翌日の放課後、イリナともう一人のエクソシスト、ゼノヴィアが部室に訪ねてきた。曰く、カトリック、プロテスタント、教会側の管理されていたエクスカリバーが奪われたらしく、下手人を追ってここまで来たらしいのだが……
「うふふ」バチバチ
「んふふふ~」バチバチ
イリナと夕麻がなんかすんげえ睨み合ってる。恐いよ!?なんか火花散ってるよ、二人の後ろに修羅が見えるよ、隣のやつも震えてるよ、イッセーなんか顔面蒼白だよ!?
「……で、その下手人は何者なんだ?」
このままでは不味いと思い思いきって話を切り出す。
「あっ、ああ、『グリゴリ』の幹部のコカビエルだ。」
「「「「!?」」」」
「…聖書に記された堕天使の名前が出てくるなんてね…」
リアスは苦笑し、堕天使四人は驚愕する。しかし、グリゴリの幹部か…
「……ヴァーリ?」
「言っておくが、これはコカビエルの独断だ。グリゴリの本部は関係ない。」
「ちっ、あのボンクラ提督、部下の手綱ぐらい握っとけや。」
「………ねぇ竜也君、それって……」
イリナが俺におそるおそると尋ねる。
「まあちょっと待ってろ。」
俺はすかさず電話をかける。
『へ~いもしもし?』
「おいまるでダメなおっさん総督、略してマダオ総督。てめえのとこの部下がまたやらかしやがったぞ。」
『……いきなりひでぇ言われようだな、で、どいつがやらかしたって?』
「コカビエルだとさ、教会から聖剣奪ってこっちに潜伏してるんだとよ。教会から派遣されて来たエクソシストがここに来てる。」
『……コカビエルか、あの野郎よりによってんなとこにいやがったか。』
「………竜也君、今竜也君が話してるのってまさか…」
「まあ待て、今テレビ電話に切り替える。」
俺は携帯のボタンを押すと、携帯の画面からスクリーンが映し出された。
「ちょっ!?竜也君、なんなのこれ!?」
「テレビ電話」
「私の知ってるテレビ電話とだいぶ違うんだけど!?」
イリナがシャウトする。
『まあ気持ちもわからんでもないが……とりあえずはじめましてだな、グリゴリの総督をやっているアザゼルってもんだ。』
「……まさか本当に堕天使側と繋がっていたとわな。」
ゼノヴィアとかいうメッシュの女が呟く。
『言っておくが、俺は別に悪魔側と結託した訳でもないしコカビエルに指示した訳でもない。あくまでこれはあいつの独断だ。俺は戦争をする気はないからな。』
「どうだかな……」
『おいおい本当だっての!俺は戦争を起こす気はねえ、面倒ごとはごめんだぜ。』
「おいこらボンクラ総督。お前がそんなことだからこういう事態になるんだろうが。ちゃんと仕事しろや、トップとしての責任を持てよ、そんなことだからプー太郎総督なんて呼ばれるんだよ。」
『いや呼んでるのお前だろうが!』
「いや、最近本当にグリゴリ内で浸透して来てるぞその呼び名。」
ヴァーリが横から言う。本当に呼ばれてるのかよ……
『マジで!?どうしてくれんだお前!?』
「いや全部お前が悪いんだろうが!」
『うぐっ……とにかく今回の件にはグリゴリ本部は無関係だ。』
「じゃあコカビエルはこっちでやっちまっていいんだな?」
『いや、できれば捕らえてこちらに送還して欲しい。』
「……わかった、それでいいかリアス?」
「えっええ、わかったわ。」
リアスはうなずく。
「お前らも聞いたな?」
俺はイリナたちの方を向く。
「えっええ、わかったわ。」
「!?イリナ、勝手に何を…」
「あくまで私たちの目的はエクスカリバーの奪還よ。コカビエルのことは対象外だわ。」
「……と、まあそういうわけだアザゼル。」
『あんがとよ、じゃあ俺からの依頼だ。コカビエルを捕縛してこちらに送還してくれ。』
「了解、承ったぜ。」
「まっ待て!教会本部の依頼はこの件は悪魔側には介入しないで欲しいというものだ!」
突然ゼノヴィアとやらがそんなことをのたまった。俺たちもアザゼルも唖然としている。
「……バカじゃねぇのお前、お前らごときが相手になるとでも思っているのか?」
「なっなにぃ!?」
「竜也君!?いくら何でもごときはひどいんじゃない!?」
「いや、イリナには悪いが事実だ。相手はグリゴリの幹部の最上級堕天使、対してお前らはせいぜい中級の中程度、犬死にして聖剣を奪われるのが関の山だ。」
「キサマ、言わせておけばっ!!」
「待ってゼノヴィア、竜也君、それでも私たちは教会の指示に逆らう訳にはいかないの…」
「………イリナ、アーシアのこともあるのにお前はまだ教会を信用するのか?」
「っ………」
「アーシア?ということはやはり彼女が『魔女』のアーシア・アルジェントか。」
ゼノヴィアの言葉に部室の空気が変わる。ああ、止めろ、ただでさえイラついてるのにお前はそんなに俺たちを怒らせたいか!
「元『聖女』が悪魔と協力関係とは、堕ちるところまで堕ちたものだな。……それに、君から信仰の香りがするな、君はまだ主を信じているのか?」
腸が煮えくり返るような怒りを必死に抑える。見ると、イッセーもリアスや夕麻たちも、イリナでさえ、みんな怒りを抑え込んでいるのがわかった。
「…どうしても捨てきれないんです、ずっと信じて来たことですから……」
「そうか、ならいっそこの場で我々に断罪されるといい。そうすれば主もお前のことを…」
「黙れよクソが」
もう我慢の限界だ。俺は抑え込んでいた怒りを解き放ち、それは殺気となってやつに向けられる。俺の殺気を皮切りに部室にいた全員の殺気がゼノヴィアに向けられる。ゼノヴィアは顔を真っ青にしてガタガタと震えているがそんなことは知ったことじゃない。
「おい……お前言ったよな?アーシアが悪魔を癒したから『魔女』だってなぁ。」
「あ…ああ……そうだ、主から与えられた力を悪魔などを癒すために使うとは立派な異端だ。」
「……ほぅ、ならそもそも神器は誰が創ったものだ?」
「何を…」
「誰が創ったものだと聞いているんだ!!」
「ふぅっ!?…そ、それは主が……」
「そうだ、お前たちの言う主、『聖書の神』が神器を創った。ならアーシアの『聖母の微笑』が悪魔や堕天使も癒せるように設定したのは聖書の神自身だということだ。」
『!!!?』
ゼノヴィアだけではなくその場にいた全員が驚愕する。てかアザゼルもかよ、考えたらわかるだろうが。
「わかったか?アーシアは与えられた力を正しく使ったに過ぎない、それを魔女だ異端だと騒ぎ立てるお前らこそがその主とやらを冒涜してるんだよぉ!」
俺の怒気の込められた言葉にやつは黙る。そりゃそうだ、俺は何も間違ったことは言ってないんだからな。
「……ゼノヴィア、訂正して。」
「!?…だ、だがイリナ、これは教会に対する侮辱だ…」
「いいから訂正して!わからないの!?竜也君の言っていることは何も間違っていない!あなたのその行動が主を冒涜しているのよ!」
「……っ!?」
「……いや、待てイリナ。」
「……竜也君?」
「夕麻!ドーナシーク!」
「「はっ!」」
俺の呼び掛けに応じて夕麻とドーナシークが前に出る。
「こいつらは堕天使、実力は中級の上、もう少しで上級に至る。お前らにはこいつらと模擬戦をしてもらう。こいつらに勝てないんじゃコカビエルなんざ到底無理だ。もし勝ったら俺たちはもう何も言わない、好きにしな。だがもし負けたら俺たちも協力させてもらう。」
「なっ!?」
「正直教会なんざ知ったことじゃねぇよ。だけどな、この街で何かやらかそうってことなら黙って見ているわけにはいかないんだよ。……それとお前、」
俺はゼノヴィアを指差す。
「負けたらアーシアに地面に頭擦り付けて土下座しろ。」