Scarlet stalker   作:雨が嫌い

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 この物語は可愛い(?)女の子と天才少年(ポンコツ)の掛け合いをするために緋弾のアリアの世界観を拝借させていただいている二次創作です。
 とにかくメンドクサイ性格の主人公ですので合わない方は申し訳ないです。




Ep2 『電波先輩』

『一般科目が終わり次第、私の部屋に来ること』

 

 レキ先輩からそんなメッセージを受け取った。

 簡素で質素。遊び心など微塵も無い、用件だけを伝えるための言葉。

 あの人らしいと言えばそれまでだし、別に飾りが欲しいわけでもないが、それでもどこか虚しさを感じる僕がいた。

 それは放課後に行おうとしていたことの出端を挫かれたことと、関係しているのかもしれない。

 ただでさえ一昨日から連続徹夜で疲れているというのに。

 

「にゃー」

 

 寮の庭の端っこでまん丸太ったデブ猫がふてぶてしく鳴いていた。のんきなものだ。

 ……まあ、僕には関係ないことだが。ほら、猫とか興味の欠片もないし。

 

 ──そして、僕は制服に付いていたフワフワした毛を叩き落とし、寮の中へと入って行った。

 

 

 

 

 

 レキ先輩。

 東京武偵高2年C組。狙撃科(スナイプ) Sランク。

 名字は知らない。本人もわからないらしい。

 ライトブルーでショートカットの髪に、いつもヘッドフォンをつけている小柄な少女。

 あとカロリーメイトが大好物、というかもはや愛しているレベル。カロリーメイト。

 正確無比過ぎる射撃能力と基本的に物事に無反応で人間味を感じない性格から、学校内ではロボットレキというあだ名が広まっている。

 

 さてこのレキ先輩だが、一言で表すのなら、『隙の無い人』と言える。

 ロボットというあだ名が広まるほどに感情の起伏が乏しいことは、無理やりよくいえばいつも冷静であるということ。

 隙が無い。死角が無い。半径2km圏内どこでも狙撃できる人物にそんなものあるわけもない。

 強者遍くこの武偵高だが、個人で射程距離2kmの攻撃手段を持っているのは、恐らくレキ先輩ただ一人。

 つまり、レキ先輩はどんな強者であろうと一方的に攻撃できる手段を持っている。

 誰が一番強いかはさておき。敵に回せば、ある意味一番恐ろしい人間は、レキ先輩であることは間違いない。断言できる。

 

 そして無感情……というてい。

 漫画で「感情など不要だ」とかいう暗殺者キャラはテンプレと言ってもいいものだが、まさにレキ先輩はそんなキャラを地で行っている。わかりづらいだけで普通に感情もあるところもまたよくある設定。

 尤も、僕は漫画の主人公では無いから、情熱的に「おまえは暗殺の道具なんかじゃない! 立派な人間だ!」とか気持ちの悪いことを言いはしない。だから「何故でしょう。感情は捨てたはずなのに……涙が止まりません」みたいな状況になったりしないので、悪しからず。

 寧ろ道具扱いされているのは僕だという説もある。……何故だろう。涙が止まらない。

まさか僕の方こそ攻略される立場だったとは、レキ先輩の狡猾さに旋律を隠せない!

 

 まあ、感情云々は抜きにしてもレキ先輩はかなり世間からズレている。

 部屋の備え付けのクローゼットには制服や下着類何着かしか入って無く、他に部屋にあるものと言えば、銃関係の道具と数個のカロリーメイトの取り置きだけ。どう見ても現代人が住む部屋ではない。

こんな部屋で何するのかと思えば、任務の時以外は一日中ボーっとしていたなんて話もある。

 定年退職した無趣味な老人かあなたは。

 夜9時には就寝するし……恨めしい。

 

 そんなレキ先輩との出会いだが、実はつい最近で今年の三月のことである。

 誰もいないはずの屋上で、一人静かに過ごしていた僕の前に、空の色をそのまま写し取ったようなショートカットの髪をたなびかせ、突然前触れも無く現れた。

 吹き抜ける風のように。

 そして約一ヶ月、彼女の戦弟(アミコ)(先輩後輩のコンビ制度)として過ごしてきたが、このように事情も素性一切掴めさせてくれない。謎の先輩。

 

 今もそう。

 

「……………………………………………………」

 

 ひたすら無言!

 

 風といえば、空気を読むという言い回しがある。見えもしない物をどうやって読むんだ、なんて所謂揚げ足で戯言だが、僕は今まさにそう言いたい状況。

 部屋に呼び出されておいて、ずっと無言な対応をされた時の空気の読み方など、知る由も無く。

 別に僕は無言を苦痛に感じるタイプではない。寧ろ、通常なら静寂は歓迎している。

 しかし、毎回毎回呼び出しておいて、しばらく何も言わないというのはさすがに不満を感じるのも仕方のないこと。

 

 レキ先輩の頭にはお気に入りらしいヘッドフォンが掛けられている。

 実際今何か聞いているかどうかは関係ない。耳にしっかりつけられているそれは、人の話を聞かないサインと取れるから。

 部屋の片隅に座っている僕のことなどいない者のように扱い。マイペースに銃の整備を続けている。

 僕はあまり銃に関しては詳しくないが、銃弾まで自分で作る必要はあるのか? 弾くらい普通に売っているはず。自分で作ると攻撃力アップボーナスとかあるのだろうか? ゲームみたいに。

 どちらにせよ、話を切り出すことのない二人の間に流れる者は沈黙だけ。今の今まで 僕は空気読もうとしていたわけだが、よくよく考えてみると僕の今の状態こそが空気そのものに感じる。なるほど、読めないわけだ。

 ……まさか己を見直せと言う、レキ先輩からの隠れたメッセージなのか?

 

「ソラ」

 

 長い無言の時間が終わりを告げた。

 レキ先輩がついに喋ったのだ。

 

「息をしないでください」

 

 突然の死刑宣告に目の前が真っ白になった僕は、息を止めたのではなく、何故か息が(・・)出来なく(・・・・)なった(・・・)

 

 

 

 

 

 あとでわかったことだが、息を止めろと言ったのは、現在作っている銃弾に息から出る水分が付着して影響を及ぼすのを防ぐためだったらしい。

 ……レキ先輩、あなたは一体何と戦っているつもりなのですか?

 

 

 

 

 

「起きてください、ソラ」

 

 一回寝てしまうと、眠さというのは段違いに上がる。理不尽なことに寝ると眠くなる。それに意識も曖昧になってくる。寝惚けと言うやつだ。

 つまり簡単には起きれはしない……が。

 

 次の瞬間、火薬の弾ける音と同時に腹に突然の強い衝撃が加えられ、無理やり意識を覚醒させられた。

 

「──ッ!」

 

 鈍い痛みが腹を襲い、たまらず肺の空気を吐き出される。

 咳き込みながら悶える僕の前に一つの人影が立ちふさがった。大鎌ではなく、小型拳銃を持つその姿。姿形は想像と違うが、このオーラは間違いない。

 

「死神?」

「誰が死神ですか」

 

 パァン!

 

「ぐっ、ゴホッ……すみません。女神の間違いです」

「………」

 

 危ない本当に寝惚けていた。思っていたことがすぐ口に出てしまうなんて。

 目の前で、僕を見下ろして──いや、見下している、し……女神もといレキ先輩。見下ろすと見下す。『ろ』があるかないかで、何とも印象の代わる言葉なのだろう。

 こうしてまた日本語への理解を深めることになったのだった。

 

「レキ先輩。ハンドガンなんて物持っていましたっけ?」

 

 狙撃銃とカロリーメイトしか愛せない変態だと思っていたが、銃ならどれでもいい変態だったのかもしれない。

 

「はい、あなたを起こすために」

 

 なるほど、レキ先輩は大分お茶目な方のみたいだ。人を起こす道具を目覚まし時計では無く拳銃と勘違いしているのか。

 俗にいう『てへっ☆ 間違えちゃった』というやつかこれ。レキ先輩にドジっ子属性が追加されたらしい。

 そう考えると、これはこれで可愛らしい──わけあるか。

 

「……いつか永遠に眠らされる……」

「? 起こすつもりですが」

 

 レキ先輩は自分の正当性を言葉少なくも語る。今までも、何回か僕がレキ先輩の前で寝てしまっている時があったそうだ。

 声を掛けて起きればいいのだが、今のように起きないこともあり、どうしようか考えたところ、銃弾でぶっ叩いて起こせばいい、という結論に至った、と。

 さすがのレキ先輩も、意識の無い相手に、自身の愛銃であるドラグノフを使うのはどうかと考えることくらいはしてくれたみたいだ。

 態々小型の拳銃を入手してくるとは、なんて優しいのだろう。優しい。優しすぎる。あまりの優しさに涙が出てくる。止まらない。さすが女神。そう思うのだ。そう自己暗示でもしないと、とてもやっていけない。心が折れる。

 しかし、強請って起こす前に、揺すって起こすとかそういう考えには至らなかったことが悔やまれる。

 

「というか、どうして僕は寝ていたのですか」

「………」

 

 この反応を見る限り彼女のあずかり知らぬことらしい。レキ先輩は基本無口無表情であるため、微妙な仕草から判断しないと、とてもやっていけない。

 近ごろの若者にはコミュニケーション能力が欠如しているという噂は本当だった。というか、この人が日本の平均を大幅に下げているのが事の真相。これマメ知識。

 

「はぁ……」

 

 まあ今は、僕にも非があったことを少しは認めるが。いくら疲れているとはいえ、しっかり呼び出されておいて、用事が終わる前に眠るのは失礼。

 そんなに、疲れが溜まっていたのか。今も若干ふらふらと、どうも脳に酸素が行っていない感じがする。

 先輩に部屋に招かれた所までは思い出せるが、その先がどうにも思い出せない。思い出したくもない。

 

「体調管理を怠ると任務に支障をきたします」

 

 睡眠不足の原因の一端作っておいてシラッとこんなこと言う鬼みたいな人。

 やだやだ。自己中心的な人って本当に嫌になるね。

 

「ともかく、今から始めるのですか?」

「はい。ソラはキンジさんを」

「……了解」

 

 今から行うのは、遠山先輩の監視追跡。

 あの竹中が毎日のように語ってくる遠山先輩だ。

 だが、知っていたか? 許可なく人を付け回すことを世間では『ストーカー』と言うらしいよ?

 ストーカー行為に後輩を使うのはどうなのだといつも思う。

 ラブコメでストーカー行為をするヒロインは色者扱いの場合が多いと聞きます。大抵当て馬で報われないとのこと。つまり、レキ先輩は元々限りなくゼロに近い勝機を更に減らそうとしていることになる。

 やれやれ、ここは主人公たちの友人的な立ち位置の奴のアドバイス的なものが必要な場面というわけか。

 

「レキ先輩」

「なんですか」

「僕が思うにこんなストーカー紛いなことをせず、しっかり気持ちを伝えるべきだと思います」

 

 そう、しっかり伝えて玉砕されて来ればいい。

 

「?」

 

 先輩は僕の言う言葉が理解できないのか、コテッと小首をかしげている。

 見た目だけは美少女なだけにこういう仕草は可愛いと言えなくはなくはない……レキ先輩のくせに。

 まあ、ストーカー電波女という正体知っているだけに、今更ホレたりなど絶対にしないが。

 

「ですから、レキ先輩が遠山先輩のことを好きになりすぎたあまり、このような凶行に」

 

 無言で足元を撃たれた。

 表情は変わらず。ただ、心なしか不機嫌な感じがする。どうやら違うらしい。

 可能性をひたすら潰して言った時、残ったものはどれほど現実味が無くとも真実だと言う考え方がある。

 つまり、まさか、そういうことなのか…?

 

「まさか、狙いは神崎先輩の方…?」

 

 導き出された答えは、レキ先輩のもう一人の監視相手。

 なるほど、これだから僕以外の前じゃ猫どころか機械の皮被っている、見た目だけ(・・)は美少女なレキ先輩に浮いた話が無いわけだ。まさか、ソッチ系の人だったとは……さすがスナイパー、狙い撃ちスキルが高い。

 そんな事を考えている僕の顔の横をヒュンッと何かが通り過ぎ──例えるなら、そう、かまいたちのような鋭い風──思わずあとずさる。背中に軽くぶつかる部屋の壁とそこにさくりと突き刺さっている何か。

 ……嫌な予感しかしない。

 冷や汗を流しながら、恐る恐るよく見てみるとそこには黒い塊──銃剣を付けたドラグノフがあった。

 

「耳、二つありますね。一つくらい……」

 

 レキ先輩は、何故か人間の構造上当たり前のことを僕に言うのだろうか。

 「一つくらい」の先何を言おうとしたこの人…?

 ネズミが猫に見つかった時のような、蛙が蛇に睨まれた時のような、生存本能そのものに訴えるような震え。

 周りはレキ先輩のことを、感情が無いロボットのようだと言う。

 僕に言わせてみれば、ふざけるなだ。それでは僕の扱いが説明できない。

 

「……何か言い残すことはありますか?」

 

 僕は決して恐喝に屈したりなんかしない…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ターゲット──遠山先輩の行動は平凡だ。

 いや、地味とまで言うべきなのかもしれない。かつては強襲科(アサルト)Sランクという一つの頂にまで登りつめた人とは思えないほどに。

 

 朝はそこそこの時間に起き、準備をやや雑気味ながら早く切り上げ、少しゆっくりしてから学校へ向かう。

 偶にSSR所属の星伽先輩が朝ご飯の準備に来る。この時のご飯は豪華。──あれで実は味は壊滅的というオチがあればいいのに。

 一般科目は真面目に受けているようだが、頭の出来は良くないのか成績はイマイチ。──落第すればいいのに。

 午後も探偵科(インケスタ)で当たり障りのない講義を受ける。

 それが終われば帰宅。

 帰宅しても、特に趣味という趣味が無くPCを弄び、適当な時間になったら寮近くのコンビニで弁当を購入。──PC爆発すればいいのに。

 偶に星伽先輩以下略。

 そして日付が変わる前にはなるべく寝る。──そのまま永遠に目が冷めなければいいのに。

 

 まあ、とにかく退屈な日常を送っているようで、僕の徒労感は日に日に加速中だったが……しかし、どうやら今日は今年度初クエストを受けるみたいだ。

 微妙でもこうした変化があるとなんかうれしい。僕の監視中、初めて星伽先輩が来た時も勢いで二人の関係や過去をちょこっと調べたほどだし。

 あれ? 何か僕もう引き返せないレベルでヤバい気がするような。……気のせいか。

 

「こちら、ソラ。対象は已然、探偵科(インケスタ)の校舎の中です。オーバー」

『そのまま監視を続行してください』

 

 ……それにしてもレキ先輩。いくらなんでもあれは無い。すっごく痛かったし怖かった……ちょっと涙出たし。

 ま、まあ演技だが、泣いたのも土下座したのも全部演技だが。見事に騙されやがって。この間抜けめ! ……ぐすっ。

 

「こほんっ」

 

 自慢ではないが、僕はこういうコソコソしたことで見つかったことが無い。──レキ先輩を除く。(ロボではないが、あの人は人間やめているのではないかと思う時が多々ある)

 自分でも才能ある方だとは常々思っているものだ。

 そういえば、間宮竹中が2年生で最強を論議していた。まあ、それとは少し違うかもしれないが、1年生の中で総合的な能力がトップなのが僕だと言っても、それは自惚れにはならないね。えっへん。

 

「神崎先輩の方はいいのですか? オーバー」

『今日は大丈夫です』

 

 必要ないではなく、もうやっているでもなく、大丈夫? 気にはなる言い回しだが、方針を決めるのはレキ先輩だ。僕がとやかく言うことでは無いか。文句は常に言いたいが、労働者の権利を主張したいが。

 

『それと、このインカムは送受信可能なのでオーバーと言う必要はありませんよ』

「雰囲気を楽しむとか……」

『男性の監視を楽しんでいるのですか』

「もしかしてまださっきのこと怒っていますか?」

 

 レキ先輩絶対根暗だし。ぼっちだし。電波だし。

 

『なんのことですか』

 

 これは怒っているのだろうか?

 ただでさえ、普段から棒読み口調なのにインカムを通してだと全然相手の雰囲気が分からない。本当に不便な先輩だ。

 ここは話題を変えるべきだと判断する。

 そういえば気になっていたことが一つあったことを思い出す。いつ、聞くべきか迷っていたとても根本的な質問。

 

「今更ですが、どうして二人のこと監視しているのですか?」

『………』

 

 もしかして聞いではいけないことだったのか?

 それとも、武偵なんだから自分で考えろ、と? 何様だよあなたは。

 

『……風に──』

「はい?」

『“風”に命じられたからです』

「ああ……また電波か。バッカみたい」

 

 疾風がヒュンと高く短い音と共に僕の体の間際を通り抜ける。そして弾けるように左腕の裾にある制服のボタンが一つ弾け飛んだ。

 

「………」

 

 理由も無く制服のボタンが取れるなんて不思議なこともあるものだ。これ、まだ一ヶ月くらいしか着ていないというのに。不良品とか勘弁してほしい──

 

『ボタンはしっかりと縫い付けなさい』

「……はい」

 

 ……そろそろ安全のため核シェルターでも買うべきか。いくらするのだろう、貯金で足りるだろうか? ううん、初めてお金のことで悩んだ気がする。これが金のかかる女というやつか。恐ろしい。

 あ、恐ろしいと言っても怖がっているわけでは無いから。そういう意味では無いから。怖くないし。ビビったりしてないし。

 

 考えが纏まらないうちに遠山先輩が動いた。そういえば監視していたのだった。

 

「とりゃま………」

『?』

 

 ……痛い。舌を噛んだ。

 人間誰しもあることである。決して今僕が緊張していただとか、口が震えていただとか、そういうことでは一切ない。天才である僕が誰かにビビるなんてことはありえない。

 

「……遠山先輩はどうやら校外の依頼クエストを受けるつもりみたいです」

『了解しました。……アリアさん。キンジさんはクエストで校外に出るつもりのようです』

「え、そこに本人がいるのですか? バ……」

 

 なんで監視対象と一緒にいる。バカかこの電波女? 確かになんかいろいろ抜けていそうな人だとは、常々思っていたが。主に一般常識とか。

 

 ──そしてまた一つ。ボタンが飛んだ。

 

『バ、なんですか? どうぞ続きをお願いします』

「……な、なんでもありません」

『そうですか。ただ、あなたが口を滑らせると、私の指先も滑ってしまうかもしれません』

「………」

 

 いくらレキ先輩だからと言って、こんな往来で殺しはしないはず……多分。うん、きっと、そう。

 指の滑りだと言いつくろうのがせめてもの良心と考えよう。

 

「それは……あくまでミスでということ、ですか?」

『私はミスなんてしません』

「それもう完全に殺害予告!」

 

 どうしてこの人武偵なんてやっているのか意味不明すぎる!?

 

『この件とは別にアリアさんに鷹の目の依頼を受けていましたので、連絡しただけです』

「それは実際、僕の手柄だと思うのは気のせいでしょうか」

 

 頭痛のする頭を抑えながらそう言うと、

 

戦弟(オトウト)の手柄は戦姉(アネ)のものです』

 

 なんて素敵な言葉が返って来た。

 何このジャイアン? 普段しずかちゃんより、静かしている分際で何とも横暴な。

 

 向こうは向こうで、探偵科の校舎を出たところで待ち伏せしていた神崎先輩に捕まり、遠山先輩が目に見えて落ち込む。

 おそらくだが「なんで、おまえがいるんだよ」と、言っている。

 しかし、まあ、それにレキ先輩が加わっているのを知らないだけ幸せなのかもしれない……僕よりも。

 二人も揃ったことだし、これで僕はもう用済みだろう。さすがにもう寝たい。というより、昨日一昨日と連日徹夜したから、寝ないとそろそろ限界だ。

 

「帰っていいですか?」

『監視は続行してください』

「合流しているのだから、監視は一人で良いと思いますが」

『はい。だから続行してくださいと言っています』

 

 いや、それはおかしい。

 

「先輩の仕事のはずですよね」

 

 どちらかというと仕事よりも趣味の可能性の方が高いが。

 

戦姉(アネ)の仕事は戦弟(オトウト)のものです』

「この人、返したつもりで搾取しかしてないし! というかレキ先輩は?」

『休憩の時間です』

 

 何それ、僕も欲しい。具体的には週休二日。公務員に憧れる。最早ニートは尊敬できそう。

 サクサクと何かを食べている音がインカム越しに聞こえる。

 

『準備不足ですね。そんな時こそカロリーメイトです』

 

 この人って社員か何かなのだろうか? そう思わずにはいられない。あと僕はカロリーメイト買うくらいならウイダーを買う。

 あーあ、バカらしい。

 そもそも、レキ先輩なら場所をそう動かずに監視できるはず、少なくともレキ先輩から逃げきれるやつなどほとんどいない。それなのに、どうして僕がしなければいけないというのだ。

 やめやめ。帰って寝──

 

『サボるのなら殺します』

 

 ──ようと、思ったが、一度受けた仕事は最後までやるべきだ。プロとして。

 というか、逃げられないのは監視対象よりも僕!

 

 その日は結局、『迷子の猫探しの依頼』を受けた遠山先輩が、その猫を見つけ出すまで監視を続けさせられた。

 それまでの間、遠山先輩と神崎先輩はイチャイチャイチャイチャ。「……おまえ等もう帰れよぉ…!」と今日だけで何度思ったことか。

 

 帰り際、偶々近くに寄って来た一匹の猫を持ち上げる。中々人懐っこいやつのようで、おとなしく抱かれ嫌がるそぶりを見せない。

 はぁ……猫はいいなー。もふもふだし自由だし可愛いし余計な事言わないし銃で撃ってこないし。癒される。

 

「僕に優しくない世界とか滅べばいいのにニャー」

『ソラ?』

「………」

『今何か』

「こら猫、勝手に僕の言葉を遮るとは何事か!」

 

 インカム繋がっていたのだった…!

 危ない危ない。いや別に危ないことなんてしてないが。言うまでも無いことだが今のニャーはそこらの猫が僕とは関係なく鳴いたものだ。ホントだ。僕ウソつかない。

 

『ソラは猫が好きなのですか?』

「は、はぁ? 好きなわけがないです。こんな毛むくじゃらで勝手気ままな動物」

『………』

「今だって近くに偶々。全くどこにでもうじゃうじゃいやがって、全く。ホント全く……」

 

 何勝手に足にすり寄ってきているのだこの畜生めが。警戒心が無い奴は生き残れないと言うのに、全く。ホント、全く。……もふもふ。

 

『ニャー』

「!」

『どうでしょうか?』

「何が!?」

 

 心臓止まるかと思った。

 

 

 




「なんかいっぱい猫寄ってきた!? 多すぎるから! やばい潰れ……」
『ニャー』
「今度は一気に去った!? 何これ、怖い」




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