遂に決闘の日だ。意地とプライドに賭けて、負けられない。
「ねぇ、アーチャー?ここで負けたらさ、月の勝者が聞いて呆れるよね。それにさ、貴方の名前を使って戦うのに負けたら貴方の顔に泥を塗ることになっちゃう。絶対に負けられないよ。」
答えが返ってくる筈もない言葉を、手のひらに納まっている赤い宝石のペンダントに投げ掛ける。それだけで「そんなに気負う事は無いぞマスター。いつも通りやれば君なら勝てるさ。」と聞こえてくるような気がするのだ。
そう、この戦いは、私の立場の為だけでは無い。むしろそんなものはどうでもいい。私は私の為に戦ってくれたアーチャーの顔を潰したくは無いし、無名だろうと勝てるって言うのを証明したい。たとえどんな人間にだろうと、勝機がある事を証明したいのだ。
そろそろだ。行こうアーチャー。
展開完了!
「岸波白野、アーチャー!行きます!」
「あら、逃げずに来ましたのね。ッ!?その剣!?」
うん?この剣をみた事でもあるのかな?
「この剣がどうしたの?」
「な、なんでもありませんわ!」
変なヤツだな。まあいいや。
セシリア・オルコット 搭乗機体名、『ブルー・ティアーズ』、背中に四枚のフィン・アーマーを装備していて遠・中距離において最高の機体性能を発揮できる機体だ。主武装は《スターライトmk Ⅲ》それ以外は流石に解析不可能かな?まあ充分だ。ビームライフルを使って来るなら、丁度アーチャーの武装は適している。
『干将・莫耶』
中国の刀鍛冶 干将が自らの名と妻の莫耶の名を冠した刀である。この刀は特殊な性質を持っている。一つは、この刀はお互い引き合うという事。二つ目はこの刀が揃った時、魔力に対する耐性が上がる事だ。この二つの性質からこの『干将・莫耶』はお祓いなどに使われていたらしい。これが私のIS『アーチャー』の干将・莫耶は魔力に対する耐性では無く、ビームに対する耐性へと置き換わっているのだ。恐らくはISにとっての魔力はそのビームに使われるエネルギーなのだろう。
「最後のチャンスをあげますわ」
とセシリアはいつもの腰に手を当てたポーズから私に指を突き出したポーズになる。こいつ…油断してる…銃口をこっちに向けてない…クソ!なめられてる!良かろう!ならばこれは決闘などでは無く、CHU☆U☆BA☆TU☆DA!
「チャンスって?」
「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげないこともなくってよ」
警戒、敵IS操縦者の左目が射撃モードに移行。セーフティのロック解除を確認。ふふ、ならこの気取り屋に一杯食わせてやる。
「うーん、分かった。今ここで謝罪すれば、本当に許してくれるんだね?」
「? 随分逃げ腰ですわね?さっきまでの態度は一体何処に行ってしまったのかしら?」
屈辱的だが、ここは堪えよう。これからもっと屈辱的な思いをさせる為だ。
「まあわたくしは寛大ですから、許してあげますわ」
「ありがとう、それじゃ…」
私は敵対心がなくなった事を武器の干将・莫耶を互いに逆方向に投げる。勿論これも作戦だ。そして…
「侮辱してごめんなさい。もう二度としません」
と頭を下げた。プライドを守る為にプライドを捨てるってなんか矛盾を感じるね。と考えつつ地面を見ている目は笑っていた。そしてそれを見つめるセシリアは勝ち誇った表情をしていた。
そして観客達も「情けない」や「呆れた」と言った言葉を口々に言っていた。なんとでも言え。次の瞬間にやられた!と感じるのはそっちなのだから。
ピピ!
「え……?」
その一瞬でセシリアは勝ち誇った自分を悔いた筈だ。何故なら…
さっき投げたはずの私の武器を背中に当たる直前だったのだから。
「壊れた幻想《ブロークン・ファンタズム》」
私の干将・莫耶は爆発により、セシリアのフィン・アーマーの半分を持って行った。
「な!?何が!?」
会場の観客達は、一転しウワァァァ!!と言う歓声を上げた。
「またまたやらせていただきましたァン!」
「貴方!一体何を!?」
「私の干将・莫耶はお互いを引き合う性質があるの。それを左右逆方向に投げれば引き合って、その中心部分に集まってこっちに戻ってくる。それを爆発させたんだよ。」
「じゃあ、謝ったのはまさか…!」
「油断させる為の罠だよ。」
ニヤリ、してやったと言う顔をみせる。
「もう許しませんわ!」
「さあ、かかって来なさ〜い」
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この試合、実際すごく私にとって相性が良いのだ。私は慢心して剣を飛ばして飛んで来たビームを弾くだけで良いのだ。しかし、ビームは連射の出来ないタイプのライフルから放たれている。つまり一撃一撃の威力が高い代わりに消費が多いのだ。そして相手は格上の操縦者だ。剣を避けるのは容易い。それに対して私は消費が少ない代わりに多く手が撃てる攻撃だ。だが幾ら当てようと試みても、相手には避けやすい軌道でしか無い。こちらは、SEと体力を浪費していくだけだ。慢心は捨てなくてはならない。慢心は捨てて、かかって行かなくては。
そんな焦りがあった、有利なのにそんな焦りが。それが油断に繋がった。
「よし!これでトドメ!」
突っ込んで行ってしまった。相手が近接対策をしていないと油断した。
「かかりましたわ」
セシリアは意味ありげな笑みを浮かべた。
しまった!相手は遠・中距離型だ!近接対策をしてない筈が無い!
そう思った時には遅かった。
「お生憎様、ブルー・ティアーズは六機あってよ!」
そして裏からの追い込み。
「キャ!」
後ろから無視していた残りのビットがビームを当てて、私の体を押した。
そして、セシリアのスカート状のアーマーの突起が外れて、動いた。『弾道型』だ。
回避は間に合わない。そして、大爆発が起き、私の体は黒煙に包まれた。
「勝ちましたわ!やはり私の方が上だった様ですわね!」
そして、次第に黒煙が晴れてくる。そこに居たのは…
無傷の私だ。
「展開が間に合ってよかった。でも、少し消費が重いかな…?」
苦笑いをする。
「な、な、何故!?」
「
「そんな…」
「今まで少し油断してたよ。ごめんね。これからは全力だよ。」
干将・莫耶を再び投げる。先程と同じく、相手の背後から襲う様に。それと同時に、残りのビットを全て破壊する軌道で。
ボンボンと音がする。ヒットだ。
そして、干将・莫耶をもう一組投影する。投げた一組が当たるのと全く同じタイミングで…強襲!
「はぁ!!鶴翼…」
「ッ!背後と正面から同時に!?キャアア!」
仕上げだ。OEさせた干将・莫耶を食らわせる!
「三連!」
「くッ!」
セシリアはライフルを盾の代わりに突き出す。しかし、この鶴翼三連OEはワンオフアビリティだ。並みの装備で防げる代物ではない。ましてや盾でもないライフルなどに。
「叩き込む!!」
ガキンッ!
想像通り、ライフルは刃物で切られる紙のように二つに切断された。そして刀身はセシリアを捉えた。
勝者を知らせるブザーが鳴り響く。
「試合終了。勝者、岸波白野」
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その後のセシリア対一夏戦はあっけなく感じる終わり方だった。一夏のワンオフアビリティの特性による、SE切れでの決着だ。なんか締まらない最後だった。試合後、私は織斑先生の所に行った。というのもある相談があるからだ。
「織斑先生、すこしいいですか?」
「ん?なんだ?」
「相談事があるんですが…」
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「………そういうことなら、まあいいだろう。」
「ありがとうございます。それじゃあ私はこれで」
「ああ」
ふう、よかった。まあ正当性はあったから良かったと思うよ。さてこれで私は自由だ。部屋に帰ろう。
そして、部屋への帰路で私は意外な人物に呼び止められた。
「ちょっとよろしくて?」
「へ?ああセシリアか。なにか用かな?」
「あなた、あの時の剣は一体何処で手に入れたものかしら?」
「あの剣?ああ干将・莫耶の事?これはこの機体に最初からあったもので、特注のものだよ」
「……あなたは、将来の夢を語るならなんて言いますの?」
「え?将来の夢?なんでいきなり?」
「理由なんてどうでもいいですわ!なんて言いますの!?」
うーん、将来の夢なんてなあ…私はこの世界のこと対して知らないしなあ…
取り敢えず、彼の夢を挙げておこう。
「正義の味方…かな?」
「ッ!!」
なんだ?試合のあたりから少し様子がおかしいけど、どうかしたんだろうか?
「そう…わかりましたわ…引き止めてしまってごめんなさい…」
そう言ってセシリアは帰っていった。
最後までおかしなヤツだ。さて帰るか。
・
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・
(今日の試合…)
一夏との一戦を思い出しセシリアは考える。
(わたくしが勝ったのに…それに岸波白野…彼女の使った剣…それに彼女の語った夢…)
セシリアは思い出す。子供の頃の記憶を。
(それじゃあまるで…)
自分は貴族の娘だ。だから誘拐された事が一度だけあった。
「嫌っ!止めてっ!」
「おい、このガキ!大人しくしやがれ!」
「誰か!助けて!」
「大声出すんじゃねえ!それに、ここじゃ叫んだって誰も助けに来ねえよ!」
「……わたくしを誘拐してどうする気ですの…?」
「決まってんだろ?金だよ金!てめぇの家は、金持ちだからなぁ!きっとたんまりと身代金を出すに違いねえ!
ぎゃはははは!」
「ッ!そんな…」
「そんじゃ、大人しくしてろよ?俺は食いモンと飲みモン買ってくるからな!」
と言って、誘拐犯は誘拐されて連れ込まれた倉庫から出ていった。すると、不思議な事に誘拐犯がブギャ!と言う声をあげたのだ。セシリアは誘拐犯が転んだのだろうくらいにしか思わなかった。そして、倉庫の中に人が入ってきた。しかし、それは誘拐犯ではなかった。
「君!大丈夫か?」
入って来たのは、肌が少し日焼けの様に褐色になっていて、髪の毛の色が白になりかけている、赤髪の青年だった。
「誰?」
「俺か?俺は…」
その青年は聞いたら誰だって笑ってしまう様な事を口にした。
「正義の味方だよ」
「正義の…味方?」
「ああ、正義の味方。君がここに連れてこられるのを見てね。助けに来たんだ。安心しろ、今警察を呼んであげるから。」
「あの人は……?」
あの人、つまり誘拐犯の事である。
「ああ、あの誘拐犯の事か。自分を攫った奴を心配するなんて君は優しいんだね。大丈夫、やっつけたよ。」
「どうやって?」
「お兄さんは魔法使いなんだ。だからこうやって、手を広げて呪文を言うと…
するとその青年の手のひらには二振りの刀が出た。
「剣…?」
「そうだよ。ああでも安心して、こっちの反りの方で殴っただけだから死んではいないよ。」
そう言って、その青年は微笑みかけてくれた。
(まるであの人みたい…)
攫われた自分を助けてくれたあの優しい笑顔の青年。彼は一体今どこで、何をしているんだろう?出来る事ならば、もう一度会って話がしたい。お礼を言いたい。
セシリアはそんな事を思いながら、眠りにつくのだった。
如何だったでしょうか?セシリアを助けた青年。正義の味方さんと呼ぶとしましょう。(正体多分バレバレだけどね)この人はロンドンで勉強をしていた所、ある日誘拐されるセシリアを見つけたと言う設定です。ですが、この人は境遇は似ていますが、自主的に、尚且つ1人でロンドンに来ていました。恋人などはいませんでした。あと、最後に付け足しですがセシリアはこの人の事を好きにはなっていません。あくまで恩人というだけです。一夏君のことはちゃんと翌日の朝考えていました。以上後書きでした。