我が道を行く自由人   作:オカタヌキ

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二天龍と覚悟

 

修行開始から3日、ここはグレモリー領の山の一つ。そこでは現在凄まじい爆音が鳴り響き、所々で煙が上がり、地面は抉れ、木々は無惨にへし折れている。山はもはや原型を留めておらず、周囲に住む動物たちはすでに一匹残らず逃げてしまっていた。そんな惨状を作り出した張本人たちは今なお激戦を繰り広げていた。

 

「喰らうがいい!」

 

元龍王が一人、『魔龍聖』タンニーンがヴァーリに向かってブレスを放つ。

 

「くっアルビオン!」

 

『Half Dimension!』

 

禁手、『白龍皇の月光神鎧』を纏ったヴァーリは、白龍皇の能力の一環である空間や物質にすら干渉する半減の力を使い、タンニーンのブレスを半減する。

「『ツンドラブレス』!!!」

 

ヴァーリは猛吹雪を凝縮したかのような冷気のブレスを放ちタンニーンのブレスにぶつけて相殺する。しかし凄まじい衝撃が発生してヴァーリは吹き飛ばされた。

 

「ちっ、半減してこの威力か。流石に龍王の名は伊達じゃない。」

 

ヴァーリは苛立たし気に舌打ちする。

 

「どうした?今代の『白龍皇』よ。まさかこれでおしまいではなかろうな?」

 

「冗談!だが、俺はどちらかと言うと頭脳戦向きでね。絡め手でやらせてもらうとしよう!『グッドナイトムーン』!!!」

 

すると『白龍皇の月光神鎧』の両足に装着された三日月の装飾“グッドナイトシスターズ”から光の波が放たれる。直後、それを浴びたタンニーンに異変が起こった。

 

「な、なんだこれは……急に睡魔が………」

 

「『グッドナイトムーン』の放つ月の光は浴びた者を眠りに誘う。さらにもう一つ!」

 

『binding chain!!』

 

ヴァーリが翼を大きく広げると、翼から何本もの鎖が飛び出しタンニーンを縛りあげる。

 

「ミスリルで作った特別製だ、そう簡単にはちぎれないぞ。その状態ではなおさらだ。」

 

「くっ小癪な……」

 

「小癪で結構!卑怯で結構!『白龍皇』の力は強い力をもつ相手に特化している。相手の自由を奪い、手札を潰し、好きなことをさせず、勝利を掴む!……それが俺の戦いだ。」

 

そう言うとヴァーリは三日月状の鋭い刃が連なったような翼を真っ直ぐに伸ばし、刃が正面を向くように反対に向ける。

 

「『スパイラルシュレッダー』!!!」

 

ヴァーリはそのまま縦回転を始めタンニーンに突っ込む。逃げようにも鎖はヴァーリの翼に直結しており、強烈な睡魔もあって、タンニーンは回転に引っ張られる形で肉薄する。

 

ギュギィィィィィィィィィィ!!!

 

「グガアァァァァァァァァァァ!!!」

 

切り裂くことに特化したヴァーリの翼はまるで丸ノコのようにタンニーンの鱗を切り裂いて行き、タンニーンは悲鳴を上げる。

 

「グオォォォォォォォォ!!!?な、なめるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

するとタンニーンは筋肉が膨張するほどに全身に力を入れ、ミスリルの鎖を力任せに引きちぎった。

 

「なっ!!!?」

 

「ぐぅ…やってくれる、おかげで眠気がすっかり覚めたわ!」

 

「クソッ!『ツンドラーー」

 

「遅いわぁ!!」

 

ヴァーリがブレスを放つ前に、タンニーンのブレスがヴァーリを飲み込んだ。

 

一方その頃、少し離れた場所では、イッセーと人間形態のティアマットが激しい肉弾戦を繰り広げていた。

 

「ハハハハハッ!そらそらどうしたぁ!?お前の実力はそんなものか!?」

 

「ぐっ!くそっ!」

 

ティアマットが拳のラッシュを叩き込み、イッセーはそれを何とかガードする。

 

『相棒!このままではいずれ押し負ける!一旦体制を立て直せ!』

 

「言われずとも!『プチプロミネンス』!!!」

 

「ぬおっ!?」

 

イッセーは全身から炎を立ち上げティアマットを退ける。

 

「『紅・赤龍之舞』!!!」

イッセーは炎を纏った拳と蹴りのラッシュをティアマットに叩き込む。ティアマットはそれを両手をクロスさせて防ぐ。

 

「ぬうぅぅぅぅ!!!なんのぉ!!」

 

「んなっ!?」

 

ティアマットはクロスさせた腕を勢いよく広げることでイッセーを弾く。

 

「ハッハーー!『業龍の咆哮』!!!」

 

「ーーッ!!!?硬質化『ウイングシールド』!!!」

 

『Boostboostboostboostboost!!!』

 

ティアマットはイッセーにブレスを放ち、イッセーは自身の翼の硬度を倍加させて盾代わりにしてガードするがブレスの勢いに押し負けて吹き飛ばされてしまう。

「うおおおおおおおおおおおおお!!?ガハッ!!!?」

 

ブレスに吹き飛ばされたイッセーはそのまま地面に叩きつけられた。

 

「い……イッセーか?」

 

声のした方に顔を向けると、イッセーが飛ばされたところの近くにヴァーリが上向けに倒れていた。

 

「ヴァーリ……なんでぇ、手酷くやられたなぁ……」

 

「うるさい、お前も同じだろうが」

 

「ハハハ、いつぶりだろうな?こんな風にボロクソにやられたの」

 

「だな、上には上がいるってことか。……だが、いつまでも倒れている訳にもいくまい」

 

「ああ、アニキと共に歩んで行く以上、こんなところでへこたれてたまるかってんだ」

 

『しかし、今のところの相棒たちの力では奴らにはかなわない。『覇龍』でも使えば別だが』

 

「…………ま、そうなるわな」

 

『現状、今の相棒たちなら『覇龍』に飲まれる心配はなさそうだが、何せ相棒たちは歴代の二天龍の中でもイレギュラーもイレギュラー。どうなるかは検討もつかない。』

 

「……いや、まだ『覇龍』に頼るには早いぞ」

『何か考えでもあるのかヴァーリ?』

 

「ああ、ーーーーーーーー

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

ーーーー、というわけだ。」

 

「『『・・・・・・・・・・』』」

 

ヴァーリの考えにイッセーたちは絶句する。

 

「………おいおいヴァーリ、マジか?」

 

「本気と書いてマジだ」

 

『………アルビオンよ、お前の相棒は雷門竜也とそう変わらんな』

 

『ヴァーリ、お前最近兄に似てきたな』

 

「ははっ、それは光栄だな。で、どうする?」

 

「……いいぜ、乗った。無理も通せば道理も引っ込まぁな……それに、なんせ俺たちは逸脱者の弟分だもんな」

 

『やれやれ、バカと天才は紙一重と言ったところか』

 

『だが、俺は今回で学んだぞ。バカも貫き通せば可能になることがある、とな?『逸脱者』がいい例だ。』

 

「バカバカうっせ………さて、そろそろ来るぞ」

 

その直後、タンニーンとティアマットが姿を表した。

「おお、タンニーン。お前の方もそろそろか?」

 

「ああ、この3日間我ら龍王を相手によく頑張ったと言えよう。……だが、これまでだ。安心しろ、殺しはしない。あとは療養に専念するといい。」

 

そう言ってタンニーンとティアマットは二人に近づく。

 

「はっ冗談!ドライグ、ヴァーリ、アルビオン、覚悟決めるぜ」

 

「くくっ、言われずともさ」

 

『ハハハハハハッ!面白い!面白いぞ相棒!いいだろう!正気の沙汰ではないが、我ら二天龍が龍王などに負けるのは我慢ならんからな!』

 

『だが、それを望むなら死を覚悟する必要があるぞ?お前たちにその覚悟はあるか?』

 

「はっ上等だ!俺は天下無敵の『逸脱者』の弟分!死ぐらい乗り越えてやらぁな!」

 

『ハハハハハハハッ!!よく言った相棒!いや、兵藤一誠!我は赤き龍の帝王!この程度の障害、共に乗り越えてやろう!』

「俺は死ぬのは勘弁願いたいね。まだまだやりたいことがたっぷりある。……だが、痛みぐらいなら我慢してやる!」

 

『ふっ、お前らしいなヴァーリ、いや雷門ヴァーリよ。我は白き龍の皇王、共に生きて乗り越えようじゃないか!』

 

「……?なんだ?お前たち、何をーー」

 

「『白い龍(バニシングドラゴン)』アルビオン!ヴァーリ!もらうぜ!お前たちの力を!」

 

「『赤い龍(ウェルシュドラゴン)』ドライグ!イッセー!お前たちの力、もらい受ける!」

 

イッセーは右手、ヴァーリは左手の甲にはめ込まれた宝玉を取り出してお互いに交換し、それを外した場所にはめこんだ。瞬間、ヴァーリとイッセーの体が一瞬脈打ったからと思うと、二人はそれぞれの腕を押さえて絶叫する。

 

「グガアアアァァァァァァァァァァァァ!!!グギィィィィィィィィィィ!!?」

 

「ウグウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!グアァァァァァァァァァァァァァ!!!?」

「なっ!!!?なんて馬鹿なことを!!」

 

尋常ではない叫び声を上げる二人に狼狽えるタンニーン。

 

「止めるんだイッセー!ヴァーリ!お前たちは相反する存在!そんなことをすれば自殺行為だぞ!ドライグ!アルビオン!今すぐ二人を止めさせろ!」

 

『グウゥゥゥゥゥ!!…こ、断る!』

 

「なっ!!!?何を言っているんだ!!こんなところで消滅することが貴様らの本懐か!?」

 

『これはイッセーとヴァーリの覚悟だ!俺たちはそれに答えなくてはならない!』

 

「馬鹿を言うんじゃない!イッセー!ヴァーリ!止めてくれ!お前たちはこんな馬鹿な真似で終わるような男ではないだろう!」

 

ティアマットは必死に二人を止めようとする。彼女も彼らと時を共にする内に情が移っていた。

 

「心配すんな姉御!俺たちはこんなところで死なねぇよ!ドライグ!まだか!?」

 

『後少しだ!後少しで解析が終わる!………よし!こっちは終わったぞ!』

 

「アルビオン!こっちは!?」

 

『案ずるな!いま終わった!』

 

「イッセー!手を!」

 

「頼むぜ天才!」

 

イッセーとヴァーリは宝玉をはめこんだ方の手でがっちり掴み合う。

 

『グウゥゥゥゥゥ!!……取り込んだ相手の力を分析ぃ!』

 

『そして、相手に渡した力を己の手で安定させる!』

 

イッセーの右手から白、ヴァーリの左手からは赤い光が発せられる。

 

「「うおおおおおおおおおおおお!!!神器よ!!俺たちの思いに答えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」

 

『Vanishing Dragon Power is taken !!』

 

『Wales Dragon Power is taken !!』

 

赤と白の光が混ざり合い、二人を包み込む。光が止むと、イッセーの右手には結晶のような形をした白い籠手、ヴァーリの背には『白龍皇の月光翼』の下に炎を模したような赤い翼が出現していた。

 

「はぁ…はぁ……『白龍皇の氷結籠手(ディバイディング・フロストギア)』ってところか?」

 

「ふぅ……『赤龍帝の炎翼(ブーステット・ブレイズディバイン)』とでも呼ぼうか。」

 

二人は息も絶え絶えながら、満足気に呟く。

「ば、馬鹿な……こんなことが起こり得るのか……?」

タンニーンは驚愕に目を見開き空いた口が塞がらない。

 

「………アハハハ、アーーーハハハハハハハハハハハ!!凄い!凄いぞイッセー!ヴァーリ!やっぱりお前たちは竜也の弟分だ!」

 

ティアマットはしばらく呆けていたが、あり得ない現象を作り出した二人に大笑いする。

 

「あたぼうよ!さぁ、リターンマッチと行こうじゃねぇか!」

 

「『『おう!!!』』」

そう言うとイッセーとヴァーリはほぼ同時に飛び出した。

 

「早速いくぞ!」

 

『Boost !!』

 

ヴァーリの『赤龍帝の炎翼』から機械音が鳴り、ヴァーリの力を倍加する。

 

「『フレイムテンペスト』!!!」

 

ヴァーリが『赤龍帝の炎翼』を大きく羽ばたくと、両側の翼から炎の渦が発生し、タンニーンに襲いかかる。

 

「グオオォォォォォォォォォォォォォ!!?」

「ッ!?タンニーン!!!?」

 

「前方不注意だぜ姉御!」

 

ティアマットの気が逸れた一瞬を逃さず、イッセーはティアマットに接近する。

 

「なっ!!!?」

 

「『フロストナックル』!!!」

 

「がはっ!?」

 

イッセーの冷気を纏った拳がティアマットの腹にヒットする。

 

「おまけだ!」

 

『Divide !!』

 

「うおっ!?」

 

イッセーの右手の宝玉から機械音が鳴り、ティアマットの力を半減する。

 

「うーん、安定させたとはいえ、やっぱ連続では使えないか……」

 

「こっちもそんな感じだな、まぁこれからだんだん慣らして行けばいいさ」

 

「だな……あっ!なあヴァーリ、俺いいこと思い付いた!」

 

「ん?なんだイッセー?」

 

「俺たちの()()でよぉ、朱乃ちゃんみたいなことできねぇかな!?」

 

「朱乃ちゃん?……ああ、なるほど。いいぜ、やってみよう」

 

そう言うとイッセーは左手と右手から、ヴァーリは光翼と炎翼から、それぞれ赤龍帝の炎と白龍皇の冷気を発生させる。

 

「赤龍帝と白龍皇、炎と氷」

 

「相反する力を互角の力で合成」

 

イッセーは両手を合わせ、ヴァーリは上下の翼をクロスさせて、2つの力を混ぜ合わす。相反する属性は混ざり合いながらスパークし、膨大なエネルギーが発生する。それを見たタンニーンとティアマットの危険信号が鳴り響いた。

 

「ッ!!?逃げるぞタンニーン!!」

 

「ああ、あれは不味い……!」

 

言ったが早く、二人はすぐさま全力で回避行動をとった。

「「『メドローア』!!!」」

 

ドガアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、グレモリー領内の一つの山が、跡形もなく消し飛んだ。

 




二人の技はそれぞれデジモンの技からとりました。
感想等お待ちしております。次回もお楽しみに

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