ウォーゲーム、最終決戦。レギンレイヴ城にはメルヘヴン各地から大勢の人々が勝負のゆくえを見届けようと集まっていた。
「ヴェストリから来ました!頑張ってください!」
「聖女様ーー!!」
「ルベリアから来たぜ!」
「ボス!ドラゴントライブの皆さん!応援してます!」
次々と声援を送られる連合軍の戦士たち。そんな中、クロスガードナンバー3、ガイラは息を乱し仰向けに倒れていた。戦士たちの最後の修行をつけるために、全員分の修練の門を一晩とはいえ発動させ続け、魔力も体力も使い果たしたのである。
「ハァ、ハァ、ハァ……、ゥオ゛ッ」
「大丈夫か?3番目の男ガイラ」
かつてのクロスガードナンバー2、現『龍の紡ぐ絆』の教官、アランが葉巻を噴かしながら尋ねる。
「だ、大丈夫ではない!しかし……あやつらは強くなっておるか、アラン!?」
ガイラの問い掛けに、アランは戦いに赴く彼らの顔を見回し、核心を持って答える。
「ああ、立派なもんだぜ。勝てる……いや、絶対に勝つ!!」
そこへ、審判のポズンがゆっくりと歩み出てくる。
「皆さん、おはようございます。いよいよラストゲームですね。正直ここまで来るとは思いませんでした。敵ながら天晴れ!ですよ……
それでは!フィールドを!!!」
ポズンは感傷深げに頷き、そして片手を勢いよく挙げる。すると、チェス盤を模したリングが城の広間の中央に現れた。
「最後の舞台っすね…」
「ああ!」
『『『メル!!!』』』
『『『メル!!!』』』
『『『メル!!!』』』
『『『ドラゴントライブ!!!』』』
『『『ドラゴントライブ!!!』』』
『『『ドラゴントライブ!!!』』』
メルヘヴンに生きる人々の、これまで戦い抜いてきた戦士たちへの賞賛、そしてその勝利を願う大歓声が城に響き渡る。
「その大きな期待も、このメンバー達はきっと打ち砕いてくれるでしょう。
最後にして最強のチェスの兵隊!出場!!!」
現れる、最後のチェスの兵隊達。しかしその中に、ファントムとペタの姿はなかった。
「……ファントムは?」
「ペタもや」
「遅れてくると言っていました。皆さんが戦いで勝ったらきっと出てきますよ」
ゾディアックの一人、ロランがニコニコと答える。
それを聞いた連合軍の面々は微かに顔を曇らせた。
「それでは第1試合!戦士は前へッ!!」
◆◆◆◆◆◆◆◆
レスターヴ城。クイーンの魔力によって天高くを浮遊する城の門を、チェスの兵隊ポーン兵が番をしていた。
「おーい、交代だ」
「お、すまねぇ。ウォーゲームはどうだ?」
「今から第1試合が始まるころだ。あーあ、俺も見たかったぜ……」
「仕方ないさ。ファントム様の命令だぜ?お前の分まで俺が見てきてやるよ。」
「ちっ、他人事だと思いやがって。だいたいこんな空の上に誰が来るって…………あん?」
そこまでいいかけたところで、ポーン兵の一人は視線を門の先に向ける。
「ん、どした?」
「おいあれ、誰か来るぞ」
一人が指を指した方を見ると、遠くから一人の男が城門に向かってゆっくりと歩いて来ていた。
「おいてめえ、何の要だ?」
ポーン兵は手に持つ槍を向けて男に尋ねる。それに対し、男は涼しい顔であっけらかんと答える。
「いやなに、この城に預りものがあってね、ちょいと受け取りにきた次第だ」
「預りものだと?この城がいま誰のものだかわかってんのか?」
「ああ。だがなにせ急なことだったもんでアポ取る暇もなくてね。その代わりと言っちゃ何だが……」
男はそう言うと左腕をゆっくりと正面に向ける。すると、男の両腕に龍の頭を模した籠手が現れ、その口に光が集まる。その時、門番の一人がその顔を思い出した。
「こ、こいつ!?ライモ…」
「ライト版、“スターライトブレイカー”!!!」
気づいた時には既に遅く、放たれた光線は城門を粉々に吹き飛ばし、門番や周囲にいたチェスの兵隊達は何が起きたのかもわからぬまま光の中に消えた。
「ごめんくださいってこった」
その惨劇を作り出した張本人、雷門竜也はニヤリと口角をつり上げた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
事は全日の夜に遡る
6thバトルに勝利し、帰還してきた連合軍。その前に、ファントムが残りのナイトを引き連れ宣戦布告に現れた。
「あれはクイーンがやったことだからボクにはどうしようもないよ。直接クイーンに会いにいくしかないね。」
「……………ほ~ん♪」ニタァ
そして、ファントムが戻って後……
「つーわけで、お望み通り殴り込みに行こうと思います」
竜也の言葉にそこにいた全員が呆気にとられて声も出なかった。
「うん、その反応はわかるがまあ聞け。明日の最終決戦、ファントムは残りのナイトを引き連れてこのレギンレイヴ城にやってくる。その時、チェスの戦力はクイーンとファントムに大きく二分される。その瞬間を見計らい、チェスを双方から同時に叩く。」
「………理屈はわかった。だが、どうやってレスターヴァまで行く。今城は跡形もなく消えちまってるんだぞ?」
「それについては大丈夫だ。おい、」
竜也が呼び掛けた先にいたのは、先ほどギンタと激戦を繰り広げたイアンだった。
「イ、イアン!?」
「ようギンタ、さっきぶりジャン」
驚くギンタに対し、イアンはあっけらかんと答える。
「帰る前に声をかけといたんだ。こいつの持ってるアンダータをこっちにコピーした。これでチェスの本拠地までいける。」
竜也はそう言ってアンダータのリングを見せる。
「イアン……ありがとな!」
「へっ、なぁに。最後に戦った相手に塩を送るのも悪くねぇと思ったのさ。じゃ、オレッチはもういくぜ」
ギンタは一瞬複雑そうな顔をするが、すぐに笑みを浮かべてイアンに例を言う。それに対し、イアンもまた笑みを浮かべて去っていった。
「よーし!そうとなればさっそく……」
「いや、ギンタ。お前はここに残れ」
やる気十分なギンタに対し、竜也は待ったをかける。
「な、なんでだよ!おれだって……」
「スノウ姫を助けたい気持ちはわかる。だが、むこうさんはお前との決着をお望みだ。いないとわかれば必ずかんどられる。それに、たとえファントムが抜けても向こうにはまだクイーンがいる。これまでのゲームには参戦していない俺のほうが動きやすいんだ。わかってくれ」
食い下がるギンタだが、竜也の言い分に口をつぐむ。確かに竜也はウォーゲームにこそ出ていないが、ヴェストリやカルデアでのチェスとの戦いで、彼が自分よりもはるかに強いことは重々感じ取っていた。
「心配するな。スノウ姫は必ず無事に助け出す。だからギンタ、ファントムはお前に任せたぞ」
そう言って、竜也はギンタに拳を突き出す。
「ッ!おう!!」
それに対し、ギンタは自分の拳を竜也の拳に合わせることで答えた。
「クハッ、よし!明日が文字通り最終決戦だ!さあお前ら、世界を救うとしようじゃねぇか!!!」
『『『おおーーーーーーッッッ!!!!!』』』
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
そして現在、レスターヴァ城にて、
「ゲホッ……兄さん。ちょっとは考えろよ!この城人のなんだぞ!後で損害賠償でも要求されたらどうすんだ!」
「心配するな。この状況だ、向こうも多少のことは目ぇつぶるだろ。最悪全部こいつらがやったことにすればいい」
「相変わらずタチ悪いなあんた……」
舞い上がった土煙を払いながら現れたヴァーリが小言を言うが、平然と罪を擦り付けようとする竜也に、今さらながら彼の人間性を再認した。
そうこうしている間に、異常に気づいたチェスの兵隊たちがぞろぞろと城門に集まっていた。見渡せば、そのほとんどがポーン並びにルーク兵であった。
「おーおー、随分集まったなー。アリみてぇに入り口つついたらぞろぞろと。」
「て、てめえら何者だ!こんなマネして、生きて帰れると思うなよ!」
集まったチェスの一人がいきり立ち声を上げる。それに対し、竜也はニタァ~と笑みを浮かべ
「ドーモドーモ、チェスの皆さん。わざわざ集まってもらったとこ悪いが………」
再びキャノン砲に魔力を充填させた。
「ッ!?ヤべ…!!」
「アッハッハ、クタバレ☆」
再び魔砲(誤字にあらず)をブッパなした。