もうもうと煙の立ち込める中、ライザーの女王であるユーベルーナはいた。全身はすすにまみれ、肩で息をし明らかに疲労している。
切な、煙の中から彼女に向かって無数の魔力の弾丸が飛び出し彼女はそれをなんとかよける。そしてなんとか煙から出ようとするが、そこに光の槍が彼女の横をかすめそれを遮る。彼女は槍の飛んで来た方角へ爆破魔法を放つ。《ドカァァァン》と爆音がなり、爆風が煙を吹き飛ばすが、そこに敵の姿はなかった。
「くっ!!!一体どこに消えた!?」
ユーベルーナは焦っていた。体育館に配置した下僕たちを囮にして、敵が油断したところを得意の爆破魔法で吹き飛ばす簡単な任務のはずだった。だが実際は、自分のその計画は看破され敵の進軍を許してしまい、偶然生き残った兵士のイルとネルは武器を取り上げられた上に鎖で縛られ使い物にならない。このままではライザー眷属の女王の名折れ、なんとかリアス・グレモリーの女王を先に仕留めようとしたのだが、結果はこの惨状。次々と襲いくる敵の攻撃に休む間もなくライザーから渡されたフェニックスの涙を使う暇もない。
「くそっ!?なんとかこの煙幕から脱出しないと…」
するとユーベルーナの背に冷たい感触が広がった。振り向くとそれは体育館の瓦礫を跡形もなく吹き飛ばし、この惨状を作り上げた石のブロックだった。
『3』
「…ッ!!!?不味い!!!」
すると石の触れた面に顔が浮かび上がり、爆発までのカウントダウンが始まった。急いで逃げようとする彼女だが、ふと自分の周りに舞散る羽に目が入った。
「ネイチャーARM、エレクトリックフェザー」
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!!?」
すると宙を舞う羽から電撃が走る。雷撃ほどの電圧ではないが、彼女の動きを止めるにはそれで十分だった。
『2・1』
「し、しまっt《ドカァァァァァン!!!》
切な、カウントダウンを終えたキューブが爆発し、至近距離でもろに受けたユーベルーナはキリモミしながら地面に落下していく。
「うふふ、勝負あり……いえ、
見ると、右に悪魔、左に堕天使の翼を生やしたリアス・グレモリーの女王、姫島朱乃の姿があった。
「こっこんな馬鹿なことがあるか!?4つの属性、それも相反する光と闇の属性を同時に発するなんて!!!?」
そう、彼女もただアーシアの修行の付き添いをしていた訳ではない。
朱乃が修練の門の中で習得したのは複数の属性の同時展開。父から受け継いだ堕天使の光の力、リアスの眷属になることで得た悪魔の魔、ひいては闇の力、元々得意としていた雷撃の魔法とARMの爆破能力。これらを今や同時に発動させるだけではなく、2つ以上の属性を混ぜ合わせた魔法を放てるようにまでなったのだ。
「……さて、フェニックスの爆弾王妃さん。一応お聞きしますが、大人しく投降する気はありますか?」
朱乃は目を細めユーベルーナに尋ねる。それはユーベルーナのプライドを大いに沸騰させた。
「だ…誰かそんなことを!!!?」
ユーベルーナは怒り心頭で拒絶した。自分はライザー眷属の女王、実力ではライザーに次ぐ存在。王の名に泥を塗る真似はできない。
「……そうですか、では…」
朱乃は再びストーンキューブを発動し、両手の中で雷の魔力と光の力を混ぜ合わせる。
「消えてください。」
そう言ってユーベルーナにストーンキューブと雷光を一斉に放つ。
(……!?今だ!!!)「はあっ!!!!」
するとユーベルーナは懐から取り出したフェニックスの涙を一気に飲み干し、爆破魔法を最大威力で放ちストーンキューブと雷光を一掃した。
「………あら、フェニックスの涙ですか…」
「おほほほほほ!!!!!ええ、そうよ!いざという時に取っておいたかいがありましたわ!!!あなたはこれまでの攻撃でかなりの魔力を消費したでしょう!?対して私はフェニックスの涙によって万全の状態、これで形勢逆転ですわよ!!!」
ユーベルーナは勝ち誇った。そして嬉々として朱乃を見据える。しかし彼女は想定していなかった。元々魔法の才能のあった朱乃はこの修行、ひいてはこれまでの竜也たちとの修行によって魔力量が格段に増えていることを……
「……やむを得ませんわね。」
ふと、朱乃がポツリと呟いた。
「できることならこんなところで使うつもりはありませんでしたが、あくまで抵抗するのであれば仕方ありません。」
「…?あなた何を言って…」
「せめて一撃で仕留めて差し上げましょう。」
そう言って朱乃はドクロの装飾のついたチェーンリングのARMを放り上げた。
「ガーディアンARM…『ア・バオア・クー』!!!」
すると、空に暗黒の雲が渦巻き、中から巨大な骸骨のような怪物が現れた。怪物が口を開くと、そこから濃厚な闇が吹き出し、中心に巨大な血走った一つ目がギョロりと見開きかれユーベルーナを睨んだ。
「ッ!?なっこれは!!!?」
気がつくとユーベルーナは丸い結界のようなもので包まれていた。抜け出そうとするが、それはとても頑丈でびくともしない。
「うふふ、これで本当に最後です。私がある一言を言えばあなたは終わる。何か言い残すことはありますか?」
そう言って朱乃はユーベルーナに笑い顔で尋ねる。しかしその目は凍てつくような冷たい目だった。彼女もまた、自分の仲間であるあの双子のことを役立たずとのたまったことに怒りを感じていたのだ。ユーベルーナはこの時、自分の完全な敗北を悟り、また底知れぬ恐怖にかられた。
「ひっ!?いっ嫌!!!助け」
「バーストアップ」
朱乃の言いはなった言葉と同時に、ユーベルーナの入ったカプセルの中で強力な爆発が起こった。カプセルの中で爆発のエネルギーは拡散することなく一点に集中する。ついに爆発のエネルギーに耐えきれずカプセルは粉々に砕け散り、中からユーベルーナが力なく落下していった。
『…ライザー・フェニックス様の「女王」、「兵士」三名リタイア。』
「あら、どうやら向こうも片付いたようですね。」
グレイフィアの放送を聞いた朱乃はそう言って森の方角に目を向けた。そして次に運動場の方角を見る。
「………さて、早く竜也君たちに合流しませんと、」
そう言って彼女は再び堕天使と悪魔の翼を生やし運動場に飛んで行った。その後、彼女には混沌の姫巫女の異名がつけられ、ユーベルーナは爆発恐怖症に陥り、「爆発怖い、爆発怖い」と一週間閉じこもったという。
……そしてその場に残された双子の兵士は、あまりの恐怖に白目を剥いて気絶していた。
この世界の朱乃は堕天使と悪魔の翼を嫌ってはいません。むしろ自分のアイデンティティーだと考えています。
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