我が道を行く自由人   作:オカタヌキ

121 / 133
幻想と龍

チェスの兵隊を退けた俺たち龍の紡ぐ絆とメルの連合軍。民家は半壊し、決して少なくない死傷者が出たが、不幸中の幸い何とか被害を食い止めることができた。

ちなみに、ここカルデアにおいても神器とARMを駆使して献身的な治療を行ったアーシアは、またもや民衆から『聖女様』と崇められていた。……この世界の宗教概念は知らんが、その内マジで祭り上げられるんじゃなかろうか。アーシア教とかで。

 

と、まあ…それはさて置き、カルデア宮殿へ戻った俺たちは、此度の礼として宝物庫に保管されていたARMを幾つか貰い、目を覚ましたギンタと共に長老からARMの概念について学んだ。

 

そもそも、特殊な能力を持つARMは、カルデアの魔法使い達が特別な彫金を施したアクセサリーに、自身の魔法をダウンロードしたものだという。その中でも、『バッボ』とはカルデアの歴代長老の意識と魔力をダウンロードした、「人の意識をもダウンロード出来る」唯一のARMなのだと言う。

 

(ん、まてよ。魔法をアクセにダウンロードしたのがARM……つうことは……)

「ワシって……ここの長老じゃったのか?」

 

「うむ、そうじゃ」

「じゃあ偉いんじゃな!?」

 

「今はただのARM、偉くも何ともないわ」

「……………」シクシクシク

 

「問題は十年前のことじゃった」

 

泣いているバッボを無視して長老は語る。かつてカルデアには世界中の人間の悪意を封じ込めた禍々しい『オーブ』が封印されていた。しかし、 ディアナはバッボにオーブに封じられていた『悪意』をダウンロードし、カルデアを捨てたのだ。6年前、ファントムが使っていたのは、その悪意がダウンロードされたバッボらしい。

 

「今は()()は入ってないようじゃ。()()()()が入っているように見える。お主、半分の人格の記憶を失っておるな?」

 

「半分の人格?」

 

「どれ、消えている記憶が戻るよう魔法をかけて見よう。」

 

長老がバッボに手をかざすと、バッボは一瞬光に包まれる。光が止むと、バッボはゆっくりとギンタへ振り向いた。

「………バッボ?」

 

ギンタに声をかけられたバッボ。その時、彼?の表情が驚愕に変わる。まるで、久しく会ってなかった相手に再開したような……

 

「お前……ギンタ…か?」

 

「当たり前だろ!何言ってんだバカっ!」

 

「……はっ、そ、そうだな!」

 

ギンタのキレ気味の指摘にいつも通りひ戻ったバッボ。恐らく、今出てきたのが長老の言ったバッボの()()()()()人格。たしか、これが最終局面の結構な伏線だった気がするんだけど……あああ!何だっけ!?

 

と、少々気になることもあったが、復興はカルデアの住人たちに任せ、俺たちはレギンレイヴ城に帰還することにしたのだが……

 

「悪ぃなお前ら、俺しばらくここに残るわ」

 

『『『はいぃ!!?』』』

 

俺の申し出に驚愕する一同。ま、そうなるわな

 

「ちょっ!何言ってんだよアニキィ!?」

 

「イキナリどうしたってんだよ!?」

 

「クッフフフフ……なに、い~いこと思いついたのさぁ……」ニタァ

 

「「「ッ!?」」」ビクッ!

 

((((あっまた録でもないこと考えてるな、この人))))

 

「おい、またなんか失礼なこと考えてるだろお前ら……心配すんな、二、三日で戻る。それまではお前らに任せるさ」

 

(いや、そういうことじゃねぇんだよ……)

 

(棒魔法使いの国で何やらかす気だこの人……)

 

「あ、そだ。それとドロシー」

「……私?」

俺はドロシーに近づき、回りに聞こえないように細工して(こいつら普通の人間より聴覚いいからな)、彼女に耳打ちする。

「……今晩あたり、ヴァーリの相手をしてやってくれ。あいつの様子がおかしかったの、気づいてるだろ?」

 

ドロシーは一瞬目を見開いたが、俺の目を見て、小さくうなずいた。

 

「あ、ついでに白音にもこの事を伝えたおいてくれ。彼女もまた、あいつには必要だ。」

 

「……………」

 

「なッ!?」

 

「……………………」コクリ

 

白音の名前を出した途端、露骨に嫌な顔をしたが、やや強めに念を押したら渋々うなずいた。

 

こうして、皆はレギンレイヴ城へと戻り、俺は一人カルデアへと残ったのだった。

 

◆◆◆◆◆◆◆

 

 

「………さて」

 

仲間達を見送った後、俺は長老の方へ振り返った。

「長老、あんたら気づいてるんだろ?俺やヴァーリ、イッセーの中に()()()()()()。」

 

「……ほう、気づいていたのか」

長老は特に動じた様子もなく応える。食えないじいさんだことで……

 

「まあな。あんたらの俺たちに対する態度、どこかよそよそしかった。『よそ者だから』…って言っちまえばそれまでだが、あんたらの目。未知に対する『好奇』や『恐怖』とはまた違う、絶対的強者、または、それこそ王にでも出会ったかのような『畏怖』と『崇拝』の念を感じた。」

 

「………ふむ、流石の洞察力じゃな。龍をその身に宿す者よ。」

 

このじいさん、やっぱり気づいてやがったな。

 

「勘違いしてもらっちゃ困るが、別にそれについてウダウダ文句を垂れるつもりはない。ただ、あんたらのその反応の理由が知りたい。」

 

「うむ、それは当然じゃろう。ドロシーほどの者になれば影響はないじゃろうが、お主らのその清らかな魔力。それは幻想種とされる竜に他ならない。」

 

『はっ、邪龍と呼ばれた我が清らかか……』

『純粋なって意味じゃねぇの?多分……』

パット見、大魔王最終形態みたいなこいつが清らか……似合わねぇ……

 

「竜とは、我ら魔法使いに取って格上の存在。それこそ、お主の言ったように“王”に等しい。カルデアの民も、それを無意識の内に感じ取っていたのだろう。」

 

なるほどね。魔力を専門的に扱うからこそ、幻想種たる竜に畏怖と崇拝の念を抱くってことね。俺の中の()()()なら、なおさらか。

 

「それで、わざわざその事を聞くために残ったのかの?」

「ああ、いや。それを聞きたかったのは本当だが、要件はまた別にある。」

俺は長老にそつ告げると、意識の中に潜った。

『じゃ、頼むぜ?』

『了解した、運転を変わろう。』

『いや、どこで覚えたんなセリフ』

 

意識の中でそんな掛け合いをしながらも、俺は身体の主導権を相方に譲り渡す。

 

「お、おぉぉぉォォォオオオ……!」

 

バキバキと音を立てながら変わって行く俺の身体。体長は何十倍にも脹れ上がり、全身は鈍色の鱗に覆われ、翼と尾が突き出て、伸びた首は3つに別れた。

「お、おぉ……お主…いや、貴方様は……」

 

「…我は千の魔法を司りし魔龍、アジ・ダハーカ。人は我を魔源の禁龍(ディアボリズム・サウザンドドラゴン)と呼ぶ。我が(ともがら)の呼び掛けに応じ、この場に馳せ参じた。」

 

さて、楽しい時間の始まりだ。





なんやかんやで一年半投稿してますが、まだぜんぜんつたないです。感想、誤字報告などあったら指摘して下さい。次回もよろしくお願いします

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。