我が道を行く自由人   作:オカタヌキ

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恐怖とフラストレーション

チェスの兵隊たちの襲撃を受けたカルデア。美しい風景は破壊され、家々は焼かれ、血を流した人々が横たわる。未だに続く惨劇。だが、唯一変わったことがあるとすると……

 

 

 

「ギャアアアアアアアア!!!」

 

「ひ、ヒャアアアアア!!!」

 

「た、助けてくれぇぇぇぇ!!!」

 

悲鳴を上げ逃げ惑っているのは襲って来たチェスの兵隊たちだということだ。先ほどまでの威勢は欠片もなく、その顔は皆恐怖に染まっていた。

 

「あらあら、先程までの威勢は何処へ行ったのかしら?ねぇ皆さん」

 

「おっっホホホホホ!!!ほらほらぁ、そうよあなたたちぃ。もっと元気に恐怖しなさいなぁぁぁぁ!」

滅びの魔力が、電流を纏った光の槍が、チェスの兵隊たちに襲いかかる。東の塔へ向かったチェスの兵隊たちは、たった二人によって蹂躙されていた。

 

「こ、こえええええ!!?もうどっちが悪者かわっかんねぇよあのひとたち!!」

 

チェスの兵隊たちを現在進行形で恐怖のどん底へ落とし入れているリアスと朱乃ちゃんを見て叫ぶイッセー。うん、それには激しく同意する。

 

「いや、実際リアスは試合に出れてなくて、朱乃ちゃんもあっさり終わってフラストレーション溜まってるかな~と思って出撃させたんだけど……ここまでとは……」

 

その様は、いち速く察知して怒り飛び出そうとしたイッセーが直ぐ様消火活動にまわったほどである。

 

雨のように降り注ぐ滅びの魔力は、鎧や障壁をいとも容易く貫通し、身体に風穴を空ける。

例え回避したとしても、足元には槍から流れる高圧電流が襲いかかる。

しかもこいつら、タチの悪いことに致命傷にならないギリギリのところで長々といたぶってやがる。

時折、破れかぶれになって反撃に出て、かすり傷程度のダメージを負わす者もいるが、その傷は後方に控えたアーシアが直ぐ様回復させてしまった。もうほとんど悪夢だろこれ。

 

「おーい、お前らー!あんまやり過ぎんなよー!後で尋問するんだからなぁーー!」

 

まぁ、例え生き残ったとしても、後に待ってるのは朱乃ちゃんの拷問フルコースなんだけどな。ま、相手が悪かったってこったな。

さて、そんじゃボチボチ終わらせっか。

 

「ちょっと行ってくる、こっちの火ぃ全部消しとけよイッセー!」

 

「ふぇーい」

ごぼごぼと炎を吸い込むイッセーを尻目に、俺は広場の中央へと飛んだ。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「『ドラゴントライブ』のヴァーリだ!首を取って名を上げろーー!」

 

チェスの兵隊数十人がヴァーリへと躍りかかる。

 

「『ツンドラブレス』」

 

それに対し、ヴァーリが放った吹雪によってチェスの兵隊達は全員頭を残して氷付けとなり、その余波によって辺りに上がっていた火の手も全て消し止められた。

 

「…『13トーテムポール・ロッドver』」

ヴァーリはロッド状に変化させた13トーテムポールを手に、徐々ににチェスの兵隊の一人へ歩む。

 

「……なあ、知っているか?急激に冷凍されたものは著しく壊れ安くなる。例えば……」

 

ヴァーリはチェスの兵隊の目の前にロッドを突きつける。

「こんな棒で殴られただけで粉々に砕け散る」

 

ヴァーリはそう言うと、突き出したロッドを頭上に振り上げた。

「ひ、ひぃい!!たっ助け、助けてくれ!!命だけは……!!」

 

「今までそうやって命乞いをした相手を、お前は一同でも助けたことはあったか?」

 

ヴァーリはそう言って、底冷えするような鋭い眼差しでロッドを振り下ろした。

 

「ひ、ひゃああああああ!!!」

 

『てめぇら全員ブッ殺してやるよォオオオ!!ギャハハハハハ!!』

 

「ーーーッッ!!!?」

その時、ヴァーリの脳裏にチェスの兵隊ナイト、ラプンツェルの笑い声が浮かび上がった。ヴァーリはロッドを叩き付ける寸前に手を止め、チェスの兵隊は泡を吹いて気絶していた。

『っ!?ヴァーリ、後ろだ!』

 

「…なっ!?」

 

突如、ヴァーリの脳内に生まれた時から共に歩み、運命を共にすると誓い合った相棒、白龍皇アルビオンの声が響く。振り替えると、アサシンのような風貌をしたチェスの兵隊が小刀を振りかぶり、目の前に迫っていた。

恐らく隠密系のARMを使っての奇襲。いつもなら容易く看破出来たであろう()()を、この時のヴァーリは気づくことが出来なかった。

「はい残念」

 

ドガン!!!

 

「ぶげぁ!!?」

 

その時、突如現れた竜也のニードロップがアサシンチェス(仮)に炸裂した。体重を乗せた膝の一撃にアサシンチェスは痙攣した後意識を失った。

 

「兄…さん……」

 

「……なにやってんだヴァーリ、こんなお粗末な気配断絶、読み取るのは訳ないだろ」

 

竜也のいつにない咎める険しい目と口調に、ヴァーリは目を伏せる。

 

「……すまない」

 

『竜也、ヴァーリは……』

 

「弁解は後でいい。今はとっとと終わらせちまおうか。」

 

竜也はそう言うと、龍の翼を出して上空に飛び上がり、存在するチェスの兵隊に、電気の通り道、『先駆放電(ステップストリーダ)』を作り出す。秒速200㎞/s、約マッハ600のそれは、人間が反応出来る速度を優に越える。

 

「生かさず、かつ殺さず……」

 

そして、そこから放たれるのは、秒速一万㎞/s、マッハ三万の電撃。『帰還電撃(リターンストローク)』。

 

「並列…『エレキチョップ』!!!」

 

竜也が手刀を振り下ろすと、通常よりも()()()()()()電撃の刃が、その場にいた()()()()()()()()に降り注いだ。

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

カルデア、西の塔近辺。単身そこへ向かったギンタは、チェスの兵隊ルーク級を三十人以上を倒す。

しかし、突如ギンタの前に現れたファントム。ギンタはファントムに突っ込むも、蓄積された疲労、そして興奮して頭に血が登り冷静な判断が下せず、遂に魔力切れを起こしてしまい、ファントムの放った一撃によって倒れふした。

 

「よっしゃあーーッ!!!」

 

「殺っちまえ!!!」

 

「まて。」

 

ギンタが倒れたのを見て、それまで傍観していたチェスの兵隊達がギンタへ躍りかかろうとするのを、ファントムの一言が制止する。ファントムが脇腹を拭うと、手にはギンタによって切りつけられた傷から滲んだ血が滴っていた。

 

「(満身創痍の中でボクに傷を付けた……)初めて会った頃とは全然違う。強くなったね、ギンタ。」

 

 

 

 

カッッ!!ドガアアアアアン!!!

 

『ギャアアアアアアアアアア!!!!??』

 

「なっ!?グアァァァァァァァ!!!」

 

その時、竜也の放った雷の刃がファントム含むチェスの兵隊全員に降り注いだ。

 

「な、がぁ……こ、れは……」

 

久しく感じることのなかった激しい()()。ファントムが辺りを見ると、そこにいたチェスの兵隊達は皆、プスプスと煙を立てながら倒れ付していた。辺りに肉の焼ける匂いが漂う。

 

次の瞬間、ダンッという音と共に、上空を漂っていた竜也が、ギンタとファントムの間に、ファントムを遮る形で降り立った。

 

「………失せろ、次は殺す」

 

ゾワッッ!!!

 

「ーーーッッ!!?!?(……震えている?ボクが?まさか、バカな!?ボクが…ボクがこいつに恐怖しているとでも言うのか!!!?)」

 

恐怖、それはこの世に生を受けた生命が、自身の命を守るために等しく持つ感情。すなわち、死の警告。

ゾンビタトゥをその身に刻み、不死の体を得てから久しく感じることのなかった()()に、ファントムは激しく動揺した。

 

「……くっ!!」

 

ファントムは急遽アンダータを発動、その場を離脱した。

 

(ライモン・タツヤ……ヤツだけは…ヤツだけは絶対に殺さなくては……!!)

 

今までにない鬼気迫った表情を浮かべるファントム。自身を急かすその感情を、プライドを傷つけられたことに対する()()だと決めつけた彼は、拠点であるレスターヴァ城へと移転した。

 

「………ふう、さて…」

 

ファントムが去ったことを確認した竜也は、其処ら中に転がるチェスの兵隊を縛り上げた後、ギンタとバッボを拾い上げる。

「うわっ重っ!?マジで重いなバッボ。(やっぱ、こいつが選ばれた所有者ってことなのかね、ギンタ……)」

 

竜也はギンタを背負い、バッボをズルズルと引きずりながらカルデア宮殿へと向かう。

 

「アダダダダダ!!?もっと丁寧に扱わんかバカタレ!!」

 

「うるせぇよ。何でこんな重いんだよあんた……」

 

文句を言うバッボに文句で返しながら、竜也はギンタに目を向ける。

「気張れよギンタ、お前は着実に強くなってる。お前がファントムを倒すんだ」

 

(所詮、この世界において俺たちの存在はイレギュラー。二つの世界を跨いだ宿命、それをこいつは果たさねばならない。

だが、今回の件でファントムは確実に俺を危険分子と見なした。一体どんな手を使ってくるか……)

 

いくつかの思いを巡らせながらも、駆け寄る仲間達の姿を見て、竜也はこの世界における自身の役割について再び見つめ直した。

 

「だからっ、引きずるなっと、言っておるだろうがぁぁぁぁ!!!」

 

「アダダダダダ!!?噛むな!噛むなっての!」




今回、竜也はその気になれば皆殺しに出来たのですが、情報収集と楽に死なすのは癪だという考えから半殺しですませました。

次回もよろしくお願いいたします

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