とある協会の聖堂の奥、椅子に鎮座する一人の少女がいた。彼女の名はアーシア・アルジェント、この協会の“聖女”である。彼女は生まれた時から聖女だった訳ではない。ある日、協会につれ込まれた怪我をした子犬を介抱しようとしたところ、彼女の手から淡い光が灯り、子犬の怪我を治したのである。彼女の宿す神器『聖母の微笑』(トワイライトヒーリング)、その力に目覚め子犬を癒したのだ。それ以来、彼女は協会で聖女として奉られるようになり、協会には多くの信者が訪れるようになった。責任感の強い彼女は、その事を誇りに思っていたが、同時に寂しくもあった。自分も同年代の子供たちのように友達を作って一緒に遊んでみたいと思うようになった。
「ーーわたしは友達を作ってはいけないのでしょうか………」
ふと何気なく漏らした声
「いやいや、そんなことはないさ。それはこの世の誰もが持つ当選の権利だ。」
その声に答える者がいた。
「えっ!?だっ誰ですか!?どこにいるのですか!?」
「ははは、ここだよお嬢さん。」
声のした方を見ると、協会の窓に腰掛ける一人の少年がいた。年は自分と同じか一つ二つ上くらいだろう。
「はじめましてお嬢さん。俺の名は雷門竜也。ちょっと規格外な一応人間だよ。よろしくどうぞ。」
「あわわっ!!こっこれはご丁寧に、わたしはアーシア・アルジェントと申します。」
相手の自己紹介に律儀に返すアーシア。彼女はやや天然であった。
「これはどうも、ではアーシア・アルジェントさん。あなたのその友達が欲しいという夢、僭越ながらこの俺が叶えて差し上げましょうか?もし叶えて欲しいならば、俺の手をとってください。」
竜也は窓から飛び降りアーシアの前で膝を折り彼女に手を差し出す。
「……本当に……本当に叶えてくれるのですか?こんなわたしの願いを……」
恐る恐る彼女は尋ねる。
「ええもちろん。我が持ち得る力全てを使って。」
「……なぜ、そこまでわたしのことを?」
「強いて言うなら、あなたのその健気さに心を打たれた…とでも言うべきかな?さっきも言ったけど、友達を作るのは誰もが持つ当選の権利だよ。責任や義務は確かに大事だけど、何も全て一人で背負うこともない。苦しみを分かち合う、そんな人も人生には必要なのさ。」
いつの間にか素に戻っている竜也だが、アーシアはそんな彼がとても輝いて見えた。何者にも縛られない自由な心、だがその心に宿る芯の通った覚悟。ーーーこの人ならきっと自分の願いを叶えてくれる。理由はわからないが、そんな確信が持てた。
そして彼女は手を取った。
◆◆◆◆◆◆◆
「という訳で連れて来た。」
「あっアーシア・アルジェントです!!よろしくお願いましゅっ!!!……あうぅ…」
俺の連れて来たアーシアの登場に唖然とする一同。
「……二日間空けてまたいなくなったと思ったら……」
「自由だにゃ~ご主人様」
「あらあら、流石ですわね♪」
「イギリスに来てもぶれないなタツ兄……」
我がファミリーはもう慣れたものだ。
「たっ竜也君!!?不味いよ聖女さんを連れ出したりしちゃ!!!それと黒歌さん!?竜也君がご主人様ってどういうこと!!?」
「大丈夫だって、代わりにたんまり寄付金置いて来たから、それと黒歌のそれには触れない方向でよろしく。」
「どこにそんな金があったんだよタツ兄?」
「知ってるか?株ってわりと単純なんだぜ?」
「その金には血も汗も何も染み込んでないぞタツ兄!!!?」
イッセーが俺にツッコむ、最近ツッコミのレベル上がったなお前。
そんなこんなで俺たちはアーシアと共に町に繰り出した。まずはショッピングモールでアーシアの服を選ぶ。
「あっあの、どうでしょうか?」
「あらあら、とても可愛らしいですわアーシアちゃん。」
「うん、似合ってるぜアーシア。これにしようか。」
「でっでも、これってお高いんじゃ……」
「大丈夫だって、余裕はあるから。」
その後、俺たちはショッピングモールでアーシアと思う存分遊んだ。アーシアは本当に楽しそうだった。そしてその晩、俺の作った夕食をご馳走した。
「はうぅ、とっても美味しいです!」
「本当!すっごく美味しいよ竜也君!!!」
イリナもアーシアも気に入ってくれて何よりだった。そんな日々がしばらく続き、そしてとうとう俺たちが日本に帰る日。
「じゃあなイリナにアーシア。また会おうぜ。」
「またな、二人とも」
「元気でな、」
「とても楽しい日々でしたわ。」
「またにゃん♪」
「うん!絶対また会おうねみんな!!!」
「はうぅ…皆さんとお別れするのは寂しいですぅ……」
俺たちは空港で別れの挨拶をしていた。俺はアーシアにとあるものを渡す。
「…?これは何ですか?」
「盾のブローチ?」
「これはお守りだよ。もし危ない目にあったらこれを握って強く願うんだ。きっと助けてくれるはずだよ。……それとイリナ」
「なに、竜也君?」
「これから先、何があろうとアーシアの味方でいてあげてくれ。」
「…?うん、わかったよ!」
俺は最近、原作知識も大分薄れて来た。今では、これから先、アーシアにはとても過酷な運命が待ち受けていることくらいしかわからない。だからせめて、彼女の力に成れるようにしよう。
「じゃあな、二人とも。またいつか……」
「うん!またねみんな!!」
「皆さん!またいつかお会いしましょう!!」
こうした俺たちのイギリス旅行は幕を閉じた。
その頃グレゴリでは、
「アザセル様、イギリスからアザセル様当てに服や食事などの代金の請求書が来ているのですが……」
「はぁ!!!?」
いかがでしたか?アーシア登場です。主人公がアーシアに渡したものは何か?次回もお楽しみに