ここまできたら引けないのが人間のプライドである。もう受けるしかない!
「いいよ。私は絶対に負けないから」
「貴方もですわ!」
「お、俺!?」
「当たり前だろう。お前もクラス代表の候補者だぞ?」
あっ!多分これ私のせいでもあるなぁ。あとで謝っておかなくちゃなあ。
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い……いえ、奴隷にしますわよ」
「なんでわざと負けたりしなきゃいけないの?絶対にそんなことはしない。勝負は何時だって、真剣にやらなきゃ相手に失礼だよ」
「くそ、しょうがないか。侮るなよ?真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」
「そう?何にせよちょうどいいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」
あ〜あ、こりやどうしようも無いね。人材選択をミスったねこりゃ。
「ハンデはどれくらいつける?」
「あら、早速お願いかしら?」
「いや、俺がどのくらいハンデをつけたらいいのかな〜と」
織斑君がそこまで言ったところで、クラス中から爆笑が起きた。
そう言えば、この世界では、女尊男卑の風潮があるんだったな。そんなのおかしいような気がしてならない。それまでこの国を作っていたのは男性たちでもあった、それがISが出たら役立たずの刻印を押され、奴隷のようにあつかわれるなんて、それは違うと思う。
「お、織斑君、それ本気で言ってるの?」
「男が女より強かったのって、大昔の話だよ?」
「織斑君は、それは確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎよ」
何が言い過ぎなものか。そんなわけ無い。それに、昔だってどちらの性別が上なんて決められていたわけじゃない。それは世界の価値観であり、生命自体の価値はもっと尊く、儚いものだ。だから最終的には、男女になんの区別も無い社会を目指していたのではないか。
「…じゃあ、ハンデはいい」
「ええ、そうでしょうそうでしょう。むしろ、わたくしがハンデを付けなくていいのか迷うくらいですわ。ふふっ、男が女より強いだなんて、日本の男性はジョークセンスがあるのね」
やはり、一度言わなければ気がすまない。そんな事ない、と、ISがなくても強い人は強いと。
「ねえ、織斑君。今からでも遅くないよ?セシリアに言って、ハンデ付けてもらったら?」
「それは、違うよ。」
『え?』
全員が疑問を抱くが関係無い。
「そんな事無いよ。男だって関係無い。強い人は強いし、弱い人は弱い。
ISが使いこなせない癖に女ってだけで、偉そうにするくらいなら、私は、ISの使えない男の人に生まれて、それでもなんとか媚びずに生きようと、悪戦苦闘した方がマシ」
「き、岸波さん?」
「私はこの女尊男卑の風潮が気に食わない。性別の価値が変わっても、生命の価値は変わらない。その証拠に女だろうと、それは確かに少しは軽くなるのかもしれないけど人を殺せば咎められる」
「た、確かにその通りだ。それに、男が一度言い出したことを覆せるか。ハンデはなくていい」
「そ、そうは言ってもそれは代表候補生を舐めすぎだよ。それとも、知らないの?」
「いいよ。織斑君は見ていて。決闘はまず私が戦う。セシリア、貴方が本当に強い人なのかどうか、それでハッキリするしね」
「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑とオルコット、岸波はそれぞれ用意しておくように。それでは授業を始める」
(一週間か、充分過ぎる時間だ。だけど、一夏には大変かも)
そんな事を思いつつ授業に戻るのだった。
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今は翌日の授業の休み時間だ。
なんかまた絡まれてしまった。
「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」
なんでまた絡んでくるんだろう?あんな滅茶滅茶に侮辱されても、また絡んでくるなんて、こいつまさかドMか!?
「まあ?一応勝負は見えていますけど?さすがにフェアではありませんものね」
「そうだね。結果は凄いわかりやすいよね。」
「ええ!その通り!このセシリ「私の勝ちで」
「まあ!あなた、聞けばISに乗りはじめて、日が浅いそうではありませんか。それで私に勝とうだなんて、100年は早いですわ!」
「?なんで?」
「あら、ご存じないのね。いいですわ、庶民のあなたに教えて差し上げましょう。このわたくし、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……つまり、現時点で専用機を持っていますの」
「「へー」」
「……馬鹿にしていますの?」
「いや、すげーなと思っただけだけど。どうすげーのかはわからないが」
「それを一般的に馬鹿にしているというのでしょう!?」
ババン!セシリアが一夏の机をたたく。一夏のノートが落ちた。
「っていうか、国家の代表なんだから持ってて当たり前じゃん、なに威張ってんのかなぁ」ボソッ
「なにかおっしゃいました?」
「いや、なんでもないよ〜」
「……こほん。さっき授業でも言っていたでしょう。世界でISは468機。つまり、そのなかでも専用機を持つものは全人類六十億超の中でもエリート中のエリートなのですわ」
「そ、そうなのか」
「そうですわ」
ご指導ありがとうセシリア君。そのまま帰ってよろしいぞ。
「人類って今六十億超えてたのか…」
「「そこは重要ではないでしょう!?」」
ババン!セシリアが一夏の机をたたく。一夏の教科書が落ちた。
「あなた!本当に馬鹿にしていますの!?」
「いやそんなことはない」
「じゃあなんで棒読みなのさ…」
あ、こいつ今なんでだろうな?って本気で、思ってる顔だ。
「なんでだろうな?箒」
そこで話を他の人に振るってどうなのよ?ほら、篠ノ之さんも「私に振るな!」っていう目つきで睨んでるよ。
「そういえばあなた、篠ノ之博士の妹なんですってね」
「妹というだけだ」
うわぁ怖い。篠ノ之さんの目つきって滅茶滅茶怖いよね。普通にしてれば可愛いんだから普通にしてれば良いのに。
「ま、まあ。どちらにしてもこのクラスで代表にふさわしいのはわたくし、セシリア・オルコットであるということをお忘れなく」
また、彼女は気取った態度で去っていった。なんであんなボロクソ言われてまたやるんだろう?それが不思議でならない。
「箒」
「………」
「篠ノ之さん、飯食いに行こうぜ」
あ、ご機嫌斜めだ。この篠ノ之さん実は篠ノ之博士の実の妹さんなのだが、お姉さんの話を振られると機嫌が悪くなる。なんだか小さい頃にいざこざがあったらしい。
「白野、一緒に行かないか?」
「ごめん、私はパスで」
私は、人の恋路を邪魔したりするほど野暮な人間じゃないからね。頑張ってね、篠ノ之さん。
しかし、断った理由は他にもある。この二人は学食なのだ。つまり、私のお気に入りの場所で食べることは叶わないわけだ。よしじゃあそろそろ購買部でパンを買ってあそこに行こう。
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私のお気に入りの場所と言うのはこの屋上である。この学校は屋上が封鎖されてはいなく、いつでも来られる様になっている。私はここに来ていつも空を見上げながら、昼食を摂っている。
私にとって、ここ程居心地の良いところはない。それに他の人は大体学食なので、ここに人がくる事は滅多にない事だ。居心地が良いと言っても、『ここにいると、気分が良くなる』とかそういう感じじゃ無い。ここに居ると、彼女の事を思い出し、そしてあの電子の海から出られたと感じることが出来るのだ。
『遠坂 凛』
それが彼女の名前だ。私のいた世界では超一流の電子ハッカーであり、アーチャーのいた世界では超一流の魔術士だった。屋上に来ると彼女を思い出すと言うのは、『表』の聖杯戦争で、彼女と初めて話をしたのがあの月海原学園の屋上だったからだ。彼女は一時はライバルの一人として立ちはだかり、最後は私の『裏』からの脱出に協力してくれた人でもあった。だからここに居ると彼女の事を思い出し、感じる事が出来る様な気がするのだ。そしてここにいればあの電子の海では決して味わえなかった、生を感じられる。吹き抜ける爽やかな風、その風に運ばれた校庭の砂や草木の香り、その全てが私の生きているを感じさせるには充分なものだった。そんな物想いにふけているだけで、昼休みは終わってしまった。私は急いで昼食を口の中に詰め込み、授業に急ぐのだった。
いかがでしたか?そういえば、ついにGOでモーさんと雁夜おじさん来ましたね!僕はどちらも別に好きな訳では無いですけども。でもやっぱり、自分の為ではなく人の為に聖杯を望み、身体を犠牲にでもやり遂げようとした雁夜おじさんには幸せになって欲しかったですね。