只それだけよ。
毎度たくさんの感想をありがとうございます!
そんな言葉に従うつもりは無いし、実際見てはない。
が、確かに俺の耳には女の様な声が聞こえた。
覚えは無いが、聞こえたのだ。
だからと思うのは早計なのかもしれんが、もしかしたらここ最近俺の身に発生する……い、色々な現象はこの声の主が原因なのかもしれないと俺は考え、何か言いたそうにしている白音を後にしてレイヴェルと一緒に全神経を張り巡らせて探ってみるも……フッ、世の中は広いもんでなじみやフェニックス家の皆以外にも此処まで気配を感じさせず俺等に近付ける輩が居るとはなぁ。
あの消え入るような声だけが手掛かりで、後は何にも分からないまま、微妙に残る悔しさを抱えて木場達の聖剣捜索を開始する事にした……手を洗った後な。
「で、目星は付いてるのか?」
「ふん、当然無い!」
腑に落ちないままゼノヴィアとやらを上手く加えて始まった聖剣探しだったが、任務を与えられたのだから多少の情報は持ってるのではないのかと町外れに来た所で訊ねるも、何故かゼノヴィアとやらは堂々とした態度で無いとキッパリ言ってくれた。
「な、無いの?」
この返され方には流石の木場も肩透かしを喰らった様な顔だった。
「あぁ、私が知らされてるのは奪われた聖剣がこの街に持ち込まれてるのと、奪った賊がコカビエルだって事だけだ!」
『……』
あんまりにも堂々とした言い方に、俺達は思わず可哀想な奴を見るようなソレになってしまう。
要するに紫藤イリナの彼女も体の良い捨て駒の扱いをされているのと何ら変わり――――いや、奪われた聖剣の残りを持たされてるしそうでもないのか? でもそれにしたって教会連中はもう少しまともな情報を与えんかったのかと突っ込まざるおえん。
嘘を言ってるようには――うむ、思えんしな。
「結局は地道に探すしかないのか……」
ゼノヴィアとやらからの情報も宛になりませんと分かり、代弁するように匙がボソッと洩らしているものの、晴れて木場が1本とはいえ聖剣を壊す権利を教会所属の相手から貰えたのだ。
それだけでも無駄骨って訳じゃないし、最悪聖剣を融合させるには大きな場所が必要という情報だけでもかなりの役には立つのだ。
だから、この街に聖剣の融合作業が出来そうな広い場所をピックアップし、そこを重点的に警戒しておけば、コカビエルだって姿を現す筈さ。
ま、現れた所で奴を止めるのは皆のヒーロー兄貴様だがな。
「何かこう……敵方を簡単に引きずり出せるモンでもあれば良いんだがなぁ…。
罠餌みたいな何かが……」
「そうだね、せっかくゼノヴィアさんから協力しても良い許可を貰えたのに、こうも手掛かりがないとな」
「うむ、それについては私も思う。
正直、イリナが見付けてくれてることもあの様子じゃ無さそうだしな」
「む……何だ、何故そこで俺の顔を見るのだゼノヴィアとやら」
イリナが~の所で俺をチラチラと見てくるゼノヴィアとらやの視線に変なむず痒さを感じる。
いや、何と無く何が言いたいのか予想は付くが……。
「キミの兄……だったか兵藤誠八は? 彼は一体何なんだ? 木場とそこの――塔城だったかの二人が横やりを入れてくれたから助かったが、最初に彼の笑顔を見たら頭がボーッとして、何にも考えられなくなったのだが……」
ほらな。
その時点で引っ掛かってしまえば疑問なんて抱かなかったろうが、こうして引っ掛からないままだと逆に違和感を覚えてしまう訳で、何も事情を知らず俺を只の双子の弟だと思ってるゼノヴィアとやらがこうして質問するのも無理ない話だ。
「俺にも原理はよく分からん。
分かることと言えば、兄貴は悪魔に転生する前から『あぁだった』としか言えん―――――あ、俺は違うからな?」
「それはお前をさっきから見てても何にも思わんから理解しているが……わからんのか」
魔法、超能力、催眠術、
その正体は……ええっと、なじみが言うには『転生特典』だとか何だとか。
まだ顔も名前も、住んでる世界すら違がかった兄貴が、どこかの誰かのミスだからで死んだお詫びとやらで手にしたらしいんだが……俺にはファンタジー過ぎてよくわからん。
死んだ存在が行き着く先は天国でも地獄でもない……『無』だと思ってる俺にはな。
分かっていることは、その力で俺は大失恋をやらかし、匙は想い人を寝取られ、木場はとてつもない疎外感を感じてしまい、今此処に集まって聖剣を探そうとしている事だけだ。腑に落ちない様子の貴様には悪いが、どうしても知りたければリスク覚悟で兄貴に聞いてみると良いさ……お奨めはせんがな。
「兄貴が気になるのはわかるが、取りあえず今は貴様の任務をどう安全に終わらせるかだと思うが?」
「む……そ、そうだな」
「そーそー! あんな性欲馬鹿の事なんて考えるだけ疲れるだけだっつの」
そんな事より重要なのは何だかんだで上手いこと立ち回れる兄貴達より早く1本で構わんから聖剣を探してしまうことだ。
あの兄貴ってのは、一見女ばっかに見えるが、不可解な程先回りして事を起こす変な面もあるからな……油断はしない方が良い。
「俺と匙、木場とゼノヴィアとやら……そしてレイヴェルと白音で別れて怪しいポイントを捜索しよう。
何か分かれば即連絡……決して先走ろうとはするなよ?」
さっさと探してさっさと始末する。それに越したことは無いんだからな。
その為には人数的に二人一組に別れて動いた方が効率が良い……そうだろ?
イッセーくんの言葉通り、僕はゼノヴィアさんと共に聖剣を探すために人気が無くて怪しそうな場所を探す。
無言でスタスタと僕より半歩前に出て歩くゼノヴィアさんから、あの計画の首謀者を知ることは出来たものの、それでも聖剣に恨みが無くなった訳じゃない。
出来ることなら彼女が背負ってる聖剣を壊したいけど、それでは約束を破ってしまうことになるので我慢する。
どうであれ7本の内の1本を壊しても良いと言ってくれたんだ……その為の義理は果たすつもりさ。
「此所には無さそうだね」
「う……うむ、そうだな」
獲た情報を元に目星を付けた場所を見て回るも、収穫は今のところ無し。
焦ると言えば焦るけど、焦ったせいで失敗しては元も子も無いので、早る気持ちを抑えながら一つ一つの場所を丁寧に探す。
「さてと次は……」
「な、なぁ……」
やる時はやれ。
しかしその為には過程を疎かにするな。
僕の復讐心を肯定も否定もしなかったイッセーくんの言葉を忘れず、どんな時も冷静に心を落ち着かせながら次のポイントへ向かうと古ぼけた廃墟を出ようとしたその時だった。
三組に別れてからというもの、全く話さなかったゼノヴィアさんが突然として僕に――何かを言いづらそうにしながらといった表情で声を掛けてきたので、僕も思わず反射的に彼女へと顔を向ける。
「どうしたの?」
「う……うむ、お前に一つ確認の為に聞いておこうと思ってな……」
聞いておきたいこと? と僕は首を傾げるとゼノヴィアさんは何故かソワソワしながらこう言ってきた。
「やはりお前は聖剣が憎いのか? 聖剣自体に何の落ち度はなく、計画を進めていたバルパー・ガリレイのせいだと言った後でも」
「は?」
「そ、そりゃあ私もあの時は勢い半分で1本くらい破壊しても良いとは言ったが……うむ……その……」
「……………」
罰の悪そうな言い方をするゼノヴィアさんに、僕は自然と目をスッと細めて彼女を見つめ……僕の今在る気持ちを話そうと口を開いた。
「憎いよ。
「……………」
「確かにキミの言う通り、あんな実験をした教会の狂人達が悪いのであって、聖剣自体に罪は無いのかもしれない。
けどね、だからといってそんなものの為に仲間の意思や命をドブに捨て、背信行為で追い出されただけでノウノウと生きてる連中達は許せないんだ。
だから僕はキミの出した提案通り1本でも構わないから聖剣を破壊させて貰う、そしてあの計画を喜んで進めた連中にも報いをうけさせる。
仲間の為――なんて自分の復讐心を誤魔化す方便じゃない……これは僕なりの過去に定められた運命への決着さ」
本音を言うと聖剣全部を壊したいけど、ゼノヴィアさんへの義理もあるし彼女自身の方便も正論だと思ってる。
結局、聖剣が……じゃなくて聖剣計画を進めて皆を殺し、背信行為で追放されただけの罰で生き残ってる連中が半分以上原因なんだ。
そのバルパー・ガリレイが今何処に居るのか、匙くんの言う通りコカビエルの腰巾着をやってたらそれでよし、やってなくて何処かで生きてるのであればそれでよし。
どっちにしろ僕にとってのケジメを止める事は無いんだから。
「……。まあ、ざっとこんなもんかな。
どうする? 聖剣に仇なす悪魔として断罪でもするかい?」
……。我ながらなんて挑発的なんだと自嘲しながら、妙に塞ぎ混んじゃったゼノヴィアさんに言うも、彼女はうつ向いたまま動かない。
殺気も感じられないし、挑発に乗って成敗! なんて事は無さそうだけど、それにしたって急にどうしたんだろうか?
そう思いながらうつ向いてるゼノヴィアさんを眺めていると……。
「なら壊せば良い……これも立派な聖剣だ」
「えっ……?」
ゼノヴィアさんは突如、背中に封印された状態で背負っていた自分の聖剣の封印を解くと、その場に突き刺して僕に破壊を促したのだ。
これには僕もビックリし、固まってしまった。
「な、なんでまた……?」
「お前が単に聖剣を壊したいからって理由で動き回ってないと分かったからだ」
「でもその聖剣はキミが教会から貸し与えられたものだろう?」
うつ向きながら僕に聖剣を差し出そうとするゼノヴィアさんに、僕は訳が分からないまま地面に刺さる聖剣を見る。
悪魔に転生した僕にとっては本能的に感じてしまう恐怖の力を放つそれを見て、いっそ破壊してしまいたいと確かに思ってしまう訳で……。
「あの計画のおかげで研究が飛躍的に進歩したのは事実だ。
しかしその犠牲はあまりにも大きく、我等ですらあの計画はおぞましいものだと認識している。
だからこそ、その計画の被験者であるお前がどんなに憎んでいるかが……被験者じゃないにしても分かったつもりだ」
「だからキミの持ってるコレを破壊しろと?」
「あぁ、ムシの良い話なのは分かってるが、少しでも償えれば……なんて」
そう言ってゼノヴィアさんは地面に突き刺した聖剣から離れる。
償い……教会を代表してゼノヴィアさんは僕にこの聖剣を破壊させた償いをしたいと言った。
神を信仰してる彼女が、神の力が込められた武器を今は悪魔になってしまった僕に差し出してる。
それがどんな意味か分かってる……多分それだけ彼女は本当にそう思ってるんだろう。
だけどね……。
「嫌だよ」
「………は?」
それはちょっと違うよゼノヴィアさん。
キミは別に関係ない。
「うん、ちょっと前までなら即座に壊してたかもしれない」
「だったら壊せば良いだろ? 憎いんだろ聖剣が?」
「うん、憎いよ? こんなガラクタの為に仲間を殺されたんだ……出来るなら今すぐバラッバラにして海にでも捨ててしまいたいくらいだ」
今更『心変わりしました、復讐なんて空しいからやめます』なんて言わないし思わない。
復讐に美学なんて求めないし、体の良い手段なんて選びやしない。
けどね……こんなやり方で壊しても僕は過去のケジメが付けられるなんて思えないんだよ。
「償いなんて要らない。何よりキミからそんな事を言われると教会から破壊させて頂いてるみたいで気に入らない」
「う……」
何故か自然と出てしまう笑みにゼノヴィアさんが言葉には詰まらせる。
うん、僕でも不思議さ……なんでこんな時に笑ってしまうのかが……。
「僕の目的は教会側の連中の意図しない事をして、悔しそうに顔を歪ませるのを見て指でも指しながら、『ザマーミロバーカ』と大笑いしてやる事さ。
だから、キミの善意は要らない。キミと――あー紫藤さん以外の聖剣を見付けて修復できないくらいに破壊してから、その残骸を教会に着払いで送りつけてやるんだ!」
「…………。お前、ひょっとしてサドって奴なのか? 色々と考えが歪んでるような……」
「さぁ? でも少なくともその方がスッキリと過去へのケジメが付けられると思ってる。
だからゼノヴィアさん……その聖剣はキミの好きにすれば良いと思うよ? 僕は他のを壊すから」
我ながら本気で歪んでると思う。
けど、わざわざ向こうから差し出されるより自力で探したて破壊した方がスッキリするし過去への決着もつけられると思ってる。
ふふ……僕を否定しなかったイッセーくんと、ハングリー精神が強い匙くんの影響かなぁ……ふふふ。
「……。わかった、ならばもうこんな事は言わん」
「うん、なんかごめんね? 折角のキミの覚悟を不意にしちゃって」
「ふん、さっきまでは私がどうかしてたのだ。
よりによって悪魔である貴様に聖剣を渡そうとするなんてな」
謝る僕に顔を逸らしてぶっきらぼうに言うゼノヴィアさん。
いや、でも本音は割りと迷ってたりしたんだよ?
「別の意味で兵藤一誠も変な奴だ。
人間なのに悪魔とツルるんで……」
「変なのは認めるけど、僕も匙くんも塔城さんもイッセーくんのお陰でこうして居られるのさ……」
「……。対価を支払って悪魔と契約なんてする人間が、悪魔を救うなんて冗談でも笑えんぞ。
ほら、次の場所に行くんだろ? もたもたするな!」
「あ、あはは……はい」
イッセーくんに対する警戒心を顕にしながら、地面に刺さった聖剣に近付くゼノヴィアさん。
別に仲良しこよしになってなんて絶対無いけど、何と無く彼女の扱い方が分かった気がしたかも……なんて考えながら聖剣に封印を施そうと念じている彼女を眺めていた――
「っ……危ない!!」
「ひゃあ!?」
突然感じた強い殺気に、僕は本能的にゼノヴィアさんに飛び掛かり、そのままゴロゴロと地面を転がりながらその場を離れる。
そしてそれと同じくして、聖剣が刺さっていた箇所から耳を押さえたくなる爆発音と大量の砂煙が舞い込んだ。
「くっ……だ、大丈夫かい?」
「あ、あぁ……な、なんとか……っ!?」
何とか間に合ったみたいで、ゼノヴィアさんに怪我は無さそうだが、何故か突然顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせている。
「な、な、な……!」
「ど、どうしたの?」
まさかやっぱり間に合わずに怪我を!?
明らかに様子のおかしいゼノヴィアさんが心配で視線を動かした僕は――
「……あ」
何で彼女が顔を真っ赤にしていたのか知ってしまった。
その……突き飛ばして一緒に倒れた際、僕の右手が思いきり……その。
「あ、ち、違うんだ……わざ、わざとじゃ――」
「ヒャッハロー!! お宝とクソ悪魔はっけーん!!!」
「な、何をするんだこのバカーッ!!」
胸を思いきり掴んだままだった。
そのせいで煙が立ち上る中心から聞こえた快楽主義者みたいな声も掻き消され、聞こえたのは僕の頬に走る痛みと乾いた音だった……。
補足
木場きゅんラッキースケベの巻。
このイッセーにあるようで別にそんな無かった故なのか、木場きゅんがやっちまいました。