「おお!ギンタたちが帰って来たぞ!」
カルデアからレギンレイヴ城へ帰還したギンタたち。それを見たレギンレイヴ城の兵士たちと、無事?修行を終えた龍の紡ぐ絆の面々が、どこか慌てた様子で彼らに走り寄る。
「あれ、だーりんはどうしたにゃ?」
駆け寄って来たメンバーの一人、黒歌が竜也の姿がないことに気づいた。
「ああ、アニキはカルデアに残ったよ」
『『『ええっ!!?』』』
イッセーの言葉に驚愕する一同。
「ど、どういうことなのですか!?」
「一体向こうでなにが…!?」
錯乱した龍の紡ぐ絆の面々がイッセーに詰め寄る。ウォーゲームも後半戦に差し掛かり、これから戦いがさらに激化しようという時に突然のリーダーの離脱。動揺するのは当然だった。
「………いつもの
『『『ああ………』』』
イッセーのその一言で、龍の紡ぐ絆の面々は全てを察したような反応をする。
「ええ!?それで伝わるのかよ!?」
龍の紡ぐ絆メンバーたちの一瞬で納得したような反応に驚愕するギンタ。それに対し、一瞬にいたアランを初め、龍の紡ぐ絆の面々はかなり疲れたような顔をうかべる。
「ああ、あいつの突然の思いつきは昔からだったからなぁ……」
「付き合わされる方も大変ですよ」
「まったくもって……」
『『『はぁ………』』』
「………なんか、みんな苦労してるんだなぁ」
「ええ、そりゃあもう……っとそれどころじゃない!大変なんだ!」
「先ほど、チェスの兵隊を名乗る男が……」
「何だって!?」
「チェスの兵隊が!?」
「……向こうで子どもたちと遊んどるのです。」
ズテッ
ズッコケるギンタたち。そんなバカなと指を指す方を見ると、灰色のローブを被った長身の男が、確かに子供達と遊んでいた。
「なっ、何者だおめーーーっ!!?」
「ん?」
ギンタに呼び掛けられ振り向くチェスの兵隊を名乗る長身の男。振り向いたその顔には、舌を出したどくろの仮面を被っていた。
「やっと帰って来たかぁ。待ちくたびれたよ~。ま、子供達と遊んでたから楽しかったけどね。
あ、別に襲いに来た訳じゃないよ?伝えたいことがあってさ、ナナシってどの人?」
見た目とは裏腹に飄々とした言動をするその男は、ナナシとは誰のことかと尋ねる。
「自分や。何かあるの?」
「君に会いたがってる男がいるんだよ。次のバトルに必ず出て来て欲しいってさ。
そして俺はゾディアックの一人、『アッシュ』。俺が戦いたいのは、ギンタ君。君さ。」
そう言って、アッシュと名乗った男は、ギンタを指差した。
◆◆◆◆◆◆
レスターヴァ城、城内。かつては王の謁見の間であったそこは、 現在はチェスの兵隊【クイーン】、ディアナが占領し、蝋燭の炎が揺らぎ、中央に魔水晶が設置された、彼女の魔術工房へと改造されていた。
「只今帰還しました、クイーン。」
そこで水晶を覗き込んでいたディアナの元に、彼女の命でカルデアへ侵攻していたファントムが帰還してきた。
「そう。私の故郷はどうだったかしら?」
「とてもステキだったと思います。ボクたちが、行くまでは……」
「収穫は?」
「ありません。それどころか手酷くやられました。」
そう言われて、ディアナはゾンビタトゥの効力ですでに回復しているが、ファントムの身体に所々焼け焦げた跡があることに気づいた。
「ライモンタツヤ、かしら?」
「はい、連れて行ったチェスは全滅。ボク自身も殺されるかと思いました。」
殺されるかと思った。ファントムの言った言葉がディアナには信じられなかった。ライモンタツヤ、門番ピエロの誤作動によって大量に呼び出された異世界人のリーダー格。彼が規格外の強さを持つことは報告されていた。
しかし、ファントムの“殺されるかと思った”という言葉、それはつまり、相手がどれだけ強いということではなく、自分がただ一方的に狩られる立場なのだと理解したと言うことだ。
「不死の貴方が殺される?笑えない冗談ね」
「冗談ではありません。本気で殺されるかと思いました。……彼はボクが絶対に殺しますよ。」
ファントムの嘘偽りない言葉と決意の固まったような瞳。それを見て、ディアナはそれが真実なのだということを理解した。それと同時に、彼女の中に渦巻くどす黒い欲望が刺激された。ディアナは水晶に竜也の顔を写す。
ライモンタツヤ、自身の最高傑作と言えるファントムに死の恐怖を与えた男。この男を手に入れることが出来たなら、自身の野望を現実にすることが出来る。
(ライモンタツヤ……欲しい、欲しい!貴方が欲しい!!)
◆◆◆◆◆◆◆
同時刻、レスターヴァ城。現在、城はレスターヴァ姫の計らいで、ウォーゲームで戦う戦士たちに休息の場として解放されていた。
そしてそこの一室、月の光の差すバルコニーで、ヴァーリは一人夜空を眺めていた。
「ヴァ~リん♪」
「……ドロシー、か」
笑顔を浮かべヴァーリに声をかけるドロシー。それに対し、ヴァーリは心ここにあらずのような返事をする。
「………どうしたの、ヴァーリん?4thバトルが終わった辺りから、何だか考えて込んでるみたいだけど……」
そんな彼の様子を見て、ドロシーは
「……4thバトルで戦ったナイトのラプンツェル。あいつは……俺に似てるんだ…」
ヴァーリの言葉にドロシーは首を傾げる。自身の享楽のためなら仲間すら平気で殺すヒステリックで醜悪なクソババァ、それが彼女のラプンツェルに対する印象だった。とてもヴァーリとは似てもにつかない。
「……何言ってるのよヴァーリん。あんなババァとヴァーリんが似てる訳ないじゃん」
「いや、違う。見た目的な意味ではなく……」
ヴァーリはそこから先を言うべきかと言い淀んだが、意を決して言うことにした。
「………ドロシー、俺は……俺は人間じゃないんだよ」
「ヴァーリん、だから何言って……!?」
そう言い掛けた時、ドロシーは驚愕し息を飲む。ヴァーリの背から、以前見た三日月が列なったような美しい翼ではなく、黒いコウモリのような四対の翼が生えていたのだ。
「……これが俺の正体だ。俺は……人間と悪魔の混血なんだよ」
「あく……ま…?」
ヴァーリはドロシーに自身の生い立ちを語り出す。自身がルシファーという悪魔の中でも最上位にある血筋の悪魔と人間の間に生まれたこと。
半分人間であるがゆえに、人間のみが生まれた際に稀に授かる神の創った武器、『神器』を持って生まれたこと。
さらに、ヴァーリが得たのは神器の中でも、神すら滅ぼす力を持つ神器、『滅神器』の一つ『白龍皇の翼』であったこと。
……そして、その持って生まれた力の強さを恐れた父親から、虐待を受けていたことを。
「あの時は、毎日が地獄だった。父親には毎日殴られ、憎悪の言葉を吐きかけられ、祖父はそれを見て大笑いしてやがったのさ。
そしてある日、俺は決死の思いでそこから逃げた。宛もなくさ迷い、このまま野垂れ死にするかと思った時、助けてくれたのが……」
「…タツヤ、なのね?」
ヴァーリは静かに頷く。それを見て、ドロシーは彼の家族、特に竜也に対する深い愛情に納得した。そして、顔も知らない彼の父親と祖父に激しい怒りを感じた。
「あの時、ラプンツェルの話を聞いて思ったんだ。もし、兄さんと出会わなかったら、俺もあいつと同じになっていたんじゃないかって。あいつのような、狂気と悪意に飲まれた殺人鬼に…」
「違う!!そんな事絶対にない!!だって、ヴァーリん優しいじゃない!」
ドロシーはヴァーリの言葉を真っ向から否定する。自分はヴァーリと出会い、行動を共にする中で、彼の人となりを知った。一見、クールで冷淡な印象を与えるが、その中に揺らぐことのない強固な意識をもち、他人を思いやる優しい心がある。そんな彼だからこそ、自分は惹かれたのだ。
「……違う、違うんだドロシー。元々吉兆はあったんだ。」
それに対し、ヴァーリは言う。自分には以前から片鱗があったのだと。
「今までも、時々あったんだ。肉親に対する増悪が、そして、その肉親から受け継いでしまった残虐性が、顔を出すことが。
その時は、兄さん、父さん、母さん、そして、イッセー、朱乃ちゃん、黒姉さん。みんながいる日常が、そんな黒い感情を払ってくれていた。……けど、消え去ってはいなかった。その黒い感情は俺の心の中に燻り続けていたんだ。……そして、そいつが、俺の心を掻き乱すんだよっ!!!」
自身の胸を握りしめ、声を荒げるヴァーリ。そんな彼の見たことのない追い詰められたような姿に、ドロシーは押し黙る。
「声がするんだ。奴らを決して許すなと、この手で息の根を止めろと。……だが、もし衝動のままに
瞳からボロボロと涙がこぼれる。自分でも情けなく思った。だが、心から溢れ出た激情を、ヴァーリは抑えることが出来なかった。
「もう一人になりたくない。やっと手に入れた光を失いたくない。だが、俺の中の憎悪は、蓄積され、脹れ上がり、俺の心を蝕んでいく。憎しみを抱えたままに生きるのは辛い。だがみんなを失いたくない。俺は……俺は……俺はぁ!!」
ヴァーリは声を荒げ、遂に膝から崩れ落ちる。溢れる涙は止まる事なく、石造りの廊下が抉れるほどに力んだ爪には血が滲む。
「どうしたら…いいんだ……」
それは、ヴァーリが決死に絞り出した言葉だった。
「……そういうことでしたか」
突然現れた第三者の声。振り向くと、物陰から現れたのは白音だった。
「……白音、聞いていたのか」
「はい、竜也兄様からの伝言で……ドロシーさんから」
「ホントは呼びたくなかったんだけどね~。タツヤがどうしてもって言うから。」
「……兄さんには全てお見通しだったって訳か。ははっ、かなわないなぁ……」
そう言ってヴァーリは乾いた笑いを浮かべる。兄の手を煩わせるのは昔から変わらないのかと。
「そんな事より」
「そうね」
ドロシーと白音の二人は、そう言って互いに頷き会い、ヴァーリの目の前まで歩み寄る。
「ヴァーリさん」「ヴァーリん」
「「歯ぁ食いしばんな/って下さい」」
「…………は?」
バッチィィィィィィン!!!
「ハムフラビ!!?」
突如、二人による強烈なビンタがヴァーリに炸裂する。ヴァーリはキリモミしながら綺麗な曲線を描いて吹っ飛んだ。
「い、イキナリ何を……」
「タツヤに言われたのよ。ヴァーリんが情けないこと言ってたら渇入れてやれって。」
「渇…ってかこれトドメ……」
「「ヴァーリん/さん!!!!」」
「はっはい!ムギュッ!?」
突然二人に大声で名前を呼ばれ、条件反射的に起立したヴァーリは、二人に両側から顔を押さえつけられる。
「ヴァーリさん。私は、貴方のことが好きです。いつも冷静で、だけどいっしょにいると暖かくて。賢くて、なのにたまにおバカなことして。そんなあなたが大好きです。」
「…………え?」
「ヴァーリん。私も、あなたのことが好き。カッコいいところも、賢いところも、優しいところも、ちょっぴりオチャメだったりナィーブだったりするところも。全部、全部ひっくるめて、大・大・大好き!」
二人の突然の告白に、ヴァーリは呆然とする。その衝撃は、それまで彼の中に渦巻いていた感情が一気に吹き飛んで頭が真っ白になったほどである。
「だからね、ヴァーリん。私、ずっとヴァーリんといっしょにいるよ?
悲しいときも、嬉しいときも、ヴァーリんがどんな風になったって、ずっとずっと一緒にいてあげる!
ホントは私一人だけでいいけど、ヴァーリんさびしんぼちゃんだから特別に白音も一緒にいさせてあげるよ。」
「ドロシー……」
「……いちいち癪に触る言い方ですが、私も同じです。
例えどんな風に変わっても、ヴァーリさんはヴァーリさんです。竜也兄様も、黒歌姉様も、イッセーさんも、リアス部長も、みんなそう言うと思います。
だって、みんなヴァーリさんのことが大好きなんですから。
……だからヴァーリさん、これから私たちと、みんなと、いっぱいいっぱい思い出を作りましょう。辛い過去なんか気にならないくらいに、沢山の楽しい思い出を。」
「白音ぇ……俺は…俺は……う、うぁあ゛ぁ…‼」
ヴァーリは二人を抱き締め、顔を埋めて再び涙を流した。しかし、今度のそれは苦しみから流れるものではなかった。
「うん…‼うん…‼…あり……が、とう……」
「…もうっ、ヴァーリんったら」
「…まったく、しょうがないヴァーリさんです」
そう言って、二人もまたヴァーリを抱き締め返したのだった。
感想など貰えたら幸いです。次回もよろしくお願いします。