IS ~Identity Seeker~   作:雲色の銀

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第23話 現れたモノは己を否定する鏡なのか

 旅館の奥にある宴会用の大座敷・風花の間に呼び出された俺達へ告げられた事情は、想像以上の非常事態だった。

 今から2時間前、ハワイ沖で試験稼働中だった(アメリカ)(イスラエル)共同開発の軍用IS"銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)"が暴走。管理下を離れ、今なお海上を飛行中とのことだ。そして、衛星カメラの追跡による移動ルートを割り出した結果、ここから2キロ先の海域を通過することが判明した。

 

 つまりは、たまたま近くにいた俺達で暴走中の第三世代機を止めろ、ということだ。

 軍用機が相手ということもあり、代表候補生達はいつになく真剣な面持ちを見せる。

 

「では、これから作戦会議を始める。意見がある者は?」

「はい。目標の詳細データを要求します」

 

 手を挙げたセシリアの言う通り、対処しろというからにはまず敵のことを知らないといけない。

 しかし、相手は二ヶ国が共同開発した軍用機。機密情報ということもあり、閲覧する前に情報漏洩しないという誓約書にサインさせられる羽目になった。これを破ると、査問委員会による裁判と二年の監視が付く。

 

「な、なぁ凌斗。鈴達の会話について行けるか?」

「……いや」

 

 スペックデータを受け取ってから、代表候補生達は瞬く間に分析を始める。ISに対する知識量の差がここで明確になるな。

 対する俺と一夏、箒はその会話に入ることが出来なかった。情けない話だ。

 

「が、自分で分かる範囲で情報を頭の中に入れて置け。ここで置いてかれるようじゃ、前に進めない」

 

 俺はいつかこの場にいる誰よりも強くならなきゃいけない。この程度の事態にも対処出来なくてどうする。

 銀の福音は、広域殲滅を目的とした特殊射撃型だ。攻撃と機動の両方に特化した上、特殊兵装による射撃で近付くことすら困難。加えて、格闘戦のスペックは不明……。

 

「偵察は出来ないんですか?」

「無理だ。目標は今も超音速で移動を続けている。こちらからのアプローチも、恐らく一度が限度だ」

 

 銀の福音を討ち取るチャンスは一度きり。加えて、奴に接触する為に高速で移動しなければならない。

 

「となると、一発で仕留める超攻撃力が必要だね」

 

 この中でISを一発で仕留められるような攻撃を繰り出せる奴。そんなの、一人しかいない。

 

「お、俺?」

「アンタの零落白夜しかないでしょ。チャンスは一回こっきりなんだし」

 

 鈴の言う通り、一夏の白式が持つ零落白夜なら銀の福音がどんな強固なバリアを持っていたとしても破ることが出来る。

 ただし、それ相応のエネルギーを消費するので、移動に使う分のエネルギーが持たない。

 

「……彼を運ぶ役も必要」

「この中で最高速度が出せる機体はどれだ?」

 

 残念だが、俺のシアン・バロンはパッケージがまだ用意されていない。

 パッケージというのは追加武装だけでなく、追加アーマーやスラスターなどの装備一式のことを差す。活動用途によって様々な種類があり、中には高機動用のパッケージもあるそうだ。

 が、俺のは急ピッチで作られた挙げ句、特殊兵装をスッパリ削ぎ落として仕様変更までした所為で今回の臨海学校までにパッケージの製造が間に合わなかったのだ。

 

「わたくしのブルー・ティアーズでしたら、強襲用高機動パッケージ"ストライク・ガンナー"が送られていますし、超好感度ハイパーセンサーもついています」

「超音速下での戦闘訓練時間は?」

「20時間です」

 

 この中ではセシリアが一番適任のようだな。悔しいが、今回は俺の出番はなさそうだ。

 時間があまりないこともあり、織斑先生もセシリアに任せようとした──その時だった。

 

 

「ちょーっと待った!」

 

 

 大声と共に、天井裏から華麗に降りてくる人影。その様はまるで忍者のようだが、姿格好はそれとは程遠いほどファンシーで目立つものだった。

 天井からやってきた人物、篠ノ之束は一段落付こうとしてた会議に水を差すかのように現れた。

 

「この束さんにはもーっといい作戦があるのだよ!」

「邪魔だ」

 

 訂正、水を差しに現れたらしい。

 しかし、織斑先生には篠ノ之束の話を聞く気はなく、即座に頭を掴んで部屋から引き摺り出そうとした。

 

「いだだだだ! こ、ここは紅椿の出番なんだってば!」

「何?」

 

 紅椿の名が出た瞬間、織斑先生の反応が変わる。その際に力が緩んだのか、篠ノ之束は織斑先生の手から脱出して数枚のディスプレイを出現させた。

 ディスプレイに記載されているデータは全て紅椿のものだ。が、そのスペックはデタラメもいいところだった。

 

「紅椿はパッケージなんてなくても、展開装甲を調整さえすれば超高速機動が出せるんだよ!」

 

 いつの間にかメインディスプレイも乗っ取られ、紅椿の説明がなされる。

 パッケージの換装を必要とせず、本当に装甲の一部を組み替えるだけで高機動形態になれるというのか。

 これまでのどの第三世代型でさえ、パッケージによってようやく活動の多極化が出来るようになったというのに。この天才が作ったものはそれをも上回るのか。

 

「あ、展開装甲っていうのは第四世代型ISの装備のことね」

「第四世代!?」

 

 俺の思考でも読んでいるかのように、篠ノ之束は第四世代型の存在を認める。

 ただこうもあっけらかんと言われると、この場にいる全員が口を揃えて驚くのも無理はない。状況が分かっていない一夏を除いては、だが。

 

「はーい、じゃあよく分かってないいっくんの為に優しい束さんが特別授業~! まず、ISには世代というものがあるのは知ってるよね? 第一世代は『ISの完成』そのものが目的の機体で、第二世代が『後付武装による多様化』、そして第三世代が『操縦者のイメージ・インターフェイスを利用した特殊兵装の実装』。じゃあその次の第四世代はっていうと『パッケージ換装を必要としない万能機』という現在じゃ空想上の産物って訳。はい、理解出来ましたかー? 先生は賢い子が好きです」

「は、はぁ……えーと……? 確か、各国が今やっと第三世代の試験機を作れるようになった段階だよな? それで第四って、えぇ!?」

 

 やっと今ここにある第四世代機の異常さに気付き、一夏は数瞬前の俺達と同じような反応をする。

 この女、たった一人で各国のどの技術すらも上回ったってことだ。それも一学年下の生徒が必死にやってる算数ドリルを簡単に解いて終わらせるかのように。

 

「そうそう、いっくんが持ってる白式の雪片弐型にも展開装甲が搭載されてまーす。試しに突っ込んだものだけど」

 

 ついでのように明かされる事実に、俺達はもう言葉も失って驚くしかなかった。確かに、零落白夜発動時に雪片弐型は装甲を展開するが、あれが第四世代相当の技術だったとは。

 ということは、白式も半分は第四世代と言って差し支えないだろう。

 

「それが上手く行ったので、紅椿には全身のアーマーが展開装甲になってまーす。しかも攻撃・防御・機動と用途に応じて切り替えが可能な発展型だよ。これぞ、第四世代型の目標である即時万能対応機(リアルタイム・マルチロール・アクトレス)って奴だね。いえーい!」

 

 即ち、紅椿も雪片弐型も世界各国が金と時間と人材の全てを次ぎ込んで競い合っている技術をあざ笑うかのような存在だということだ。

 この話を聞いているのが俺達だけでよかったというべきか。この女が全国で指名手配される理由が嫌という程よく分かる。

 

「……束、紅椿の調整にはどれくらいかかる?」

「織斑先生!?」

 

 織斑先生の質問に声を上げたのは、さっきまで作戦に参加するはずだったセシリアだ。

 

「ではオルコット、そのパッケージの量子変換(インストール)は済んでいるのか?」

「それは……まだ、です」

「紅椿の調整は七分あれば余裕で終わるよ~」

 

 パッケージの量子変換は確実に十分以上はかかる。それに引き換え、展開装甲の調整は開発者直々に行うこともあってかすぐに終わるようだ。

 急な作戦変更に憤っていたセシリアは痛いところを突かれて勢いを失い、逆に篠ノ之束は追い打ちを掛けるように余裕綽々と言った態度で応える。

 

「本作戦では織斑・篠ノ之の両名による目標の追跡及び撃墜とする。作戦開始は30分後。各員、準備に取り掛かれ。手の空いている者は手伝える範囲で行動しろ」

 

 織斑先生の号令で教師陣が一斉に行動を開始する。篠ノ之束も箒を連れて紅椿の調整を始めたようだ。

 

「織斑先生。俺とセシリアも一夏達に同行してもよろしいでしょうか」

「何?」

「凌斗さん!?」

 

 俺の提案に織斑先生が眉を顰め、セシリアが目を丸くする。

 これは電撃作戦だ。少ない人数で、素早く、確実に行動した方が良いのは承知している。

 

「一夏が仕留める確実性を増すために、近接戦闘要員がもう一人いた方が良いと思います」

「つまり、陽動か?」

「はい。が、この中で高機動パッケージを持っているのは遠距離専門のセシリアのみ。なら、機体重量が軽く格闘戦特化の俺がこの役に相応しいかと」

 

 セシリアに陽動役の俺を運んでもらい、俺が先に奇襲をかける。その隙を突いて、一夏が零落白夜を叩き込めば終わる。

 一夏が一人で突っ込んで零落白夜を当てるよりもずっと確実性があるはずだ。

 

「……分かった。蒼騎、オルコットの両名も出撃させる。遅れずに準備をしておけ」

「はい!」

 

 先程は時間を取って篠ノ之束の案を採用したが、ここで打ち漏らすようなことがあってはならない。

 織斑先生は俺の案も取り入れ、すぐに追加の指示を下した。

 

「あの、凌斗さん……ありがとうございます」

「何がだ」

「わたくしのことを気遣って、陽動を引き受けてくださったのでは?」

 

 シアン・バロンのコンソールを確認していると、セシリアが礼を言ってきた。

 ……さっきは篠ノ之束に分かりやすく拒絶されて、今度は折角の作戦参加のチャンスを横取りされたもんな。不憫だとは思う。

 

「俺はただ、万が一に備えただけだ。特に、失敗する確率の高い奴に対してな」

 

 だが、それよりも俺は視線の先にいる奴──箒に警戒を向けていたのだ。

 仮に紅椿のスペックが他のどのISよりも高く、あっという間に高速機動が出せたとしても。操縦者の箒自身は超音速下での訓練はおろか、専用機に今日初めて乗る訳だ。

 かつては一夏も俺との代表決定戦の時に初めて白式に乗ったのだが、あれは相手が初心者(おれ)かつ試合だったからまだ良かった。しかし、今回は失敗の許されない重要任務。誰よりも経験の浅い箒に不安が残るのは当然だ。

 

「悔しいですが、紅椿のスペックはブルー・ティアーズ以上。箒さんのフィッティングも終えてますし、大丈夫なのでは?」

「そうだな。見た目だけなら問題はなさそうだ」

 

 フィッティングもパーソナライズも終わっている以上、訓練機よりもより箒に合った動きを紅椿はするだろう。もしかしたら、白式以上に経験をスペックで補って余りあるような結果を残すかもしれない。

 けど、俺が箒を警戒している一番の理由は箒の内面にあった。今の奴の顔は俺が初めてシアン・バロンに乗って戦った時によく似ていたのだ。

 新しい自分だけの力。とてつもない高揚感。期待。不安。それらの感情が一気に押し寄せ、胸の内で混ぜ合わされる。そういう時に人間は前後不覚に陥りやすい。

 今の箒は数ヶ月前の自分を見ているようで無性に気に入らなかった。

 

「凌斗さん?」

「ん? ああ、呼んだか?」

「ええ。作戦行動時の打ち合わせをしようかと……大丈夫ですの?」

 

 箒、それと篠ノ之束への警戒を強め過ぎたあまり、前後不覚に陥っていたのは俺の方だったようだ。

 セシリアに余計な心配までかけてしまうとは。

 

「悪かった。問題はない」

「そうですの? それならよろしいんですけど」

 

 俺は心を無理矢理落ち着かせ、セシリアや一夏との打ち合わせを始めた。

 

 自身の中のドス黒い感情に、この時は気付かないフリをしながら。

 

 

◇◆◇

 

 

 作戦開始時刻の十一時半となり、俺達は目標のいる海域の方へ並んで立っていた。

 

「いいか、箒。これは訓練じゃない。十分に注意を――」

「無論、分かっている。心配するな、お前はちゃんと私が運んでやる。大船に乗って気でいればいいさ」

 

 相変わらず、箒は浮かれたまま何処か楽しそうに一夏と話す。

 

「確かに箒さん、ちょっと危ないですわね」

 

 セシリアや一夏でも、浮ついた箒に気付き警戒している。気付かないのは本人だけ、か。

 そこへ、風花の間にいる織斑先生からオープン・チャネルで通信が来る。

 

〔全員、聞こえるか? 今回の作戦は一撃必殺、短時間での決着を心掛けろ〕

「了解」

「織斑先生、私は状況に応じて一夏のサポートに回ります」

 

 各自で応答するが、箒だけは弾んだ声で指示を仰ぐ。

 

〔ん、そうだな。だがあまり無理をするな。お前はその機体での実戦経験は皆無だ。万が一の時のためにオルコットや蒼騎もいるのだからな〕

「分かりました。ですが、凌斗達の出番の方がないかもしれません」

 

 ほう、言うようになったじゃないか。

 あまりにも自信過剰な箒の発言に、癇に障ったセシリアを俺が抑える。

 

「まぁ、待て。今の奴には何を言っても無駄だ」

「凌斗さん、ですが……」

「さっきも先生が言ってたろう。何のために俺達も一緒に出るのか」

 

 自惚れた奴には現実を突き付けてやる方が早い。

 一夏だけならまだしも、俺達までいるんだ。一人ぐらいのミスで作戦失敗にしてたまるか。

 

〔では、始め!〕

 

 少し一夏とプライベート・チャネル話してたようだったが、すぐに切り替わり号令がかかる。

 一足先に箒と一夏が飛び立つ。そのスピードはISの瞬時加速と同等以上で、すぐに遥か上空まで到達してしまう。

 

「セシリア、頼むぞ」

「ええ、しっかりと捕まってくださいまし」

 

 何か意図を含んだような発言だったが、ストライク・ガンナーの加速による衝撃でそんなことを考える余裕はなかった。

 流石、高機動パックと言うだけあって紅椿にも負けない速度で飛行している。

 

「情報称号完了。目標の位置を確認しましたわ、凌斗さん」

「よし、遅れをとるなよ」

 

 衛星カメラからの情報により銀の福音を位置を掴んだセシリアは一気に加速を上げる。前にいる紅椿も同様に速度を増し、目標へ向かって行く。

 しかし、高機動パッケージとしてあらかじめ作られたストライク・ガンナーはともかく、紅椿は一体何処からあれほどのエネルギーを出しているんだ?

 

「凌斗さん!」

 

 その時、セシリアの呼びかけと同時にブルー・ティアーズが旋回する。

 数瞬後には、俺達が進んでいた軌道上に()()()()()()()()()()()()が割り込んでくるのが見えた。少しでも回避が遅れたら、大ダメージは免れなかっただろう。

 

〔セシリア! 凌斗!〕

「無事だ。それより、お前等は目標の下へ行け!」

 

 動きが止まった俺達に一夏がオープン・チャネルで呼びかける。

 だが、一夏には銀の福音というすぐにでも仕留めなければならない敵がいる。俺達に気を取られている暇はないはずだ。

 

「それより、今のは――」

 

 俺達を襲ってきたものは、俺の持つ弓型の武装ヒュドラから放たれる矢によく似ていた。

 あれは他の企業が作ったものだから、どのISが持っていてもおかしくはない。

 しかし、矢が飛んできた方を見た俺は思わず目を見開いて絶句した。

 

 

「あれは……黒い、シアン・バロン……?」

 

 

 セシリアの言う通り、襲撃してきたISは全てのカラーリングが黒いこと以外は俺のシアン・バロンと瓜二つだった。

 以前学園を襲った無人機のように全身装甲(フルスキン)で、誰が操縦者なのかは分からない。

 だが、それ以上に専用機のISの情報は国家機密レベルで秘匿されている。イギリスから情報が流出でもしない限り、もう一機のシアン・バロンを作ることは不可能だ。

 

「何だ、お前は……」

 

 鏡映しになったような相手に、俺の感情はマグマのように煮えたぎっていく。

 何故、こんな時に()が敵として現れるんだ。

 未だに自分自身(アイデンティティ)を得られない俺の前に、どうしてこんな奴が出てくるんだ。

 

「貴様は一体何なんだ!! 答えろぉぉぉっ!!」

 

 右手にヒュドラを展開し、リムのエネルギー刃で切りかかる。黒いISは俺と同じようにヒュドラの刃で攻撃を受け止めた。

 相手の表情はまるで分らないが、それが却って自分自身と戦っているような錯覚を感じさせる。

 

「凌斗さん、下がって!」

「手を出すなセシリア! お前は一夏達のところへ行け!」

 

 慌てて銃を構え援護しようとするセシリア。だが、俺には邪魔としか思えなかった。

 俺と同じ姿をした奴が俺の下に現れた。それだけで、これは俺への挑戦だということが分かっていた。

 

「ですが!」

「行け! これは俺一人の問題だ!」

 

 銀の福音は一夏の零落白夜さえ当てれば勝機がある。あとは、箒が失態を犯さなければいい。

 ここで俺一人だけが抜けても、作戦遂行に何の支障もないのだ。

 

「……お気をつけて」

 

 そう言い残し、セシリアは一夏達の後を追う。同時に、俺は全ての回線を切った。

 これで織斑先生からの邪魔もされない。

 

「後でどうこう言われても関係ない」

 

 ヒュドラを収納し、スペリオルランサーを新たに展開。すると、相手も同じくスペリオルランサーを取り出してきた。

 ここまで、俺と敵は同じ動きしかしていない。

 

「相手にどんな考えがあるかも、今はどうでもいい」

 

 今、俺にこんな戦いを仕掛けてくる奴なんておおよその見当は付く。

 あの不気味な兎が何考えてるのかは知らないがな。

 

「俺は、俺に負けるようなことがあってはならない!!」

 

 全く同じ姿勢のまま突撃していく俺達。槍同士がぶつかり合い、同じ姿をしたIS二機が睨み合う。

 晴天の空を背に蒼と黒の軌道は幾度となく交錯し、火花を散らしていく。

 

「この、偽物がぁ!!」

 

 デカい得物同士では埒が明かず、俺はレイピア"スーパーノヴァ"を取り出す。当然のように相手もスーパーノヴァの同型を取り出し、刃を交差させる。

 距離が近付いた瞬間、敵は遂に何か言葉を発した。

 

「……お前は、何者でもない」

「なっ!?」

 

 エフェクトの掛かったボイスでハッキリと告げられ、俺は一瞬動揺を露わにしてしまう。

 艶がかかった奴の黒い頭部に歪んで映るのは、向かい合っている俺の顔。

 

「自分自身にも敗けるお前は、何者にもなれない」

 

 周囲の誰もが前へ進んでいく。俺だけが進むことすら出来ないまま。

 一夏も、セシリアも、鈴も、シャルロットも、簪も、ラウラも。箒ですら。

 

「ただの目障りな弱者は、ここで消えていけ」

 

 奴のレイピアが俺のスーパーノヴァを弾く。

 気付けば、左手にヒュドラを握り、相手は俺を切り裂いていた。エネルギーが減り、アラートが鳴り響くも俺は自分の中の絶望のせいでどうすることも出来ない。

 

「俺は」

 

 誰にも負けない、最強の力を手に入れる。そして、全世界が認めた唯一無二たる俺の存在を確かめる。それだけを目標に、俺は第二の人生を歩んできた。

 

 だが、俺は負け続けた。

 

 シャルロットにも。

 

 ラウラにも。

 

 そして、()()()にも。

 

 

「俺は一体、何なんだ」

 

 

 黒い敵(おれ)の最後の一撃を受け、惨めな弱者(おれ)は遥か下の水面へと沈んでいった。

 

 最早全てを見失った抜け殻のような意識も、暗い海底に呑まれ――。


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