「恐らくアーシアを呼び寄せたのはこの前の堕天使ども、そしてその目的はアーシアの神器だ。」
「神器?」
『恐らくアーシアの神器をエサに上司に取り入ろうって魂胆だろうな……バカな奴らだ。下手をすれば戦争の火種になるようなことをしでかして、待っているのは厳罰、最悪処刑だな。』
処刑という言葉を聞いてイッセーの顔が曇る。夕麻と名乗った堕天使のことを考えたのだろう。
「そこでだ、俺たちでそいつらをまとめて引っ捕らえる。ヴァーリはアザゼルに連絡。」
『了解!』
「俺とイッセー、黒歌、朱乃ちゃんで教会にいる連中を確保。」
「了解にゃ!」
「なあ、部長には知らせなくていいのか?」
イッセーが手を挙げ言う。
「そうだな、じゃあ朱乃ちゃんにお願いするかな。一応自分の管轄内のことだしな。」
「あらあら、任されましたわ。」
「さて、問題は連中をどうやって一ヶ所に集めるかだ。今ごろアーシアを血眼になって探してるだろうし………」
「あっあの……」
「ん?どうしたアーシア?」
「あの、……わたしもお手伝いさせてください!わたしが協会に行けば堕天使の皆さんはわたしの神器を抜くために集まると思いますから……」
「「「「『ええっ!!!!?』」」」」
突然のアーシアの発言にその場にいる全員が驚きの声をあげる。
「なっ何を言ってるにゃアーシア!!!危険過ぎるにゃ!」
「そうですわ!!!それにもし神器を抜かれてしまったらその人は死んでしまうのですよ!!?」
「それでも、わたしは皆さんのお役にたちたいんです!皆さんはわたしにとっても大切なお友達です!わたしのことで皆さんに任せっきりなんてできません!!!」
黒歌と朱乃ちゃんの制止を聞いても、彼女の発言と顔には迷いはなく、そこには確かな覚悟が感じられた。
「…………はぁ、わかった。アーシアにも協力してもらう。」
「「「『!!!?』」」」
「アニキ!!!?」
『兄さん何を言ってるんだ!!!?』
「少なくともアーシアの覚悟は本物だ。俺はそれを無下にする気はない。頼んだぞ、アーシア。」
「はい!皆さん、わたしは大丈夫です。だから心配せず、ご自分の役割を果たしてください!」
「「「『アーシア(ちゃん)………』」」」
「よし!それでは初めようか、やるぞお前ら!!!!!」
「はい!」「「「『了解!!!』」」」
こうして俺たちは行動を開始した。まず、俺がアーシアを協会に送り届け、アーシアに持たせたロザリオ型盗聴機を堕天使と思われる一人に渡させ、そこから聞こえた内容は、3日後の深夜、アーシアの神器を抜くための儀式を行うとのことだった。それまでこちらも準備させてもらうとしよう。
次にヴァーリに頼んでアザゼルに掛け合ったらところ………
「ちっあいつら余計なことを……言っておくが俺は何も知らないからな、そんなこと命令した覚えもないし、俺は戦争する気もない。」
とのことで、処罰はこちらに任せるとのことだ。次に、お嬢たちオカルト研究会に朱乃ちゃんが今回の一件を知らせたところ……
「なら私たちも協力させてもらうわ。私の領地で好きにさせておくわけにはいかないもの。」
と、お嬢たちオカルト研究会も堕天使討伐に協力してもらうことになった。
◆◆◆◆◆◆◆
時は過ぎ3日後、アーシアは協会の地下で十字架に張り付けにされ、アーシアから神器を抜く儀式は着々と進められていた。
「……これで本当によかったのよね……」
「レイナーレ様?」
「何を迷うことがありますかな?アーシア・アルジェントの神器『聖母の微笑』を手に入れレイナーレ様が志向の堕天使となる記念すべき時だというのに。」
「ええ、そうね。なんでもないわ、カラワーナ、ドーナシーク。」
天野夕麻、もといレイナーレは悩んでいた。彼女は最初、アーシアの神器『聖母の微笑』を手に入れ、志向の堕天使となり、アザゼルやシェムハザの愛を手に入れるためにこの町に訪れた。そして神器の反応のあった兵藤一誠を知り、計画の邪魔になる前に始末するつもりで接触し、せめて死ぬ前にはいい思いをさせてやろうと余興として彼と付き合うことにした。
しかし、彼と付き合った一週間、彼の優しさ、温かさを知ったレイナーレは、いつしか彼を本当にいとおしく思うようになってしまった。
そしてアーシアがやって来てから3日間。アーシアの優しさを知ったレイナーレは自分のやっていることが本当に正しいのかわからなくなってしまった。だが、もう止まれない。レイナーレはアーシアに歩み寄る。
「……ごめんなさいアーシア。でももう止まれないの。私たちがアザゼル様の寵愛を受けるためにはこの方法しか……」
「……いえ、いいんです。こうなることはわかっていましたから……それに」
「?」
「だっ堕天使様!!!」
するとそこにレイナーレたちの雇ったエクソシストの一人が駆け込んできた。
「なんだ?これから儀式が始まろうという時に。」
ドーナシークが忌々しそうに尋ねる。
「そっそれが、侵入しゃべぇ!!!!」
すると急に地下室のドアが吹き飛んだ。哀れ、エクソシストはドアごと吹き飛び壁とサンドイッチにされる。
「なっなんだ!?何事だ!!!」
突然の出来事にドーナシークは叫ぶ。他の面々も驚きを隠せないでいた。…ただ一人……
「……わたしには、強い味方がついていますから!!!」
アーシアを除いて
◆◆◆◆◆◆◆◆
ドアを吹き飛ばし、俺たちが見たのは十字架に張り付けにされているアーシアの姿。見ると、朱乃ちゃんや黒歌から怒りがほとばしっていた。オカルト研究会の面々も少なからず怒りを抱いているようだった。ちなみに先ほど再開した黒歌と白音だが、「詳しいことは後」ということでひとまず任務を優先させることにした。
「ご機嫌よう堕天使の皆さん。この町の領主を任されているリアス・グレモリーというものよ。私の管轄内で好きにやってくれたようね。」
お嬢が堕天使どもにそう切り出す。
「なっ!グレモリーだと!!?それにきさまはあの時の!!!」
「よう堕天使。首はちゃんと洗ったか?」
「ぐぅ、きっキサマぁ!」
「伸びろ棒」ズギュン
「はべぇっ!!!!!」
『『『ええっ!!!?』』』
隙だらけだったので如意棒をお見舞いする。堕天使の男は壁にぶつかり瓦礫の下敷きとなった。
「ちょっ、あんたいきなり何やってんすか!!?」
堕天使の一人が叫ぶ。
「いや、隙だらけだったからついノリで。」
「ノリ!!!?」
そんな中、イッセーは夕麻と名乗った堕天使に近づく。
「……久しぶりだね夕麻ちゃん。」
「…イッセー君、私……」
「ヌオォォォォォ!!!!!」
すると如意棒でぶっ飛ばされ瓦礫の下敷きになった堕天使の男が起き上がる。
「はぁはぁ、キサマよくもぉ!!!」
「堕天使様ぁ!!!」
「ええい、今度は何だ!!!」
するとまた別のエクソシストが駆け込んで来る。
「たっ大変です!フリードのやつが裏切り…」
「デモンズハウリング!!!」
「ぐべぇ!!!?」
するとエクソシストは背中から衝撃波をまともに受け盛大に吹っ飛ぶ。そしてその後ろから左手が異形と化した白髪の男が現れた。
「ケハハハハハハ!!!!!皆さんお取り込み中すいまっせ~ん♪フリード・セルゼン君とうじょ~う!いや~ぶっちゃけこれ以上ここにいてもな~んも意味なさそうなんでこの騒ぎに便乗してトンズラさせて頂きま~す。あっちなみに、退職金代わりに金庫の中身まるっといただいちゃったんで、じゃ、バイナラ☆」
言うや否やフリードは閃光弾を放り投げ辺りは光に包まれた。そして光が止むとそこにはもうフリードの姿はなかった。
「……なんだったんだ、今のやつ?」
「僕に聞かないでよイッセー君……」
「あれ?木場いたの?」
「ずっといたよぉ!!!?」
いやー、まったく気付かなかった。
「おのれぇ!!!次から次えと……こうなれば『聖母の微笑』だけでも、たとえ殺してでも抜き取る!!!」
「!!!?ドーナシーク、止めなさい!!!」
「うるさい!!!人間に毒されたキサマにはもう要はない!!!」
そう言ってドーナシークと呼ばれた堕天使は光の槍をアーシアに放つ。その時、アーシアは昔竜也に言われたことを思い出していた。
『もし危ない目にあったら、これを握りしめて強く願うんだ。』
(助けてください!竜也さん!!!)
するとアーシアの前に天女の彫刻の入った巨大な盾が現れ、光の槍を防いだ。
「何ぃ!!!?」
「あれはイージス!?何でアーシアが!!!?」
どうやら昔アーシアに渡したイージスが無事発動したようだ。やはり持たせて正解だったようだ。俺はその隙にドーナシークを取り押さえる。
「おのれ!!!人間風情が我々の計画を邪魔しおってぇ!!!!!」
「まあ待て、そろそろ………っと来たな。」
「ったくよ~、こんなところに呼びつけやがって……本当にお前の神器研究させてくれるんだろうな竜也?」
階段を下りて来たアザゼルは怪訝そうに言う。
「自分の部下の責任ぐらいとれよ。何なら無償でやってくれてもよかったんだぞ、なあ
『『『『はぁ!!!?』』』』
その場にいた堕天使たちとオカルト研究会の面々が声をあげる。
「あ、アザゼルですって!?堕天使の総督がなぜ……」
「だから言ったろ?そいつに呼びつけられたんだよ。……ったくお前ら、悪魔の領地に上に無断で侵入とはどういうつもりだ?最悪戦争に発展していたぞ!」
「そっそれはアザゼル様のために……」
「俺がいつそんな命令をした?お前らのやったことはグリゴリ全体を危険にさらすことだ。……はぁ、もういい、お前ら全員クビだ、二度とグリゴリの敷地を跨ぐな!」
「そっそんな!?……」
「アザゼル様………」
「ったく、という訳だ、後はお前らの好きにしてくれ。……それと約束は守れよ竜也。」
「わかってるよ、今度の連休にそっちに行くよ。」
「本当だな!?忘れんなよ!!じゃ、俺は帰るぜ?」
そう言ってアザゼルは帰っていった。後に残された堕天使たちは皆意気消沈して床に座りこんでいた。もう戦う気も失せたのだろう。
「……私たちはこれからどうすればいいの?」
ポツリと夕麻と名乗った堕天使が呟き、他の堕天使たちは顔を伏せる。
「………レイナーレ様。」
すると、イッセーの手によって解放されたアーシアとイッセーが彼女の前に立っていた。
「…アーシア……イッセー君……ごめんなさい……私はあなたたちを………」
「夕麻ちゃん、」
すると、イッセーが彼女の言葉を遮る。
「俺……夕麻ちゃんに好きって言われて、正直戸惑ったけどすごい嬉しかった。夕麻ちゃんとデートしてすごく楽しかった。」
「イッセー君……私も……私も楽しかった。最初はあなたを殺すつもりだった。こんなのお遊びだって思ってた。……でもあなたといっしょにいて、あなたの温もりに触れて……段々あなたがいとおしくなってきて、あなたを欺いているのが辛くて、苦しくて、だからいっそ一思いにってあの公園で殺そうとしたの……でも、結局出来なかった。その上あなたは「また会おう」って私に言ってくれて……私……私……」
彼女の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。それほどまでにイッセーを利用しようとしたことを後悔し、苦しんでいた。
「夕麻ちゃん、俺、夕麻ちゃんと別れてから気づいたことがあるんだ。」
「……?」
イッセーは息を吸い込み、そして宣言した。
「俺、兵藤一誠はあなたのことが好きです!これからもずっと俺と付き合ってください!!!」
そう言ってイッセーは頭を下げ、彼女に手を差し出す。
「………私は堕天使よ?」
「うん、知ってる。」
「あなたを騙していたのよ?」
「わかってる。」
「それでも……それでも私を好きって言ってくれるの?」
「ああ、何度でも言う。夕麻ちゃん、俺は君のことが好きだ!!!」
すると、彼女の瞳からぽろぽろと涙がこぼれ…
「私も……私もあなたのことが好きです。優しいあなたが大好きです!!!」
「…!!?夕麻ちゃん!!!」
イッセーは夕麻を強く抱きしめる。彼女もイッセーを抱きしめ返す。固くそしてしっかりと離さないように
「……さて水を指すようで悪いが、お前らの始末をアザゼルから任されているものでね。」
「あっ、アニキ!!?夕麻ちゃんは…」
イッセーが彼女の前に立ち庇おうとするが彼女はそれを止める。
「いいのイッセー君、これは私たちの責任なの……」
「まてまて、別に殺す訳じゃない。お前らの罰は俺たちに対する無償奉仕だ。俺の家で使用人として働いてもらう。ちなみに、給料はない。小遣いは出すが。それと俺には逆らうな、意見する事は認める。以上だ。」
「えっ?」
「そんなことでいいんすか?」
「ちなみに、俺に仕えるならそれ相応の実力がないと困る。この後、簡単な挨拶をしたら地獄の特訓が待ってるぜ?」
「「「「ひぃっ!!!?」」」」
そんなこんなで協会堕天使事件は幕を閉じた。
「………私たち、いる意味あったかしら?」
「ぶっちゃけいらなかったにゃ。」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
その後、堕天使たちとアーシアを家に連れていき堕天使たちを修練の門に叩き込んだ後、
「悪いな、新しい働き口潰しちまって」
「いやいや、ダンナの頼みとあっちゃあ断る訳にはいかないっしょ、それにいいもんも見れたし♪」
「すまないねぇ。ほれ、報酬。」
そう言って竜也は懐からARMを取りだし放り投げる。すると竜也の影からズルリと手が出てARMをつかむ。そしてズルズルと残りの体が這い出し、中からフリードが現れた。
「次も頼むぜフリード?」
「あいよダンナ♪」
そう言ってフリードは夜の闇に消えていった。