あの後、ゼファードルたちは職場契約としてうちに入ることとなり、ゼファードルはイッセー、シークヴァイラはヴァーリ、ディオドラたちは眷属が元シスターや聖女ということや本人の要望(土下座)でアーシアの配下に加わることになった。ちなみに、俺は三大勢力での会談の際、各勢力からお互いの同意の上でならスカウトできる権限をもらっているので問題はない。
しばらくして、イッセーたちはスタッフに連れられてさっきの待合室よりも更に広い場所に移り、俺はサーゼクスさんとセラたんのいる広場よりも高い場所にある席に向かった。そこにはいかにも権力持ってそうな連中がふんぞりかえって座っていたのだが……まぁ案の定俺のことを見下したようないかにも気にくわないって目で見て来やがる。まあ別に今のところはどうでもいいけど。セラたんは俺を見つけるとブンブン手を振り、俺はセラたんの隣の席に座った。
「ヤッホーたっくん☆」
「ようセラたん昨日ぶり」
「竜也君、今日はよろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしくお願いします。サーゼクスさん」
セラたん、サーゼクスさんと軽く挨拶をして下の広場を見ると、リアスたち若手悪魔六人とさその眷族、そこに加えて『龍の紡ぐ絆』ナンバー2のヴァーリを先頭に残りのメンバーが整列していた。リアスやヴァーリは今のところ緊張した様子はないが、アーシアやギャスパーは慣れない空気故かそわそわしている。そうして、リアスたち若手悪魔とヴァーリが一歩前に出た。
「……まずは、こうして集まってくれたことに感謝を。この会合は、次世代を担う若い悪魔である貴殿たちを見定める為のものである。」
「まあ、早速やってくれたようだが?」
初老の悪魔がしゃべり、ゼファードルやシークヴァイラを見て皮肉気に言うが、当の本人たちは全く気に止めてない。
「………だがその前に、若き新勢力の主には一言言わせてもらおう」
髭を蓄えた悪魔が言うと、その場にいる全員の視線が俺に向けられる。こりゃ転生前の俺なら卒倒してたな。
「貴殿は魔王様の要望によってこの場にいるが、本来なら貴殿がこの場にいることは許されないことは理解して頂こうか」
「さよう、人間ごときがこの会合に立ち会うなど本来あってはならないことである」
「身の振り方には気を着けてもらおうか」
おうおう、いきなり言ってくれるねぇ。要するに新参者の若造、しかも人間がデカイ顔するなよってことだろ?全くこれだからなまじ権力のある連中はめんどくせぇ。
ふと視線を反らすと、ヴァーリやリアスたち、果てはゼファードルやシークヴァイラまで俺の同席に文句を言った連中を敵意丸出しの目で睨み付けていた。
「まあまあお三方、そこまで言わずともよろしいではないか。新勢力のトップと言えど雷門殿はまだお若い。我々が大人の対応を見せましょうぞ。あぁそれと雷門竜也殿、私の孫が貴方の歌の大ファンでしてな、後でサインでも頂けませんかな?」
端の方に座っていた老人がやんわりとフォローを入れてくれた。向けられる視線が敵意だけてないことに安心した。
「さて、君たち六人は家柄実力共に申し分ない次世代の悪魔だ。更に、『龍の紡ぐ絆』の君たちも未来有望な若者たちだ。だからこそ、デビュー前に互いに競い合い、その力を高め合って欲しい。」
サーゼクスさんがそれぞれに視線を向けながら言う。
「我々もいずれは『禍の団』との戦いに投入されるのですね?」
サイラオーグがサーゼクスさんに尋ねる。
「それはまだわからない。だが、私としては出来るだけ若い悪魔たちは戦いに投入したくないと思っている。」
サーゼクスさんはそうサイラオーグに返す。まあこの人ならそう言うだろうな。
「お言葉ですが、我らとて悪魔の一端を担っています。この年になるまで先人の方々から多くのご厚意を受けている身でありながら、何も出来ないとなれば……」
「サイラオーグ、その気持ちは嬉しい。勇気も認めよう。だが、はっきり言わせてもらえば、それは無謀と言うものだ。万が一にも、君たちを失う訳にはいかないのだ。次世代を担う君たちは、君たちが思っている以上に、私達とってかけがえのない宝なのだから。焦らず、ゆっくり、確実に成長していって欲しいのだよ」
すみませんサーゼクスさん。かけがえのない宝、すでに1/3が引き抜かれてます。サーゼクスさんの言葉にサイラオーグは納得したのか、そのまま何も言うことはなかった。
それから、お偉いさんの何人かの冥界の歴史やら自分の事やらを長ったらしく語り、サーゼクスさんがレーティングゲームについて色々と説明したりとして時間が過ぎていった。
「さて、長い話に付き合わせて申し訳なかった。これで最後だ。冥界の宝である君たちに、それぞれの夢や目標を語って貰おう。」
「俺の夢は魔王になる事……それだけです」
最初に答えたのはサイラオーグ。それは要約すればいつかその椅子をもらい受けると言うこどだ。しかし、彼は迷いなく真正面から堂々とそれを言ってのけた。それは生半端な覚悟ではないだろう。
「ほお、大王家から魔王が出るとしたら前代未聞だな」
「私は『魔源覇王』雷門竜也の妻として、“誇り”を決して忘れずに、生涯彼を支えて行く事が目標です。」
二番手はリアス。なかなか嬉しい事を言ってくれるじゃないか。“誇り”と“プライド”を履き違えた他の連中とは大違いだ。
「私は自らの培ったこの知識と技術を、竜也様の様に世界に役立てて行きたいと思っています。」
「僕はこれと言った夢や目標はありません。ですが、こんな僕と共にいてくれる眷属たちと、これからも共に歩んで行きたいです。」
「俺は竜也のアニキのようなデカイ男に成りたい。そしていつか、アニキと真正面からぶつかりあえる男に成りたいです。」
続けて、シークヴァイラ、ディオドラ、ゼファードルの順だ。ゼファードルとシークヴァイラの夢を語る際、俺の名前が出た時、お偉いさんはあからさまに気にくわない顔をしていたが。
「私の夢は……レーティングゲームの学校を建てる事です」
そして最後であるソーナ嬢が自身の夢を語った。
「レーティングゲームを学ぶ場所ならばすでにあるはずだが?」
さっきの髭悪魔が尋ねるが、ソーナ嬢は淡々と続ける。
「それは上級悪魔と一部の特権階級の悪魔のみしか行く事が許されない学校の事です。私が建てたいのは、下級悪魔、転生悪魔も通える分け隔ての無い学舎です」
なるほど、身分の差別の無い開かれた学校のことか。相変わらず悪魔らしくない、だけど彼女らしい夢だな。
「「「ハハハハハハハハハハハハ!!!」」」
すると突然お偉いさんの何人かが笑い出した。何だ?今のどこに笑う要素がある?
「それは無理だ!」
「これは傑作だ!」
「なるほど!正に夢見る乙女と言う訳ですな!」
「若いというのはいい!しかし、シトリー家の次代当主ともあろうものががそのような夢を見るとは!ここがデビュー前の顔合わせの場でよかったと言うものだ!」
何だこいつら?俺が言うのも何だけど、この会合の主旨わかってんのか?
「私は本気です」
ソーナ嬢はそれでも引く事なく笑う連中を見据えて言う。
「ソーナ・シトリー殿。下級悪魔、転生悪魔は上級悪魔たる主に仕え、才能を見出だされる常。その様な養成施設を作っては伝統や誇りを重んじる旧家の顔を潰す事となりますぞ?」
「さよう。悪魔の世界が変革の時期に入っている事は我々も認めている。だが、変えていいものと悪いものの区別くらいはつけてもらいたい」
「たかが下級悪魔に教育など、悪い冗談としか思えんな」
……………あぁ、駄目だわこりゃ、抑えらんねぇわ
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ヴァーリside
(チッ、老害どもが、胸糞悪いぜ)
嘲る様にシトリーの語った夢を笑うお偉い連中を見て俺は内心舌打ちする。見るとイッセーやリアスも不快と苛立ちを含んだ顔をしていた。
『グルルルルルルル………』
『『『『!!!!?』』』』
その時だった、笑っていた連中に向けて三つ首の龍が牙を向いて目の前まで迫っていた。それは以前、コカビエルとの戦いの際にケルベロスの大群を畏縮させた兄さんの幻影、曰く『グルメ細胞の怪物』だった。怪物から放たれる濃厚な殺気、並大抵の生物は意識を保っていられないだろう。
殺気の大元である兄さんは、かつてないほどの鋭い目で連中を睨み付けていた。情の深い兄さんのことだ。こうなる事はわかっていた。
連中は兄さんを侮り過ぎたのさ。たかが人間?若造?とんでもないね。確信を持って言えるね。兄さんが本気で暴れれば、
「ま、魔源覇王……殿…何か言いたい事でも?」
さっきまでの態度を一変させて一人が尋ねた。見ると兄さんは魔王サーゼクス・ルシファーに目線を向けていた。恐らく発言の許可を求めているのだろう。サーゼクス・ルシファーが無言で頷くと、兄さんもまた頷き口を開いた。
「言いたい事ねぇ……逆に聞くが、貴方はこの会合の主旨を理解しているのか?若手は“宝”、そう言ったのはそちら側のはずだ。その“宝”の夢を笑うとはどういう了見だ?」
「そ、それは……」
「もちろん、伝統や誇りが大事なのは重々承知している。だがな、そもそもそちらが転生システムを産み出したのは何の為だ?悪魔の種の存続の為だろう?それなのに、その転生悪魔や下級悪魔たちを蔑ろにしては本末転倒ではないか?そのような状態が続けばどうなると思う?積もり積もった負の感情はやがて……」
兄さんはそこで言葉を区切り目を閉じる。
「クーデターという形で牙を剥く。」
再び目を開けた兄さんは、凶悪な笑みを浮かべて笑った連中を見据える。
「その点、ソーナ嬢のその夢は実に良い。誰もが分け隔てなく通える学校。それは転生悪魔や下級悪魔たちに渦巻く負の感情の潤滑油になろう。もし彼女の夢が実現することになったならば、我々『龍の紡ぐ絆』は全力でバックアップしよう。」
兄さんの言葉に、会場が静まりかえる
「………と、言うのが俺の建前だ。」
思わずずっこけそうになった。兄さん、あんたは何でこういう時にギャグに走るんだよ……
「本音を言わせて貰うとな、既に知っている人もいると思うが、俺は今年、このセラフォルー・レヴィアタンと婚礼の儀を挙げる」
いや、このタイミングで言う事だろうか?セラフォルーは「そ、そんなたっくん……いきなり…」とか言って顔を赤くしてるし……
「何故このタイミングで言う必要がある?ってか?まぁ聞け。俺たちが結婚すればシトリー家の面々と俺は親戚関係となる。つまり、遠くない先、ソーナ嬢は俺の身内ということになる訳だ。」
………なるほど、そういう事か。兄さんが言いたいのは…
「身内を悪く言われて黙っていられるほど、俺は大人じゃないんだよ」
兄さんは笑みを浮かべた顔から一変、怒りに染まった顔で連中を睨み付ける。会場が再び静寂に包まれた。
「…………ソーナ・シトリー殿」
「はい」
名前を呼ばれて返事をしたシトリーに、笑った連中は頭を下げた。
「無礼を詫びよう。貴殿の夢を笑い、申し訳なかった。今後一切、貴殿の夢を笑わないと誓おう」
まさか謝られるとは思わなかったのか、シトリーの顔が驚愕に染まる。その直後、兄さんから発せられていた殺気が消えた。
「さて、それじゃあサーゼクスさん、そろそろ本題に入りましょうか?」
「ああ、そうだね。それじゃあ、若手悪魔、そして『龍の紡ぐ絆』の諸君、君たちでレーティングゲームをしないかい?」
『!!?』
サーゼクスの言葉に広場の全員が驚いていた。
「実はね、アザゼルとセラフォルーが各勢力のレーティングゲームファンを集め、デビュー前の若手の試合を観戦させる計画が『龍の紡ぐ絆』と共同で進行中でね。その大一回目として、リアスとソーナでレーティングゲームを執り行ってみないか?」
リアスとソーナは顔を向け合う。その瞳には闘志が宿っていた。
「公式では無いとは言え、私にとっての初のレーティングゲームの相手が貴女だなんて、運命を感じてしまうわね、リアス」
「負ける気は毛頭ないわよ、ソーナ?」
両者火花を散らしていた。
「我ら『龍の紡ぐ絆』は2チームに別れてそれぞれの総当たり戦となる。詳しい日付と対戦カードは後日伝えよう。」
「二人のゲームの日取りは人間界の時間で八月十日。それまで各自好きに時間を割ってくれてかまわないってそれでは、本日はここまでとしよう。」
そうしてこの日はその場で解散となった。レーティングゲーム総当たり戦……なかなか面白いことに、なったじゃないか
感想等お待ちしております。次回もお楽しみに