短編ネタ Fate/zero × 神座シリーズ   作:天狗道の射干

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続いた。

当作品はシリアルです。
頭空っぽにして書いた、設定崩壊話です。

真面目に見たら馬鹿を見るので、用法用量を守って正しくご覧下さい。


副題 出ウザ
   夜刀様マジカッケェ

   新世界へ、語れ超越のシュピーネさん




一回目 頑張れシュピーネさん

――この男達は駄目だ。

 

 彼らが齎す破壊の質を、それを振り撒く事の愚かさを、彼らを全滅させることのできる存在が居る事を知りながら、争い合う彼らの常軌を逸脱した精神性を、ロート=シュピーネはそう判断し、見限っていた。

 

 

 

1.

「さて、皆様方。歌劇の舞台に必要な物は何であると思われるか?」

 

 

 夜の帳が落ちた街。人気のない港近くの倉庫街にて、それは語る。

 

 言葉を口にせねば、誰もその存在に気付かぬだろう。

 注意深く観測しようと誰も理解など出来ないだろう。

 

 それは余りにも外れ過ぎている。

 

 

「良き役者? 然り、役者が良ければ舞台は至高。ありきたりな筋書とて輝きを変えよう」

 

 

 其は影絵の如き男。実体なく移ろうは、虚無を思わせる水銀の蛇。

 

 まるで空を舞う深海魚。土の中を泳ぐ鳥。淡水の中で生活する草食獣。

 この地に存在して呼吸をしている。生存をしていると言う事実だけで違和感を振り撒くその存在こそは、魔術師の神霊として呼び出されし第四天。

 

 

「素晴らしき演出? 然り、王道と言うべき輝きも、邪道と言うべき変則的な展開も、如何に見せるかという点に終始し、磨き上げれば並ぶ物なき至宝となろう」

 

 

 水銀の蛇は語り続ける。

 それは取るに足りない言葉。特に意味のない戯言。

 

 教え導くように口にするのは、劇作家の如き彼の拘りに過ぎない。

 

 

「だが此度は異なる。狂った汚物が居る舞台などは至高ではなく、また素晴らしき演出も陰ってしまおう」

 

 

 思い出した汚物の存在に、キャスターは眉を顰める。

 

 アレが居る限り、如何なる舞台も至高には至れない。取り除こうにも、舞台の幕が上がってしまった以上はアレにも焦点が当たってしまう。

 

 その姿を映すだけで、万雷の喝采にて迎えられるべき歌劇は、痴愚の記した落書きにすら劣る物と化してしまうであろう。

 

 

「故に、観客を飽きさせぬ試みが必要となる」

 

 

 そう。それが避けられぬならば、それを気にしなくなる程にのめり込ませれば良い。

 開幕の舞台より至高の場を用意する事で、あの汚物の姿を気に掛らぬように整えるのだ。

 

 

「序幕。序章。序段。導入。言い方は多数あれ、指し示すは唯一つ。詰まりは最初の一歩こそが肝要であると言う事」

 

 

 彼にとって、至高の舞台とは如何なる物であるか。

 

 

「女神の姿があれば、それだけで舞台は至高となったであろうが、残念ながらマルグリットは此処にいない。で、あらばそれ以外の形で幕を開ける必要がある。結果の見えた八百長などは愚の骨頂。とは言え全騎揃っての大乱闘と言うのは、まだ早過ぎる」

 

 

 この地に愛しき女神はいない。ならば、残る一つを巻き込んだ物を作り上げねば、至高と言える物にはならないであろう。

 

 

「詰まり、卿は何を言いたいのだね、カール」

 

 

 そう。その場に居るのは彼だけではない。水銀の蛇に相対する様に、彼の逆しまも此処に存在していた。

 

 

 

 迸る色は黄金。その威圧は覇王の王気。手にした黄金の槍は、得た者に世界全てを支配する力を与えると信じられし聖遺物。

 

 何処までも高みより全てを見下ろす獣の瞳は、他を見下してなど居ない。

 彼が持つは、超越者が与える無償の愛。真実全てを等価に愛する獣は、目に映る全てを愛している。

 

 其の黄金の輝きは、何処までも存在感のない影絵とは真逆、何処までも強烈な存在感を放っていた。

 魔性を孕んだ退廃的な美貌。至高と呼ぶ以外に表現の方法などない完全なる肉体。愛すべからざる光の君が此処に居る。

 

 

「何、単純な事ですよ、獣殿」

 

 

 自らを呼び出したキャスターに対して、何が言いたいのかとランサーが問い掛ける。

 

 そんなランサーに彼が返すは、真実唯一つの言葉。

 

 

「この聖杯を廻る争い。その第一幕。開幕の鐘を鳴らすのは、我ら以外であってはならない」

 

 

 開幕の舞台は至高でなくてはならない。

 其処に下らぬ演者などは必要なく、華やかな幕を開くのに必要なのは、彼ら三者のみである。

 

 

「そう。それこそが私の意志である」

 

 

 ニヤリと胡散臭い笑みを零しながら、水銀の蛇はそう語った。

 

 

「ふ、ふふふ、ふははははははははっ!」

 

 

 そして呼び出された獣は、至高の幕開けへと招かれたランサーは嬉しげに笑う。

 

 

「ああ、良いぞ。そうだな。そうでなくてはならぬな、カールよ! 我ら三人の争いを以って、開幕に咲き散る華としよう!!」

 

「ええ、獣殿。これより至高の舞台は開かれる。さあ、皆様。私の歌劇をご観覧あれ!」

 

 

 そう。此処にあるは覇道三柱。残る一柱は、彼を置いて他に居ない。

 

 

 

 圧倒的な存在感を持つ超越者。

 理解出来ない程に隔絶した怪物。

 

 その双方すらも届かない、絶対的な神気を纏って、彼は降臨した。

 

 天より降臨するその色は赤。

 その髪は血に濡れたように赤く、その瞳は憎悪に濁ったかのように赤く、その肌は激しい戦いの歴史の中で黒く染まっている。

 

 その身に纏うは日ノ本の武将が身に纏うかのような甲冑鎧。その背に負う十二の断頭台の刃は、まるで後光の如く広がりを見せている。

 

 神とは、善でも悪でもない。その膨大な神威を以って、唯流れ出す者。

 

 故にその地に降臨した復讐鬼は、この場の誰よりも神と言う呼び名に相応しい存在であった。

 

 

「貴様らァァァァァァッ!!」

 

 

 怒りの形相で以って降臨するはアヴェンジャー。復讐鬼たる役を背負った赤き神霊。黄金の獣と水銀の蛇の争いを知り、食い止めんと現れるは抑止が選んだ世界の守護者だ。

 

 

「分かっているのか! 奴が居るんだぞ!!」

 

 

 奴が居る。その暴威を前にして、こうして互いに争う事、その無意味さを分からぬのか。

 

 そんな道理を語るアヴェンジャーに、返されるのは二つの笑み。

 

 

「そうだな。気付いているとも、あの三眼も居るのであろう? ……構わぬ。それも良い。私は総てを愛している。無論、あのバーサーカーとて例外ではない。卿らとの争いを終えた後、あれを愛でる為に動こうではないか」

 

「知っているとも、無論対策は取ってある。……だがな、それでもあの汚物が表舞台に出る事は避けられん。故に開幕は至高ではなくてはならんと言った。我が愚息よ、私の語りを僅かにでも理解していたのかね?」

 

 

 愛と嗜虐を多分に含んだ獣の笑みと、嘲弄と見下しで彩られた水銀の笑み。二種の笑みを浮かべる彼らは、決して前言を翻さない。

 

 彼らにとって、ここで開幕戦を始める事は、既に決定事項なのである。

 

 

「っ!」

 

 

 話しにならない両者を前に、彼らが齎す破壊を予想したアヴェンジャーは怒りを抱く。

 

 赤き髪より覗く赤き瞳は悪鬼の如く。

 強き怒りに突き動かされて、この地で破壊を振り撒こうとしている二柱に憤怒する。

 

 

「貴様らが争い合えば、どれ程の被害が出るか、それを知らん訳もないだろうにぃっ!!」

 

 

 また奪うのか、また壊すのか、こいつらは嘗ての怒りの日を冬木に再現する気か、と。

 

 ウェイバーに呼び出され、彼と共に霊体化したまま街を歩いて理解した。共に過ごして実感した。

 

 偽りの孫と共に過ごす時間を何よりも尊ぶ老夫婦。

 道行くだけの人にも声を掛けて、元気に走り去っていった剣道娘。

 自身を磨き続ける事を誇りとする宝石の様な少女と、彼女と喧嘩をしていた赤毛の少年。

 

 其処にあったのだ。輝かしい刹那があったのだ。皆が全力で前を向いて、真面目に生きる日常があったのだ。

 

 魔術師同士の殺し合い? 何だそれは。

 万能の願望器を掛けての奪い合い? だからどうした。

 伝説の英雄が、至高の神霊が、共に覇を競い合って頂点を決める? ふざけるなよ、やりたいなら誰の迷惑にもならない場所で勝手にやっていろ。

 

 己も含めて、誰も彼もがこの平穏な日常にいる資格を持たないのだ。

 

 無関係な人々の日常を奪う事など許さない。今ある刹那を失わせる者など誰であろうと認めない。

 

 人々が当たり前に生きていく刹那。それを奪う資格など、それを奪う大義など、誰にだってあるものか。

 

 

「ジャンル違いがっ! 出しゃばっているんじゃない!!」

 

 

 霊長の抑止による支援を受ける彼は、個の意志としても、抑止の使者としても、彼らの争いを放置する事など出来はしない。

 

 

 

 極限を超えて憤怒するアヴェンジャーの言葉。それは、しかし届かない。

 

 

「知らんよ。この地に蠢く塵芥など、心底どうでも良い。彼らが悲劇に見舞われたとて、嗚呼、そうかとも思わん。路傍の石コロになど興味を惹かれる事もあるまい」

 

 

 日常などどれ程の価値があろうか。どうでも良い他者のそれを、踏み潰すのにどんな想いを抱こうか。

 そんな物はない。感じる物などありはしない。水銀の蛇にしてみれば、万象全ては舞台装置。

 

 端役の幸福など、失われても己は困らない。元より興味すら抱けぬのだから。

 

 

「言い過ぎだな、カール。……だがな、ツァラトゥストラよ。私もカールとそう変わらん。無関心と言う訳ではないが、揺るがないと言う点では同様だ。私の愛は破壊の慕情。それしか知らんし、それしか出来ん」

 

 

 黄金の獣は冬木に居る人々を見て、その輝かしい刹那を理解して、それでも笑いの質を変えずに微笑む。

 等価に愛されている彼らにも、その破壊の愛は降り注ぐ。

 

 

「私は総てを愛している。卿も、カールも、この地にいる冬木の民も、総てを等しく愛している。故に滅びろ。勝つのは私だ! 我が愛にて、皆諸共に消え去るが良い」

 

「ぬかせよ、ハイドリヒ。散るのはどちらか知るが良い。そうとも、勝つのは私だ。聖杯に興味などないが、勝利だけは譲れない。友よ、我が子よ、此処で滅び去るが良い」

 

 

 彼らの解答は変わらない。

 彼らの有り様は揺るがない。

 

 歓喜と共に始まる彼らの争いは、決して止める事が出来ない。

 

 

「きぃさぁまぁらぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 六騎の神霊によって行われる聖杯戦争。

 その第一幕は、三覇道神による三つ巴で始まりを迎えた。

 

 

 

 

 

「……なぁにぃ、これぇ」

 

 

 そして、それをクレーンの上に立って見詰めるのは、我らがアサシン。シュピーネさんである。

 

 思わずキャラ崩壊しているような言葉使いで、白けた目をしているが、それは彼らが余りにも愚かすぎるからだろう。

 

 この男達は駄目だ、とその浅慮を見限っているのである。

 流石シュピーネさん。その深慮は某所の盤面不敗にすら匹敵するであろう。

 

 

〈何をしているアサシン。早く行け〉

 

「え? あれに、ですか」

 

 

 魔力パスを通じて声を掛けて来るマスター。キレイ=コトミネ。

 

 その言葉を聞いて、シュピーネさんは三覇道神の激闘を見詰めた。

 

 

 

 究極に至れば言葉は陳腐と化す。

 

 そう言わんばかりに振るわれる黄金の槍は、降り注ぐ隕石雨は、降り下ろされる断頭台の刃は、掠めただけでも世界を滅ぼすのではないかと言う程の威力を秘めている。

 

 

 

 彼らは神だ。元より神とは抗うものに非ず。崇め、奉るもの。そもそも真面に戦うと言う発想が間違いなのだ。

 

 そんな事も分からないのか、白けた目をマスターへと向けるアサシン。彼はこの時点で言峰綺礼を見限っていたのであろう。

 

 この男は、駄目だ、と――

 

 

〈令呪を以って重ねて命ずる! アサシンよ、速やかに突貫し自滅せよ!〉

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

 そんなシュピーネさんの深慮遠謀に気付けない言峰は、愚かにも二画目の令呪で命令を重ねた。

 

 正面から三覇道神へと向かって行くシュピーネさん。そんな彼は。

 

 

「ぎゃぴっ!?」

 

 

 流れ矢、ならぬ流れ槍に突き刺されて蒸発した。

 

 

 

 

 

2.

「怒りの日 終末の時 天地万物は灰燼と化し ダビデとシビラの予言のごとくに砕け散る」

 

 

 怒りの日が此処に来る。終末の時は此処に来たる。万雷の喝采と歓喜を以ってそれを迎えよう。

 

 

「たとえどれほどの戦慄が待ち受けようとも 審判者は来たり 厳しく糾され 一つ余さず燃え去り消える」

 

 

 水銀の蛇。永遠の刹那。

 己よりも遥かに上位にある彼らを前に、歓喜の笑みを浮かべる獣が選ぶは、初手より放たれる全力攻撃。

 

 

 

「我が総軍に響き渡れ 妙なる調べ 開戦の号砲よ 皆すべからく 玉座の下に集うべし」

 

 

 獣の軍勢が鼓動する。その爪牙達が脈動する。

 

 

「彼の日 涙と罪の裁きを 卿ら 灰より 蘇らん」

 

 

 白貌の吸血鬼が。白き孤狼が。赤き魔王が。太陽の御子が。

 敬愛すべき主の命を待ち侘び、その暴威を放つ瞬間に喜びを見出している。

 

 

「されば天主よ その時彼らを許したまえ」

 

 

 偽りの鍍金が。沼地の魔女が。紅の蜘蛛が。紅蓮の剣士が。雷光の戦乙女が。背徳の淫婦が。翡翠の少女が。

 下されるであろう命に抵抗感を感じながらも、抗う事も出来ずに獣に恐怖している。

 

 

「慈悲深き者よ 今永遠の死を与える Amen」

 

 

 腐毒の死人が。黒き終焉が。

 唯無言で、何も心を揺るがすことは無く、その時を待った。

 

 

「Atzluth」

 

 

 さあ、これぞ開幕の号砲だ。

 

 

渾沌より溢れよ(Do-sollst)――怒りの日(dies irae)

 

 

 言葉と共に放たれるのは、黒円卓に属する英雄達全ての力が込められた一撃。至高と呼ぶのも生温い、正しく極致の破壊である。

 

 黄金の槍が覇道を纏って飛来する。その背に現れし巨大な獅子の咆哮と共に、全てを蹂躙する破壊の愛が放たれる。

 

 世界は砕け、滅び去る。

 地球と言う惑星は愚か、この太陽系という宇宙すら一秒足りとて持たぬであろう全霊の攻撃。

 

 抑止が悲鳴を上げ、全てに滅びを齎す怒りの日が訪れる。

 

 それに抗うは――

 

 

「Ab ovo usque ad mala」

 

 

 全霊に対するは全霊の境地。水銀の蛇が放つもまた、全力の一撃である。

 

 

「Omnia fert aetas」

 

 

 世界全てを素粒子に変え、時間軸を改竄する。

 タイムパラドックスを意図的に発現させ、引き起こすのは素粒子間時間跳躍・因果律崩壊。

 

 並行世界を操り、時間軸さえも支配する蛇。

 彼が放つは、多元宇宙全てに存在する抑止力を無理矢理に動かし、無限に連なる平行世界全てから敵手を消し去るという狂気の業。

 

 あらゆる事象を根源の渦より消し去るという、抗う術などない力である。

 

 黄金の輝きと水銀の秘技がぶつかり合う。

 互いに全霊の一撃。どちらが勝つか、どちらが負けるか、一進一退の攻防が幕を開ける。

 

 自滅因子である補正。水銀を前に極限まで強化されている黄金の一撃は、星の抑止であっても止める事は出来ない。

 

 自滅因子を殺す為だけに組み上げられた力。霊長と星の抑止力を使い捨ての塵の如くに酷使して放たれる力は、黄金の全霊であっても防ぎ切る事が出来る物ではない。

 

 故に必然としてその結末は相討ちだ。両者共に防げぬ破壊が齎すは、絶大な破壊を伴った同士討ちである。

 

 その結末に辿り着くまで、世界が保つことが叶うならば――

 

 そう。その余波は強大だ。

 生じる風圧一つで冬木の地は愚か、日本と言う国土を海の底に沈め、大海嘯を引き起こしては世界全土を飲み干すであろう。

 

 交わされる攻撃。一合によって生じる衝撃で、この地は跡形もなく消し飛ぶのだ。

 ましてや彼らは後先考えぬ全霊によって矛を交わしている。ならば必然の結果として、その決着が着く前に地球は消え去り滅ぶであろう。

 

 

 

 そうあるのが必然で、そうなるのが当然で、だが、そうはならなかった。

 

 

「時よ、止まれ」

 

 

 振り撒かれる破壊を止める。

 その神々の暴威が星を蹂躙する事を防ぐ。

 己が渇望を以って、赤き復讐者がその破滅を防いでいる。

 

 元より彼は守る者。その眼前において、奪わせる事など許さない。

 

 黄金と水銀の全力衝突を、己の力で無理矢理に抑え付けて相殺する。何一つとして被害は出させない。誰一人として取りこぼしはしない。

 

 それこそが、呼び出されこの地に戦火を齎す一助となった己の義務であると、アヴェンジャーは理解しているのだから。

 

 そう。この地は彼に守られている。

 その停止の加護は、冬木の地全土を覆っている。

 

 バーサーカーを刺激しないように、薄く広く、覆い被せるように街全土の表層のみを己の支配下に置いている。

 

 故に倉庫街は傷一つない。港には跡一つ残さない。

 この地に居る民は気付かぬままに、彼に守られ刹那を謳歌しているのだ。

 

 

「ふ、ふははははははははっ!!」

 

 

 黄金は楽しげに笑う。

 守り抜くと、その意志を示す刹那に敬意を表し、故にこそ全霊を揺るがせる事は無い。

 

 

「素晴らしい。素晴らしいぞ、ツァラトゥストラ! 卿の輝きに負けぬように、私もまた我が英雄達の輝きをもって答えよう!」

 

 

 その輝きを魅せよう。その輝きに見惚れてくれ。

 そう。これより魅せるは、卿が何よりも愛した宝石達の輝きだ。

 

 

「この身は悠久を生きし者。故に誰もが我を置き去り先に行く。追い縋りたいが追いつけない。才は届かず、生の瞬間が異なる差を埋めたいと願う。ゆえに足を引くのだ――水底の魔性。波立て遊べよ――拷問城の(Csejte Ungarn)食人影(Csejte Ungarn Nachtzehrer)

 

 

 獣に抗えぬ沼地の魔女が、望まぬままに影を操る。

 彼にこそ追い縋りたいと願う彼女の祈りは、アヴェンジャーを引き留めんとする時こそ、その真価を発揮する。

 

 彼女の祈りが彼女の望まぬ形で結果を示す。

 

 抗えない。振り解けない。振り解いてはいけない。

 行かないで、愛しているの、そう語る女の手を、己が大切な仲間であると認識する女の手を、どうして払う事が出来ようか。

 

 そうして影に囚われたアヴェンジャーに向けられるのは、同じく彼の愛した刹那。

 

 

「我は終焉を望む者。死の極点を目指すもの。唯一無二の終わりこそを求めるゆえに、鋼の求道に曇りなし――幕引きの鉄拳。砕け散るがいい――人世界(Miðgarðr)終焉変生(Völsunga Saga)

 

 

 囚われし戦友が拳を放つ。操られし彼が奮うは幕引きの拳。

 彼にとっての終焉は、アヴェンジャーとの決闘だ。その結末の果てにある結果こそ、彼が求め続けた至高の結末。

 

 故にこそ、影に囚われたアヴェンジャーに対して、その終焉は最大の効果を発揮する。

 

 

「受け止めるが良い、ツァラトゥストラ。卿が愛する彼らの愛だ」

 

「っっっ! ラインハルトォォォォォォォォッ!!」

 

 

 愛した者らに傷付けられて、彼らを駆り立てる覇軍の王に復讐者は憤怒する。

 愛しい者を前に極限を超えて祈りの深度を高める戦奴の輝きに、全てを愛する獣は微笑む。

 

 其処に悪意はない。其処に悪逆な思惑などない。

 唯、己の配下である彼らが真に輝くのがアヴェンジャーを前にした時だと知っているからこそ、それを示す為に獣は魅せているだけだ。

 

 それは悪意ではなく愛である。故にこそ、この獣は度し難い。

 己に振るわれる宝石達の攻撃を防ぎながら、アヴェンジャーは怒りを込めてランサーへと向かって行く。

 

 

「ああ、二人で戯れ合うのは構わんがね。私を忘れて貰っては困る」

 

 

 そんな彼らの死闘を前に、黙っていられる程水銀の蛇は大人しくはない。

 その輝きに魅せられているからこそ、彼もまた第三者ではなく当事者として動くのだ。

 

 

「Ira furor brevis est」

 

 

 放たれるは超新星爆発。ランサーとアヴェンジャーの双方を消し去らんとするは、太陽を超える巨大な恒星が終わる際に生じる破壊のエネルギーだ。

 

 

「Sequere naturam」

 

 

 街を飲み、星を砕き、一星系を消し去る破壊の力を、唯二騎のサーヴァントを倒す為だけに使うのだ。

 

 

「忘れてなどおらんさ。無論、卿にも相応しき英雄達は此処に居る!」

 

 

 そう。何故己が対である友を忘れようか。

 向けるべき破壊は、愛すべき子らは、彼に嘲弄され続けた者達。

 

 さあ、我が英雄達よ。

 其方らの運命を弄んだ蛇に、復讐の牙を立てる時は今この時だ。

 

 

「ああ、日の光は要らぬ。ならば夜こそ我が世界。夜に無敵となる魔人になりたい。この畜生に染まる血を絞り出し、我を新生させる耽美と暴虐と殺戮の化身――闇の不死鳥。枯れ落ちろ恋人――死森の(Der Rosenkavalier)薔薇騎士(Schwarzwald)

 

 

 白貌が哂う。

 己を畜生に貶め、永劫望む物は得られないと呪った蛇を討たんと暗く哂う。

 

 現れるは赤き夜。全てを奪い、己の糧とする簒奪の世界。その夜が確かに超新星爆発の破壊を弱め、後に続く者らの力を高める。

 

 

「接触を恐れる。接触を忌む。我が愛とは背後に広がる圧殺の轍。ただ忘れさせてほしいと切に願う。全てを置き去り、呪われし記憶は狂乱の檻へ。我はただ最速の殺意でありたい――貪りし凶獣。皆、滅びるがいい――死世界(Niflheimr)凶獣変生(Fenriswolf)

 

 

 お前は誰にも抱き締められる事がない。そう蛇に呪われた愛を求める孤狼。

 

 母に愛されなかったのも、父に愛されなかったのも、全てを描いていた脚本家が居るからだったというならば――ああ、この蛇は許せない。

 

 獣の愛に抱かれて、等価の愛に頭を垂れて、ただ最速の殺意である白狼は光さえも置き去りにする速さで爆発する力を押し退ける。

 

 膨大な破壊に隙間を作り上げ、後に続く更なる破壊を蛇へと届かせる為にその身を投じる。

 

 

「我は輝きに焼かれる者。届かぬ星を追い続ける者。届かぬゆえに其は尊く、尊いがゆえに離れたくない。追おう、追い続けよう何処までも。我は御身の胸で焼かれたい――逃げ場なき焔の世界。この荘厳なる者を燃やし尽くす――焦熱世界(Muspellzheimr)激痛の剣(Leavateinn)

 

 

 お前の愛は届かない。その恋情は至らない。そう蛇に呪われた女は、愚弄するなと気炎を上げる。

 

 これは恋ではない。そんな女子供が持つ駄菓子ではない。我が忠義を愚弄するならば、此処で死ねと猛火を放つ。

 

 振るわれるは激痛の剣。全てを焼き尽くさんと言う極限の炎。

 

 弱体化した超新星爆発を押し潰し、僅かに空いた隙間よりキャスターを滅ぼさんと世界全てを燃やし続ける炎は猛威を振るう。

 

 

「Spem metus sequitur」

 

 

 己に襲い来る炎。その直ぐ後に続いて迫る白き英雄達。

 その猛威を前に、その圧倒的と言うのも生温い攻勢を前に、しかし蛇は笑みを崩さない。

 

 ああ、可愛いな、ラインハルト。

 お前はこの程度で私を討てる等と思い上がっているのか。

 

 

「Disce libens」

 

 

 暗黒天体創造。

 獣の配下である英雄達を封殺するは、全てを飲み干すブラックホール。

 

 光の欠片すら逃れられない超重力は、正しく覇王の軍勢を蹂躙する。

 

 

「ふ、ふははははははははっ!」

 

 

 分かっているとも、この程度では終わらんと、確信を持って理解している。

 

 だが、この程度ではない。獣の軍勢は死者の群れだ。壊れてなお愛せる者が欲しい。その願いが生み出した英雄達は、何度消滅しようと消える事は無い。

 

 無限に続く修羅達が、無限に死に続けながらも道を切り開く。その全霊を以って、全てを飲み干す暗黒天体を相殺する。

 

 

 

 本来ならば、この時点で勝負は決していたであろう。余りにも大き過ぎる破壊に世界が耐えられず、皆纏めて消し飛ばされていた筈だ。

 

 だが、そうならないのは彼が居るから。その力が世界を保護しているからに他ならない。

 

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 

 

 血反吐を吐くような顔色でアヴェンジャーは全てを停止させる。

 ランサーの振り撒く破壊。キャスターが撒き散らす破壊。その全てを一身で防ぎ切る。

 

 この三者の内で最も強大なのはアヴェンジャーだ。

 向かい合って戦えば、一合と要らずにランサーもキャスターも討てるであろう。それ程に力の差は大きい。

 

 だが、現状最も追い詰められているのは、そのアヴェンジャーであった。

 

 

「っ! 時よ、止まれぇっ!!」

 

 

 全霊を以って時を止める。

 流れ出す理を無理矢理に制御する。

 

 今、自身より強いバーサーカーが表に出てしまえば、流石に人々を守る事は出来なくなる。故に彼は極端な負担を追いながらも自身の力を完全に制御している。

 

 

 

 覇道神にとって流出とは呼吸と同義だ。意図して止められる物ではなく、一度発動すれば世界全てを塗り替える

 宝具と化している今、固有結界のように発動と停止を任意で行えるようにはなっているが、だからといって、停止させる対象を選べる程に便利な物ではないのだ。

 

 それは例えるなら、呼吸活動を行わずに全力で運動をするような物だ。心臓を無理矢理に停止したまま、海で大遠泳するよりも遥かに難しい。

 明らかに無理のある行動。それを己の意志で覆しているのである。

 

 そして彼にとっての負担はそれだけではない。流出によって世界を守っている。その行為が更なる負荷を齎している。

 

 広がり流れる世界は、彼の身体と同義だ。その世界が受ける衝撃の全てが、彼にダメージとして蓄積している。

 ランサーがキャスターに向ける破壊も、キャスターがランサーに向ける攻撃も、その双方による被害をアヴェンジャーは受けてしまう。

 

 ランサーとキャスターが一対一対一での三つ巴をしているならば、彼だけは二対一の戦いをしているような物なのだ。

 

 如何に強力であれ、サーヴァントとして若干であろうと劣化しているその身。限界を遥かに超えた能力行使を続けたまま、二柱の神霊を敵に回せば落ちるのは必然だ。

 

 

「だから、それがどうしたと言う」

 

 

 それでも、彼は崩れない。アヴェンジャーは揺るがない。

 

 仮に彼が全てを見捨て、攻勢に全力を注げば、彼に劣るランサーもキャスターも一手にて沈むであろう。

 明確な勝機がある。子供でも分かる程に簡単な道筋はある。このまま続ければ自滅するのは、覆せない道理である。

 

 ああ、だがそれが何だと言うのか。

 

 

「奪わせない。取り溢さない。……その為に、ここに生き恥じ晒してんだよっ!」

 

 

 停止の力が勢いを増す。キャスターもランサーも、纏めて紅蓮に染めてやろうと、己の地獄を展開する。

 

 

「ああ、本当に。君を作って、本当に良かった。正しく今こそが、至高の舞台」

 

 

 キャスターは己の望む至高を作り上げてくれるアヴェンジャーに歓喜する。

 

 三覇道神の決戦は、終結へと確かに近付いている。

 

 結果は見えている。結末は分かっている。

 

 アヴェンジャーが落ち、そしてランサーとキャスターが全てを滅ぼしながら相を討つ。

 

 それ以外の結末など、ありはしない。

 

 

「ああ、良いぞ。正しく今こそが至高の刹那であろう」

 

 

 その終焉を前に、ランサーは歓喜の笑みを浮かべる。

 今、この瞬間こそが、彼にとっての至高の極致。

 

 

「私の楽土は此処にある。この鉄風雷火の三千世界こそ、我が理想。此処にまみえた友らを抱こう。砕け散る程に愛させてくれ!」

 

 

 歓喜の極みにある獣は、だが一つ不満があった。

 

 

「だが、まだ魅せていない者がある。卿らに示したい、私が愛する爪牙が居る」

 

 

 そう輝きを魅せていない英雄が居る。

 彼の輝きを魅せずに、この至高の舞台が終わってしまうのは片手落ちだ。

 

 故にこそ見てくれ、さあ評価してくれ、私が誇る英雄の一人を。

 

 

「さあ、見るが良い。彼は面白い男だ。私が愛するエインフェリアの一人だよ」

 

 

 強大な敵手。至高の舞台。

 その終焉を前に、黄金の獣が呼び出したのは――

 

 

「ああ、彼らが怖い。我は異常より逃避する者。満たされる為に食らい、望むままに犯し、誅される事なく悪を為す。唯、自由である事を求めて――紅蜘蛛(Rot spinne)!」

 

『なん……だと!?』

 

 

 まさかのシュピーネさん召喚であった。

 

 

 

 

 

3.

 黄金の槍に貫かれた者は、彼の戦奴として死人の城に囚われる。

 サーヴァントと化した今もなお、ランサーのその力は健在である。

 

 そう。僕らのシュピーネさんは槍に刺されて逝ったのだ。

 故に彼は、ランサーの宝具である死者の軍勢の一部と化していた。

 

 

「此処は、……ああ、そうか。戻って来てしまったのですね」

 

 

 あれ程逃れたいと思っていた死人の城。修羅道と言う名の地獄。

 其処に堕ちたシュピーネさんは、しかし落ち着いた心持であった。

 

 まるで悟りを開いたかのような瞳で、現状を理解する。

 再び修羅道に堕ちた彼は、しかし全てを受け入れる大器を得ていたのだ!

 

 

「……修羅道からは逃げられませんが、これでもう二度と他の怪物に遭遇する事は無いですからね。ええ、取り敢えず救われたと思っておきましょう。その方が建設的です。ええ、ええ、そうですとも。救われたのです。震えてなんていませんよ。諦めたのではなく悟ったのです!!」

 

 

 ガタガタと震えながら、口早に語るシュピーネさん。

 まるで己に無理矢理納得させるかのように、死んだ目をしながら呟いているが、きっと気のせいだ。

 

 濁った魚のような目は、彼なりの悟りの心境を表しているのだろう。

 体を震わせるのは、もうあの強大な神々と競い合えない事への無念から生じる悔しさに違いない。流石だぜ、シュピーネさん。

 

 だが、一つだけ彼は勘違いしている。

 彼に出番がないなどと、そんな事を神々が許す筈がないのだ。

 

 シュピーネさん程の英雄が、ここで出落ちなど、果たして誰が許せるであろうか!

 

 

「膝を突くのは、まだ早いという訳ですよ」

 

「あ、貴方はっ!?」

 

 

 突如現れた人物の姿に、シュピーネさんが驚愕の声を漏らす。

 仕方がない。無理もない。本来ならばあり得ぬ筈の出会いが、ここに生まれていたのだから。

 

 

「ええ、貴方が気付いた通り。私の名は、ロート=シュピーネ。聖槍十三騎士団黒円卓第十位、ロート=シュピーネ」

 

「……貴方は、私なのですね」

 

 

 そう。ランサーの内側には、嘗ての彼が存在していたのだ。

 獣に囚われていたシュピーネさんと、アサシンとして召喚されたシュピーネさんが此処に出会った。

 

 

 

 世界は矛盾を嫌う。

 同じ者がある時、世界は片方を排除しようと牙を剥く。

 

 それこそが修正力。それこそが抑止の力である。

 

 だが抑止力は獣に届かない。

 ランサーと言う怪物の内側で出会った彼らを、消し去れる程に猛威を振るえない。

 

 だが修正をしない訳にはいかない。矛盾が余りに大きくなれば、その影響は世界を殺す。

 

 

 

 故に、ここに奇跡は起こった。

 

 それは万に一つ、億に一つ、那由他の果てに訪れた、唯一度の奇跡であった。

 

 

『お、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!』

 

 

 二人のシュピーネさんが融合する。

 その果てに生まれるのは、互いの不足分を付け加えたシュピーネさん、ではない!

 

 そう。加算ではない。

 だが乗算でもなかった。

 

 シュピーネさんの進化は、そんな物では留まらなかったのだ。

 

 超融合。ジョグレス進化。ワープ進化。フュージョン。

 あらゆる要素を乗り越えて、今ここに奇跡の戦士が誕生する。

 

 

「改めて名乗りましょう。今の私は、唯のシュピーネではありません」

 

 

 その力は自乗! 嘗てのシュピーネさんの二乗と言う力は、正しく三騎士に匹敵すると言っても過言ではない筈だ!

 

 …………結局、乗算じゃねーか。

 

 

(スーパー)シュピーネ、です」

 

 

 特に理由もなく。良く分かんない理屈で自乗になったシュピーネさん。否、超シュピーネ。

 

 彼は余裕ある笑みを浮かべたまま、己を呼ぶ覇王の声を聞く。圧倒的な力を得て調子に乗った超シュピーネは、悠然とその言葉に耳を傾ける。

 

 あの戦場へと呼ばれている。神々が争う世界の終焉の如き戦場へと、彼を必要とする声がする。

 

 だと言うのに、今の彼には怯えの表情がない。圧倒的なパワーを得た今、超シュピーネは怯えなどしないのだ。

 

 

「負ける気が、しませんね」

 

 

 ドヤ顔をしたまま、獣の呼び出しに応じて戦場に向かう超シュピーネ。

 

 後に彼は語る。

「負ける気がしない。そんな気がしただけでした」と。

 

 知っているかい、シュピーネさん。ゼロは何を掛けてもゼロなんだぜ。

 

 

 

 

 

「さあ、今こそ卿の輝きを魅せるが良い!」

 

「イェェェツラァァァ! ジィィクッハイルッヴィクトォォォォォォォォリアッ!!」

 

 

 超シュピーネが迫る!

 その速さは雷光の如く、黒円卓の平団員など届かない速度だ!

 

 

「……ふむ」

 

「あべしっ!?」

 

 

 だが、神霊相手には若干力が不足していたらしい。

 キャスターの軽く放った力に超シュピーネが吹き飛ばされる。

 

 

 

 その一撃で正面から挑む不利を悟ったのであろう。

 超シュピーネの顔に浮かんでいた自信が消え去り、その表情が青く染まる。

 

 

「まだだっ! 卿一人で為せぬならば、他の者らと共に行くが良い!!」

 

「ちょっ!?」

 

 

 だがそんな超シュピーネの動揺などお構いなしに、覇軍の王は彼の活躍を見せ付ける為に英雄達を呼び出し続ける。

 

 此処に今戦争において、最大の危機が超シュピーネを襲っていた。

 

 

「ほら、さっさと行くよ。シュピーネ」

 

「ああ、トロトロしてんじゃねぇぜ。ハイドリヒ卿の仰せだ」

 

「いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 

 真っ白コンビに連れられて、超シュピーネが突き進む!

 最速の狼に引き摺られながら摩耗して、次いでとばかりに白貌の吸血鬼の夜に巻き込まれる!

 

 無論。超シュピーネの活躍は、攻勢に限った話ではない!

 

 

「ふん。何時まで死んでいる心算だ! さっさと蘇って、ハイドリヒ卿を守らんか!」

 

「ザ、ザ、ザミエル卿!? お、お慈悲をぉぉぉぉっ!」

 

「……ま、同情くらいはしてあげるわ」

 

 

 赤き騎士に叩き起こされ、沼地の魔女に同情されながらも、超シュピーネの活躍は続く。

 

 襲い来る隕石雨を己の身体を張って防ぎ切り、超新星爆発からランサーを守り切り、そして暗黒天体の中へと吸い込まれていくその姿は、正に忠義の騎士である。

 

 

「ふむ。枯れ木も山の賑わいと言うが、道化も多少は役に立つ。小物にも小物相応の見せ場と言う物があるようだ」

 

 

 失礼な。枯れ木と比べたら、超シュピーネはフッサフサだぞ!

 

 

「ああ、そう言って貰えれば有難い。……見せ場を与えたくて呼び出したは良いが、正直どう扱おうか悩む程に役に立たなくてな」

 

 

 失礼な。見せ場たっぷりではないか。超シュピーネはフッサフサなんだぞ!

 

 

「お前ら、いい加減に解放してやれよっ! 全く役に立っていないんだからっ!!」

 

 

 失礼な。孫の手くらいの必要性はあるぞ。超シュピーネはフッサフサだからな。

 

 

『はははははははははっ!』

 

「もういやぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 超シュピーネは死に続ける。

 

 

 

 

 

4.

 その戦いを見詰める少年は、己の手を握り締めていた。

 

 神々の戦い。その争いは正しく人知を超えている。

 人の立ち入れる領域にはなく、無理に入ろうとすれば、あの遊ばれている爬虫類の様な男と同じ結末を迎えるだろう。

 

 

「……っ」

 

 

 怖い。怖かった。

 

 召喚の直後、己の呼び出した神霊の姿に怯えきってしまっていた少年には勇気と言う物が欠けていた。

 

 あのアヴェンジャーが優しい対応をしなければ、委縮して震え続けていたか、或いは取り乱して無様を晒していたか、どちらにせよ少年が理想とする己とは程遠い姿を晒していた筈だ。

 

 そんな彼が目の前の戦いに恐怖しない筈がない。

 震えて怯えて、何も出来なくなるは道理である。

 

 頭を抱えて、縮こまって、唯その天災が過ぎ去るのを待つのが、小物に相応しい在り方だ。

 

 

「馬鹿に、しやがって」

 

 

 それでも、それを選ばなかったのは、ほんの少しだけ矜持があったから。

 

 

「馬鹿にしやがって!」

 

 

 笑い合う神々は己の事など見向きもしていない。

 

 路傍の石とすら認識してはおらず、真実、彼の加護がなければ今生きている事も出来ない己など、彼らから見ればそれ程に矮小なのだろう。

 

 唯、戦闘を見るだけで、涙と鼻水を垂らし、無様に小便を漏らすなどと言う見っともない格好を晒している己には、相応しい評価なのだろう。

 

 

「馬鹿にしやがって! 馬鹿にしやがって! 馬鹿にしやがって!」

 

 

 その評価は正当だ。己が役に立たないなど、何よりも己が良く分かっていて。

 

 ああ、けれど、確かに誰かの評価を、他者に認められる事こそを望んでいた少年はそれを認める事が出来ない。

 

 そう。何もしないで、アイツが消える結果だけは認められないのだ。

 

 

「……僕は、マスターなんだ」

 

 

 そう。この聖杯戦争は、サーヴァントだけが戦う物ではない。

 サーヴァント一人だけが活躍するのではなく、マスターとのコンビとして、二人三脚で乗り越えていく物なのだ。

 

 

「ウェイバー=ベルベットは、マスターなんだ!」

 

 

 その手にある証。たった三つだけの奇跡。

 それこそが、彼にある唯一の手札。マスターであると言う誇り。

 

 あのアヴェンジャーの過去を夢に見た。

 どうしようもない絶望の中、憎悪を抱えて戦い続けた彼の過去を見た。

 

 だからこそ、彼のマスターに相応しいのだと胸を張る為に、この輝きが無くなるまではマスターであるのだと口にし続ける。

 

 何が覆せるでもなく。何を為せるでもなく。

 それでも、あの英雄の背を見たのだから、意地を張り通す事だけは止めてはいけないのだろう。

 

 故に。

 

 

「令呪を以って命ずる!」

 

 

 何も出来ない少年が口にする。

 力ない弱者が口にする。勇気のない彼が言葉を紡ぐ。

 

 声を出すだけならば出来る。

 恐怖に震えていても、その命令を下す事だけはして見せる。

 

 それさえ出来なくては、マスターなどとは口を裂けても言えなくなるから。

 

 

 

 その戦闘の天秤を傾ける、決定的な言葉を口にした。

 

 

「アヴェンジャー! お前の半身を取り戻せ!!」

 

 

 ウェイバー=ベルベットと言う小さな男こそが、この戦いを制した瞬間であった。

 

 

 

 

 

――全く、お前は俺が居ねぇとまるで駄目だな、蓮。

 

 

「司狼っ!?」

 

 

 その奇跡は、ほんの僅かな時間だけ、彼の半身を取り戻す。

 時間にして一秒もあるかどうか、本当に僅かな時間だけ、その自滅因子を彼に与えていた。

 

 

――見てなっ、あんなガキが男気見せたんだ。一発で決めてやるよ。

 

 

 金髪の男がニヤリと笑う。

 アヴェンジャーに背を預ける形で、刺青の男は大型拳銃をランサーへと向けていた。

 

 

――悪性腫瘍(マリグナントチューマー)自滅因子(アポトーシス)ってな!

 

 

 一発だ。放てたのは、たった一発の弾丸だけだった。

 

 

「ふふっ、まさか、な。このような結末になろうとは」

 

 

 だが、その一発の弾丸が、確かにランサーの宝具に亀裂を加えていた。

 

 その自壊が導く結果を理解して、黄金の獣は見事と称える。彼はもう、その結末を理解していた。

 

 

――じゃ、後は分かってるよな

 

「ああ、任せておけ」

 

 

 唯一発だけ放って消え去っていく親友に、分かっているさとアヴェンジャーは答える。

 

 そう。令呪の効果はまだ残っている。

 己にとっての半身は、彼だけでなくもう一人残っているから、それを取り戻すのだ。

 

 今、ここで。

 

 

「来い! ミハエル!!」

 

 

 その名を呼んだ。

 

 

 

 宝具に入った亀裂を引き裂いて、彼が舞い戻る。ランサーの宝具は半壊し、飛び出した彼らがアヴェンジャーの下へと集うのだ。

 

 アヴェンジャーと共にある事を望む、夜都賀波岐の天魔達を引き連れて、戦友の傍らに彼は立つ。

 

 

――……また、名を呼んでくれたな。戦友(カメラード)

 

 

 黒き騎士が彼の傍らに侍る。

 アヴェンジャーと共にありたいと言う仲間達を引き連れて、戦友と共にある為に彼は語る。

 

 

――何度でも、お前の傍らへと戻ろう。お前が、俺の名を呼び続ける限り

 

「ふんっ、俺がお前を必要としなくなるなど、ありはしないさ」

 

 

 天魔夜都賀波岐、此処に集結。

 無間八大地獄、此処に完成。

 

 アヴェンジャーはこの瞬間に、完全なる姿を取り戻していた。

 

 

 

 その背に負った刃の翼が広がる。

 その身が赤く、その瞳が青く、強く、強く輝いて、アヴェンジャーはその神威を此処に見せる。

 

 友が此処に居る。力強き仲間達が共に居る。己に道を開いてくれた主が背に存在する。

 

 最早、敗北などありはしなかった。

 

 

「行くぞ、ラインハルト=ハイドリヒ! カール=エルンスト=クラフト!!」

 

 

 その迸る神威に、ランサーが迎撃の構えを取る。

 

 

「ああ、来るが良い。ツァラトゥストラ!!」

 

 

 晴れ晴れしく笑うランサーは、敗北を理解してなお喜び挑む。

 それが彼の気質であるが故に。それこそ彼の願いであるが故に。

 

 

「ふむ。此処は退かねばならんか。……まだ死ぬ訳にはいかぬ故にな」

 

 

 対するキャスターは後退の意志を示す。

 これには抗えぬと理解して、まだ終わる訳にはいかないと退くと決断する。

 

 

 

 だがもう遅い。

 迎撃など無意味。無傷での逃走などさせない。

 

 既にアヴェンジャーの力は、彼らの抵抗を許さぬ規模にまで膨れ上がっている。

 

 

「これこそ俺の全身全霊。至大至高の一撃だ!」

 

 

 両手の内に生まれる巨大な輝き。

 守るべき刹那への想いを込めたこの一撃こそ、真実彼の全霊の一撃だ。

 

 

「守るべき日々。美しい輝き。お前達が奪って来た物がどういう物なのか、忘れる事は許さないっ!」

 

 

 言葉と共に放たれる神威は、二大覇道神へと向かって行く。

 

 

「全てこの刹那に、胸裏に刻み込んで逝け!!」

 

 

 その力が極光と共に弾け飛ぶ。

 激しい爆発音と共に、全てが極光へと飲まれていく。

 

 

 

 視界全てを焼き尽くすかの如き輝きと吹き荒れる煙が消え去った後には、最早誰も残ってはいなかった。

 

 

 

 

 

5.

「やった、のか」

 

 

 震える声で呟くウェイバー。

 

 腰を抜かしている少年の横へと降り立ったアヴェンジャーは、その手応えの薄さに首を横に振った。

 

 

「どうやら逃がしたようだ」

 

「……っ」

 

「令呪を使われたのだろう。その力ごと消し去る事も出来たが、流石に其処まで力を使うと周囲への被害を防ぎ切れなかった」

 

 

 アヴェンジャーの言葉にウェイバーの身体が震える。

 

 今回は接戦だった。激闘であった。敗北を覚悟する争いだった。

 

 令呪一画を消費して、それでも仕留められなかったと言うならば、それは実質的な敗北ではないか。

 

 そんな風に震える少年の頭を、アヴェンジャーは軽く撫でると口を開く。

 

 

「誇れ、ウェイバー。今回は俺達の勝利だ」

 

「え?」

 

 

 そんな予想もしていなかった言葉に、ウェイバーは口をポカンと開いた。

 

 

 

 そう。今回の勝者は彼らである。

 誰が何と言おうと、その事実は揺るがない。

 

 ランサーは軍勢の半分以上を失い、キャスターは最後の一撃を迎撃出来ずに受けた結果、かなりの重症を負っている。

 

 もう一度現れようと、最早二柱の神は、彼の敵ではないと断じる事が出来る。

 

 故に、この戦いは彼らの勝利なのだ。

 

 

「お前のお蔭だ。お前と俺と、二人で得た勝利だ」

 

「僕の……勝利?」

 

 

 身体が震える。心が奮える。

 それは、恐怖ではなく、戦慄ではなく、そう、少年がずっと望んでいた言葉が切っ掛けとなって。

 

 

「どうやら、俺は最高のマスターを持ったようだ。……故に今は誇るが良い、お前の勝利を」

 

「っ!」

 

 

 見っともない姿で、実際出来た事なんて言葉を一つ口にするだけで――それでも、その戦いの結果は、小さな少年が得た初めての勝利であった。

 

 

 

 聖杯戦争開幕戦。

 三覇道神による三つ巴の戦いは、こうしてアヴェンジャー陣営の勝利に終わったのであった。

 

 

 

 

 

 全身を使って喜びを露わにする少年を見詰めながら、アヴェンジャーは己に付いて来てくれた仲間達を確認する。

 

 司狼は居ない。

 ランサーの宝具に存在しない彼だけは、今の夜都賀波岐から欠落している。

 

 此処に残ったのは彼以外の大天魔達。

 今後共に聖杯戦争を戦ってくれるであろう心強い味方達。

 

 その姿を、愛する宝石達を、確かめるようにアヴェンジャーは一人ずつ見詰めていく。

 

 天魔・常世。天魔・紅葉。天魔・海坊主。天魔・悪路。天魔・母禮。天魔・六条。天魔・奴奈比売。天魔・大獄。

 

 以上八柱。皆すべからく、彼にとっては最愛の宝石達であり――

 

 

「ん?」

 

 

 今、何かおかしいのが混じっていたような。

 

 首を捻ってアヴェンジャーはもう一度確認する。

 今度は語り掛けながら、彼らの言葉で確認する。

 

 

――こんな僕で役に立てるのかは分からないが、君が求めるならば共に居よう。

 

(戒。自己評価の低いのはお前の欠点だ。お前も確かに俺の宝石だぞ、そんな自己を蔑むような言い方は止めてくれ)

 

 

 天魔・悪路。恐るべき腐毒の王は、そんな主柱の言葉に曖昧な笑みを浮かべる。

 

 

――あの、その、大切ってそういう意味かしら?

 

――あーっと余り面識ないんですけど、こうして宝石って言って貰えるのは、何か不思議な気分ですね。

 

 

(櫻井。お前何を妄想してるんだ。そしてベアトリス。お前とは確かに関りが少なかったが、俺の大切な奴らの宝石ならば、お前も確かに俺の刹那の一つだよ)

 

 

 天魔・母禮。雷光と炎熱を支配する女達は、何処か恥ずかしそうにストレートな言葉を受け止める。

 

 

――不思議な感じ。私の認識だとまだあの怒りの日の時代なのに。あの時の男の子がこんなにも大きくなっているなんて。

 

 

(……リザ。何と言うか、ガキの頃を知っている相手ってのはやりにくいな)

 

 

 天魔・紅葉。若かりし頃の無鉄砲さを見詰めていた女性相手には、やはり何処かやり難さを感じてしまう。それでも、嫌っている訳ではないのだ。

 

 

――ロートス。私を永遠にしてくれてありがとう。

 

 

(ああ、うん。まあ。……相変わらず愛が重いな、アンナ)

 

 

 天魔・奴奈比売。彼女はその名の如く、底なし沼のような重い愛情の持ち主だ。

 そんな彼女の想いに何処か腰が退けながらも、アヴェンジャーは彼女を受け入れる。

 

 

――あのー、私だけ名前が変じゃありません? 海坊主って、もうちょっと良い名前が。

 

 

(義理とは言え娘に自分の子を産めって言う変態神父は、海坊主で十分だろ。悔しかったら鍍金なしでも活躍できるようになってから出直して来い)

 

 

 変態神父こと天魔・海坊主。もっと良い名前があるかもしれないが、アヴェンジャー的には彼はこれで十分だと思っている。

 

 

――藤井君。藤井君。これはもう愛の告白と同じだよね。同じと見た。異論は認めない。そんな訳で婚姻届け用意する為に役所へ行こう?

 

 

(アンタもアンタで重いんだよ、先輩!? それと今戦争中だからなっ!!)

 

 

 天魔・常世。夜都賀波岐の心臓にして子宮の暴走具合に、アヴェンジャーは頭を痛める。

 だが、そう悪い気分ではない。懐かしいと、そう感じられる遣り取りだからだろうか。

 

 

――何も、語る事はない。

 

 

(ちょっとは語れよっ!?)

 

 

 天魔・大獄。己の相棒。最も頼りになる二人の一人。

 その無口っぷりに突っ込みを入れつつも、饒舌な彼などらしくないか、と受け止める。

 

 

――騒がしいですが、良い事ではないですか、ツァラトゥストラ。皆、貴方を愛している。その証なのですからね。

 

 

(…………)

 

 

 天魔・六条。

 

 

――……あのー、私だけ何もなしですか?

 

 

(…………)

 

 

 天魔・六条!

 

 

――つ、ツァラトゥストラ?

 

 

(…………)

 

 

 天魔・六条!!

 

 

 

 そう。彼こそは八番目の夜都賀波岐。

 両面の鬼なき今、大獄と対を為す夜刀の左腕。夜都賀波岐のナンバースリーだ!

 

 永遠の刹那が真に信じる心強き仲間。それこそ我らが六条さんなのである!!

 

 

 

 そう。彼は見捨てられなかったのだ。

 今にも敗北しそうな姿で、されど抗い続けていた嘗ての強敵を見捨てられなかったのだ。

 

 故に、大獄が開いた道を通って、彼の元にやって来た。

 そしてシュピーネさんは、天魔・六条として新生を遂げたのであった。

 

 

 

 そう。決して修羅道が嫌だった訳ではない。

 獣殿が怖くて逃げ出して来た訳ではない。多分。きっと。メイビー。

 

 

 

 最早勝利は決まったような物だろう。その栄光は約束されてしまった。

 

 我らがシュピーネさん。もとい六条さんとアヴェンジャーが手を組めば、出来ない事などないのだから。

 

 それをアヴェンジャーも理解しているのであろう。

 その白けた瞳は、余りの驚愕に表情が付いて行っていないのだ。

 何の反応も見せないのは、余りの嬉しさに心が舞い上がってしまっているのだろう。

 

 何処か苛立っているようにも見えるのは、両面の鬼という彼の居た場所を六条さんに与えている現状に不満があるからだ。

 

 そう。夜都賀波岐のナンバースリーなど彼には似合わない。

 ナンバーツー。或いは主柱を譲るべきかと考えているに違いないっ!

 

 

(…………)

 

――あー、ええっと、……ツァラトゥストラ。私と手を組みませんか? あなたの力をお借りできれば、共に永劫の自由を獲得することも夢ではない。

 

 

 そんな驚きで判断力が鈍っているアヴェンジャーを気遣って、六条さんが態々口を開く。

 

 提案すると言う形で、答えの分かり切っている問い掛けをするのは、彼に受け入れるだけの余裕を持たせる為である。

 

 その思いやり、流石である。

 

 

(…………)

 

 

 そんな彼の言葉にアヴェンジャーがどう返すかなど決まっている。彼の言葉に返す選択肢など一つしかないだろう。

 

 そう。六条さんの情報力と、アヴェンジャーの力が合わされば、出来ない事などないのだから。

 

 

(おい、あのさ)

 

 

 数秒、間を置いてから、アヴェンジャーは息を吐き出した。

 

 

(あんた、巨乳の女ってどう思う?)

 

――そ、その返しはっ!?

 

 

 そう。それは在りし日に交わされた言葉。嘗てと同じ遣り取り。

 

 六条さんに襲い掛かるは、情け容赦のない御祈りメールだ!!

 

 

(以下略。……形成笑。お前の居場所、穢土にないからー)

 

――ひ、酷いっ!?

 

 

 ですよねー。

 

 

 

 そんな訳で、六条さんは捨てられた。

 

 

――何故、何故なのですか! ツァラトゥストラ! バビロンや聖餐杯猊下。果てはキルヒアイゼン卿の様な面識のない相手まで認めるのに! 何故私だけがぁぁぁぁっ!?

 

 

 捨てられた六条さんが訴える。

 何処ぞへと放り棄てられた彼は、山彦のように声をエコーさせながら消えていった。

 

 

 

 そんな六条さんが過ぎ去っていった後に、アヴェンジャーは少し悩む。

 

 

 

 さあ、何でだろうな。

 絶対に認められない訳でもないのに、特に理由もなく穢土に居ちゃいけない気がして。

 

 そう。強いて言うならば――

 

 

「…………顔の差、かな」

 

「ん? 何か言ったか、アヴェンジャー」

 

「いいや、何でもないよ」

 

 

 誤魔化すように口にして、アヴェンジャーはマスターと共に去って行く。

 聖杯戦争は未だ始まったばかり、まだ一夜を乗り越えただけに過ぎないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうして、我らがヒーロー。六条さんが爆誕した。

 

 

 

 六条さんは戦い続けるだろう。

 アヴェンジャーの宝具である彼は、何度滅びようと蘇るのである。

 

 六条さんは進み続けるだろう。

 アヴェンジャーを通じて抑止の使者となっている彼は、気付かぬ内に間桐邸の奥底。蟲蔵目指して突き進んでいたりする。

 

 気付いた時にはもう遅い。

 

 抑止力によって無理矢理操られる六条さんは、バーサーカーへと先制攻撃を仕掛けるであろう。

 

 それは最早運命。そのFateを止める事は出来ないのだ。

 

 

 

 頑張れ、僕らの六条さん。

 その道の先は真っ暗だけど、多分きっと可能性はなくもない筈だ!

 

 負けるな、僕らの六条さん。

 別に貴方が居なくとも冬木は守られるだろうけど、特に必要なくても活躍の機会はある筈だ! フッサフサだからなっ!!

 

 

 

 さあ、六条さんの戦いは、これから始まっていくのである。

 

 

 

 

 

 Fate/zero×神座シリーズ。ネタ。

 勝ち目/zero ~シュピーネさんの聖杯戦争~ 改め。

 

 希望/zero ~六条さんの聖杯戦争~

 

 

 

 

 

 我々が六条さんの――太・極――を見る時が来るのも、そう遠くないのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 




もう続かない。



でも反響次第では考えるかもしれない。

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