そんな自分も来月には大学生。四年間のキャンパスライフ、夢に向かって楽しもうと思います!!
竜也「それで一月丸々更新サボった言い訳になるとでも?」
…………………
「まずは、軽ーくイッちゃうよォォ。『アイススパイク』!!!」
4thバトル最終戦、ドロシー対ラプンツェル。
チェスの兵隊
「ババア、なめてんの?こんな攻撃じゃジャックも倒せないよ(笑)」
「私は美しい……」
「は?」
自身の挑発に対してラプンツェルは涼しい顔で語りだし、ドロシーは怪訝な顔をする。
「ブサイクなお前には理解できないようだから教えてやろう。周りをよく見てみな!!」
「ッ!?」
気づくと、ドロシーの周囲から先ほどの鋭い氷が、ドロシーを囲うように次々と発生していた。
「『スパイクサンド』!!!」
氷のトゲで覆われた氷の大地は、虎ばさみのように反り上がり、ドロシーを押し潰した。
「もう一度いってやるよ!私は美しい。お前はメス豚だ魔女!」
ラプンツェルは勝ち誇った様子で叫ぶ。あのようなものに押し潰されれば命はないだろう、そう思った瞬間、氷塊の中から竜巻が発生し、氷を粉々に吹き飛ばした。竜巻が消えると、銀の箒を構えたドロシーが現れる。
「い、今のは少し…驚いたよババア!『
ドロシーが箒を振るうと、彼女の周りを風が吹き荒れる。ゼピュロスブルーム、ドロシーが空を飛ぶ際使われるそれは、風を操るネイチャーARMである。
「そうか、お前風使いかい!私の氷と…
どっちが強いかねぇ!!!」
ラプンツェルは再び氷のトゲの波をドロシーへ放つ。その量と速度は先ほどの比ではない。
ヒュンッ ゴガガガガガガガガ!!!
それに対し、ドロシーは箒を一振りすると、再び彼女の周りに竜巻が発生し、氷のトゲは強風に全て砕かれた。
「相殺。お前の氷は私に絶対当たらない。ざ~~んね~~んで~~した~~っ♡」
再びドロシーが箒を振るう。弾かれた風はかまいたちとなりラプンツェルの頬を掠める。
「あ……っ……」
あまりの速さに反応が遅れるラプンツェルだが、やがて頬の痛みに気づく。その左頬は真空の刃によって切り裂かれ、血が滴り落ちていた。
「わ、私の顔に傷……私の美しい顔にィィィィィイイッ!!
やってくれたねメス豚ぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」
自身の顔を傷つけられたことに気づいたラプンツェルは目を血走らせ絶叫しARMを発動する。
「本気でぇ……
ネイチャーARM『ヘアマスター』!!!」
ラプンツェルがARMを発動すると、その頭のドリルのような髪がほどけていき、意思をもつかのようにウネウネと動きだす。ラプンツェルはその髪を自身の周りに突き刺した。
「髪でバリアをはったつもり!そんなもん風で斬ってやるぞババア!ゼピュロス…」
ズン!!
ドロシーが箒を振るおうとした瞬間、硬質化したラプンツェルの髪が地表を砕き現れ、ドロシーの脇腹を刺し貫いた。ドロシーの口内に血が登ってくる。
「げほっ…!!」
(これは…硬質化した髪の毛!?地表を砕いて私の懐に入ってきた……しまった!!)
「風使いには一つ弱点がある。自分の周囲には台風の目!つまり、無風空間が存在する!その深手じゃあもう風も産み出せないだろうぅ!?えぇーーっ!?メス豚ぁ!!ヘアマスターーー!!!」
ラプンツェルは硬質化した髪を伸ばし、ドロシーをズタズタに切り裂いていく。そして頭や胸は狙わず向けるのは腕や脚ばかり。じわじわといたぶり殺すつもりなのだろう。
「もうやめろーーーッ!!ドロシーの負けだ!!」
「お生憎様だねぇ……私もギロムも女を殺すのが大好きなのさァ!!!」
ギンタの制止も気に止めず、ラプンツェルはサディスティックな笑みを浮かべる。そして、自分たち姉弟の生い立ちを語り始めた。
昔、ある所に父、母、姉、弟の4人家族がいた。
ある日、病気で父が死んだ。
それから母親は豹変した。姉弟に食事も与えず、毎日ムチで2人を殴った。
2人は心に大きな傷をおい、ある日、ついに眠っている母親を斧で殺した。
「どうだィィィィィィ!?泣ける話だろう!?その姉弟が私達さァーーー!!!」
ラプンツェルの絶叫が辺りに響く。夫の死により心を病んだのか、それとも元々そういった気質があったのか。ともかく、度重なる肉親からの虐待によって、二人は人を、とりわけ女を殺すことに快感を覚える殺人鬼へと変貌をとげたのだった。
「私は魔女を殺して次のバトルに出る。そして次はギンタァ!お前だァ!!」
「………泣ける話ねぇ……自分達だけが辛い思いをしてきたみたいな顔するなよ。
殺したくなくても……殺さなきゃいけない人間だっているんだ!!」
「……」
「……?ヴァーリ、さん?」
その時、白音はヴァーリが震える眼で奥歯を噛む姿を見た。今まで一度を見たことのない彼の表情に、白音はなにも声をかけることが出来なかった。
「ごほっ!……これはちょいとヤバいね……仕方ないや。こいつを使うか……」
ドロシーは口元の血を拭うと、バトル前に付け替えた人差し指のARMを掲げる。
「出てきな……ガーディアンARM『クレイジーキルト』!!!」
現れたのは小さな人形のような姿のガーディアンだった。継ぎ接ぎだらけの服にボサボサの髪、顔には大きさの違うボタンが3つとチャックのついた口、下半身は独楽か杭のような歪で不気味さを感じさせるその人形は、ドロシーの周りをふよふよと浮かんでいる。
すると、クレイジーキルトの口のチャックがゆっくりと開いた。
「お早うドロシーあたいだよ!!スクラップのクレイジーキルトさ!!今日のあたいは何をすればいいんだい!?なんてったって外に出たのは何日ぶり!?何ヵ月ぶり!?それとも何年ぶりかもしれないよねぇ!!絵の具箱のようなトコロにあたいをずーーーっとしまってさぁ!!」
チャックが空いた途端、その見た目とは裏腹に、堰の切れたようにダミ声の早口で捲し立てるクレイジーキルトに一同は唖然となる。
「き、傷にしみる……!こっちで大声出さないでくれる!?今日の獲物は…あれだよ。」
痛みに顔をひきつらせ、ドロシーはほどけた長い髪をくねらせるラプンツェルを指差した。
「ヒャーー!!またスゴイ奴がいるよ!!キラキラのゴテゴテ!!でしゃばりな羊飼い達の中にもあんな奴はいないよ!!」
「あのババア倒してくれる?」
「イヤよ!!あたいは今久々に自由なんだ!!なにをしてもかまわないの!!花をつんだり石ころを動かしたり小さな子供達と遊ぶ事だってしていいのさ!!んぅ!!?」
久々に出られたのだから自由にしたいと主張するクレイジーキルトは、ドロシーの脇の傷に気づく。傷口からは血が吹き出しドロシーの息遣いも荒い。見るからに致命傷である。
「ドロシー死にそうな傷じゃないのさ!?誰にやられたの!?そうか!!あいつね!?あいつなのね!?」
「う、うるさいARMだなぁ……」
「……ぜんぜん強そうに見えませんね…」
「……だが、ドロシーが戦闘前に付け替えたARMだ。なにもないはずはない」
クレイジーキルトの見た目と挙動に唖然とするギンタと白音に対して、ヴァーリはドロシーがクレイジーキルトを持ち出した理由を冷静に分析する。
「許せない!!許せないよ!!あたいのお友達にあんなことをして!!クレイジーキルトは怒っているのさ!!」
「しゃらくさいねぇーーー!!!『ヘアマスター』!!!」
クレイジーキルトは怒声を上げてラプンツェルに突進し、ラプンツェルは硬質化した髪をクレイジーキルトへ伸ばす。次々迫る髪の毛を、クレイジーキルトはその小さな身体で掻い潜る。
「あんたもクレイジーかい!?でも残念!!あたいはもっともっとクレイジーなのさ!!」
クレイジーキルトはそう言うと、ラプンツェルの周りをぐるぐると回りだす。
「…?なんだい…!?何をする気だい、この人形みたいなガーディアンは!?」
「唄え。クレイジーキルト!!!」
ドロシーの指示を受け、クレイジーキルトは唄い出す。それはまるで不協和音。ガラスを釘で引っ掻いたような、発泡スチロールを擦り合わせたかのような、否、それ以上の強烈な不快な音が頭の中を響き渡る。
「井戸の中にはネズミが一匹 助けようにも助からない♪なぜって奴には羽がないからね 水の中にはあたいは入れない♪なぜってキルトにしみがつくからね♪」
「なっ…なんだァ!!?この歌声は……!?頭がぐしゃぐしゃになるうぅぅぅぅぅ!!!」
「怪音波の歌を唄うガーディアンか…!ここから聞いても頭が痛い……!」
ヴァーリは耳を塞ぎながらも分析する。実質、それなりに離れた位置にいるギンタたちも耳を塞ぎ顔を歪ませている。猫耳を持つ白音は特に)。至近距離から聴かされているラプンツェルは相当なものだろう。脂汗が滝のように流れ、額には血管が浮かんでいる。
(こ…こんなところで……負けられないんだよォォォ!!ギロムの仇討ってやるんだ!!見ててよギロム、姉ちゃんががんばってるところ……!!)
ARMのコントロールもままならず、顔面蒼白になりながら尚耐えるラプンツェル。その脳裏には、愛しい弟の顔が浮かんでいた。
(ギロム……可愛いギロム……私のだった一人の肉親……)
バシュ!!!
次の瞬間、ラプンツェルはドロシーの振るったゼピュロスブルームの風の刃によって切り裂かれていた。
「あ……ッ」
(い、一瞬で……ガーディアンを消して、風に切り替えた……)
ラプンツェルは血を吐き、仰向けに倒れる。
(ギロ……ム………絶頂……出来なかったよォ……)
「ドロシーVSラプンツェル!!勝者、ドロシー!!」
「やったぜドロシーーーッ!!!」
「…………ん?」
ギンタが喜び声を上げる中、ヴァーリはドロシーがラプンツェルに歩み寄る様子に気づく。
「……ナイト級のお前なら知っているはずだ、答えてもらうよ……
”ディアナ“という女を知ってるな?」
その名を聞いた途端、ラプンツェルの顔が驚愕に染まる。
「な…なぜ………
クイーンの名を…………!?」
「……やっぱりね。」
「……ドロシー?」
ラプンツェルの反応を見たドロシーの顔はどこか悲しげなものだった。
「点と点が繋がった。私は一度魔女の国に一度戻らなければならない。」
所変わって薄暗い宮殿の中、桃色の髪をした女が、鏡に映るドロシーの姿をじっと見ていた。