いや、無いわ』と『消し去った』一誠は、豊満な胸とか押し付けて抱き付く黒歌に渋々離れて貰い、黒歌を睨んでるレイヴェルに疲労で膝を付いたまま手招きして呼び寄せ始める。

 

 

「レイヴェル……コッチに」

 

「? はい、何でしょうか一誠様」

 

 

 こいこいと手招きする一誠。

 コカビエルの返り血と、殴り合いによる傷で少々痛々しく見えなくもない一誠からの呼び出しにレイヴェルが用意していた『フェニックスの涙』なる便利アイテムを持って駆け寄ると……。

 

 

「あ……」

 

「へへ、勝ったよレイヴェル……。だからご褒美くれ。いや、つーか勝手に貰うけど」

 

 

 優しく……でもちょっと強引にレイヴェルの手を取った一誠は、猫姉妹にちょっと申し訳ないなとは思いつつも、幼い頃から何時だって一緒であり、一番最初に『守りたい女の子』と心の底から誓ったレイヴェルの身を引き寄せ、そして抱きついたのだ。

 

 

「あ……やっぱりレイヴェルが最初なんだね」

 

「分かってましたけど、やはり複雑です」

 

 

 むぅ……と声を出す黒歌・白音姉妹をバックに一誠はレイヴェルの存在をまるで確かめるように抱き締めており、レイヴェルもまた一誠を優しく受け止める。

 

 

「あはは……やっぱりレイヴェルとこうすると心地いいなぁ」

 

「一誠さま……」

 

 

 

 過ごした年月の差……いや、それだけでは無い絶対的な繋がりが二人から放たれており、言わなければ何時までも抱き合ってんのではないかというくらい、二人はただただ互いを抱き締めていた。

 

 

「お疲れ様です……一誠様」

 

「…………。ありがとう」

 

 

 VSコカビエル

 

 勝者・兵藤一誠。

 決まり手:終神モード・黒神ファイナル

 

 

 

 

 

 

 

 

 むぅ……仕方ないとは思うけど、妙に納得できないというかー……。

 白音もそんな状況じゃないと解ってるけど納得できないって顔してるにゃ。

 

 

「あの……何時までそうしてるつもりなんですか? コカビエルが微妙に居たたまれない顔してますけど」

 

「そうだにゃん。というか木場達はまだ戦ってるよ?」

 

「……。オイ小娘共。俺をダシにして引き剥がそうとするなよ。

そもそも俺は……ごほっ!?」

 

 

 放っておいたら何時までもやってそうだし、そろそろ気持ちを切り替えて欲しいのと致命傷とはいえ死に至るまでの深刻なダメージでは無さそうにしてるコカビエルをどうするかさっさと決めてほしいので、早いとこ離れてもらおうと声を掛ける。

 

 

「ん? あ……おう、そうだったな」

 

 

 するといつの間にか身体に刻まれた無数の傷跡が消え、さっきまで疲労困憊だった筈の顔色も嘘みたいに良くなったって表情でレイヴェルから離れれたイッセーが、そのまま倒れて動けなくなってるコカビエルの元へと近づいていくにゃ。

 

 

「………。ところで兵藤一誠よ、貴様の負った傷はどうした?」

 

「あぁこれか? 基本的に俺はレイヴェルが居ないと駄目で情けない男でな。

先程レイヴェルから抱き締められて精神のバランスを元に戻し、過負荷(マイナス)のスキルを自分に使って傷とダメージ否定して逃げて消したのさ」

 

「なっ……!? なるほどそういう事か……。

くそ……どうやら別でも反則じみたものを持ってたという訳か……」

 

「それは否定できん。しかしさっきまでは貴様の気質に圧されて使えなかった。

だからギリギリだったというのは本当だ」

 

「………ふん」

 

 あ、そっか。

 無限に進化する力の他に、私と白音を昔助けてくれた『夢と現実を操る力』でダメージを消したんだ。

 どうも無神臓とは違ってそっちはイッセーの心によって使えたりそうでなかったりするみたいだけど……むむ、レイヴェルのおかげで使えるようになったと考えると……ちょっと複雑。

 

 

「祐斗とフリードとやらはまだ戦ってるみたいだぞ。どちらとも鎧姿で」

 

「あぁ……チッ、動きたくても動けん。

フリードはああも奮闘してるというのに情けない」

 

 

 ともあれ、今後レイヴェルみたいにイッセーにとって重要な存在になる為に頑張らないと……なんて思いつつ向こうで切り合いをしてる木場とフリードって奴を一緒に眺めてる。

 見たことも無い銀と白の鎧を身に纏い、斬り合う力の余波は此処まで伝わってくるけど……木場もフリードって奴もこの短い時間で随分と強くなったというか―――あ、二人の鎧が消えたにゃ。

 

 

「ゼェ、ゼェ、ゼェ……!」

 

「フー! ハァ……ハァ……!」

 

「く、クソ……まだまだ……だぜっ!!」

 

「ぼ、僕だ……って!!」

 

 

 互いの獲物が手から弾き飛ばされた事により今度は殴り合いに発展している。

 多分もう二人にとっては意地の張り合い何だろう……殴って殴られて、顔を腫らしても尚歯を食い縛って拳を振るってる姿は何とも言えない気持ちというか、ゼノヴィアって子が物凄い心配そうに木場を見てるのが――――ん?

 

 

「あ、あのー……遅れて申し訳ないというか……応援に来たというか……」

 

 

 コカビエルが何とかなった今、後は木場とフリードって奴との戦いが終わるのを待つだけだにゃーん…………なんて思っていた時に突如感じる大きな気配と、複雑な形をした魔方陣の出現に私は――いや私達はピクリと反応してピカピカと光ってる魔方陣に視線を移す。

 するとそこから現れたのは――

 

 

「ええっと、サーゼクスちゃんが結局無理だったんで私だけが来てみましたー…………みたいな?」

 

 

 何というか……この前レイヴェルに言われて自覚したけど、それでも私の方がマシだとハッキリ思える変な格好をした――――げ、魔王だ。

 

 

「セラフォルー・レヴィアタン……か?」

 

 

 

 

 

 

 ど、どうしよ……。

 結局サーゼクスちゃんは原因不明のまま暴れてて来れる様子じゃないから私だけ来てみたけど……。

 

 

「四大魔王の一人である貴様が今更何の用だ……?」

 

「あっ! コカビエル―――って、あれ? 傷だらけ……」

 

 

 今回の騒動の元凶であるコカビエルは傷だらけで倒れているし、向こうでは男の子が二人殴り合ってるし、周りには地獄の番犬ちゃんの大量死骸だらけだし――

 

 

「サーゼクス・ルシファーと同じ魔王か……。

生で見るのは初めてだが……何だか変わった格好だな」

「あの姿があの方の『正装』らしいですわ一誠様」

 

「久々にお姿を拝見しましたが、全然変わってませんね」

 

「私、あの格好よりはマシだと思いたいにゃん」

 

 

 冥界に残る貴族悪魔の中でもかなり変わってるフェニックス家の子と、確かリアスちゃんの眷属の子と………よく分からない猫の妖怪が私を見ながら何かを言ってるのが聞こえる。

 

 そしてその真ん中に上半身裸で立ってる、私の大事なソーナちゃんをタブらかした間男にソックリ顔をした男の子。

 どうやらサーゼクスちゃんやあの子との電話で聞いた通り、本当に彼がコカビエルを止めた……のかな? それにしては傷の一つも見当たらないけど。

 

 いえ、この際誰がコカビエルを止めたかなんてどうだって良い。

 重要なのはソーナちゃんをタブらかした間男をどうしてくれようかなのと、ソーナちゃん自身の安否を確かめなければ此処に来た意味は無い。

 

 

「…………あ」

 

 

 という事で胸に風穴を開けたままぶっ倒れてるコカビエルやその他を後回しにして、先ずはソーナちゃんは何処だと辺りを見渡してみると、意外にもソーナちゃんはリアスちゃん共々直ぐに見付けることが出来た。

 

 

「……………」

 

 

 ソーナちゃんとリアスちゃんを縛り付け、氷を思わせる冷たい視線で見下ろしてる……彼と一緒に。

 

 

「は、離しなさい!」

 

「セーヤがまたあんなボロボロに……!早く治療を……!」

 

「それしか言えねーのかよコイツ等は」

 

 

 間男がソーナちゃんをタブらかした事によりそのツケのほぼ全部を背負うことになってしまった男の子……。

 

 

「あん? おっと、お二方。

そろそろ性欲馬鹿の心配よりテメーの心配をした方が良さそうだぜ? ほれ」

 

「何を――っ!? お、お姉さま!?」

 

「な、何故此所にレヴィアタン様が!?」

 

 

 匙元士郎くんは、私の存在にわざと今気付いた様な顔をして二人に教えると、神器で縛っていた紐みたいなものを伸ばしてソーナちゃんとリアスちゃん――――ついでに右腕以外が無い間男を若干乱暴ぎみに私の前まで放り投げた。

 

 

「後は親玉に任せるよ。俺は所詮奴隷だからな」

 

「…………」

 

 

 でも私とは一切目を合わせようともせず、それだけを言うと『やっと鬱陶しいのから解放されたぜ~』と嬉しそうな顔をして間男にソックリな顔をした男の子の元へと行ってしまった。

 

 

「お、お姉さま! 彼等が勝手に介入して……」

 

「そのおかげで私達は多大な損害を――」

 

「……………。頼むから二人とも……今は黙ってて」

 

「「っ!?」」

 

 

 ごめんねソーナちゃんにリアスちゃん。

 今の二人を見てると、介入して邪魔されたからこのザマになったって言われても信じられないよ。

 

 寧ろどんな意図にせよ元士郎くんが二人を縛り付けでもしてなかったら、今頃本当に死んでた……そんな事ぐらい解ってよ。

 そんな事も解らなくなるくらい……こんな間男に狂っちゃったっていうの……?

 

 

「事情はある程度把握してるつもりだよ二人とも。

少しばかり覚悟しておいてね――――特にその間男君は」

 

「なっ!? 何故ですか! セーヤくんは私達の為に――」

 

「ソーナちゃん。

じゃあ何故ソレはそのザマなの? 相手の実力を見誤ったからでしょう? それを双子の弟で人間である彼とその友達に尻拭いをして貰った――違う?」

 

「そ、それは……!」

 

 

 ………。駄目だ。今すぐにでも殺してやりたい。

 こんな奴のせいでソーナちゃんは狂って、本来ならソーナちゃんの為に頑張ってた元士郎君は完全に離れてしまった。

 私達……殆どの悪魔を見限って。

 

 

「にしても、木場の奴エライ強くなったよなー……俺なんか地味すぎだろ」

 

「そうでも無いだろ。純血悪魔を二人相手取って無傷で押さえ付けたんだろう? かなりの進歩じゃないか」

 

「いやそうなんだけどよ……もっと頑張るか~」

 

 

 ソーナちゃんを許して欲しいと思って直接訪ねた時も、さっき電話した時も元士郎くんは許すつもりなんて無いという態度を1度たりとも崩さなかった。

 

 

「サーゼクス・ルシファーと私、セラフォルー・レヴィアタンがソーナ・シトリーとリアス・グレモリーの両名・両眷属に命じる。

後日貴女達にこれまでの所業についての裁判を執り行うから覚悟するようにね。

言っておくけど、今回は身内贔屓は一切しないよ」

 

「そ、そんな……」

 

「セーヤの弟が邪魔したのに……!」

 

 

 だからこれは私なりの元士郎くんに対するケジメ。

 ソーナちゃんが間男に狂った事を信じず、そのせいで元士郎くんの気持ちを壊してしまった事への……。

 

 

「人のせいにしたいのであればしなさい。

知ってる人はちゃんと知ってるんだから」

 

「「……」」

 

 

 魔王としてのケジメ。

 

 

 

 

 ふー……。

 やっとやっかましい女共から離れられて一息吐けるぜ。

 あの二人、最後の最後までイッセーが邪魔したからだとか、俺達がイッセーに丸め込まれてるとかほざいてたが、その主張もそろそろ無意味になるんだよねーこれが。

 

 

「って、胸に風穴を空けてるコカビエルが生きてるじゃねーか!」

 

「あいにくだが、兵藤一誠の一撃は俺の心臓を逸れたんだ。

暫く動けないもののこの程度では死なんし、今は負けたと認めた以上貴様等に俺からは攻撃はせん」

 

「さ、流石……最上級堕天使……」

 

 

 これで漸く奴等との縁が切れる。

 未練なんてものはとっくに無くなってる俺としては、同じ眷属のあの人の事が若干気掛かりではあるものの、やっぱり清々する気持ちが強く、これで漸く『イッセー達に借りを返す為に心置きなく強くなれる』と思うと身体にも力がみなぎる。

 

 木場が銀の鎧を得て進化したんだ……俺だって何かを掴める筈だ。

 

 

「あ……木場とフリードって奴が同時にノックアウトしたにゃん」

 

「二人とも顔がボコボコですね……」

 

「ウチの兄と一誠様の戦いが佳境に入ると何時もあんな感じだった事を思い出しますわね」

 

 

 強くなる。

 くだらない一目惚れに浸ってた時間は終わり。

 はぐれ悪魔認定されようとも『自由』になれた俺に怖いものは多分無いのだ。

 

 まずは自分の神器を知る事から始めるか……ふっ、これから忙しくなりそうだけど充実は――――

 

 

「あの……元士郎くん」

 

 

 しそう…………あ?

 

 

「………………。何か?」

 

 

 これからの人生をどう過ごそうか……。

 そんな事を考えていた俺の思考に割って入ってきた声。

 

 その声は俺が電話で無理矢理呼び出した元主の姉であり魔王であるレヴィアタンなのだが、何を思ったのかこの魔王様は俺におずおずした顔をしながら近付いてきたのだ。

 だから俺は、つい素っ気ない声を出した訳なんだが……。

 

 

「そ、その……ソーナちゃんが元士郎くんに迷惑を――」

 

 

 どうやら愛する妹についてわざわざ俺に一言言いたかったらしく、面影ありありなツラを見せてきやがる。

 それが酷く俺を苛立たせるのだが、決して表情には出さず、あくまでも『どうでも良い』という顔を崩さずに口を開く。

 

 

「別に。ほっといたら邪魔になるからああしたまでなんで、魔王様がわざわざ一介の下僕悪魔である俺に礼を仰る事はありませんよ」

 

 

 つーかこの人、何気安く名前で俺を呼んでんだよ。

 …………。いやそれを今言ったらまた面倒な方向に行くからスルーしとくか。

 

 

『………………』

 

 

 ちなみにだが、一誠達は急に無言になって両者ノックアウト状態の木場とフリードの様子を見てるんだが、誰も彼もが聞き耳を立ててるのが丸わかりな態度であり、何故か知らないけどコカビエルまでも出歯亀みたいにしている。

 

 ……。別に何もないのに。

 

 

「で、でも魔王としてちゃんと元士郎くんにお礼がしたいというか……。

何か私に出きることとかは無い……?」

 

「ですから別に何も……」

 

 

 ……。チッ、それにしてもさっきからしつこいな。

 こちとらアンタのその顔色を伺うようなツラにイライラするってのに何なんだよ。

 出来る事だと? じゃあ今すぐにでも性欲馬鹿シンパを連れて帰れや。

 それか若しくは―――――あ。

 

 

「あ」

 

「え、何かあるの? だったら遠慮とかしないでね? 私に出来ることなら何でもするから!」

 

 

 思わず声に出してしまった俺に目敏く反応した魔王サマが迫る勢いで近付き、ネタにされそうな事を言っている横で、俺はふと気付いた。

 

 一発でこの場から消えてもらえる魔法の台詞を――

 

 

「じゃあ一つ良いっすか?」

 

「うん……!」

 

 

 何で一々魔王サマともあろうお方が下僕悪魔の俺を気にしてるのか甚だ疑問だが、これを言えば確実に拒否して嫌って二度とツラを見せないと思う。

 

 その言葉とは―――――

 

 

「今すぐここで全裸になって踊ってくれます? エロっぽく」

 

「……………へ?」

 

 

 魔王サマが嫌ってる性欲馬鹿並みの嫌われ要求をすれば良いのだ。

 そうすれば完全にこの魔王サマはキレて二度と姿を現さないだろう。

 

 

「!」

 

「一誠様?」

 

「イッセー?」

 

「先輩?」

 

「い、いや違うそういう意味じゃない。びっくりしただけだ……本当だ!」

 

「フッ……そこら辺はまだ餓鬼だな」

 

「う、うるさいぞコカビエル……!」

 

 

 その際出歯亀をしてたのが……てか意外にも一誠がその中で露骨な反応をしたのには笑いそうになった。

 

 

「んで、出来るんすか? それとも出来ないんですか?」

 

 

 まあ、三人の女の子にジト目で睨まれてタジタジな一誠は置いておき、取り敢えずはこの台詞で確実に帰る気満々になっただろう魔王サマの反応を伺うとしようか。

 ほら見なさい……最初は間抜けな顔していたのが段々と怒りの形相に――

 

 

「え、えっと……良いよ。

二人きりになれる場所でなら……」

 

「あ、そうっすか……ならそこの用具倉庫にでも――――――――あ゛?」

 

 

 なら……ない? はれ?

 

 

「な、なにぃ!?」

 

「イッセー!」

「一誠様!!」

「先輩!!」

 

「だ、だから誤解だ! 誰だって横でこんな展開になってる連中を見ると驚くだろ!?」

 

「意外な展開だ……セラフォルー・レヴィアタンがな」

 

 

 おう、敵だけどアンタに同意するよコカビエル。

 つーかこの魔王は何宣ってんの?

 

 

「男の子の前で裸になるのは恥ずかしいけど、元士郎くんがそう言うなら……えへへ」

 

 

 何に指先ちょんちょんしながら、あざとく上目遣いなの? ……………。何考えてんのコイツ?

 

 

「良くは知らんが五大龍王を宿す小僧よ。

冗談のつもりで言ったにしても、どうやら奴はそうでもないみたいだし、此処は一つ大人にでもなったらどうだ?」

 

「な、何で急にアンタが俺を父親みたいな目で見るんだよ!?」

 

「…………。いや、何と無くお前はフリードに通じるものが感じられてな……つい何と無く……ごほっ!?」

 

 

 途中でビチャビチャと血を吐きつつ生温い笑みを浮かべるコカビエルに俺は何とも言えない気分になりつつも、さっきから嘘っぽく頬なんざ染めてる魔王に退場して貰おうと口を開いた。

 

 

「ね、ねぇ元士郎くん……じ、実は私…急いでて今日は履いてないの」

 

「何をだよ!? 知らねーよ! とっとと連中を連れて帰れや痴女が!!」

 

「えっ!? わ、私未経験……」

「だから知らねーよ! 消えろ!!」

 

 

 自分の吐いた台詞に此処まで後悔する事によりなるとは。

 俺はさっきまでの俺を殴りたくなったよ。

 

終わり。

 




補足

ネタの方で寝取られただ何だの話をやり過ぎたせいで、そろそろ一誠とレイヴェルたんをクソ露骨にイチャコラさせたい……。


その2

匙きゅん自身はセラフォルーさんを避けて通りたいと思ってます。
けれど、セラフォルーさんは物凄いズケズケと開き直って言ってくる匙きゅんが『同じ被害者』という意味もあってかなり気になるというか放って置けないと言うか……。

電話でさっさと来いと言われた時も慌てて『履かずに参上』してしまった次第。


その3

木場きゅんとフリードきゅんは騎士同士の力が拮抗して泥仕合となり、互いに受けたダメージにより鎧は自動返送されたので生身の殴り合いに入りました。
 結果……両者ノックアウトです。


その4

心滅した獣になろうとしましたが、バトってる男の子達に気づかれることなく(匙きゅんは例外)鳥猫三人娘に捻り潰されましたとさ。

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