我が道を行く自由人   作:オカタヌキ

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模擬戦と謝罪

「………兄さん、何であいつを助けるようなことを言ったんだ?あの二人なら難なくあいつらを叩き潰せるだろうがそんなんじゃ俺もみんなも納得がいかない。」

 

ドーナシークたちが試合場に向かった後、ヴァーリが俺に話しかけた。見ると、みんな納得がいかないという顔をしている。

 

「……俺だってあの場であいつを八つ裂きにしてやりたかったさ、こんなことじゃ到底許せねぇ。……だけど、そんなことしたらアーシアが悲しむだろうが。」

 

みんなはハッとした表情をしてでアーシアを見た。アーシアは悲しげな顔をしていた。

 

「……皆さん、わたしは大丈夫です、皆さんがそばにいてくれて、受け入れてくれるだけで、わたしはとても幸せです。ですから……ですから、どうかわたしのために怒らないでください。あんな皆さんのお顔は見たくありません……」

 

アーシアは瞳に涙を貯めてみんなに頭を下げる。

 

「アーシア…」

 

「アーシアちゃん…」

 

「…アーシア、俺たちは絶対にお前を否定しない。さっきも言ったが君は『魔女』なんかじゃない。立派な『聖女』だ。この場にいる全員が保証する。なぁみんな?」

 

『ああ!』『うん!』『ええ!』

「皆さん……ありがとうございます…」

 

アーシアは瞳からポロポロと涙を流す。俺はアーシアを抱き締めて優しく頭を撫でる。

 

「……カーラマインさん」

 

そんな中、木場がカーラマインに話しかける。

 

「きっ木場殿!私は…私はあなたの背負った過去も知らずに無神経なことを……」

 

「ううん、謝るのは僕の方だよ。ごめんなさいカーラマインさん、僕は自分の過去にこだわるばかりに君に八つ当たりをしてしまった。」

 

木場はカーラマインに頭を下げ謝罪する。

 

「今さら都合のいい話だと思うけど、こんな僕に力を貸してくれませんか?」

 

「木場殿……はい!喜んで!」

「カーラマインさん……」

 

「カーラマインだけじゃない。俺たちだって力になるぜ、お前は俺たちとかけがえのない仲間なんだからな。」

 

「そうよ裕斗」

 

「しゃあねえ、力になってやるよ」

 

『『『『うん!』』』』

 

「竜也君、部長、イッセー君、みんな……うん、ありがとうみんな。」

 

木場は俺たちに笑顔を向ける。その顔はいつもの爽やかさが戻っていた。

 

「……さて、そろそろ試合が始まる頃だな。ポチッと」

 

俺がテーブルに置いてあったリモコンのスイッチを押すと天井から大型の液晶テレビが出てきた。

 

「………いつの間にこんなものを……」

 

「ほら、つけるぞ」

 

俺はそう言ってテレビをつけた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

試合場第一グラウンドでは、イリナと夕麻が凄まじい攻防を繰り広げていた。夕麻は光の槍と弓を巧みに使い分け、イリナは『擬態の聖剣』をある時は日本刀の形にして素早い斬撃を放ち、ある時は短剣の形にしてラッシュを叩き込み、ある時は刀身を鞭のようにしならせて攻撃する。竜也は彼女らを中級の上か中程度と言ったが、二人とも明らかにそれ以上の力を発揮していた。

 

「聞いたわよ!イッセー君の唇を奪ったそうね!人の彼氏にちょっかいかけないでちょうだい!」

 

「そっちこそ!私はイッセー君がずっと好きだったの!横入りしないでよ!」

 

「ふん!恋は早い者勝ちなのよ!それにあなた、引っ越してからずっと音沙汰なかったそうじゃない。そんなんじゃ愛想尽かされてもしょうがないわね!」

 

「尽かされてないもん!それにあなた、イッセー君のことを利用するために近づいたそうじゃない!」

 

「今は本当にイッセー君のことを愛してるわ!今では手をつないで登下校とかしてるもん!」

 

「うぐっ!?わ、私だって手をつないで一緒に帰ったこととかあるもん!」

 

「お弁当作ってあげてあーんして食べさせてあげたり」

 

「ぐうぅ!?私もあーんしてあげたことあるもん!」

 

「膝枕で耳掃除してあげたし~」

 

「ぐふっ!?…わ、私は転んで泣いたイッセー君をいい子いい子して、いたいのいたいのとんでけをしてあげたわ!」

「なっ!?なんてうらやま…ゲフン!、私たちなんか週3でデートしてるし~」

 

「ゴハッ!?…わ、私たちなんか一緒にお風呂入って洗いっこしたもん!」

 

「カハッ!?……ふ、ふふふ、なかなかやるわね。だけど私たちは……数え切れないぐらいキスしてるわ!」

 

「なっ!?」

 

「おはようのチュー、いってきますのチュー、お休みのチューの3回!さらにデートの時はこれに加えてもう2回、週平均27回よ!」

 

「グパァ!!!?」ドサッ

 

イリナは吐血して倒れ伏した。

 

「…ふっ、勝った」

 

夕麻は倒れ伏すイリナに近づき光の槍を振りあげる。

 

「…私なんて……」

 

「?」

 

「私なんて寝てるイッセー君の唇にキスしたんだからっ!!!」

 

イリナはガバッと立ち上がった。

 

「なっ!?…そ、それってつまり……」

 

「そう、イッセー君の初めては……私のものだぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「グッハァ!!!?」

 

今度は夕麻が吐血する。そしてふらりと倒れそうになるがズダンと踏みとどまる。

 

「はぁはぁ、……まだだ、まだ終わらんよ……」

 

「ふっ」

 

夕麻は光の槍を、イリナは聖剣を日本刀の形に変えてそれぞれ構える。

 

「負けられない」

 

「イッセー君の正妻の座は…」

 

「「私のものだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」

 

ガキィィィィィン!!!

 

二人は一瞬で交差し、金属音があたりに響く。……そして、

 

ドサッ!

 

「………これが積み重ねた時間と愛の差よ。」

 

夕麻が高らかに軍配を上げた。

 

 

………一方その頃部室では、

 

「ヒューヒュー、愛されてるねぇイッセーく~ん♪」

 

「ぷはぁ!熱々ですぅ!」

 

「…………恥ずか死ぬ…/////////」

 

イッセーは羞恥に悶えていた。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

試合場第二グラウンド

 

「はぁはぁ、くっおのれ!」

 

「それ!また隙だ!」

 

ドーナシークとゼノヴィアの試合は打って代わってドーナシークが圧倒的優位に立っていた。光の力によって作られたレイピアと、刀身がバネのようになっている伸縮自在のウェポンARM『スプリングソード』の二刀流でゼノヴィアを攻め立てていた。例え触れた物全てを破壊する『破壊の聖剣』であろうとも、触れる間を与えずに一方的なラッシュを叩き込んでいた。

 

「ふん、ただ振り回すことしか能がないとは、聖剣も使い手が三流では宝の持ち腐れだな。」

 

「なっ!?きさまぁ!!!」

 

ゼノヴィアはドーナシークの言葉に怒り聖剣を構えて突進する。

 

「やれやれ、こんな安い挑発に乗るとは……ウェポンARMハープーンピアス!!!」

 

ドーナシークはやれやれと肩を落として新たにARMを発動し、巨大な銛が現れる。

 

「はぁ!」

 

ドーナシークはハープーンピアスをゼノヴィアに投げるがゼノヴィアは『破壊の聖剣』によってそれを粉々に破壊する。

 

「ふん!無駄だ、『破壊の聖剣』は全てを破壊し…」

 

「残念だがそれはフェイクだ。」

 

「なっ!?」

 

見ると、ドーナシークははるか後方に移動していた。

 

「さて、そろそろ頃合いだろう。きさまの実力はだいたいわかった。見せてやろう、某の切り札を!」

 

そう言ってドーナシークは銀の懐中時計を取り出す。

 

「!?」

「現れよ!ガーディアンARM『クロックダイル』!!!」

 

現れたのは、体の至るところに時計をつけ、カチカチと時計の針の音を響かせる巨大なワニのガーディアンだった。

 

「なっなんだそいつは!?」

 

「今にわかる、クロックダイル!!!」

 

「シャアアアア!!!」

 

クロックダイルが声を上げると、背中の時計がボーンボーンと音を鳴らす。するとゼノヴィアの持つ『破壊の聖剣』がピタリと動かなくなった。

 

「なっ!?こ、これは一体!?『破壊の聖剣』が動かない!?」

 

「クロックダイルは器物の時間を30秒操作できる。お前の聖剣の時間を30秒間停止させたのだ。」

 

「なっ!?」

 

「クロックダイル!!!」

 

言うや否や、クロックダイルはゼノヴィアに飛びかかり、ゼノヴィアの頭に顎をいつでも噛み砕ける体制でピタリと止めた。

 

「………勝負ありだ。」

「あ、ああ、参った……」

 

ゼノヴィアは顔を真っ青にして両手をあげた




オリジナルARM
ガーディアンARMクロックダイル
体中に時計をつけた巨大なワニ(クロコダイル)のガーディアン。物の時間を30秒間操作できる。生き物の時間は操作できない。モデルはピーターパンの時計を飲んだワニ。

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