Scarlet stalker   作:雨が嫌い

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 すみません、第三話書き直しました。
 褒められたことではないのは承知しています。しかし、自分で改めて読んでみて、何このキャラウザすぎ、これはなんか違う、続かない……と思ったからです。
 変なテンションで何か影響受けてしまっていたのでキャラがくど過ぎになっていました。
 今後はしっかり自分で見つめ直していきたいと思います。(キャラがブレないとは絶対には言えないけれど)


 お詫びも兼ねて二話連続投稿なんとかすることにしました。

 ここまできて愛想をつかなかった方のためにもより一層頑張ります。



Ep3 『アホの子』

 本日は今一度、監視対象の一人について振り返ろう。別に、誰に聞かせるわけでもないが。

 でも、(コミュ障な)レキ先輩が多くは話してくれないから。今わかっていることを纏める意味でも、振り返ろうと思う。

 

 遠山先輩。本名、遠山金次。

 あの遠山の金さんで有名な遠山金四郎景元の子孫であり、元Sランク武偵。

 こう来歴だけ見るととても大仰な人物に感じるが、この東京武偵高での現在主な評価は「根暗」「昼行灯」「女嫌い」「女たらし」と酷い有様。

 しかも、後半二つどこか矛盾しているようにも感じる。ミステリー? トンチ? 意味がわからないよ。

 ただ最近腑抜けているのは間違いないだろう。僕の監視に気づく素振りが全くないし。今Eランクだし。

 

 因みに僕の近しい者の評価は──

 

「どこか抜けてるように見えるけど、なんか勝てなさそうな気がするんだよな……」

「英雄! 正義の味方! 生き様はまさに弱きを助け強きを挫くそのもの! 誰より尊敬に値する人なのだ!」

 

 と、概ね好評だ。

 

 実はこの先輩、僕自身にも少しばかり縁があると言えばあったのだが……それはもう関係の無いことか。

 落ちてきた牡丹餅を「いらね」と避けたら、勝手に怒った人が出てきたというだけのこと。

 遠山先輩からしてみれば知った事ではないと答えるだろう。僕の方こそ知った事ではなく、だが。

 

 さて、今回の話はその遠山先輩が強襲科(アサルト)に戻って来たことにより始まる。

 これは武偵高でも軽いニュースになるような出来事である。本人が気付いている様子は全くと言っていいほどないが。とりあえず昼行灯というのは本当らしい。

 今日はそれに連なって何か変化が起きないかを調べるために監視を行う日であり、やはり奇妙なことが起きてしまったと後悔する日でもある。

 

「アリア先輩とあんなに近く……」

 

 ギリギリと音が出そうなほどネクタイを噛みしめる間宮。

 知らなかった、間宮は布が主食なのか。いくら貧乏だからって餓えを誤魔化すためにそんな物を噛みしめなくたっていいのに。

 そんな餓えた間宮は今日強襲科(アサルト)の体育館から出た例の二人を付け回していた。理由は不明。

 

「……それにしても怠い」

 

 監視対象である遠山先輩と神崎先輩がイチャイチャイチャイチャ、クレーンでとったストラップを付け合っている所など、見ているだけで余計に疲れた。

 本当に、どうしてあんなにも仲が良いのだろう。特に遠山先輩、あなたは女嫌いではなかったのか。

 因みに、この時の間宮はネクタイをそれはもう引きちぎる勢いだった。歯つえーな。

 

 やがてデートは終わったのか、二人が別れた時にもう一つ限りなく小さい気配が増えた。ニンジャだった。

 ニンジャ──本名、風魔陽菜。

 外見は長く黒い髪をポニーテールのように後頭部で束ねていて、口元を布で隠している。何より特徴的なのは、その時代錯誤な格好と口調だ。『某』、『ござる』といった 如何にも忍者しています、という喋り方をしていること。

 僕が諜報科(レザド)に行っていない時に起きた連絡事項を、頼んでも無いのに届けに来る変に律義な奴だ。

 

 つまり、今の状況は──まず、遠山先輩。そしてそれを尾行(?)している間宮。それを尾行しているニンジャ。その更に後方にいるのが僕。

 多重尾行というやつである。

 ニンジャは遠山先輩の戦妹(アミカ)であり、遠山先輩自身も間宮には気づいているふうがあるので、火の粉払いのような、何かの対策として呼ばれたのか。

 

 それにしても、何度も思うがよくこの間宮が神崎先輩の戦妹(アミカ)になれたものだ。あいつの今の実力は少なくとも強襲科(アサルト)Eランクで間違いないはずだから。運がいいのか悪いのか、よくあの状況に持ち込めたと感心する。

 

「間宮殿そこまでにされよ」

「!?」

 

 いきなりのニンジャの登場に間宮は驚く。やはり気づいていなかったみたいだ。

 

「間宮殿に一つお尋ねしたい」

「な、何?」

「弥白殿と何故(なにゆえ)変わらぬ関係を維持できるのでござるか。抜け駆けたという意で違いは非ず」

「? 一体何を言ってるの?」

「知らぬか。いや、故に、でござるか。それに間宮殿は厳密には立場が……結局は某が………」

「風魔さん? って、そうだ! 遠山キンジ……先輩は?」

「……問答は終わりでござる」

「ええ!? なんか勝手に始まって、勝手に終わっちゃったんだけど!?」

 

 煙玉で姿をくらました振りをし、ニンジャはわざと間宮に姿を晒し逃げる。そう、遠山先輩がいる場所とは逆方向に。ある程度の武偵ならまず引っかからない作戦とも言えないお粗末なものだ。

 つまり──当然のごとく、間宮は見事に嵌った。

 最初のよくわからない問答も含めて時間稼ぎは十分。まあ僕くらいになると普通に追跡できるが。

 間宮がそんな技術を持っているはずもない。……だというのに、間宮は遠山先輩の元へと辿り着いた。

 肩で息をしている所を見ると、手探り次第に走り込んでいたと思える。それでも結局辿り着いてしまうその幸運さに呆れるばかりだ。

 

「なんだ、風魔の奴。撒けてねえじゃねーかよ」

「!? 遠山キンジ……先輩」

 

 さっきからこの微妙な間といい、間宮は遠山先輩のことを頭の中では呼び捨てにしていることが窺える。

 多分、神崎先輩と仲が良いのは気にくわないのだろう。普段の竹中のことも含めて。

 形だけでも上下関係にはしっかりするべきだと僕は思うが。

 

 間宮と遠山先輩が争おうと、現状を見ているだけが仕事の僕には関係ない。が、Sランク認定され、実力も得体も知れない先輩に突っかかるな、危なっかしい。

 この心配はあくまで何か起こった時流れ弾が僕に来たりするかもしれない心配。間宮自身の心配なんてしていない。間宮どうなろうと僕には関係ない。

 

「おまえ、どこの中学出身だ?」

「一般のですけど……それが何か?」

「なんだ一般か。風魔もういい、こいつは大丈夫だ」

 

 結局、遠山先輩的に間宮は無害認定され、ズルズルとこの場は収まるかのように思えた。

 だが間宮にとっては舐められていると感じたのだろう。よせばいいのに、立ち去ろうとした遠山先輩らに食い下がった。

 

「ぱ、一般中学(パンチュー)──」

 

 丁度、パンチューと言った時だった。

 風が吹き間宮のスカートをまくりあげた。どこかの需要に応えたかのように、見た目通りのお子様パンツ。いや、ぱんちゅ。色気の欠片も無い。

 思わず吹きかけてしまった。ああ、はしたない。

 

「がどうだっていうんですか!? って、キャー! ぱ、ぱんちゅーが!!」

 

 それを真正面から目撃した遠山先輩は、湧き上がる興奮を抑えるかのように、両目を両手で覆い、息を荒らげながら逃げ帰って行った。

 間宮、元Sランクを撃退! 大金星である。

 

「……ああ、そうか。そうだったのか」

『どうしたのですか』

「僕の中で一つの大きな謎が解けました」

『謎、ですか』

「はい」

『………』

 

 遠山先輩が神崎先輩と仲良くするわけ──

 そう、つまり、遠山先輩は、

 

“ロリコン”

 

 だったのだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 人の業というものはなんともいたし難いものである。

 

「それにしても良かったよなー。志乃が無事戦姉妹(アミカ)の契約出来てさ」

「はい、ライカさん。白雪お姉様は、とても素晴らしい人でした。戦姉妹(アミカ)のこと以外にも、盗さ……まざまなことを教えていただきました」

 

 佐々木(こいつ)を見ていると特にそう思う。

 

「んー? 今何か言いかけなかったか?」

「気のせいですよ? うふふ」

 

 佐々木志乃。

 日本人本来あるべき理想と言ってもいいほどに艶のある綺麗な黒髪と、良いところのお嬢さま然としたおしとやかな雰囲気は、一見日本の古き心である大和撫子を連想させる。

 クラス、いや学年、学校内でもトップクラスの美人だと思う。

 しかし、これは酷い外見詐欺だと最初に注意しておいてやる。だから、手を出そうなどという腐った考えは直ちに捨てるべきである。

 何故なら、その正体は同性である間宮に発情する変態だからだ。

 ありたい体に言うとレズビアンなヤンデレである。もう手に負えないな。

 そんな佐々木は、ここ数日東京武偵高を離れ戦姉(アミカ)候補がいる『恐山』へと行っていたらしい。

 そして無事契約も済ましこうして帰って来たが、山で修行するのだったら、その邪な心も清浄してくればよかったのにと思う。なんか前より、ドス黒い気がパワーアップしたのを感じるようになったのは、それこそ気のせいだと信じたい。

 

「何はともあれ、これであかりちゃんと婚や……アミカグループを組むことが出来ます」

「なあ、アタシだってスルーしきれないものもあるからな? 嫌だぜアタシは、ダチがムショ行く所を見るなんて」

「うふふふ、ライカさんったら大袈裟ですね、もう」

「……ああ、本当にそうであってほしいぜ」

 

 アミカグループとは、戦妹や戦弟が最大五名までのグループを作る制度である。婚約とは一切関係ないのであしからず。

 

「ただまあ、そうだな。アミカグループ自体はあかりも喜ぶと思うぜ」

「ありがとうございます」

 

 佐々木は、ライカに丁寧にお礼を言った後、少し離れた場所にいるこっちに目を合わせるなり。

 

 口パクで──『あなたは入れてあげませんよ』

 

 ……別にいいから。

 一言も入りたいなんて言った覚えは無いから、見るな睨むな牽制するな。

 いつも通り、佐々木は本当に僕が嫌いみたいだ。

 

「……はぁ」

 

 やはり、丸一日考えてみても、遠山先輩が神崎先輩と仲良くする理由が『ロリコン』以外に思いつかなかった。

 女嫌いと言われていたのもあれか、「高校生はもうババア」とかそういう考えの持ち主だったからではないだろうか。

 神崎先輩も間宮も実年齢はともかく、見た目は小学生並み。もうこれは、遠山先輩の琴線に触れている可能性しかない。

 

「ゆえに、キンジ先輩が強襲科(アサルト)に戻った以上、アリア先輩ばかりが面を大きくして闊歩するなどできないということだぞ! な、ソラ」

「アー、ウン。ソウダネ」

「はぁ!? 竹中何言ってるの!? 遠山キンジなんてただの変人じゃん! アリア先輩の相手になるわけないもん! ね、ソラ君」

「アー、ウン。ソウダネ」

「キンジ先輩のどこが変人だというのだ!! な、ソラ」

「アー、ウン。ソウダネ」

「だって、あたしのぱん……と、とにかく! 絶対アリア先輩の方が良いに決まってるよ! ね、ソラ君」

「アー、ウン。ソウダネ」

 バカフタリデカイワセイリツシテルダローガ。

 

 さて、今回の議題も、最近強襲科に帰って来た生徒である、元Sランク武偵──遠山先輩のことだった。(というかこいつらは二人の話は先輩のどちらか、もしくは両方のことでばかりだ)

 間宮は元から仲の悪い竹中が押していることもあって、遠山先輩にあまりいい印象を持っていなかったが、今は完全に『嫌い』になっている。

 

「遠山キンジなんて変人だもん。……うぅ、あたしのぱんつ」

 

 遠山先輩を悩殺できてよかったね。間宮のその体系だと、反応する男子はある意味貴重だし。

 あるいは救いがあるならば、見られた相手があの遠山先輩と風魔だけだと思っているところか。どっちにしろ佐々木が知ったら殺されるだろうが。

 

「やっぱり、おかしいよ。あんな変人が何でアリア先輩と……。ソラ君もそう思うよねっ!」

 

 だからどうして、一々僕に振るのだろう。

 何、おまえ僕のこと好きなのか? だが、残念。僕は遠山先輩と違って健全な男子高校生だから、見た目もパンツも小学生なおまえは恋愛対象にならないから。

 凛とした立派な淑女になってから出直しな。

 

「僕には関係ない。ただ、あの人の女子への奇行は日常的だから。何されたかは知らないが、気にしない方がいいと思う」

「に、日常的なんだ。あ、あれが……」

 

 顔を伏せ「やっぱり、変人だ。いや変態だ……」、そう呟く間宮は勝手に追い込まれている。

 ああ、変態だ。だからもう迂闊に近づくな。喰われるから。

 

「アリア先輩をあんな変態の傍になんて置いておけない。早くなんとかしないと…!」

 

 それはともかく、僕はおまえらを早くなんとかしたい。このまま耳に騒がしいのがこびりつきそうで嫌だし。

 

「さっきから黙々聞いていれば無礼千万! キンジ先輩のことコケ降ろすなど許されないのだ! ソラ騙されてはダメだぞ、間宮はホラを吹いてるのだ!」

「あたし嘘なんて言ってないもん!」

「嘘ではないなら、証拠を見せるべきだぞ!」

 

 おまえらは一回口開くたびに、感嘆符付けなければいけない縛りでもしているのか? それとも何か、僕こと石花ソラを見て、この眠そうな顔を見て、寝かせないようにしようぜみたいな、嫌がらせ作戦でも実行しているのか?

 何それ、いじめカッコ悪い。

 本人たちは遊びのつもりでも、被害者にとってはそうではない場合があります。注意しましょう。いじめダメ。絶対。

 

「しょ、証拠はないけど」

「笑止千万! 証拠も無しに言ってたとは間宮はバカなのだ!」

「うー! だって遠山キンジって昼行灯って言われてるし。そんな人にアリア先輩が自分から近づくはずないもん!」

「女嫌いって異名あるのだ。キンジ先輩こそ近づく理由がないぞ!」

 

 『女嫌い』ではなく、(遠山先輩から見て)大多数がお年を召しているだけ。

 神崎先輩に関しては、遠山先輩から見て『女』に値する体型を持っているというだけで、近づく理由が十分にある。

 

「それに、キンジ先輩が昼行灯と呼ばれているのも態とだぞ」

「態と? そんなことして何の意味があるの?」

「まだわからないとは間抜け間抜け! 実力を安易に計らせないために決まってるのだ!」

 

 それは、まあ、そうなのだろう。

 あの一見隙だらけなのに、何処か計り知れない何かを感じる(ような気がする)だけに、竹中の贔屓目抜きにしても一笑に付すことはできやしない。四六時中見ていて何度も疑問に思ったことだ。

 ……あそこまで隙だらけに見えるようになる理由もまたわからないし、ロリコンなのは演技では無いだろうが。

 

「間宮のバーカ!」

「うー! バカって言う方がバカなんですぅー!」

「あ、今言った! 今ので間宮の方がバカと一回も多く言ったぞ! だから間宮の方がバカだぞ!」

「え、そんなのありなの!? ──じゃなくて! で、でもそれなら竹中も言ったからね! その言葉! だから竹中の方が一回分あれだもん!」

「あれってなんなのだ、あれって!」

「バ……ふぅ、危ない危ない。とにかく、竹中の方が多く言ったもんねー!」

「こ、この前のとか含めれば絶対間宮の方が多く言ってるのだっ!」

「この前っていつー? 何時何分何秒地球が何回回った時?」

「そんなの覚えてないのだ! とにかく間宮はバカなのだ!」

「違うもん! 竹中の方がすっごくバカでバカだもん!」

「ふははははー! 滑稽にも結局言ってるぞ! アホだ、間宮アホだぞ!」

「竹中に言われたくない! アホ、竹中アホ!」

「間宮がアホ!」

「いや竹中がアホ!」

「アホ!」

「アホ!」

「アホって言う方がアホ!」

「アホって言う方がアホって言う方がアホ!」

「アホって言う方がアホって言う方がアホって言う方がアホ!」

「アホって言う方がアホって言う方がアホって言う方がアホって言う方が……」

 

 ウザッ……

 何このアホスパイラル…!?

 

「ソラ、間宮の方がバカでアホであるよなっ!」

「ソラ君、竹中の方がバカでアホだよねっ!」

 安心しろ。おまえらは等しくバカでアホだ。

 

 正直者がバカを見るとはきっとこのことだろう。今まさに見えているし、バカ二人。

 

「石花殿はおられるか?」

「んー? ソラならほら、あっちにいるぜ」

 

 教室の入口辺りでライカがこの教室への来訪者の相手をしていた。

 その来訪者の声には聞き覚えがあった。記憶違いでは無ければこの声は……

 

「石花殿」

 

 僕をそう呼ぶ奴はこの広い東京武偵高でもただ一人。やはり来訪者は僕と同じ諜報科(レザド)の一年生、ニンジャだった。

 ニンジャは窓際の一番後ろの席である僕の方まで近づいてきて──今更だが、この位置って静寂の代名詞みたいなもののはず。どうして、クラスで一番うるさいエリアになっているのだろうか?

 

諜報科(レザド)の試練に関する報せでござる」

 

 ニンジャが渡してきた物は、僕が諜報科(レザド)に行っていなかった日に言い渡された課題のことのようで、当然僕はその存在を知るわけもなく、こいつは態々課題のプリントを届けに来てくれたようだ。全く、ご苦労なことだ。頼んでも無いのに。

 

「はぁ、そんなことしなくていいのに。……ありがと、と一応言ってやる。帰っていいよ」

 

 そんな僕の頭がこつんと叩かれる。

 

「ソラ、お礼くらいはちゃんと言えっていつも教えてるよな? なんだよその誠意の欠片も無い言葉は」

「ライカうるさい。はぁ、ニンジャ……ありがと、と言ってやるって」

「アタシの話聞いてたのかなぁー? 聞いててそれならぜひとも違いを教えて欲しいなぁ?」

「理不尽な無理強いを強いられたからか、僕の不快指数が二回目は上がっている」

「まるでダメじゃねえかっ!!」

 

 何故かライカにバシンと叩かれる。そんな僕らを見てニンジャは苦笑している。二人とも無礼だ。

 毎回思うが、ニンジャがこうして僕に接点を持とうとする理由がわからない。この春会ったばかりで僕は諜報科(レザド)はサボり気味のため、わかりやすい繋がりがあるわけでもないはずなのに。

 ハッ! まさか僕の遺産目当て!?

 

「ふ、風魔さんこの前ぶり」

「間宮殿も、先日ぶりでござるな。弥白殿は……」

「竹中ならさっきトイレにだと言って出ていったから」

 

 不自然なほど慌てて教室を出ていったような気がする。

 ……漏れそうだったのだろうか?

 

「そうでござるか」

「あー、うん。何か用でもあったのか?」

「いえ、なんでもないでござる」

 

 まあ、いいか。それは僕に関係ない。

 

「それでは、しかと伝えたでござるよ、(ニン)

 

 そうしてニンジャが用事を済まし速急に帰っていったあと、間宮は僕の傍らに突っ立っていた。届けられた課題のプリント眺めている僕を、何が気になるのかじっと見てきて、突然──

 

「ああぁぁぁあああああ!!」

 

 ──うっるさい!!

 

 間宮はやはり僕を潰そうとでも思っているのだろうか、この至近距離で叫ばれたら下手したら、冗談ではなくそのうち鼓膜潰れてしまう。

 しかし、鼓膜が潰れたらもうこのうるささに対面することも無くなる気が……

 

「………」

「おい、ソラ? おまえ、目が危ないぞ。変なこと考えてないよな?」

「はっ…!」

 

 気を取り直した時に、両の手で力強くペンを握りこんでいたが、これは右手で三角形、左手で四角形を書く、かの有名な脳トレ法をするためだと信じたい。

 ペンを持つ持ち方じゃなかったような気もするが。幼稚園児のクレヨンの持ち方みたいに、思いっきり握りこんでいたような気もするが。何故か両耳の真横まで持ち上げていたような気もするが。

 脳トレのためだったに違いない!

 

「どどどどうしよう!」

 僕もおまえをどうしよう。

 

「あたし、次の時間の課題やってないよぉ。志乃ちゃん──」

「志乃ならさっき出ていったぞ。なんでも戦姉妹(アミカ)関係の書類とかって」

「ええーーー!? ら、ライカぁ!」

「そういうのは自分でやるから意味があるんだろ。つーか、アタシも自信ねーし見せたくない」

「ライカのケチー! ソラ君──」

「僕はそもそも関係ない。義理も無い。バカだから一問もできませんでしたとでも言っておけばいい。大丈夫、間宮なら教員も信じてくれると思うから」

「そ、そんなぁ…! ……うぅ、ソラ君」

 

 やってこなかった自分が悪い。

 ……だから、そんな期待した目で僕を見るな。

 

「はぁ……全く、今回だけだから」

「やたっ。ありがとー! ソラ君っ!」

 

 満面の笑顔で飛び込んできた間宮をノートでブロックする。

 間宮は「ぐにゅ」と潰れたカエルのような声を出しながら、顔に突き付けられたノートを受け取った。

 

「そこは丸写しするより、こういう風に間違って書いた方が間宮的に疑われない」

「うん、わかった!」

「……わかればいいが」

 

 おまえはこの程度の問題も間違われるようなバカだと思われている。そう伝えたつもりだったのだが、何故か元気いっぱいの返事をされてしまった。

 これにはさすがの僕も言葉を詰まらせてしまう。

 

「ソラぁ、おれもやってきてなかったりするのだ……」

 

 いつの間にか帰って来ていた竹中もそんなことを言う。

 

「答えは全部『ウ』とでも書いていろ」

「選択問題ではないぞ!? た、頼むのだ、このとーり!」

「もう勝手にすればいい」

 竹中、おまえもか。バカばっかか。

 

 ホント勘違いしないで欲しいのは、これは別に僕が優しいとかそういうわけではない。これを断ってまた騒がれるよりも、さっさと見せた方が静かになるというだけだ。人間は学習する生き物だから。

 それにこれはうるさいこいつらへの隠れた罰。人間、他人に頼り過ぎればダメになるのだから。

 ……こんなことを続けて、せいぜいダメな子になるがいいさ。

 

「何? ライカ、その目は?」

「そんなことしてるから……いや、なんでもない」

 

 なんでもないわけないだろ。明らかに呆れたような目をこっちに向けているくせに。呆れるのなら僕ではなく、このバカどもにするべき。

 向けるべきはそんなものでは無く称賛。そう、完璧な『バカども堕落計画』を考え付いた僕への賞賛のはず。

 

「待つのだ間宮! おれそのページまだ移してないぞっ」

「竹中遅い! 早くしてよ、一時間目始まっちゃう!」

 書いている時くらい、静かにしろ。

 

「二人だと結構見づらいのだ。……こうなったら」

「あー! 竹中ノートを独り占めすんなー! ずるいぞー!」

「このノートはおれのものなのだー!」

 僕の物だろ。

 

「ふははははー!」

「かーえーせー!」

 いっそ、僕に返せよ、もう。

 

「ふはは……あれ? ノートは?」

「へっへーんだ! こっちだよー!」

 おい間宮、そんなくだらないことで鳶穿使うな。

 

「な!? いつの間に取ったのだ!?」

「もう誰にも渡さないもん……」

「いや、授業始まるからそろそろ返してほしい」

「え?」

「え?」

「『え?』ではなく」

「どうしよー!? って、竹中のせいだよ!」

「何おう!? 間宮のせいだぞ!」

 宿題やってきてないのは、純粋におまえら二人のせいだバカ。

 

 それにしても課題か……

 僕は、そんな二人に呆れながら諜報科の課題のプリントに再び目をやる。そんな難しい課題でもなさそうだ。この期限なら余裕で間に合う。

 

「あ」

 

 ──っと、プリントを落としてしまった。

 スーッと滑って行ったプリントは教室の後ろの入口近くでやっと動きを止める。

 それを拾おうと立ち上がった時、タイミング悪く何者かが教室へと駈け込んで来た。

 

「ふぅ、間に合ったのかな? ……おろ?」

 

 勢いよく入り込んで来た蓮華に落としたプリントはもう思いっきり踏まれていた。

 ぐしゃぐしゃのビリビリに。

 

「………」

「………」

「……気にする必要は無いんじゃないかなソラ君。寧ろ美少女に踏まれるのはある種ご褒美だよ。ヤッタネ!」

「………」

 

 

 




 なるべく落ち着いたダウナーな感じで書いたつもりですが、うまくいっていますでしょうか?


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