チェスの兵隊を退けた俺たち龍の紡ぐ絆とメルの連合軍。民家は半壊し、決して少なくない死傷者が出たが、不幸中の幸い何とか被害を食い止めることができた。
ちなみに、ここカルデアにおいても神器とARMを駆使して献身的な治療を行ったアーシアは、またもや民衆から『聖女様』と崇められていた。……この世界の宗教概念は知らんが、その内マジで祭り上げられるんじゃなかろうか。アーシア教とかで。
と、まあ…それはさて置き、カルデア宮殿へ戻った俺たちは、此度の礼として宝物庫に保管されていたARMを幾つか貰い、目を覚ましたギンタと共に長老からARMの概念について学んだ。
そもそも、特殊な能力を持つARMは、カルデアの魔法使い達が特別な彫金を施したアクセサリーに、自身の魔法をダウンロードしたものだという。その中でも、『バッボ』とはカルデアの歴代長老の意識と魔力をダウンロードした、「人の意識をもダウンロード出来る」唯一のARMなのだと言う。
(ん、まてよ。魔法をアクセにダウンロードしたのがARM……つうことは……)
「ワシって……ここの長老じゃったのか?」
「うむ、そうじゃ」
「じゃあ偉いんじゃな!?」
「今はただのARM、偉くも何ともないわ」
「……………」シクシクシク
「問題は十年前のことじゃった」
泣いているバッボを無視して長老は語る。かつてカルデアには世界中の人間の悪意を封じ込めた禍々しい『オーブ』が封印されていた。しかし、 ディアナはバッボにオーブに封じられていた『悪意』をダウンロードし、カルデアを捨てたのだ。6年前、ファントムが使っていたのは、その悪意がダウンロードされたバッボらしい。
「今は
「半分の人格?」
「どれ、消えている記憶が戻るよう魔法をかけて見よう。」
長老がバッボに手をかざすと、バッボは一瞬光に包まれる。光が止むと、バッボはゆっくりとギンタへ振り向いた。
「………バッボ?」
ギンタに声をかけられたバッボ。その時、彼?の表情が驚愕に変わる。まるで、久しく会ってなかった相手に再開したような……
「お前……ギンタ…か?」
「当たり前だろ!何言ってんだバカっ!」
「……はっ、そ、そうだな!」
ギンタのキレ気味の指摘にいつも通りひ戻ったバッボ。恐らく、今出てきたのが長老の言ったバッボの
と、少々気になることもあったが、復興はカルデアの住人たちに任せ、俺たちはレギンレイヴ城に帰還することにしたのだが……
「悪ぃなお前ら、俺しばらくここに残るわ」
『『『はいぃ!!?』』』
俺の申し出に驚愕する一同。ま、そうなるわな
「ちょっ!何言ってんだよアニキィ!?」
「イキナリどうしたってんだよ!?」
「クッフフフフ……なに、い~いこと思いついたのさぁ……」ニタァ
「「「ッ!?」」」ビクッ!
((((あっまた録でもないこと考えてるな、この人))))
「おい、またなんか失礼なこと考えてるだろお前ら……心配すんな、二、三日で戻る。それまではお前らに任せるさ」
(いや、そういうことじゃねぇんだよ……)
(棒魔法使いの国で何やらかす気だこの人……)
「あ、そだ。それとドロシー」
「……私?」
俺はドロシーに近づき、回りに聞こえないように細工して(こいつら普通の人間より聴覚いいからな)、彼女に耳打ちする。
「……今晩あたり、ヴァーリの相手をしてやってくれ。あいつの様子がおかしかったの、気づいてるだろ?」
ドロシーは一瞬目を見開いたが、俺の目を見て、小さくうなずいた。
「あ、ついでに白音にもこの事を伝えたおいてくれ。彼女もまた、あいつには必要だ。」
「……………」
「なッ!?」
「……………………」コクリ
白音の名前を出した途端、露骨に嫌な顔をしたが、やや強めに念を押したら渋々うなずいた。
こうして、皆はレギンレイヴ城へと戻り、俺は一人カルデアへと残ったのだった。
◆◆◆◆◆◆◆
「………さて」
仲間達を見送った後、俺は長老の方へ振り返った。
「長老、あんたら気づいてるんだろ?俺やヴァーリ、イッセーの中に
「……ほう、気づいていたのか」
長老は特に動じた様子もなく応える。食えないじいさんだことで……
「まあな。あんたらの俺たちに対する態度、どこかよそよそしかった。『よそ者だから』…って言っちまえばそれまでだが、あんたらの目。未知に対する『好奇』や『恐怖』とはまた違う、絶対的強者、または、それこそ王にでも出会ったかのような『畏怖』と『崇拝』の念を感じた。」
「………ふむ、流石の洞察力じゃな。龍をその身に宿す者よ。」
このじいさん、やっぱり気づいてやがったな。
「勘違いしてもらっちゃ困るが、別にそれについてウダウダ文句を垂れるつもりはない。ただ、あんたらのその反応の理由が知りたい。」
「うむ、それは当然じゃろう。ドロシーほどの者になれば影響はないじゃろうが、お主らのその清らかな魔力。それは幻想種とされる竜に他ならない。」
『はっ、邪龍と呼ばれた我が清らかか……』
『純粋なって意味じゃねぇの?多分……』
パット見、大魔王最終形態みたいなこいつが清らか……似合わねぇ……
「竜とは、我ら魔法使いに取って格上の存在。それこそ、お主の言ったように“王”に等しい。カルデアの民も、それを無意識の内に感じ取っていたのだろう。」
なるほどね。魔力を専門的に扱うからこそ、幻想種たる竜に畏怖と崇拝の念を抱くってことね。俺の中の
「それで、わざわざその事を聞くために残ったのかの?」
「ああ、いや。それを聞きたかったのは本当だが、要件はまた別にある。」
俺は長老にそつ告げると、意識の中に潜った。
『じゃ、頼むぜ?』
『了解した、運転を変わろう。』
『いや、どこで覚えたんなセリフ』
意識の中でそんな掛け合いをしながらも、俺は身体の主導権を相方に譲り渡す。
「お、おぉぉぉォォォオオオ……!」
バキバキと音を立てながら変わって行く俺の身体。体長は何十倍にも脹れ上がり、全身は鈍色の鱗に覆われ、翼と尾が突き出て、伸びた首は3つに別れた。
「お、おぉ……お主…いや、貴方様は……」
「…我は千の魔法を司りし魔龍、アジ・ダハーカ。人は我を
さて、楽しい時間の始まりだ。
なんやかんやで一年半投稿してますが、まだぜんぜんつたないです。感想、誤字報告などあったら指摘して下さい。次回もよろしくお願いします